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セーラー服と機関銃



「やっだ〜! 如月クン、かっわっい〜〜〜〜い!」
「げ、お前マジ如月?!」
「本物の女みてぇー‥‥」
「やっぱりもとが良いと、違うわねぇ〜」
「‥‥‥‥‥‥‥‥(惚)」
 クラスメイトの様々な賞賛の中、その中心人物たる如月は不穏なオーラを隠しもせず不機嫌極まりない顔で突っ立っていた。
「メイクとかも全然していないのよ! 殆どスッピン! でもこのキレイさだもんね〜。これは優勝間違いなし、だわ!」
 その横で、全ての元凶たる橘朱日がはしゃいで捲したてている。それを横目で睨む。
(だっ‥‥‥騙されたッ!)
 叫びだしたい心をぐっと抑えて、如月は何度目かわからないため息を吐いた。



 橘朱日の画策(?)によって、上手い具合に文化祭実行委員なんかになっちゃった如月は、それでも一度引き受けたからにはと文句も言わずその仕事をこなして見せた。実行委員なんて所詮は雑用。表に出ることがないだけマシ、とどんなに忙しくても自分に言い聞かせていた。さしたる問題も起こらず、準備は順調に進められ、後は当日を無事にやり過ごすのみ、となった。
 そしてその当日の朝、事件は起こった。

 その存在を如月が知ったのは、当日の朝だった。
「来たわね、如月君! さぁ、コレに着替えて!」
「えっ?」
 準備の為、早めに登校した如月を待ち受けていたのは、何故か満円の笑みで手に持ったものを差し出す橘の姿だった。
「時間もないし、ちゃっちゃと着替えてね。それ着たら、軽ーくメイクするから」
「────────はっ?!」
「ほら、あっちで着替えてきて、早く!」
「ちょ、ちょっと待って、橘さん! これ、は──────?」 
 橘の手にあるものを指さして、恐る恐る聴く。いやわざわざ聴かなくても見ればわかるのだが、それを自分にどうしろと言うのか。彼女は、どうしろと自分に言った?
「見てわからないの?」
 橘は呆れたように言って、手に持ったそれを広げて見せた。紺のスカートに、紅いラインの入った大きな襟のついたブラウス、それに付随する紅いスカーフ。どこからどう見ても所謂セーラー服、というものだった。
「わかるから聴いてるんだ! 僕にコレを着ろと言うのか?!」
「そうよ」
「そうよ、って‥‥‥」
 思わず声を荒げてしまった如月に対し、橘はなんでもないように平然と言ってのけた。
「何で僕がこんなものを着なくちゃならないんだ!」
「アラ、だって文化祭の実行委員、やるっていったじゃない」
「それとこれとどういう関係が────────!」
「大ありよ!」
 橘は、さも当然といった風に説明を続けた。
「文化祭実行委員の如月君。貴方の最大の使命は、今日行われるミスコンで優勝することよ!!」
「───────────はぁ?!」

 王蘭学院の文化祭の、超注目イベントは1日目に行われるミスコンだ。エントリーは王蘭学院の生徒なら男女問わずオッケーで、男子の場合は女装が決められている。毎年行われている超人気のイベントだ。女子は勿論、以外と男子生徒からも結構な出場希望者が出る。学院内だけでなく、近隣の高校でもかなりの噂になっている、その存在を、入学してこの方文化祭など出たこともない如月は知らなかった。
「そんなものに出る必然性が、どこにあるんだ?!」
 それにしても納得がいかない。実行委員が出場しなければいけない決まりなんてないはずだ。出場者が足りないというのならまだ話がわかるのだが。いや、わかったところで出る気などさらさらないが。
「コレを見るのよ」
 橘は一枚の紙を如月の目の前に突きだした。
「ミスコン出場者推薦投票結果‥‥‥?」
 半ば呆然と如月は呟く。その紙の一番上に、自分の名前がでかでかと記されてあった。
「毎年、全校生徒の推薦枠で一人、出場が決まるの。因みに、一位になった人に拒否権はなし」
 それを巷では強制というのだが、敢えてここでは使わないでおこう。
「知らないでしょうけど、如月君は毎年人気があったのよ。でも去年も一昨年も来なかったでから。けど、今年は実行委員という立場上、当日は絶対に休めないでしょう? と、いうわけで如月君に票が殺到したわけ。見なさい、ダントツ一位よ!!」
 嬉しくない。全くもって嬉しくない。
「──────冗談じゃない、僕はそんなもの─────」
「拒否権はない、って言ったでしょ」
「─────────帰る」
「き、さ、ら、ぎ、くん!」
 速攻で踵を返そうとした如月に、橘はもの凄い気迫で迫ってくる。如月は思わず固まってしまう。まるで蛇に睨まれた蛙状態だ。人間、何処にでも天敵というのはいるもので。
「さぁ、時間がないのよ。さっさと着替えて!」
 その気迫のままセーラー服とその他小道具一式を無理矢理押しつけられ、如月はうっかりそれを受け取ってしまった。
「あ、着方がわからなかったら言ってねv」
 にっこり笑う橘に反論の術はなく、呆然としたまま、如月は着替えるために作られたスペースに押しやられてしまった。
(どうして、こんなことに‥‥‥!)
 セーラー服を握りしめながら、今更ながらに実行委員なんて引き受けてしまった自分に後悔していた。
 アハレ如月、文化祭の実行委員なんかやると言った時点で、君の運命は既に決まっていたのだ。



