:三年間∽私事:
――!? いやぁ……驚いたなぁ、って。
今までそういう風に告白された経験なんてなかったし、自分から告白したこともなかったからね。
で、気付いたらもう二十歳過ぎちゃったもんだから、半ばそういうコトからは足を洗ったつもりでいたしね。
そういうコトに全く興味を無くしてたからね……って言うか、酔ってるでしょ? 思いっきり。
好きだった人?
そりゃ居たけど……。私だっていっぱしの青春時代を送った時期があるんだから。
気になる? んー、恥ずかしいからあんまり言いたくないんだけどなぁ……。
実はね、高校の部活で――
私の居た高校は、そんなに部活が盛んってワケでもなかったのよ。
十ぐらいの体育会系の部活と、それよりすこし少ないぐらいの文科系の部活。
もともと体を動かすのは嫌いじゃなかったし、何かやろうとは思ってたんだけどね、
『強くなりたい』って想いもあったからかな。
他の所でも良かったんだろうけど、どうしてか私が選んだのは柔道だったのよ。
中学校でイジメられてた自分を、少しでも変えたいと思ってたのかもしれないね。
それにしても、どうして柔道だったんだろうね……?
入学式が終わって数日の間、授業後には大抵道場を覗いてたかな。
どんな人が、どれぐらい居るのか少しだけ見てみたかったし、
あんまり辛そうだったら他のところに変えるつもりだったのかもしれないね。
何回か覗いたけども、いつもそこには誰一人として居なかったのよ。
私は不安になって何度も部活紹介の時に配られた紙を見直したっけな。
本当に柔道部なんてあるの? ――って思いながら。
そうしてある日、私は始めて道場に人が居るのを見たの。
本当に普通の黒い髪の毛で、本当に普通の顔立ちで、本当に普通の身長で、本当の本当に普通な人。
白い胴着に黒い帯を締めて、道場の入り口から中をうかがっている私を見て、驚いたような顔をしてたっけ。
そして、最初の一言に、
「見学?」
という本当に普通の台詞を言って私を迎え入れてくれた先輩を見て、私は何となく思ったのよ。
――この人は優しい人だ、って。
そして、事実先輩はとても優しい人だった。
でも、それ以上にちょっと不思議な人だった。
その年の入部希望者は私が一番乗りで、先輩と二人だけでベリーロールの練習とかしてたのよね。
ほら、走り高跳びのアレ。先輩がイキナリ教えてくれないかって言ってきたのよ。可笑しいでしょ。
あの時ばかりは、
「先輩、大丈夫ですか色々?」
って台詞が口から飛び出すかと思ったっけ。
何度か練習をやっているうちに、他の入部希望者もやってきて、
一月後には、私以外に男子二人・女子二人という、体裁としてはまあまあの柔道部が出来上がっていて、
先輩は一人だけの上級生ということで、それなりに頑張って指導してくれてた、かな。
私も一番に入った後輩として、みんなに負けないように、先輩に近づけるように頑張って練習してたなぁ。
一年後に先輩が引退するまでは、私はそれなりに頑張っていればいいだけだったし、
ただその人をぼーっと眺めているだけで幸せだった。妄想は昔から得意分野だったし。
私達が二年生になって、部長の役は私に決まった。理由は簡単。
「一番乗りだったから」
顧問の先生が単純だと、決め事も単純すぎで笑えてくるものよね。
ただ、そのことが特別私にとって重荷になる、ということはなかったかな。
流石に一年生が入ってこなかったのは辛かったけどね。
でも、そんなに気負うほどの部活でもなかったし、何より今まで先輩のやってきたことを見てきたからね。
だからさして緊張も無かったかな。みんなとの仲も本当に良かったし。
その頃からかな……私がそういうコト≠意識し始めたのは。
やっぱり、同じ空間にいたからだろうね。最初は仲が良くなってきて、それから少し考えるようになったんだと思う。
「もしかしたら好きなのかな」
ってコト。
で、妄想が激しい私だから、
