

『その男、凶暴につき』story評
story
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今晩は、俵コータローです、ではなくstoryと申します。
私は先日「その男、凶暴につき」の野沢尚脚本の載った「シナリオ」1989年9月号を手にいれたので、
興味のおありになる北野映画ファンも多数いらっしゃることと思いちょっとねこさんのページに寄稿してみました。
脚本を全部載せるわけににもいかないので、野沢尚脚本の流れを追いながら北野映画での変更点、アイデアなどを対照していってみようと思います。
映画はブルーの文字 にしてあります。
この映画が深作欣二監督で企画され、たけしさんのスケジュールの都合などで深作監督が降り、北野監督
デビュー映画として改めて制作されたことはよく知られていますが、「シナリオ」誌に載っていた野沢さんの創作ノートによると
深作監督で企画がスタートした段階からそのコンセプトが二転三転していたようです。
最初は「スタイリッシュなハードボイルド路線」だったのが「生活臭のする主人公の極めてリアルな状況での叫びと爆発
、不屈の闘争本能」を描くという狙いに変わり、警察批判というテーマとアクションのカタルシスという
難しい両立に苦心。しかし、警察批判より凄絶な活劇を優先させたいと監督の
要望はさらに変化しそれにあわせて、殺し屋をより膨らませていく作業。
そして監督の交代と野沢さんにとってはかなり難産だったシナリオだったことがうかがわれます。
それでは冒頭から。
ウオーターフロントの遠景がファーストショット。
中学生集団が浮浪者を襲うシーン。ヌンチャク等小道具持ってロック流しながら。自転車はなし。
我妻(北野たけし)があとをつけて家にずかずかはいっていって少年を殴るとこはほぼ同じだが、
シナリオでは母親が二階の物音を不審がったり、そのあと少年を見つけて
驚きの声がするというのもある
浮浪者がなにか食べようとしている顔のアップがファーストショット。
映画では学校帰りの中学生がたまたま見つけた浮浪者をひまつぶしに襲う感じでシナリオの
凶器準備集合娯楽という感じはしない、しかし日常的な不気味さをより感じる。
ここでタイトルバック(映画では冒頭すぐにさりげなくある)湾岸ウオーターフロント最先端の裏の汚辱の街の点描がたくさん描かれる。
船からなんだか幸せそうにぼーっと上を見ている男に空き缶を投げつける子供。浮浪者といい大体ぼーっと座っている男に
ろくなことはない、それに逆らうようにのしのし歩いてくる我妻。
「歩く」。これはシナリオにはなにも書いてない。この歩きこそがこの映画のトーンになっている。
屋上での新署長の就任あいさつのあと、我妻と仲間とのやりとりなど事情聴取中の下着泥棒もいたりして雑然とした部屋で、そのあと署長室に呼ばれて昨日の少年の件など
おとなしくしているよう念を押される。
歩きのつづきで署内の部屋に入りひとりたばこを吸い新聞を読む。就任挨拶をわざと遅れてきたわけですね。シナリオと違い静かな感じ。
署長室に呼ばれても すぐにはいかない。新人の菊池刑事が挨拶してきても無視する。しかし先輩の岩城とはうってかわって親しげな視線を交わす。
ほとんどセリフではなく、態度などで我妻の性格が浮かび上がってくるようにしてあります。また
菊池、岩城などとの関係もシナリオではそれぞれこのあとエピソードがそれぞれありますがここで全部コンパクトに描いてしまって
いる。
妹(灯)を引き取りに病院へ。担当医師との会話で灯がなにか愛情に関して「過激性」をもっていて我妻がそれを遺伝性のものではないかと
気にしていることがわかる。 ふたりで祭りをみたりしながら帰る。灯がさきほどの医師にプロポーズされていると語ったり、我妻とのそんざいしない記憶を語ったり。
灯、屋台で我妻によく似たキーホルダーのついたライターを買う。