──────────で、冒頭の賞賛に戻るわけだが。
 因みに、橘に言わせると、「騙したんじゃないわよ。黙ってただけv」だ、そうだ。
 割と古風なイメージのある如月に合わせて、テーマは昭和始めの女子高生、だそうだ。昔懐かしい感じのセーラー服に黒のローファーと白のハイソ。髪の毛は鬘だが違和感の全くない、ナチュラルなおさげになっていた。そして学生カバンを持った如月は、どこからどう見ても、可愛い女子高生、といった感じだ。現代の女子高生に紛れればちょっと違和感があるだろうけど、まさか男だとは疑われないように思える。
「っていうかコレ、拳武館の制服じゃないのか‥‥?」
 渡された服を着てみて、如月はそれが見たことのある制服であることに気付いた。
「そうよ。良く知ってるわね、如月君。この辺じゃ一番オーソドックスな型でしょ。それに、如月君に似合うと思って。真神学園のとどっちにしようか迷ったんだけど」
 他校の制服など全然知らないが、この制服は別だった。拳武館の女子制服。彼の学校で、何度か見かけたことがあるから‥。
「わざわざ借りてきたのかい‥‥‥」
「そうよ。普通に女子の制服借りてきただけだからサイズ合うかどうか心配だったんだけど、如月君たら、腰細いし華奢だから。普通の女子制服でもピッタリなんだもの。ほんともう、びっくりしちゃった」
 ただ、やはり女子より如月の方が背が高い分、スカートが若干短くなってはいるが。
「‥‥‥‥‥」
 こうなってしまうと、もう如月がどんなに抵抗しても無駄なあがきだった。如月がミスコンに出場すると言うことは、もう全校生徒の間で凄い噂になっているらしい。今更逃げられない。腹を括るしかない。
(──────いっそ、校舎ごと流してしまおうか‥‥‥)
 そううすれば、ミスコンどころか文化祭だって中止に‥‥フフ‥‥。
 アブない考えが如月の頭を過ぎるが、僅かに残っている常識が何とかそれを止める。流石にココで、そんなことは出来ない。唯一の救いはと言えば、壬生や龍麻や、遊びに来ると言っていた仲間の面々が来るのが、日曜の明日であると言うことだろうか‥‥。
(耐えろ、耐えるんだ如月翡翠! これも修行だ! 何事も忍耐!!)

