

『菊次郎の夏』ねこ評
ねこ
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ふぅ、暑い。
さっきからおじちゃんと一緒に歩いてる。
これってロードムービーって言うんだって?おじちゃんが初めて撮った死の匂いのしない映画。
あたたかさとせつなさが同居してるってやつ。
おじちゃんは、競輪でお金を遣っちゃうし、プールじゃ溺れそうになる。小学生の宿題もわかんない。
お腹も出てる。それに、盗んだタクシーで日本交通早稲田営業所以来の、ドライビングテクニックも
見せてくれたりもした(笑)。全く、ろくなもんじゃない。
でも、おじちゃんの真っ白いシャツがまぶしくて、時々ドキドキすることがあるんだよ。
足元はずっとサンダル履きなんだけど。
きよしおじちゃんとのバス停での漫才、すごく面白かった。
ただ日本人に生まれたって理由だけじゃない。それは、おじちゃんのことが好きで、
おじちゃんのことをずっと見てきたから。それだけでバンザイってことだね。
デブのおじちゃんとハゲのおじちゃんと遊んだのは、すごく楽しかった。
フグ、タコ、宇宙人、裸だるまさんがころんだ…おじちゃんたらだんだんノッてきて
まるでガンバルマンみたいになっちゃうんだもんなぁ(笑)。
そうそう、デブのおじちゃん、ターザンごっこで肥えだめの中に落ちちゃって、
〈たけしVIDEO・1〉以来の災難だったね。あの「うぇ〜〜ん」って声は絶品だった。
だから、お別れする時はすごく寂しかったんだよ。
デブのおじちゃんとハゲのおじちゃんのサヨナラの笑顔、
あれは、役者さんの演技じゃできない気がする。魂のきれいな人の笑顔。
おじちゃんが前に言ったことがある。
「寅さんてのは、すごく勘違いした下町像で、あんなおせっかいなんて誰もいないって。
おせっかいするのは、恥ずかしいことなんだから。」
菊次郎さん、ってのはおじちゃんでもあり、おじちゃんのお父さんでもあり、
リアルな下町のおやじなんだ。
泣きたいほどせつないのに、サラッとかわされる。
涙もおみやでお持ち帰り、ってなもんだ。
そして、静かに、静かに、皆の胸の中に余韻は広がっていく。
おじちゃんがまたすごい映画を作った、ってのに、もうずっと先にならないと
また皆気づかないのかな?
粋っていうのは、そういうことなんでしょ?
でも、この粋ってのをおじちゃんに教えた、おじちゃんのお母さんがこの夏に逝ってしまった。
雷の鳴る夜だった。おじちゃんは声を上げて泣いていた。
おじちゃんがあんなに泣いてるのを見て、皆胸が痛んだ。
だけど今になって思う。
死んでしまったからって、終わりじゃないんだって。
おじちゃんと、おじちゃんのお母さんは、これからもずーっと親子なんだ。
だって、おじちゃんは、あんなにいい子じゃないか。
ふぅ、何だかいろんなものが、ごっちゃになっちゃったかな?
ここもおじちゃんの好きなフラクタルの世界かもしれない。
それに僕もろくなもんじゃないし(笑)。
あ、辺りが薄青色に染まってきたね。
そろそろ、おじちゃんとお別れする時間だ。天使の鈴も鳴ってるし…行かなくちゃ。
「おじちゃん、またね。また、遊ぼうね。」
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