「・・・はっ?!」
 目が覚めるなり、少女は、がばっ、と勢い良く起き上がった。その拍子に、セーラー服の赤いリボンが彼女の肩から落ちる。いつの間にほどけていたのだろうか。
 見慣れぬ天井。彼女は、見たこともない部屋の、見たこともないベッドに寝かされていた。室内の色調や雰囲気から、なんとなく女性の部屋であることが窺える。
 ふと室内を見回すと、黒い髪の女性が、少女に背を向けた状態で、少し離れたデスクに座っていた。
 「姉貴ー、まだ起きないのー?あの人・・・・・・。」
 部屋の扉が開き、眠そうな声を上げながら室内に入ってきた少年は、彼女と思いきり目が合い、途中で言葉を止めた。明らさまに、嫌そうな顔である。
 「あなたは・・・・・・。」
 少女は、目が合ったまま動けないでいる少年・・・ユイに向けて、ゆっくりと口を開く。
 「私の彼氏ですね。」
 「違います。」
 即座に、ユイは否定した。
 ユイは、思いっきり引いた目で少女を見ながら、デスクの姉に向けて助けを求める。
 「姉貴、どうしよう。やっぱり変な人だよ。」
 「ごめん、あたし精神科は専門外なの。」
 「精神病じゃありませんっ!!正常です!!」
 手足をばたつかせて主張する少女に対し、ユイと和歌は顔を見合わせた。
 「正常なんだって。これで。」
 「自分が病気だってことに気付いてない患者は珍しくないわ。差別のないように接してあげることが重要だと思うの。」
 「ちーがーいーまーすぅー!!!」
 妙に沈痛な面持ちで話し合う二人に、少女はベッドをバンバンと叩いて叫ぶ。
 「うるさいわねー、じゃあそういうことにしといてあげるわよ。」
 少女の叫び声に、和歌は心底鬱陶しそうな顔をしながら、しぶしぶ彼女が病気ではないことを肯定してやる。
 「・・・っていうか、君、誰?」
 ユイは、相変わらず引いた目で少女を見ながら、怪訝な声で問う。
 「お忘れですか?」
 傷付いたかのように、少女が眉根を寄せてユイを見る。
 ユイは、少女の顔をじっと見ながら、記憶の中に同じ顔を探す。
 肩の辺りで切り揃えられた黒髪、どちらかというと小柄でポッチャリ型、特にこれといった特徴のない、美人とは言い難い顔立ち。まあ、強いて言うならば、左目が二重瞼、右目が一重瞼、というのが特徴なのかもしれない。
 「・・・・・・思い出せないんだけど。」
 「また?」
 首を傾げて、困ったような声を上げたユイに、和歌が嘆息して呟く。
 「また・・・って。今度はホントに知らないんだってば。」
 「またそんなこと言うー。サイテー。」
 和歌は目を細め、呆れたような声でそう言いながら、ユイに向けて消しゴムを投げつける。ユイに向けられる彼女の視線を見る限り、どうやらユイは、和歌の頭の中で、『デートした女の子の顔をすぐ忘れる男』とでもされているらしい。
 確かに、何度かそういうことがあったという事実は否定しないが、ユイとて、そういつもいつも若年性健忘症のような状態で生きているわけではない。知らないものは知らないのだ。
 「ホントだって。全然わかんない。どこかで会った?」
 頭目掛けて飛来した消しゴムを片手で受け止め、ユイは一応、弁解しながら質問する。
 「そうですか・・・。私的には、運命的な出会いだったのですが。」
 「具体的に言うと?」
 和歌の問いに、少女は悲しげな表情のまま、
 「先日、地下鉄で向かいの席に。」
 「知らない知らない知らない。それ運命と違う。普通!!」
 疲れた声音で、搾り出すように言ったユイの言葉に、少女は少なからず衝撃を受けた様子だった。
 「目が合ったんですよ?!」
 「知らないよ!!!」
 暴れだしたくなる衝動を抑えつつ、ユイは脱力してその場に座り込んだ。和歌は、少女の話にまるで感心したかのように、軽く頷き、
 「・・・まあ、感じ方は人それぞれよねぇ。」
 「おおむねその通りです。」
 「勝手に話をまとめない!!!」
 ひとしきり叫んで、ユイは深くため息をついた。世の中には、色んな価値観を持つ人間が存在しているが・・・・・・それを見せつけられているかのような気分だった。
 とりあえず気持ちを落ち着け、少女の顔を見る。
 「えーと・・・僕の名前と住所と電話番号は、どうやって?」
 「ああ、それは。」
 少女は、なんだか嬉しそうに、ポン、と胸の前で両手を叩く。
 「尾行してついてきました。そうしたら、そちらの女性がゴミを出しておられましたので、ちょっと開けてみたのです。中には色々な情報源が。」
 「・・・教えてくれてありがとう。今度、シュレッダー買うわ。」