医師とも妹ともまったく会話らしいものはない。なにしろどんな病院なのかも説明していない。ただ入院していたときの
荷物がちょっと多すぎてぬいぐるみが大きい、妹が全くしゃべらないのが少し異様な感じ。
祭りのシーンはあるが、妹との会話はない、ライターも出てこない。
ストリップ劇場での取り調べ。身重のダンサーのヒモの暴力沙汰を説諭するというシーン。岩城の同期の課長がヒモを
殴り倒した我妻を「まったく、気狂いだな」と言い捨てる。
灯の退院を喜ぶ岩城。
ストリップ劇場が署内の廊下になっている。同期の課長は登場しない。
我妻酔って帰宅。自分の部屋に寝ていた見知らぬ男が寝ているので殴る。実は菊池(シナリオではここで初めて我妻と顔を合わす)で
我妻は引っ越した事を忘れていた。翌日、お詫びのためピンサロに誘い昨日のストリップのダンサにサービスされたりする。
映画では全部カット。
清弘モーターボートに乗って登場。
関西弁、覚醒剤の売人ではなく買う方であるなど映画とは設定が違う。
そして覚醒剤ではなく「DIES」という名前の麻薬で清弘がその中毒でその凶暴性の原因になっている事が示される
清弘は志ん生の「黄金餅」をカーラジオで聞きながら登場。
ゲーム喫茶の我妻と菊池、連絡が入り、売人の殺害現場へ。
我妻初めての死体をみる菊池の頭を掴んで「必ず犯人、見つけてあげるからね」と死体になんども言わしてからかう。
菊池をからかうシーンはカット、我妻が菊池に5000円借り、タクシー代を本間に出してもらい知らんふりしたり1万円借り
など日常的なちまちましたやりとりがある。
アパートに帰ってきた我妻、灯が連れ込んだ男が逃げようとするのを脅しながら一緒についていく。
バス停でバスが出てもまだ男が我妻にどつかれているというのは映画のみのオチ。
また男が階段からけ落とされるというのも映画のみ。
男は「タケシードライバー」秋山見学者。
女のたれ込みでヤク中の逮捕へむかう覆面パト車中。
菊池「我妻さん、どうして警官になったんですか?」
我妻「友人の紹介で」
この秀逸な会話はたけしさんのアイデアかと思っていたが、野沢さんのシナリオのものであった!
我妻が拳銃の引き金に挟まっている安全ゴムを外しているのをみて同僚の本間がちょっと見とがめる。
上の方針で拳銃がすぐ撃てなくなっているらしい。後の伏線となるのだが映画にはない。
本庁刑事2名と合流。「県警さんも一人半でやってくるとは心強いね」と言われる。映画では睨みあうがシナリオでは受け流す。
アパートに踏み込む。菊池は車に残り、本間は外で待つ。女が叫び、ヤク中の男部屋の窓から飛び降りる。
我妻「本間そっちだ !」と声を上げ本間気づく。
回りの子供を逃がし本間立ち向かうが拳銃の安全ゴムを外すのに手間取っている間に、金属バットで頭を割られる。
商店街を走って追う我妻。菊池も覆面パトで追うが、急カーブで出会い頭にヤク中と衝突。菊池運転席から視界から消えた男を
覗こうとしたら、男不意に出現フロントグラスを金属バットで叩き割る。我妻追いつく。それに気づいて逃げるヤク中。
行き止まり逆上して金属バットで襲いかかる男に我妻発砲。足に当たる、我妻興奮して銃を男の頭に突きつけ撃つ寸前菊池達に
羽交い締めされてとめられる。
大学病院、本間の婚約者、刑事課の同僚などいて本間が植物状態に近い重体であることが知らされる。
本間はあまり映画では出てこないが、シナリオでは後半の我妻の凶暴への大きな動機となる。
このヤク中の追跡場面はよく刑事ドラマであるシチュエーションだが、たけしさんが日頃たくわえてたアイデアが
沢山盛り込まれているようだ。
まずアパートには菊池が最初にヤク中と格闘殴られて倒される、後ろで笑っている我妻。
次に本庁の我妻と睨みあった刑事がヤク中のパンチを
軽く2度ほど余裕でかわし一見強そうに見えてボディに一発食らわされ倒れる。その次の刑事もかんたんにのされる。
ヤク中が窓から逃げるのにまず子供が気づき本間が格闘、銃の使用はなし。
本間を金属バットで殴ったあと逃げるヤク中。
