聖ガニメデ女学院第2部

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第2部9時間め:ファントムII
<F-4 ファントムII型ジェット戦闘機>
 確認できる武装は機首底部のバルカン砲、中型ミサイル6、小型ミサイル4。主翼外側の増槽様のものは、実は補助ブースター。
 人間は乗っていない。

 日が暮れた頃、作造はミゼット改で飛行していた。海中に隠してあるスペースクルーザー、オデット姫号 (命名は螢子) に乗り込むためである。

 強力な武装を持つトロイへの対策を考えるために、勤務先の三河屋に休みをもらって、月の裏側にある移動工廠アボン・レプスに戻ろうとしていたのである。

 その時、作造はミゼット改の検知器が電導波を検出し始めたのに気づいた。

 電導神経系特有の、しかもかなり強い反応が接近してくる。どうやら高速で飛行しているようだった。

 「トロイか?」

 作造は一瞬そう思ったが、やってくる方向と電導波のパターンのわずかな違いから、すぐにトロイではないことに気づいた。

 「トロイのような電導生命体がまだほかにもいるのか!?」

 スピードはプロペラ機のトロイよりもかなり速かった。まもなく視界に入る。

 それは地球のジェット戦闘機だった。作造はもちろん知らなかったが、ごく最近、アメリカのマクダネル・ダグラス社で開発されたばかりのファントムIIと呼ばれる飛行機に酷似していた。

 昭和40年では、まだ日本の航空自衛隊には導入されていない。どうやらアメリカあたりで電導生命体がとりついて、そのまま同化して日本にまで飛んできたようだった。

 トロイのように強力な武装を有していれば、ミゼット改では対応できないだろう。そう思って作造はミゼット改を急降下させた。

 しかしファントムIIのスピードは早く、降下途中のミゼット改の上空をあっという間に通過していった。

 飛び去るファントムIIをモニターで追う作造。やはり改造が施され、トロイのように変形ができそうだ。

 元々の武装であるミサイルのようなものも見えたが、威力や追尾装置などが強化されている可能性もあった。

 「攻撃してこなくて助かった…。」

 点のように小さくなったファントムIIを見上げて作造は安堵の吐息を漏らした。

 「早めにアボン・レプスに戻って対策を講じなければ…。」

<ファントムII型電導生命体>
 双発のジェットエンジンのエア・インテイクは機体底面にある(前方には逆噴射ブースターが設けられている)。

 その頃、ルーは白兎寮の自室に戻ってきた。

 「あら、遅かったわね。短大はどうだった?」
 既に入浴をすませパジャマに着替えていた真理が顔を上げて尋ねた。

 「え?ええ、素敵なところだったわ。」口ごもるルー。

 短大のことはともかく、あのYS-11型電導生命体、トロイのことを話すことはためらわれた。あれが真理の腕の異常を誘発したかもしれないことに思い当たったからだ。

 「それより、ポットベリィは?帰ったの?」

 「まあね。…従順ないい子だけど、一応男の子みたいだから、乙女の部屋で夜を過ごさせるわけにはいかないわ。そっと教室に戻らせたの。」

 「そう、それならいいけど。」

 物憂げなルーの様子を見ていぶかしむ真理。

 「どうしたの?短大で何かあったの?」

 「う、ううん。」ルーは一瞬口ごもった。

 「…ただ、クリスマスパーティのプレゼントのことを考えていたの。」

 それを聞いて真理はうめき声を上げた。「悪夢のクリスマスプレゼントか…。」

 「何をそんなにうめいてるの?」

 「真理ったらね、去年は編み物に挑戦して、マフラーを作ろうと苦労したんだけど、とうとう間に合わず、ハンカチみたいな大きさのものしかできなかったの。」

 横から口を出した絵里を真理はきっとにらみつけた。

 「あれでも相当苦労したんだから。でも、あれを受け取った先輩の凍りついたような顔を今でも忘れられないわ。…あああ、編機でもあれば!」

 「編機って?」

 絵里はルーに編機のことを説明した。横長の台に毛糸をセットして、あとは手でキャリッジを左右に振れば、自動的に編み物ができる機械のことを。

 「まあ、中細毛糸しか使えないから、手編みみたいには個性が出せないけどね。」

 「ふうん、便利ねえ。」感情を込めてうなずくルー。

 その言葉を聞いて真理はルーの腕にすがりついた。「そうよね、そうよね、ルー。」

 「絵里は何を作るの?」

 「去年はセーターを編んだんだけど、うさちゃんの模様をつけたらひんしゅくを買っちゃったから、今年はお花でも作ろうと思ってるの。」

 「お花?…今から種でもまく気?」

 「やあねえ、真理ったら。生花じゃないわよ。…今年は和紙で造花を作ろうと思ってるの。折り紙みたいなのじゃなく、もっときれいなのをね。…ほら!」

 絵里は戸棚の引き出しから和紙で作った鷺草を出した。白い和紙のけば立った感じが鷺の翼のような花弁の雰囲気をよく出していた。

 「あら、とてもきれいね!」

 「いい感じでしょ?」

 真理は絵里が作った鷺草を手にとってじっと見つめていたが、突然ポンと手を叩いた。

 「これよ、これ!3人で造花の花束を作りましょう!」

 その勢いに驚いて真理を見つめるルーと絵里。

 「これなら手芸よりもうまくできそうだわ。…絵里に教えてもらって、バラとかボタンとか何本も作るのよ!」

 ルーは肩をすくめながらも絵里の方を向いて尋ねた。「和紙を余分に持ってるの?」

 「前からそのつもりで、夏休みに家に帰った時に多めに買っておいたわ。千代紙もあるし…。」

 ルーは両手で絵里の手をとった。「よろしくね、絵里。」

<左腕が再び輝く真理>
 その時、ひとりはしゃいでいた真理が急に押し黙った。不審に思ってルーと絵里が真理を見ると、左腕を右手で押さえながら、顔が青ざめているのに気づいた。