 和歌は、額に片手を当て、暗い声でもごもごと言った。さすがの彼女も引いてしまったらしい。
 「・・・さて、自己紹介が遅れましたが。」
 「もういいから帰ってよ。」
 頭を抱えて訴えるユイの声を無視し、少女はベッドの上に正座し直す。背筋を伸ばし、
 「私の名前は、後光院 撫子(ごこういん なでしこ)と申します。」
 「仰々しい名前・・・。」
 和歌が、どうでもよさそうに呟く。少女は真顔を保ったまま、告げる。
 「私のことは、後光院撫子とでも呼んで下さい。」
 「とでも、って、全然短くなってないんだけど。」
 間髪入れず、ユイが突っ込む。
 「では、キャロルでも結構です。」
 「繋がりないわよ!!」
 二つ目の提案も否定され、少女は、むう、と考え込む。
 「・・・仕方ありませんね・・・仮に撫子、としておきましょう。」
 「仮に、って・・・いや、もうどうでもいいんだけどさ・・・・・・。」
 もはや突っ込む気力もないのか、ユイは投げやりな口調でボソボソと呟く。
 「私の名前はともかく、私はユイさんを愛しているわけです。」
 「わけです、って言われても・・・。」
 「えらく淡白な愛の告白よねぇ。」
 真面目すぎるほど真面目な顔で、じっとユイを見つめる撫子。必死で目を逸らし、うなだれるユイ。そんな二人を眺めながら、和歌はなぜか楽しげに、けらけらと笑って言う。
 しかし、その和歌の言葉に、撫子は首を傾げ、怪訝な声で尋ねる。
 「・・・・・・蛋白質が何か?」
 「淡白よ、淡白!!淡い白!!!誰が栄養素の話をしてんのよ!!」
 「ああ、白身の魚のような感じですね。あれは確かにそのような味わいが。」
 「あー意味わかんない。」
 どこまでもズレた撫子の思考回路の変遷に、和歌の笑いもそう長くは続かなかったらしい。和歌は、こめかみに人差し指を当て、低く呻いたまま沈黙する。撫子は、なるほど、と妙に納得した顔で、何度か頷いている。
 「えーと・・・とりあえず、僕なりに、言おうかな、って思う事があるんだけど・・・。」
 もういい加減帰ってくれないかな、などと胸中で呟きながら、ユイが遠慮がちに発言する。
 「どうぞ。」
 この少女は表情を崩すということがないのだろうか、撫子は真顔のまま、ユイを促す。
 「あー・・・まず、僕のどこが好きで、そんなストーカー行為までするわけ?」
 「顔オンリーです。それ以外は見ていません。」
 「・・・顔、ねぇ・・・。」
 迷わず即答した撫子の言葉に、和歌は弟のユイの顔を、まじまじと眺める。デスクの上に置いた、半分溶けたアイスクリームをスプーンですくいながら、冷たい声で言い放つ。
 「・・・でもコイツ、マジで顔だけの男よ?ホントに最低。間違いないわよ。」
 「・・・歯に衣着せるって言葉、知ってる?」
 もういらない、とアイスクリームを差し出す和歌から、スプーンとカップを受け取りながら、ユイはため息混じりに呟いた。そこまでハッキリ言われるほどの事をした憶えはない。少なくとも、ユイが思い出せる範囲では。
 「贅沢を言えば、もう少し身長が高くて、年下でなければ、なおよかったのですが。」
 「うるさいな。」
 遠慮なく贅沢を言う撫子に、ユイはアイスクリームを口に運びながら、本気でうるさそうに一言返した。ユイは身長が高くはないが、そう言われなければならないほど、低いわけでもない。
 「年下・・・・・・ってか、あんたいくつよ?セーラー着てるってことは、高校生よね?こんな真夜中に出歩いてて、平気なわけ?親とか・・・。」
 年下でなければ、という言葉で思い出し、和歌が素朴な疑問を口にする。いくら放任主義の親であっても、高校生の娘が、二日連続で深夜に家を空ける事を許すだろうか。見た限り撫子は、普段から夜遊びをして、親を諦めさせているタイプには見えない。
 問われて、撫子は改めて自分の着ているセーラー服を見下ろし、ふむ、と腕を組んだ。
 「誤解ですね。このような格好をしている人間が、皆女子高生だと思ってはいけません。私は、れっきとした成人、20歳です。」
 「コスプレかよ!!」
 「人間、見た目で判断してはいけませんよ?」
 「さっき、顔しか見てないって言ったの誰だ?!」
 ユイは、もういい加減に耐えかねて、そばに転がっていたクッションをバンバンと床に叩き付けながら怒鳴り散らした。和歌もまた、自分より年上の人間がセーラー服を着て、平気でそこらをウロついていたという事実には、さすがに面食らった様子である。