追う刑事達、喉が乾きジュースを飲む。走って追う我妻疲れて歩き出す。
我妻、菊池の覆面パトに同乗、「パトはずせよ、どこにいるか教えてやってるようなもんじゃねえか」
我妻達やっとヤク中に狭い路地で追いつく。ヤク中必至で逃げる。「オラオラオラ」後ろから面白がって車で追いつめる我妻。
シナリオでは菊池がヤク中をはねるが映画では我妻がはねてしまう。
後はシナリオと同じだが、我妻の発砲はない。大学病院の場面はない。
この追跡シーンは本当にほれぼれするぐらいよく出来てますねぇ。
私は東京の地理に少し詳しいのですが、ロケ地は多分南品川、青物横町あたり。海近くの運河や船宿もあり、
橋も多くて地形も面白いし下町風情も活写されて
いて、これで初監督作品?やっぱたけしさんは天才かもしれません。
我妻と菊池、ディスコで張り込み麻薬の売買の現場を押さえる。橋爪と酒井の売人二人だが、麻薬の仕入先が岩城であることが
ばれるのは、菊池が酒井からヌードの検死写真を見つけるのがきっかけ、酒井がばらす。橋爪それをとどめるのに必死
シナリオでは2度殴られるぐらいの橋爪だが、映画では2度蹴られ23発頬をひっぱたかれ最後にぐーで殴られ失神。
あれはほんとにひっぱたいてたなあ。がんぱった橋爪役の役者は川上泳さん。
岩城の横流しをばらすのは橋爪。麻薬を買うつもりだった客が泣き出すというシーンは映画のみ。
岩城宅、菊池と我妻の妻(静香)の会話。我妻の灯について尋ねる。我妻が借りている金のお礼を言う。静香、岩城のいない時に尋ねてきた
我妻に何かを察し、岩城に関して不安を訴え岩城を見ていてくれるよう頼む。
映画ではカット。
代わりに清弘に岩城のことを我妻におそるおそる報告する橋爪達。
焼却炉。麻薬の袋など燃やす岩城、袋の中身は砂糖にすり替えてあり、やって来た我妻に見つかってしまう。口止めを頼む岩城。
「俺の金もこれだったのか」
映画では焼却炉の場面はない。駐車場で岩城を呼び出し、さらに麻薬を引き出そうとする橋爪達、岩城にも我妻に知られていることを喋ってしまう。
岩城、我妻を喫茶店に呼び出す。遠くからのショットで会話は聞こえない。
岩城の汚職疑惑を報道する新聞紙面。
署長の記者会見
岩城の家へむかう我妻にマスコミがしつこくつきまとう。
連絡のつかない岩城のことを我妻に問いつめる静香。
雑木林で首を吊っている岩城を子供が見つける。
新聞紙面、記者会見、マスコミの追っかけはなし。
映画での流れは、署長に我妻が呼ばれ、マスコミが騒いでるので岩城を捜しているといわれ、
岩城の家に行く。造成地の中に立つ新築の岩城の家の前に張り込んでいるマスコミの車の前を歩く我妻。
取り込まれていない新聞紙の束。映画ではこの場面に出てくるだけの静香だが、連絡がつかなくて
と心配そうな言葉のみ。
映画では橋の下の岩城を船の男が見つける。
バーで一人で酔いつぶれている我妻、灯が迎えに来る。
我妻をおんぶして帰る灯、我妻との存在しない記憶を語り続ける。
クラブの我妻と菊池。菊池が岩城の死が本当に自殺なのか我妻に確かめる。我妻、心ここにはない。それには答えず帰る。
飲屋街で合流する灯と我妻。もくもくと歩く我妻。ただそのあとをついていく灯。
シナリオでは灯との会話はかなりあるのだが、映画ではほとんどない。「あの夏一番静かな海」を連想してしまうようなショット。
レストランで政治家と会談する仁藤。ウオーターフロント開発に関する癒着があることが会話でわかる。
清弘が来る。薬に酔っているらしい。迷惑そうな仁藤追い返す。
新聞、雑誌の岩城関係のスキャンダラスな記事、岩城の葬儀、本間の見舞いの様子にかぶさって署長の署内訓辞の声が流れる。
岩城の不祥事を責め、本間の未熟さを切り捨てる内容。
岩城家、静香が家を引き払うので引っ越しの手伝いの我妻。静香に岩城が癌であったと告げられる。
動けなくなるまでに静香と子供にすこしでもお金を残すつもりであったのではないかと。その中から金を借りていた我妻、胸を衝かれる。