 「真理、どうしたの?…また痛いの?」

 「い、痛いってほどじゃないけど、ちょっと違和感が…。」

 おそるおそるパジャマのそでをめくる真理。すると左腕にあの線形模様が光り輝いていた。

 「真理!?」

 ルーはあわてて胸元からインテリジェンス・チップを出すと、センサーを働かせた。

 電導神経系の反応が強く出ていた。発信源を探ると、飛行機のエンジンの爆音は聞こえないが、はるか上空を何かが通過しているようだった。

 「何かが、私の頭の上にいる。…すごく遠くだけど。」

 真理も自分の手で感知しているようだった。

 「…でも、もう遠ざかっている。」

 真理の言葉とともに真理の腕の輝きも弱くなっていった。

 「真理、大丈夫なの!?」

 「もう大丈夫よ。心配しないで。」

 今度は真理の体を走査するルー。しかし異常はなく、真理の腕の電導神経系は真理の体とうまく同化・共存しているようだった。

 ほっとしてチップの通信機のスイッチを入れるルー。まもなく作造の声が帰ってきた。

 「ルーか。…こっちはこれから『オデット姫号』に乗り込むところだ。どうした?」

 真理の異変を報告するルー。それを聞いた作造はしばらく黙っていたが、やがてさっき遭遇した戦闘機のことを話した。

 「やつの進行方向と速度から、ちょうどその頃女学院の上空を通過したのに違いない。」

 「そいつは何なの?トロイみたいなのがまだいくつもいるってわけ?」

 「それはまだおれにもわからん。とりあえずアボン・レプスに帰って調べてみる。」

 「わかったわ。何か判明したら教えてね。」そう言って通信を切ると、ルーは心配げに真理を見つめた。

<昭和ミニコラム>
  • F-4ファントムII:マグダネル・ダグラス社が昭和33 (1958) 年に開発し、アメリカ軍をはじめ、多くの国の軍隊に採用された艦上戦闘機。当時の設計思想としてミサイルの搭載量が重視され、8発のミサイルを装備できるようになったが、機動性のいい旧型の戦闘機には非常に苦戦することになった。F-4の原型であるF4Hの2号機から47号機までは開発・試験用で、型式名は後にF-4Aになった。昭和36 (1961) 年に最初にアメリカ海軍に部隊配備されたのがF-4Bで649機生産。昭和37 (1962) 年にアメリカ空軍で採用されたのがF-4Cで583機生産。F-4Cの対地攻撃能力を向上させたF-4Dは825機生産。F-4Eは固定武装を付けた機体で生産数が1番多く、日本向けに改良されたF-4EJは昭和46 (1971) 年に航空自衛隊に引き渡され、昭和56 (1981) 年までに合計150機が生産された。F-4の総生産数は5000機以上になる。なお、初代ファントム (F-1ファントム) は、昭和20 (1945) 年に開発され航空母艦の離発着に初めて成功したジェット戦闘機。

  • 編み物、編機:糸を交差させて布、特に衣類、を作ることと、そのための機械のこと。毛糸による編み物は有史以前から行われているが、古代シリアの遺跡から2世紀ごろに出土したものが確認された最古のもの。編み物の技術はエジプトからアラブ、ヨーロッパへと伝わり、2本の棒針を使用する編み物は13世紀頃にイタリア、フランスに定着し、ルネサンス期にヨーロッパ全土へと広がった。機械で編む編機が発明されたのは1589年で、イギリスの牧師ウィリアム・リーが妻の仕事を楽にするために、ヒゲ針を用いた足踏み式の靴下編機を開発した。その後機械の改良が行われ、19世紀には今日のニット編機のほとんどで使用されているベラ針が考案された。日本にヨーロッパ式の編み物が伝わったのは、16世紀にキリスト教が伝来した頃のことであるが、女性一般に広がったのは幕末から明治にかけて、編み物を教える外国人が現れてからのことである。明治4 (1871) 年、実業家の西村勝三が手回し式の靴下編機を数台輸入し、東京築地に工場を作ったのが国内の最初の編機。メリヤス製品の需要増とともにメリヤス産業は急速に発展した。家庭用の手動編機が広まったのは昭和30 (1955) 年前後で、シルバー編機が昭和27 (1952) 年頃、ブラザー編機が昭和29 (1954) 年に編機を発売している。編み針が並んだ本体の上を手でキャリッジを左右に動かすと毛糸を編んでいく構造で、現在ではマイコン制御付き手動編機が販売されている。

 

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