2003年夏季合宿(9月26日〜9月29日)レジュメ
課題本『ROMMY 越境者の夢』(歌野晶午/講談社)

あらすじ

アンコールの大合唱に応えてROMMYがステージに上がると、スタジアムが揺れた。が、もうそんな情景を見ることはない。録音スタジオの仮眠室で彼女は息絶えていた。犯人はスタッフの中にいるのか!? 時代を失踪して逝った、天才シンガーの隠された真実とは。歌野晶午がミステリー・フロンティアに挑む問題作。
(文庫から引用)


トリックについて

殺人のトリックは「被害者の入れ替え」と「無意識的な共犯」の複合。それに合わせて、「なぜ胴体だけが持ち去られたのか?」というこの小説の最も重要な謎に対する答えとして、ROMMYの性別という叙述トリックも。
1.被害者の入れ替えについて
作中でも十分に説明されているので詳しい解説は避ける。この事実を知らない人物が被害者をROMMYだと信じて殺したのか、それとも真鍋睦子だと知っていて殺したのか、という部分の検証が論理的に不十分だったよう名印象も。
余談として、煙草の匂いは本当にきついです。作中で示されているように、指につきます。さらには、服にもつきます。煙草を吸う人は、気をつけましょう。
2.無意識的な共犯について
これはどういうことかというと、(ROMMYと信じて)真鍋の胴体を持ち去った中村は、それと意識することなく「なぜ胴体を持ち去ったのか?」という謎を創造することになり、それによりただ激情により殺害に至るという粕屋の単純な犯行を複雑にした、ということで。
まず、犯人がROMMYが本物だと信じていた場合を考えると、ROMMYを殺害する動機を持つ+その胴体を持ち去る理由がある、という二つの条件を持つ人物が犯人として確定されるが、東島の推理にあるような「首についた指紋を隠すため」という理由は胴体を持ち去る理由としては希薄である。(そして事実その推理は誤りであるのだが)首についた指紋を隠す→首を持ち去る→首だけを持ち去ると、その切断の理由に警察が気がつく、という部分までの論理展開は間違っていない。しかし、そこでなぜ首から上――つまりは頭部だけを持ち去らなかったのか? という疑問が浮かぶ。首についた痕を隠すためだけならば首から上の頭を隠したほうが作業も楽だし、それを隠す場所も用意に発見できるだろう。そういった利点を無視してまで胴体という非常に大きくて重たいものを切り取ったのはなぜか? というのが問題になるだろう。その解答として中村とROMMYとの間のダリの絵に関する逸話が語られる。ならば、中村がROMMYを殺したのか? ということになる。彼の一人称の文章部分にROMMYを殺害するに至る理由が書かれた部分は見られない。よって、中村がROMMYを殺したというのは断定できない。ここでROMMYを殺す動機を持ち、さらには犯行が可能だった人物を考えると、作中での推理のように人数が絞られていき、被害者の手のひらの傷跡と粕屋の歯という証拠により彼が殺害者だと推測される。
次に、犯人がROMMYが代役――真鍋だと知っていたと仮定しなくてはいけないが、こちらについては作中で全くといって良いほど情報が述べられていないので十分に推理することは不可能だと思われる。
ただし、これらの情報は「読者」が得ることができる情報であり、東島をはじめとする登場人物が知りえたことではないというのに留意しておかなければならないだろう。犯行が起こって推理していた時点では、中村という人物の存在は、その本人とROMMYの他には知る者はいなかったのである。もちろん彼がROMMYの胴体を持ち去る理由を持っていた、ということを知っている人物はいなかった。したがって、胴体を持ち去る理由を推理するのに必要な情報を得てはいないのである。……まぁ、このあたりはゲーデル問題にも突き当たってしまうあたりなので深くは突っ込まずに。

どうでもいいこと

P.19 火を噴いていたころのジーン・シモンズのように〜
アメリカのメタルバンドKISSのベース。火、噴きます。

P.48 コンソールの左方には〜
|残響装置《エコー・マシーン》 多分ラック式のもの。リバーブといったりも。
後方の机にはコンピュータが並び〜
多分Mac。音楽関係はMacが強い。イラスト関係もそうらしいです。