手がかりとして頻繁にかかって来た電話のトクという男、我妻こころあたりがある。
法医学研究室で検死係にトク(清弘に最初に殺された売人)のことを聞くが岩城の自殺に実は殺しの疑いがあることがわかる。上のほうでそれを握り潰し自殺と
発表したのだと。
映画では署長の署内訓辞の声はない。静香との場面はない。法医学研究室での場面もない。
映画では、岩城の葬式のあとシナリオにはない場面が幾つか続く。
署内の捜査ファイルの書庫らしきところで覚醒剤関係を菊池に調べさせる我妻。
地回り。バーで聞き込む我妻、寿司屋の菊池、廃屋のビルのドアをひとつひとつ開いていく我妻。場外馬券場の菊池。
廃屋のビルを歩く清弘。隠れていた橋爪を見つけ屋上の端まで追い込む。橋爪屋上の端から落ち指だけでぶら下がる。面白そうに
その指をナイフで横に切る。落ちて行く橋爪。
仁藤に呼び出される清弘。政治家は登場しない、麻薬もやってはいない。
場末のドヤ街、(シナリオでは生きている)橋爪を探し当てる我妻。相棒が消されたこと、清弘が仁藤という生年実業家に飼われていること、
清弘は神戸のヒットマンでやくざの組長をヒットして逃げているとき仁藤に拾われたことなど聞き込む。
ここで「ダイズ(DIES)」という麻薬の効力が説明される。合成ヘロインの強力鎮痛剤で痛みを感じなくなる。
殺すには頭に鉛をぶちこむしかない。
ダイズの説明、というかダイズという麻薬が映画にはない。
映画ではドヤ街にいるのは酒井。清弘の神戸での経緯についての説明はない。ドヤ街をでて帰る我妻が清弘と歩道橋ですれ違う。気づかずに通り過ぎて駅まで来たところで急に引き返す我妻。
酒井の死体を発見する。
仁藤のレストランバーの新装パーティに入り客を観察する我妻、ここではじめて清弘と顔を合わせ二人、睨み合う。
映画ではパーティはなく仁藤と皮肉の応酬。清弘は、その姿をガラス越しに確認するのみ。
ラブホテルの一室、清弘と女が寝ている。麻薬のがさいれということで我妻と菊池入ってくる。
洗面所に入り自分のポケットから出した覚醒剤のパケを清弘に突きつける。。
映画では清弘と寝ているのは男。「いい趣味してるじゃねえか」。
覚醒剤は洗面所ではなく、清弘の目の前で出す。
菊池を見張りに立たせ署内の取調室で清弘に暴行する我妻。さんざん痛めつけ、ロシアンルーレットでの運試しを持ちかける。
清弘自分の頭に銃口を向け引き金を引くが弾は出ない、弛緩する両者。「バーの妹でも、死にわかれとうないやろ」
と言われ、我妻キレる、電気スタンドで打ちのめすところを他の刑事が入ってきて制止される。
取調室ではなくロッカー室で。ロシアンルーレットは出てこない。代わりに気づかぬ振りをして
ロッカーのナイフを見せて置いて銃を背中に隠し持ち、
罠をしかけるというシーンになっている。「兄弟揃ってお前らきちがいか」といわれてキレる。
署長室、我妻に辞表を出せと迫るが平然と無視する我妻。清弘が岩城殺しのホシと主張、検死官の殺しのセンあるとういう報告
も訴えるが却下される。清弘を殺すには頭をぶち抜くしかないとくちばしる。「気狂いだ」といわれつかみかかろうとする我妻。
「凶暴につき、懲戒免職決定まで謹慎処分とする」
映画では我妻はこのシーン以降、一言も言葉を発しなくなる。
署長の辞表を出せとの言葉にだまって、警察手帳を差し出す。
繁華街をぶらつく我妻の灯を尾行する清弘と手下の三人の男。
倉庫。妹を犯した三人の手下、清弘にデカの妹だと言われ怯えて帰る。
帰って清弘におもちゃにされたと告げろと解放される灯、ここで待っているとの清弘の言葉を「待っててくれるの?」と、愛情の言葉と勘違いしてしまう。
帰宅途中の我妻、たまたま商店街で灯と遭遇。灯は果物屋でリンゴを万引きしているところだった。
自転車も盗んでくる。我妻そのまま灯を自転車の後ろにのせて帰る。灯、子供の頃の我妻に自転車に
乗せてくれた思い出話をする。
結婚しようと思う、私を待っていてくれる人がいる。と我妻に語る。