「もしかしたら両想いなんじゃないかな」
って、都合のいいように解釈して、内心そうだと思い込んでいたからかな。
結構自分の中でそういう感情が大きくなっていくのが判って、ちょっと怖い気がした。
本当に、止まらない妄想って怖いものよね。
でも、妄想は現実の前には無力なものなのよ……。うん、そういうもの。
二年生の秋か冬の頃。私に女の子の一人が相談しにきた。
私は相談されたりすることが好きだから、彼女の相談に少し胸躍った。
彼女の相談は、もう一人、友達の女の子からの相談だった。
何となく変な予感みたいなものを胸に、私はその子の待っていた階段踊り場で、彼女と話をした。
その子は、先輩のことを好きだった。
告白したいから先輩の電話番号を教えて欲しい、って言われた。
びっくりした。
すごくびっくりした。
頼まれてから答えを出すまでの一瞬間、すっごく悩んだ。
――でも、友達に頼まれたら、断ることはしたくなかった。
それから後、その子が先輩に振られたという話を聞いて――。
部活の中は何も変わらなかった。
何も知らない男子達と、全部知っている女子達と、
何も言わない私一人の部活は、何も変わらなかった。
三年生になって、私達は夏休み前に部活を引退した。
相変わらず後輩は入ってこなかったけれど、ある意味これも清々しいと思うことにしたっけ。
で、受験を控えて十月のことなんだけどね。
お世話になっていた道場の人に突然、頭数が足りないから大会に出てくれ、って言われてね。
特に受験に気合を入れていたわけでもなかったから、二つ返事で引き受けたのよ。
試合前に何度か練習して、勘を取り戻したりもしたっけ。
目の前の大会という目標が妙に新鮮で、心地よかったからかな。
でも……その出来事は今でも残る苦い思い出になっちゃったのよ。
顧問の先生が、自分はそんな話を聞いてないってことで、私の出場を認めなかったの。
そういう時、無駄に権力を持ってる大人って嫌よね。断固として許さなくてね……。
何を思ったか、板の間で延々と正座とかやってたのよ、私。
今まで何をやってたんだろう、今までの私って何なんだろう、って思いながら、涙を堪えながら。
足がほとんど動かなくなるまで座ってたっけな。
その時、あの子が一緒に居たてね。
大丈夫? って聞いてくれてね。
私はただ、その子に泣き顔を見られたくなくて、情けない顔を隠したくて、必死で涙を堪えてた。
で、その大会の後、先輩と二人で居酒屋で飲み会を開いたことがあって――
……あ、その時は二人とも未成年だったけど、そこは気にしちゃダメだからね。
そこでね、あの時のことを訊いたの。去年のこのぐらいの季節のこと。
誰も居ないから、誰にも言わないから、ってことで先輩が喋った内容は、私にとって信じられないものだった。
あの時、先輩に告白していたのはあの子だけじゃなかった。
もう一人の子も、同じ時期に告白してた。
友達を応援する一方で、その子も自分の気持ちを打ち明けてたんだって……。
だから、先輩は付き合わなかった。どちらか一方を選ぶことはしなかった――んだって。
笑っちゃうよね。
全部知ったつもりになっていい気になってさ、実際なにも知らないで一人蚊帳の外でしょ……。
なんだかなぁ、って感じだよね。
自分の気持ちに正直であればよかった、って今少し思ってるかな。
自分がもっと好きでいればよかった、って思ってる。
自分は一番になれなかったんだなぁ、って。
でももうそれも、三年前の話になっちゃうんだよね。
どうしたもんかなぁ……。
とまぁ、こんな感じかな。切なくも淡い想い出ってヤツよ。
え……返事?
やだなぁ、Yesって言うワケが無いじゃない。
やっぱり酔ってるよ、思いっきり。
男が男に告白してどうすんのよ。
あ、トイレ空いたみたいよ。ほら、便器と対面して告白でもしてきなさい。
胸の中のもの全部放り出してさ。
→とっぷへもどる