
| 第2部9時間め:ファントムII | |||
強力な武装を持つトロイへの対策を考えるために、勤務先の三河屋に休みをもらって、月の裏側にある移動工廠アボン・レプスに戻ろうとしていたのである。 その時、作造はミゼット改の検知器が電導波を検出し始めたのに気づいた。 電導神経系特有の、しかもかなり強い反応が接近してくる。どうやら高速で飛行しているようだった。 「トロイか?」 作造は一瞬そう思ったが、やってくる方向と電導波のパターンのわずかな違いから、すぐにトロイではないことに気づいた。 「トロイのような電導生命体がまだほかにもいるのか!?」 スピードはプロペラ機のトロイよりもかなり速かった。まもなく視界に入る。 それは地球のジェット戦闘機だった。作造はもちろん知らなかったが、ごく最近、アメリカのマクダネル・ダグラス社で開発されたばかりのファントムIIと呼ばれる飛行機に酷似していた。 昭和40年では、まだ日本の航空自衛隊には導入されていない。どうやらアメリカあたりで電導生命体がとりついて、そのまま同化して日本にまで飛んできたようだった。 トロイのように強力な武装を有していれば、ミゼット改では対応できないだろう。そう思って作造はミゼット改を急降下させた。 しかしファントムIIのスピードは早く、降下途中のミゼット改の上空をあっという間に通過していった。 飛び去るファントムIIをモニターで追う作造。やはり改造が施され、トロイのように変形ができそうだ。 元々の武装であるミサイルのようなものも見えたが、威力や追尾装置などが強化されている可能性もあった。 「攻撃してこなくて助かった…。」 点のように小さくなったファントムIIを見上げて作造は安堵の吐息を漏らした。 「早めにアボン・レプスに戻って対策を講じなければ…。」
「あら、遅かったわね。短大はどうだった?」 既に入浴をすませパジャマに着替えていた真理が顔を上げて尋ねた。 「え?ええ、素敵なところだったわ。」口ごもるルー。 短大のことはともかく、あのYS-11型電導生命体、トロイのことを話すことはためらわれた。あれが真理の腕の異常を誘発したかもしれないことに思い当たったからだ。 「それより、ポットベリィは?帰ったの?」 「まあね。…従順ないい子だけど、一応男の子みたいだから、乙女の部屋で夜を過ごさせるわけにはいかないわ。そっと教室に戻らせたの。」 「そう、それならいいけど。」 物憂げなルーの様子を見ていぶかしむ真理。 「どうしたの?短大で何かあったの?」 「う、ううん。」ルーは一瞬口ごもった。 「…ただ、クリスマスパーティのプレゼントのことを考えていたの。」 それを聞いて真理はうめき声を上げた。「悪夢のクリスマスプレゼントか…。」 「何をそんなにうめいてるの?」 「真理ったらね、去年は編み物に挑戦して、マフラーを作ろうと苦労したんだけど、とうとう間に合わず、ハンカチみたいな大きさのものしかできなかったの。」 横から口を出した絵里を真理はきっとにらみつけた。 「あれでも相当苦労したんだから。でも、あれを受け取った先輩の凍りついたような顔を今でも忘れられないわ。…あああ、編機でもあれば!」 「編機って?」 絵里はルーに編機のことを説明した。横長の台に毛糸をセットして、あとは手でキャリッジを左右に振れば、自動的に編み物ができる機械のことを。 「まあ、中細毛糸しか使えないから、手編みみたいには個性が出せないけどね。」 「ふうん、便利ねえ。」感情を込めてうなずくルー。 その言葉を聞いて真理はルーの腕にすがりついた。「そうよね、そうよね、ルー。」 「絵里は何を作るの?」 「去年はセーターを編んだんだけど、うさちゃんの模様をつけたらひんしゅくを買っちゃったから、今年はお花でも作ろうと思ってるの。」 「お花?…今から種でもまく気?」 「やあねえ、真理ったら。生花じゃないわよ。…今年は和紙で造花を作ろうと思ってるの。折り紙みたいなのじゃなく、もっときれいなのをね。…ほら!」 絵里は戸棚の引き出しから和紙で作った鷺草を出した。白い和紙のけば立った感じが鷺の翼のような花弁の雰囲気をよく出していた。 「あら、とてもきれいね!」 「いい感じでしょ?」 真理は絵里が作った鷺草を手にとってじっと見つめていたが、突然ポンと手を叩いた。 「これよ、これ!3人で造花の花束を作りましょう!」 その勢いに驚いて真理を見つめるルーと絵里。 「これなら手芸よりもうまくできそうだわ。…絵里に教えてもらって、バラとかボタンとか何本も作るのよ!」 ルーは肩をすくめながらも絵里の方を向いて尋ねた。「和紙を余分に持ってるの?」 「前からそのつもりで、夏休みに家に帰った時に多めに買っておいたわ。千代紙もあるし…。」 ルーは両手で絵里の手をとった。「よろしくね、絵里。」
「真理、どうしたの?…また痛いの?」 「い、痛いってほどじゃないけど、ちょっと違和感が…。」 おそるおそるパジャマのそでをめくる真理。すると左腕にあの線形模様が光り輝いていた。 「真理!?」 ルーはあわてて胸元からインテリジェンス・チップを出すと、センサーを働かせた。 電導神経系の反応が強く出ていた。発信源を探ると、飛行機のエンジンの爆音は聞こえないが、はるか上空を何かが通過しているようだった。 「何かが、私の頭の上にいる。…すごく遠くだけど。」 真理も自分の手で感知しているようだった。 「…でも、もう遠ざかっている。」 真理の言葉とともに真理の腕の輝きも弱くなっていった。 「真理、大丈夫なの!?」 「もう大丈夫よ。心配しないで。」 今度は真理の体を走査するルー。しかし異常はなく、真理の腕の電導神経系は真理の体とうまく同化・共存しているようだった。 ほっとしてチップの通信機のスイッチを入れるルー。まもなく作造の声が帰ってきた。 「ルーか。…こっちはこれから『オデット姫号』に乗り込むところだ。どうした?」 真理の異変を報告するルー。それを聞いた作造はしばらく黙っていたが、やがてさっき遭遇した戦闘機のことを話した。 「やつの進行方向と速度から、ちょうどその頃女学院の上空を通過したのに違いない。」 「そいつは何なの?トロイみたいなのがまだいくつもいるってわけ?」 「それはまだおれにもわからん。とりあえずアボン・レプスに帰って調べてみる。」 「わかったわ。何か判明したら教えてね。」そう言って通信を切ると、ルーは心配げに真理を見つめた。 | |||
<昭和ミニコラム>
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