所在なげに街をぶらつく我妻。絵画展をのぞいたりする。警察をやめてから初めてポケットに手をつっこむ。
それまでは、かならず手をだしていた。 尾行のシーンはない。
清弘と妹が会うシーンはない。ただ妹を犯す3人のシーン
妹と我妻のシーンもない。
我妻、バッティングセンターで遊んだり、草野球を見たり。
妹がまったく反応しないので、薬を打つ手下たち。
この辺りから、シナリオと映画は大きく話の展開がそれはじめる。以下の清弘との一連のシーンはシナリオには
まったくない。
駅からでてくる我妻に、清弘近づきナイフで刺そうとした瞬間、我妻さっとふりむき素手でナイフを掴む。
ほとばしる血。睨み合う両者。我妻頭突き。清弘倒れるが、ポケットから銃を取り出し。撃とうとする手を
我妻蹴飛ばす。弾は近くにいた女子大生の胸に命中。女子大生の友人の悲鳴。我妻必死で逃げ出す。
ナイフを掴んだまま、足をひきずりながらゆっくり裏道を逃げる我妻、ナイフは腹まで刺さっていた。手負いの獣のよう。
暗いボーリング場の裏らしいビルの谷間で座り込み、手の中の固まった血潮からナイフを引き抜く。
そこにゆっくり現れる清弘。我妻の傷を足で痛めつけ、何度も蹴る。銃を頭につきつける。我妻もこれで最後か。
しかし後ろ手にナイフを拾い清弘を刺す。(画面ではよくわからないが、撮影日記では男の急所を刺したという設定らしい)
我妻逃げる。清弘立てない。
倉庫にやってくる仁藤。我妻の妹をマワし面倒をかかえこましたことを非難しなぐりつける。妹が出てきて清弘をかばう。
あきれてでていく仁藤。清弘邪険に灯を振り払うがその一途さに抱き寄せてしまう。
我妻、仁藤の事務所に現れ、清弘の居場所を聞く、仁藤灯と清弘の仲を我妻に暴露する。我妻、愕然。掴みかかろうとした
ところへ、通報で同僚の刑事たちがやってきて止める。連れ去られる我妻。
新開に二人を一度に始末できるいい機会だと笑う仁藤。
倉庫ではなく仁藤の事務所に清弘が出向く。シナリオでは神戸で清弘を助けてやったときのことを仁藤が語るシーンがあるが
映画にはない。
映画では我妻が仁藤の事務所に現れ刑事たちに連れ去られるというシーンはない。
署長室で辞表を求められる我妻。シナリオではここで我妻は警察をやめることになる。
部屋をでてそのまま押収品の管理室にはいる我妻、裏ビデオを見ていた警官を殴り倒し拳銃などの押収品から銃を
持てる限り持ち出していく。
刑事課(後刻)大騒ぎになっている、仁藤のところに向かうに違いないというので何人かで急行することになる。
映画では我妻は前に出てきたゲーム喫茶の主人から拳銃を手に入れる。
同僚の刑事達と我妻のからみは映画ではもうこの後出てこない。
空き地で拳銃の試し撃ちをする我妻。
仁藤の身辺警護に菊池など刑事達かけつける。それを拒んで仁藤メルセデスに乗りかけたところへ覆面パトで我妻
激突。拳銃を天に向けて連射。仁藤に手錠を掛け覆面パトで拉致走り出す。
仁藤を痛めつけ清弘の倉庫に電話する我妻。
仁藤の事務所の我妻。清弘の事は知らない、あいつはきちがいですからと席をはずそうとした仁藤に
なにも言わず弾を数発撃つ我妻。我妻がでていったあと、仁藤の手下の新開、清弘へ電話をいれる。
これ以降、シナリオと映画はかなり違う展開なので最後までいきます。
我妻からの電話を受け、灯とベッドにいた清弘手下の3人に奴が来るという。
ウォーターフロントの街、ライブハウス横の倉庫。
待ち伏せの男達のもとへ、我妻が仁藤をつれやって来る。
我妻の身体検査をやろうとするが、拒否されてひとりがたばこを吸おうとライターをだす。
それが灯のもっているライターだったことに気が付き我妻キレて銃で手下の手を打ち抜く。
仁藤を縦にして廊下を我妻、銃を乱射しながら進む。手下の一人の頬を貫通、悲鳴。
清弘が散弾銃を手に待ちかまえる。我妻狙われていることに気が付き仁藤を盾にするが、清弘
かまわず撃ち仁藤絶命。我妻も負傷、階段から落下。
