
| 第2部11時間め:変調 | |||
真理たちは放課後は造花作りを進めるとともに、期末試験に備えて勉強も怠れなかった。もっとも真理だけはペーパーテストは楽勝の予想だったので、その分造花作りを教えてくれた絵里の勉強を見てやった。 「自分で分かることと、他人に分かるように教えることとは全くの別物ね。」 絵里の勉強を見ていたある夜、真理がルーに言った。 「つくづく先生ってのが大変な仕事だってことを痛感したわ。」 「できのいい生徒ばかりなら、先生も楽なんでしょうけどね。」 「これからは勉強してないって先生に怒られてもあまんじて受け入れるわ。…もっとももうそんなことはないかも知れないけど。」 やがて他の部屋の寮生たちも、勉強で分からないことがあると真理に聞きにくるようになった。真理もそれに応じて教え上手になっていた。 「真理って先生にむいてるかもね。ていねいに教えてくれるし、できない子を見下すこともないし。」 ある日、真理に分からないことを聞きにきた美奈子が感心していった。美奈子自身、ガニ女では優等生だが、真理の頭の回転の早さと懇切ていねいな解説ぶりに驚嘆していた。 「それは真理自身、最近まで勉強ができなかったからじゃないの?他人事とは思えないのよ、きっと。もともと弱い者の味方を買って出るタイプだしね。」と沙羅。 「でも、立場が変われば態度が変わる人も珍しくないわ。やっぱり真理はえらいわよ。」百合も真理をほめた。 ルーは級友たちの語る真理の評判をほほえみながら聞いていた。
エアロタキオンは大気中を飛行するのに適しているため、宇宙空間ではタキオンIIの先端に合体した状態で、タキオンIIに運ばれる形となる。 大気圏内に入ると、逆にエアロタキオンがタキオンIIを運搬するが、今回は無人のタキオンIIを衛星軌道上で切り離し、エアロタキオンだけで大気圏内に突入した。 成層圏を飛行するエアロタキオン。すぐに上部の円盤状のレーダードームを回転させ、広範囲の電導生命体反応を捜索した。 感度を調整する作造。やがて約1万キロ東方に高空を移動するふたつの光点を感知した。 移動速度から一方がプロペラ機のYS-11、もう一方がジェット機のファントムIIとわかる。2つの点は互いに交差するコースをとっており、ニアミスを起こしそうだった。作造はエアロタキオンの進路をその交点に向け、スロットルをいっぱいに開いた。 6つのブースターから白い飛行機雲を後方にたなびかせ、エアロタキオンは全速力で進んだ。 YS-11プロペラ機の形態のトロイは雲の上を悠然と飛行していた。そこへ後方から小さな青い影が近づいてきた。ジェットエンジンで飛行するファントムIIである。 YS-11に追いついたファントムIIは、エアブレーキを開いて速度を落とし、YS-11の横に並んだ。 ファントムIIの操縦席には人は乗っておらず、かわりに光る球体があり、YS-11の横でその球体がちかちかと点滅し始めた。 それに応えるかのように、YS-11の操縦室にある同じような球体が点滅した。彼らだけに通じる光信号のようだった。 2機の後方にいる作造は、2機が平行して飛んでいるのを見ていぶかしんだ。 「まさか、あいつら、手を組んで何かを共謀しようと考えてるんじゃないだろうな。」 トロイは、もとはアテナの一部だが、変異を生じたためアテナ本体から切り離されたものであるならば、アテナ自身と手を組むことはないと作造は考えていた。だが、もともと一心同体であれば、共存を謀っても不思議ではない。 そんなことを考えていた作造は、エアロタキオンがようやく2機に追いつくと、そのまま直進して2機の間に機体を割り込ませた。 交信 (?) を邪魔され、左右に別れるYS-11とファントムII。 作造は一瞬どっちを追おうか迷った。しかしファントムIIの方が速く飛行するため、YS-11は後でも追えると判断して、すぐにエアロタキオンを右に旋回させた。 ファントムIIはすぐにエンジンを全開させて全速力で離脱しようとしたが、エアロタキオンもエンジンを全開して後を追った。 エアロタキオン操縦席の照準に映るファントムIIの姿。その時、ファントムIIは機体下部のミサイルを2発発射した。 そのミサイルは前方へ飛び出したが、まもなく180°方向を変えてファントムIIの傍らを通過し、そのままエアロタキオンに直進してきた。 「ホーミングミサイルか!?」
真理たちのクラスは数学の試験中だった。メリヤ嬢が監督する中、生徒たちは答案用紙に向かい、一心不乱に鉛筆を走らせていた。筆記する音が静寂感を増す。 今までなら問題を開いてすぐに頭を抱え込む真理だったが、この日は違った。問題を読んだとたんに解法と答えがすみやかに頭に浮かび、すかさずそれを答案用紙に書き写していた。 50分間の試験で、時間が半分もたたないうちに真理は最後の問題に取りかかった。この問題が一番難しかったが、今の真理には物足りない程度の難易度だった。 問題を読み進みながら、どんどんと解法が頭に浮かび上がる。ところが突然、真理の頭の中に一瞬もやがかかったような感覚が起こった。 その時、作造は飛んでくるミサイルに気づいて、すぐに妨害装置のスイッチを入れた。とたんにレ−ダ−ド−ムから、電導神経系に変調を起こす特殊な電磁波が周囲に放出され、2発のミサイルは方向を変え落下していった。 この電磁波は、シールドされていない単純な電導神経系には効果があるが、アテナのような電導生命体には耐性がある。ファントムIIはほとんど影響を受けずに飛行し続けるが、落下していったミサイルはまもなく空中で爆発した。 「至近距離ならやつにも効果が出るはずだ!」 直進するエアロタキオン。すると突然ファントムIIが変形を始めた。 機体の先端と尾部が節に分かれて伸び、両腕になるとともにまん中の上部がせり出して巨大な目が現れた。 左右のエンジン部分が両側に展開して下方に伸び、90°回転して下半身となった。 右腕の先端にはバルカン砲がついており、エアロタキオンにむけて数秒間撃ち始めた。妨害装置では対処できないので、機体を傾けてかわす作造。 さらにファントムII (アテナ) は3枚の尾翼から爪が伸びた形の左腕を前へ突き出した。見た目には武装がなく、爪も細長くて頼りなさそうであった。 「何のつもりだ?」 真理の頭にかかったもやのような感覚は、まもなく消失した。再び頭の中がさえ渡り、爽快感が広がる。 「何だったのかしら?…めまい?貧血?…今は生理じゃないし…。それとも…。」 頭にもやがかかった瞬間、真理は今解いている問題の答どころか、問題文そのものが意味のない文字の羅列のように感じられた。 今はもとに戻っているが、あの状態が再び起こったら試験を受けているどころではない。 「早いこと、問題を解いておかなくちゃ!」 もう一度、問題文を読みなおす真理。今度はよく理解できる。しかし急いで答案を書こうとした真理を再び不快感が襲った。 「真理!?」 突然誰かが真理の名前を叫んだ。しかし真理はそれが誰の声か、すぐにわからなかった。 「…誰?…絵里なの?」 その時、真理の目には教室の中のものが、先生や級友の顔や机が奇妙にゆがんで見えていた。そのまま意識が遠くなる真理。 絵里やまわりの級友たちが驚いて立ち上がった時、真理は机の横の床に倒れ込んでいた。 | |||
<昭和ミニコラム>
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