 如月にとって、最悪の二日間が始まった。



「‥‥‥で、どうなったんですか?」
 如月の用意してくれた美味しい夕食を食べた後、後かたづけを手伝いながら壬生は唐突に話を切りだした。
「? 何がだい?」
 当然、如月は何を言われているのかわかならい。
「文化祭だったんでしょう、今日」
 一瞬ぎくりと身を竦ませたが、今日のことを壬生が知っているわけない! と思い直すと、出来る限り平静を装って如月は言った。
「ああ‥別に、何事もなく終わったよ、今日のところは」
「何事もなく、ですか‥‥」
 一瞬、壬生の瞳がキラリと光った。‥それは、怒っているようにも見えるが。
「如月さん、」
 壬生は、あくまで感情を押し殺した、平静な声で言う。
「僕が、知らないとでも思ってるんですか?」
 そう言われて、今度こそはっきりと、如月は動揺した。
「な‥何のことだい?」
 しかしあくまで如月は白を切り通そうとする。だが、次の壬生の一言で、敢えなく如月は撃沈した。
「‥ミスコン優勝、おめでとうゴザイマス」
 バッバレている! 思いっきり、ばれているではないか!!
「何で知っているんだ!」
「拳武に制服を借りに来たでしょう? うちの学校じゃ凄い噂になっていますよ。いやでも耳に入ってきますよ」
 た、橘さんめ! 何ていうところから借りてきてくれたんだ‥‥‥。如月は今更ながら彼女に怒りを向ける。
「如月さん‥いい加減、認めたらどうですか?」
 ここまできて、壬生をごまかせるわけがない。ええい、仕方がない! 如月は開き直ると、明後日の方向を向いて叫んだ。
「ああ、そうさ! 僕は今日の文化祭で女装して、あまつさえ優勝してしまったさ! だから何だい?」
 これを、世間では逆ギレという。如月はもう何とでも言ってくれ! という心境だったが、そんな如月を見つめたまま、壬生は何も言おうとはしない。
「‥‥‥」
「壬生?」
 反応がない。背けていた顔を戻して壬生の表情を見ると、何故か不機嫌な顔をしていた。
「‥‥狡い」
「え?」
「僕だって、見たかったのに‥‥」
「な、なにを言ってるんだ!!」
 どうやら壬生は、如月の晴れ姿(?)が見れなかったのが気にくわなかったらしい。如月にしてみれば、冗談じゃないと言ったところ。仲間内には見せたくない、そして誰より壬生には絶対見せたくない姿だ。
「なんだって、そんなもの見たいなんて言うんだ!」
「僕の知らない如月さんの姿を、そんな大勢の人が見てるなんて、許せません」
「‥‥‥っ?!」
 壬生は至極真面目に言っているようだ。思ってもみなかったことを言われて、如月は顔を真っ赤にした。
「それに、如月さんなら、絶対似合うと思います」
 壬生は、普段学校で見慣れているセーラー服を思い浮かべた。学校の女子の誰より、如月は似合うはずだ。
「でっ‥でもっ、もうあんな恥ずかしい思いは二度としたくないっ!」
 流石注目イベントということだけあって、中庭に設けられたステージの周りには、殆どの生徒が集まっていた。その中でも如月は一番注目されていたのだ。何度、羞恥に神経がぶち切れそうになったことか。あんな思い、二度としたくない。切実な思いをぽつりと壬生に訴えると、如月が注目されるのは苦手だと知っている壬生は、可哀想だと思わないでもなかった。だがやはり、自分の知らない彼の可愛い姿。見ていないのは、悔しい。
 そうだ、と壬生が良案を思い付いたと言う風に、手をぽんと叩いた。ちょっと、悪戯っぽく笑って。
「じゃあ、今度、着て見せてください」
「はっ?!」
 僕の言ったことを全く聞いてなかったのか! 思わず怒鳴った如月に、壬生はそうじゃなくて、と苦笑した。
「僕の前だけなら、別に構わないでしょう?」
 壬生の前だけで。二人っきりの時ならそんな格好をしてくれても構わないんじゃないか、と壬生はそう思ったのだ。‥それはそれで、かなり恥ずかしいような気もするが。
「そっ‥そういう問題じゃあ‥‥!」
「じゃあどういう問題なんです?」
「うっ‥‥」
 如月が言葉に詰まると、壬生が段々を距離を詰めてくる。逃げられもせず、迫ってくる壬生を為す術もなく如月は見つめていた。
「良い、でしょう?」
 至近距離で、真顔でそんなことを言われて。如月に、断ることなんか出来るわけない。
「‥‥‥君が、見たいというのなら」
 仕方なく如月が了承すると、壬生は真っ赤に染まったその顔にちゅ、と一つ口付けを落とすと、如月の体をぎゅっと抱きしめた。
「約束ですよ?」
 嬉しそうに、にっこり笑った壬生にため息一つ吐いて、如月もその背中に腕を廻した。