清弘、階段を降りていくところへ、我妻狙っていた。清弘の喉辺りに命中。しかし、我妻痛みのため動けない。
瀕死の清弘、ポケットから「ダイズ」の麻薬を取り出し吸い込む。
即効性、生き返る。
我妻、灯に呼びかけながら階段を上ってくる。清弘はいない。我妻、倒れそうにふらふらになっているが清弘が落としていった
「ダイズ」を見つける。吸引、清弘と同じく覚醒、蘇生する
二階フロアを追ってくる我妻、壁続きのライブハウスへ。
ライブハウスの中はロックバンドのライブ、総立ちの観客。
我妻、出口近くに灯を盾にレミントンを構え待ち受ける清弘を発見。灯が「お兄ちゃん!」と呼ぶのをきっかけに
清弘銃を撃ち始める、周辺の客次々に被弾ばたばたと倒れそこら一角だけパニック。
ライブハウスを灯とともに飛び出してくる清弘、運河沿いのレストランへ。
清弘、追ってきた我妻に連射、修羅場となる店内。我妻「伏せろ」と叫ぶが間に入った女性客背中に被弾。
テラスへ出る二人。清弘が灯を盾にしているので撃てない我妻。膝、腹、肩と次々被弾。
しかし、ついに打ち返す。灯の肩を貫通し清弘にあたり灯は放り出される。
我妻、清弘に連射。しかし「ダイズ」の効果で痛みのない清弘、ユラユラと立っている。人差し指で自分の額を指す。
我妻、眉間を撃ち抜く。絶命。
灯、清弘にすがりつき泣きわめき、口づける。蘇生させようとする
我妻、悲哀に満ちてそれを見つめる。
新米警官の頃、自転車の後ろに灯を乗せ土手の道をこいでいる思い出の情景のフラッシュバック。
我妻、抱きしめるように灯の頭に銃を押しつけ撃つ。
我妻、灰のように燃え尽きている。
運河を赤く照らしパトカーが押し寄せてくる。
死者、負傷者で大惨事の現場、パトカーや救急車が通りを埋め尽くし警官隊が包囲を固める。
報道関係者も詰めかける中、署長がとめる警官らを振り切り、我妻と対決に向かう。
我妻、気が付き銃で威嚇発砲。銃を捨てろとの声に持っていた銃をすてるが、またリボルバーを懐から取り出す。
我妻「……本間は、どうなった」
吉成「本間?」
我妻「バットでぶん殴られた、あんたの部下だよ」
吉成「ああ(思い出した)まだ意識不明だ」
我妻「何が安全ゴムだ。てめえらの猿知恵のせいで、撃てずにドタマかち割られたんだ」
吉成「……(聞いてやる)」
我妻「岩さんは癌で、押収品が札束に見えて……その中からこいつに(傍らの灯)金を……それをてめえらが、ていよく
自殺にしちまいやがった」
吉成「……(聞いてやる)」
我妻「本間は警察の未熟者で、岩さんは省察の面汚しで、俺は警察の膿か?じゃてめえは何だ。行政官か?(とせせら
笑う)」
吉成「(黙ってはいられず)……大きな仕組みのなかで、あんたも私も小さな歯車だ。噛み合わせの悪いのは大きな歯車
のせいか?」
さらに署長が言い募るが我妻薬が切れたらしくうるさそうに銃を次々発砲。
突入しようとする刑事達を止める署長。
どうしても署長が好きになれないという我妻、リボルバーの弾倉に弾を一発残し、こめかみにあて
運試しだという、空撃ちならば逮捕されてやると。
見守る菊池ら刑事達ある予感を感じている。
灯の髪を愛おしくなでながら笑みを浮かべ我妻トリガーを絞る。
激しい銃声
闇になる
------完-------
電話を聞いている清弘。うしろでは手下の3人がじゃれて騒いでいる。灯、薬をくれて3人にせがむが
相手にされないので清弘の所にくる。うるさいともの凄い形相で怒鳴り灯をはねつける。
その異様さに立ちすくむ手下の3人。
銃器などの入ったトランクを出し迎え撃つ準備をしながら、手下に銃を投げだし、女の兄が来る、多分殺し合いになる、女をマワしておいて逃げるつもりでは無いだろな、逃げればおれが殺す。…しかし
どっちみちお前達は殺されるかもしれないなと背中をむけながら清弘が言う。
おかまっぽい一人が「冗談じゃない」と言うがはやいかふりむきざま清弘、発砲、射殺。
なにもなかったように準備をつづける清弘。
息をのんでいた残りの二人のうちひとりが渡された銃を拾いざま清弘の背中に発砲。命中、清弘は倒れる。