P.281 命の次に大切なフェンダー・ストラトキャスター〜
フェンダーはアメリカの楽器メーカー。普通の人にエレキギターといえば? と聞けば、半分以上の人はこのストラトキャスターを思い浮かべるだろうというくらいにメジャー。シングルコイルのピックアップが三つにトレモロアーム式のブリッジ。ボルト・オンなのでネックの交換が容易。









P.322 Dmaj7という〜
ディー・メジャー・セブンス。
Dmaj7                   
   +-----+--O--+-----+ 1
   +-----+--O--+-----+ 2
   +-----+--O--+-----+ 3
 @ +-----+-----+-----+ 4
 O +-----+-----+-----+ 5
   +-----+--O--+-----+ 6
     1     2     3      
こんなの。


戯言

音楽にも造詣が深い歌野晶午が、その音楽について真正面から向き合った、ある意味絶対に外すことができない小説だと思います。……ミステリとしてはどうなんだ、というのは知らないですけど。ROMMYの姿勢、評論家の言葉、FMの語り、どれが歌野先生に一番近いのかは、それほど明らかではありません。なんとなく、FMが語る「違和感」というものに一番近いんじゃないんだろうかと勝手な想像してますが。とにかく、音楽の商業主義だとかそういうのはミステリで言うところの本格問題以上に根が深いものがあったりなかったり。世の中には、売れているというだけでだめだという人もいるもんだから……。しかし、音楽の平均としての質が落ちてきた、というのも事実であって。一言で言えば、音楽が持つエネルギーというか、そういうものがなくなってきた、というような感じも。音楽が持っていた、人を突き動かす元となるようなエネルギーをほとんど持っていない曲が増えているんじゃないかと。だから、その音楽に関わっている人間にも半端な人間が増えてきて……というか。音楽って、もっとギリギリのものだろうと。殺すか殺されるかくらいの、そのままステージで死んでしまいそうなくらいなものだったんじゃないかと。まぁ、ただの戯言です。けど、音楽だけじゃなくて、小説とかもそういう気が。そこを打破しようとしている人はいるけれども、さてどうなることやら。

ミステリで音楽といえば、なぜかクラシックのほうがメジャーだったり。やはり、古びた館にはピアノの物悲しい音色や、震えるような弦楽器がふさわしいのでしょうか? それでも新本格以降はその状況も変わってきてるようで。いろんなあたりでちょくちょくと見かけます。その中でも歌野先生をはじめとする第一世代の趣味が激しいのは、やはり島荘の影響なんでしょうか? 類は友を呼ぶというかなんと言うか……。
個人的にお勧めしたい音楽ミステリは森雅裕の「いつまでも折にふれて/いつまでも折にふれて2 さらば6弦の天使」(KKベストセラーズ)。ROMMYは歌野先生の趣味全開でしたが、こちらはこちらで森雅裕の趣味丸出し、みたいな感じです。元々私家本だったというから、本当に趣味の世界です。さらに、中に出てくる音楽の密度もさらに濃いです。森雅裕といえばモーツァルトは子守唄を歌わないがコミック化されているそうですが、どうなんでしょうか?

作中では、ROMMYがその奇抜なメイクやファッションなどにより、独自の世界を展開していった、とあります。奇抜なメイクといえば、はじめのほうで触れられていたとおり、KISSが有名です。日本で言えば聖鬼魔Uみたいなものでしょうか。そして、ROMMYというキャラクターを「演じて」いったという観点から見ると、ジギー・スターダストの頃のデヴィッド・ボウイでしょうか。しかし、その両者とROMMYには決定的に違うところが。KISSもボウイもそれぞれメイクや色々な設定という「仮面」を被ることによって強い主張をしていったというか。それに対してROMMYはメイクやパフォーマンスによって本当の自分を隠していったということができるんじゃないでしょうか。だから、メイクを落としてもジーン・シモンズはジーン・シモンズだし、ジギーを殺した後もボウイは歌い続けているし。時代によって多少の変遷はあるにしても。それに比べ、仮面を脱いだあとのアルバム「越境者の夢」はROMMYのモノではなく、杉下裕美のアルバムだ、といわれています。それは、コンセプトを変えたとか、音楽性が変わったとかそういう次元の話じゃなく、全く違うところから生まれてきた音楽だ、ということなんじゃないかと思います。……って、絶対に聴くこともできない音楽について語ってもなんですが。