たけしの遺伝子
キネマ北野
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 『BROTHER』ねこ評
 「ガタガタぬかすとまた映画撮っちゃうぞ、この野郎!」
ねこ

たけしさんが立っている。
L.Aの街並みに。

キタノ・ブルー、奥深くさまざまなものを孕む秘めやかな漆黒、鮮烈の赤。
それらのものが乾いた空気の中で静かに混ぜ合わされてゆく。

「本物の勝負は一発で決まる」

ものすごい銃声音。今までの北野映画の比ではない。
しかも唐突さはさらに増している。
ハリウッド映画なら、火薬の量を誇示し、作品中に何人死んだか、が話題になるかもしれない。
ただ、これは爽快感のあるド派手なエンターテイメントではない。
たけしさんは確かに娯楽作品を撮った。だが、倒れていく人、人、屍の山…
その前で、私たちは重く沈黙していく。
たけしさんは、「死」の描き方だけは娯楽にはしない。
そして、それが北野映画の、他の追随を許さない圧倒的なオリジナリティであると思う。

「てめぇら、死というものを考えろ」

一人、一人の死は決して軽く描かれることなく、ずしりずしりとその存在を増していく。
繰り返し繰り返し問い放たれるたけしさんのメッセージ。

今回も死に向かう者たちは、ダイス、バスケ、将棋などさまざまな遊びに興じる。
けれどもそれは、「ソナチネ」の“死ぬのが怖くて死にたくなっちゃう人”ではなく、笑いながら
「俺よぉ、死ぬことになった」人なのである。
“事故後のリハビリの映画はこれで終わり”、というたけしさんのこの心境の変化は、ファンの一人と
して、とても感慨深いものがある。

たけしさんは、あの時、本当に死ぬ一歩手前までいっていた。
事故以来、ファンなら片時も脳裏から離れたことはないその事実を、今回はもっとリアルに映像から
感じることができた。


それでは、印象に残ったシーンを幾つか、
“今回の映画はわかりやすく撮った”というたけしさん。
ヤクザの儀式のシーンなど、ベタなサービスシーンも今までに比べれば、省略せずに挿入している。
加藤雅也 扮する白瀬に手を組むように直談判し、「命かけてみい!」の言葉通り、自らの頭を撃って
自殺する加藤役の寺島進さん。
(この寺島さんの最期の表情「叔父貴、よろしく頼むぜ」が実に秀逸。)
今回の映画の中でファンが最も憧憬し自己投影したいシーンではないだろうか。
「腹ん中見せてみろ!」の言葉に激昂し、自ら腹をかっさばいてみせる原田役の大杉漣さん。
ショッキングなシーンであるが、端から見れば「馬鹿じゃねぇのか、こいつ」と見えかねないシーンで見事に振り子になっているように感じられた。
(しかも、大杉漣さんのお腹から、ちゃんと腸がはみだしている細やかさ 笑。)
寺島さん苦心の紙ひこうきをビルの屋上から放つシーンは文句なく美しい。
L..Aのビルの間をはらはらと落ちていく紙ひこうき。映画の神様はまたもたけしさんに味方した。
(たとえ寺島さんがこのシーンに23回もNGを出しても。笑)

また特筆すべきは、時代背景が判るものはなるべく排除してきたたけしさんが、今回携帯電話を小道具に
使っていることにも注目したい。
たけしさんの弟、ケン役に扮する真木蔵人さんが事切れている時に、胸でバイブで鳴っている携帯電話の
演出は印象深い。

そしていよいよクライマックスのたけしさん扮する山本の最期のシーン。
郊外のダイナーズ、老紳士のマスターと言葉を交わすたけしさん。
自らの最期を悟り、瀟洒な作りのドアに一歩、一歩近づいていく。
(そのブルーのドアはこの世とあの世の境であり、実に重要なセットである。)
場面はスローモーションに変わる。
その後ろ姿を追いながら、どうしてもその姿を“山本”ではなく、“北野 武”として見てしまう自分に気づく。
その腕をとって引き止めたくなる焦燥感に一瞬ドッと襲われる。
たけしさんはドアを開き、白い光の向こう側に行ってしまった。美しく哀しいシーンである。

すさまじい銃声、無数に開いていくドアの穴、やがて静寂が戻り、ドアの外には山本の亡骸が倒れていた。
こういうシーンをわざわざ入れたのも初めてのことになる。

ラストシーン、逃亡運転中のオマー・エプス扮するデニーの長ゼリフが始まる。
「こんな汚いかばんをくれたって、どうなるっていうんだ!」
苛立ちと絶望のため、山本にさんざん悪態をつくデニー。
しかし、そのかばんの中にはあふれるほどの札束が入っていた。

とたんに涙ぐみ、山本に感謝するデニー。
「どこにいっても、ブラザーのことを忘れない!」と。

このシーンはとても感動的であり、北野映画にしては希望的なラストシーンである。
ただ、たけしさんの漫才なら、「早く気づけよ、バカ野郎!」というようなシーンでもある。(^^)

因果応報の輪の中からお前だけは抜けろ、と今回デニーをそれに選んだのだ。
また撮影のタイムリミットが刻一刻と迫る中で、一発でOKを出したオマーの演技力も特筆に価する。

「ストレートにやらなきゃわからない。」

たけしさんのこの試みは見事に成功したと思う。
ラストシーンですすり泣いている観客はたくさんいた。
北野映画はわからない、という一般の方にも、今回はわかりやすいのではないだろうか。
(たけしさんが、つまんないところがあったとしても。笑)

ただ、ラストのラストの編集だけは、たけしさん流をゆずらなかったように見えた。

今回のこの映画のキャッチコピーは「北野組 世界照準」。
文句なく素晴らしい。大傑作である。

1時間54分の間、テンションは全く落ちることがない。

世界中の観客が、たけしさんに銃口をつきつけられ、どういった反応をするのだろうか。
とても楽しみである。


〜おまけ〜

「どうして俺なんかを?」

私たちもどうやら、巻き込まれて、“なっちゃったんだよ〜ん”で、たけしさんと同じものに乗り合わせて
しまったようです。
この乗り物は、浅草花やしきのジェットコースターなのか、はたまた沈没する運命の豪華客船なのか、
わかりませんが、一番隅っこの便所の横ぐらいには乗っております。
途中下車はする気はございません。

それでは、ちょっと用がありますので、ここで失礼します(笑)。


OH〜、MY〜、ふぁっきん たけし!!


ズキューーン!!!
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