死んだか、といきなり清弘起きあがり発砲撃った手下をライフルで射殺。
逃げる残ったひとり(寺島進)必死で逃げる。倉庫の出口を開けたところへ、外から撃たれ絶命。我妻である。
我妻がきたことに気づきトランクを引き摺り柱まで行き背中をもたれ、待ち受ける瀕死の清弘。
入り口を大きく開ける我妻、暗い倉庫の中、我妻と清弘を結んで一直線に出口から光が差している。
互いに目をそらさずみつめあう二人
長い間のあと決意したように歩き出す我妻。
清弘、撃つ撃つ撃つ。
我妻、肩や腹に被弾。清弘に向かって歩きながら我妻も撃ちかえす。そしてついに顔面に命中、清弘絶命。
妹がうしろから出てきて清弘の背広から薬を探し回る。切なそうにそれをみている我妻。
発砲。
我妻、きびすを返し出口は力なく歩き出す。そこへどこからか銃声。我妻倒れる。
新開、倉庫のスイッチを入れる、明るくなった倉庫の中で絶命している我妻。「…どいつもこいつもきちがいだ」とつぶやく新開
冒頭の我妻のように橋をもくもくと歩いてくる菊池。
元の仁藤の事務所、菊池に封筒を渡し岩城のかわりは出来るのかという新開に、「僕はばかじゃないですから」と菊池。
男たちをみている女秘書。目をパソコンの画面に戻したところでストップモーション。
タイトルが流れ…
------完-------
いかがでしたでしょうか?
最初に述べたように、深作監督との企画段階で方向性が二転三転したせいもあって、シナリオでは、
警察権力の腐敗、官僚的な署長との確執、妹との情愛、「ダイズ」という特殊な麻薬、
極悪な殺し屋、その殺し屋と妹の恋、同僚の汚職、失態に対する署にたいする無念、署長との対決、
などエピソードが盛り込まれるだけ盛り込まれています。
映画では、シナリオの構成を生かしながらも、スリム化していくつかのエピソードは
なくしています。またセリフを極端に削っています。
たけしさんがよくネタにしていたように、刑事物で組織からはみ出してしまう暴れ者のデカというのは
、ちょっと思いつくだけでも「太陽にほえろ」のジーパンデカとか両さんの「こち亀」、
「ドーベルマン刑事」や松方さんの「あたまデカ」、「海パンデカ」などすでにあまりにもありふれてしまっています。
その中で、新しいなにかを狙おうとした時に野沢さんは「足し算」を、たけしさんは
「引き算」を考えたのでは?。
野沢さんの足し算で一番特徴的なものは、「ダイズ」という特殊な麻薬でしょう。吸入すると蘇生するという
「ターミネーター」を思わせる展開は特筆ものです。
あの映画を見たあとでは、やや違和感があるのですが、ぶれた手持ちカメラの迫力あるアクション映画を念頭に
置いたシナリオづくりをしていた野沢さんのシナリオは、また違う方向性で映画化されれば(例えば、
「男達の挽歌」のジョン・ウー監督とかで)見応えのあるものに
なるかもしれません。
一方たけしさんの引き算は「省略」ということでしょうか。
込み入ったエピソードををたけしさん流に整理し
そしてたんなる省略以上にセリフを極端に削除しなるべく絵自体で語らせるよう工夫がしてあるようです。
実際エピソードが一つ増える度、伏線エピソード同士のからみその決着など、説明しなければならないことが
多くなっていきおいセリフがストーリーのために消費されるような感じがあります。
映画ではエピソードが減った分、描写にアイデアを盛り込む余裕が出来て、ストーリラインも清弘に一本化、収斂されて
いくようになります。
このシナリオを通読して一番ビックリしたのは、ラストと署のロッカー室でのロシアンルーレットの場面です。
映画では全部カットしてありますが、「ソナチネ」のあの印象的な場面を思い出さずにはいられません。
ソナチネでは子分にたいしての悪戯と夢(予知夢?)というより捻った形に変化していますが、野沢さんの
シナリオのアイデアがたけしさんの頭に残っていて新たに生かされたというのはうがちすぎでしょうか?