「おはよう」
 昨日の疲れもそのままに、如月は憂鬱な面持ちで登校した。文化祭の二日目だ。昨日の今日で生徒からの目が無視できないほどイタイ。サボりたかった。心からサボりたかったが────実行委員という肩書きと、今日遊びに来ると言っていた仲間達の為にも、それは許されなかった。後はもう、何事も起こらないように、と祈るばかりだ。
「アラ、おはよう如月君。昨日はお疲れさま」
 今日も如月より先に来ていた橘が、
「早速だけど、はい」
 にっこりと笑って手渡されたのは、昨日のセーラー服。
「な‥何だい?! それはもう、用済みじゃないのかい‥‥?」
 嫌な予感がして、如月は恐る恐る聞く。
「あっまーいわよ、如月君! 文化祭というのは二日間あるものなのよ! しかも、メインはどちらかと言えば一般客の多くくる、日曜の今日でしょう!」
「だから、何だって言うんだい?」
 嫌な予感は段々膨らんでいく。聞きたくない、聞いては行けない。本能がそう告げるが、聞かないわけにもいかないのが、事実で。
「当然、メインイベントはこっちに持ってくるのよ」
「‥‥‥メインイベント?」
「あとで説明してあげるわ。だから、コレを着て」
「そんなもの、二度と着るか!!」
 昨日、壬生に約束したことは取り敢えず棚上げして、如月は今日こそ断固反対する決意をしていた。だがやはり、天敵は天敵だ。
「アラ、じゃあコレ、そこら辺にばらまいちゃおうかしら?」
 そういって徐に橘が懐から取り出したのは、数枚の如月の写真だった。
「!! 卑怯な‥‥‥!」
 勿論、普通の写真じゃない。昨日の、ミスコンでの女装した如月の写真だ。如月はコレを本当なら切腹ものの恥だと思っているから、コレを使わない手はない。
(こんなにキレイなんだから、別に恥に思うことないのにねぇ)
 そうも思うが。
(まっ、でも本人がそう思ってるんだから、使わない手はないわよねvv)
 彼女のことを悪女と呼んでも、反論する者など誰もいないだろう‥‥。
「さぁ、どうする? 大人しく着替えてくれれば、ネガごと如月君にあげるわ」
 写真は出回ってないはずだ。あるとすれば、これだけだろう。これさえ回収すれば、僕の忌まわしい過去は残らない!
「‥‥‥わかった」
 どうせ、昨日一日着ていたのだ。もう一日くらい、どうってことないさ‥‥フフ‥‥。半ばやけくそ気味に、如月は一日着ていただけなのに妙に手に馴染んでしまった、拳武館のセーラー服を受け取った。

「‥これでいいのかい?」
 すっかり昨日と同じ出で立ちになった如月が出てきた途端、唐突に両腕を拘束された。
「──────────んなっ?!」 
「じゃ、行きましょっか♪」
 楽しそうな橘に連行‥もとい、連れて行かれたのは、昨日のステージの上だった。既にステージの前には多くの生徒と先生、訪れ始めた一般客が大勢いた。ステージの上に現れた如月を見て、歓声が上がる。色々な視線が一気に突き刺さり、如月は眩暈を起こしそうになった。
「みーなーさん! お待たせいたしました!!」
 いつの間にか手にマイクを持った橘が、観客の前で叫ぶ。
「これより、我が学院祭のメインイベントを開始します!」
「め、メインイベント‥‥‥?」
 さっき、橘が言っていたことか。でも、その内容は何も聞かされていない。いったい何が起こるのか。如月はステージの上で、昨日以上に身を固くして橘の言葉を待っていた。
「皆さん、既にもうご存じかも知れませんが、初めての方のためにルールを説明いたしましょう!」
 橘の声は、校舎を挟んだ中庭の中で大きく反響する。
「ここに、昨日のミスコンの優勝者、3年4組の如月翡翠君がいます!」
 橘は大仰な動作で如月の方へ手のひらを向けた。ステージの下の全員が、如月に注目する。昨日散々見られているとはいえ、やはり気持ちの良いものじゃない。元々目立つのは嫌いだ。しかも、こんな格好とくれば、尚更。まさに、穴があったら入りたい気分だ。
「彼が今年の姫となります。タイムリミットは一般公開が終わる、午後3時まで! それまでにこの如月君を捕まえて、このステージに設けられた祭壇の上で、彼にキスすることが出来た者には、超!豪華賞品をプレゼント! 誰もいなかった場合は、如月君に贈られます! 男も女も、生徒も教師も関係なし! 王蘭の生徒じゃなくても全然オッケー!! さぁ、今年の王子様は誰だ?! それでは今年のミスコンの優勝者、如月杯姫の唇争奪戦、スタートッ!!!」
 橘の叫びと、全観客の歓声と、ステージの端に置いてあったどでかいドラの音が鳴り響く中、如月は信じられないその内容に頭を真っ白にして、呆然とその場に立ちつくした。



後編


この時点で、壬生はまだ仲間になってなかったのでは?
と言うツッコミは、しないで下さい(爆)
‥拳武館の女子制服は想像。
如月も壬生もニセモノ。橘サン最強。
壬生が登場する必要があったのかも謎。
展開は超強引。この背景はなんやねん。
セーラー服とお下げはクリア。忍び寄る不吉な影は後編で。
キサの王子様は、当然彼ですかね?
‥後編は、もっとぶっ飛ばすと思います(死)