最後に「監督たけし北野組全記録」のTAKESI/SPEAKのコメントから抜き書きして締めるとしましょう。
『始めの設定では我妻がストリップ行ってたり、へんなとこうろうろしてたり、たるいんだよね、もうね。
1時間35分とか40分の映画でしょ。だから余分なもの入ってこれないはずなんだよね。なのにあんな
単純なストーリーでもね、めいっぱい入っちゃってたんだよね。兄弟愛なんか描いてるひまないんだっての。
ほとんど時間なくなっちゃうからな。
岩城刑事の奥さんに会いにいくのも、別にそんなに必要じゃない。一カ所であとは切っちゃったけど、最初はあれ
三カ所もあったからな。
編集じゃ、前半をもっとカットするつもり。塩田をクルマで轢くシーンも割合パッパパッパやって。病院の
シーンでも、看護婦さんに会うとこから始めて、外へ出て先生に「どうもありがとうございました」って
挨拶して、そのあとの先生との会話を全部とばして、クルマの中でのオレの会話も全部ぬかしてすぐにお祭り。
かざぐるま持ってるオバサンもちょっとしつこいから途中でカットして、ですぐ海。アパート帰ろうってアパート行って、
中のシーン全部カットで、すぐヒモがいるとこいっちゃうって感じでさ。前半は息つくひまもないというように
したいんだ。どんどんいっちゃうように。関係ないっていうのはもうパッパパッパっと切る。後半はね、削るとこ
ほとんどないから。余計なのはね、はずすべきだよ。』
OMAKE --KEEP WALKING--
これを書くので「その男凶暴につき」のビデオを何度も見直しましたが、全然見飽きなかった、ほんとに
よくできてる。そして俳優としてのたけしさんの存在感。
ラストの我妻と清弘の対決シーンは、気というかオーラのようなものがたちのぼって、ブルース・リーを
思わせるような美しさまで感じました。
あと一番感じたのは「歩く」ということ。
たけしさんのネタで「馬鹿な映画評論家が『歩くのがよかった』なんて言ってるけどあれはたまたま時間が
余っちゃったんで間を我妻の歩きでつなげようってんでつけ足しただけなんだよなー」というのがありますが、
やはり、「歩く」というのがこの映画のテーマになっているようです。
我妻はいつでも歩いている。ひとりで歩くのはもちろんですが、岩城や菊池と話しこみながら。妹を連れて、妹の
男を脅しながら。 売人を追いながら、清弘を探して、清弘から逃走するために、清弘に連射しながら、そして清弘を殺してどこかへ歩く。
岩城の歩き方はどことなく我妻と似ている。
我妻の妹も医者も菊池も同僚の刑事も そして清弘も歩く。中学生、子供、逃走する犯人などは走る。
一方、まったく歩く場面のない人物、立ちつくしていたり座り込んでいたりする人物は、
襲われる浮浪者、空き缶を投げられる船頭、署長と署の幹部、岩城の妻、仁藤、新開、
はって逃げる橋爪、寝たきりで怯えている酒井、清弘に撃ち殺される手下等。
単純に善悪、敵味方ときれいに分けることは出来ませんが、なんとなく「歩く」という行動が両者をわけている。
敢えて言えば「歩くのをやめるとろくなことはない」ということでしょうか。
そして、いつでも歩いていた我妻が立ちつくすのは、署長に辞表を請求されたとき、最後に清弘と向かい合ったとき。
それまで一年中吹いていた風が突然止まったような、重い不吉な長い間が訪れるのです。
この「歩く」という表現で映画はストーリーとは別の次元で深みを増しているような気がします。
これはたけしさんの意識的な映画にしかけた技法かも知れません。でも、もしかしたら単に技法的なことでは
なくて、あるいはこの表現はたけしさんの「生き方」からしみ出してきた無意識の表現なのかもしれないと
私は思いました。
そう考えるとシナリオから回想シーンが全くなくなっていることも「瞬間を生きろ」
というたけしさんの言葉を思い出して納得したりするのです。
「歩く」ということ。「自分の足で少しずつ自分自身を前へと進めていくこと」。
たまたま、この文章を書いているときにたけしさんがJONNEYWALKERのCMの仕事をされて、駅の上の大きな看板を
見かけました。
青空をバックにひとり歩くたけしさんをあおり気味に横から写した絵です。
広告コピーは、「KEEP WALKING」(歩き続けろ)。
資料として
シナリオ 1989年9月号 (シナリオ作家協会)
監督たけし 北野組全記録 佐々木桂著(太田出版)
を参考にしました。
-了-
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