 「・・・・・・特殊な場面では着ることもあるけど、さすがにそれで出歩くのはまずくないかしら?補導されちゃったりしたら、恥ずかしいし。」
 和歌は、眉間に皺を寄せ、相変わらず引いた目で撫子を見つめながら、一度聞いただけではもっともらしく聞こえてしまうような事を、さらりと言ってのける。ユイは、撫子に向けていた引いた視線を、ゆっくり和歌の方へと移動させ、ぼそりと問う。
 「特殊な場面では、姉貴も着るんだ・・・。」
 「大丈夫。ブレザーの方が多いから。」
 「・・・あのロリコン野郎。」
 何が大丈夫なのかは理解に苦しむが、別に知りたくもなかった姉の秘密を垣間見たような気がして、ユイは一言だけ返し、そのまま、目を閉じて小さく唸る。姉の彼氏選びについて、もっとうるさく指導すべきだったのだろうか。
 撫子は、先程の和歌の言葉を理解しているのかいないのか、相変わらずの無表情で正座している。ユイは、大きく深呼吸をして気持ちを落ち着け、再び彼女に向き直った。
 「・・・じゃあ、もう一つ訊くけど・・・・・・地下鉄で向かいに座ってたぐらいで、ちょっと飛躍しすぎだなーとか、自分で思わない?」
 「私は、常に恋をしていないと生きていけないタイプですので、飛躍はいつものことです。飛躍というものは、本来決してネガティブな意味ではないはずですし。問題はないでしょう?」
 「もっともらしいけど、もっともではない事ばかり言ってるよね、君。問題だらけだよ。」
 のろのろと疲れた口調で言う。
 ふと、携帯メールの着信音が聞こえた気がして、ユイは横目で和歌の方を見た。彼女は、もうこの空気に飽きたのか、パールピンクの携帯電話を広げてメールを打っていた。
 呑気なものである。
 彼女は、自分が興味を持ったものが対象であれば、ユイを助けてくれることもある。しかし、基本的に彼女は自己中心的な性格であるため、一度飽きてしまえば、もう助けてくれないことが多いのが難点である。
 ふと、ユイが時計を見ると、既に時刻は午前三時を回っていた。
 ユイは、携帯電話をいじる和歌と、まだまだ帰る予感のしない撫子を交互に見ながら、明日の朝・・・ではなく、今日の朝起きる時の苦痛を想像して、頭を抱えてため息をついた。和歌の方に顔を向け、一応、助けを求めてみる。
 「・・・Hey,my head's killing me・・・I wanna hit the sack (ねえ、頭痛いんだけど・・・寝ちゃダメかな。).」
 「I don't give a fuck!(知るかよ)・・・・・・ってか、あたしこそ寝たいっつーの。あたしの部屋でモメてんじゃねーよ。」
 携帯の画面を見つめたまま、和歌は冷たく言い放った。心なしかガラが悪くなっているのは、展開に飽きた上に苛立っているということなのだろうか。
 あまり語学が得意でないのか、撫子は不思議そうな表情で二人の会話を聞いている。相変わらず、背筋は伸ばしたままで。
 「汚いなぁ・・・女の子がfuckなんて使うもんじゃないって何回も言ってるのにさ。」
 「だったら日本語で話せって何回も言ってるでしょうが。日に何回も気ィ抜いてんじゃないわよ。」
 そう言いながら、和歌はユイの顔を見ることもせずに椅子から立ち上がり、リビングへ通じるドアの方へと移動する。鼻先を横切るオレンジ色のスカートの裾を目で追い、ユイは和歌に声を掛ける。
 「どこ行く気?」
 ユイは、そのスカートの端を掴み、引き止めるように引っ張る。和歌は、難なくユイの手を払い除け、ユイに顔を近づけて、意味ありげににっこりと笑った。
 「代用品を取りに行くの。」
 「代用品・・・・・・?」
 「そ。そろそろ届くから〜。」
 眉をひそめるユイに一言そう告げて、和歌は何やら鼻歌など歌いながら、楽しそうにリビングへと消えていった。
 「何だ、あれ・・・?」
 「ところで、あの女性はお義姉さまでいらっしゃいますか?」
 不意に響いた撫子の声に、ユイは彼女と二人きりで取り残されてしまったことに気が付いた。非常に危険な状況である。
 『お義姉さま』という言葉の中に、『ユイの義姉』ではない何か別のニュアンスを感じたような気がしたものの、ユイは半ば無理矢理にそれを無視する。
 「・・・そうだよ。」
 「それを聞いて安心いたしました。苗字が違うようでしたので、もしや同棲カップルではと不安に思っておりましたが、杞憂に終わったようですね。」
 杞憂、という言葉の漢字と意味が思い浮かばず、ユイは少し沈黙した。実を言うと、ユイは、あまり漢字や故事成語に強くない。つい先日も、何かの文章を端末に入力していた折、『月極(つきぎめ)』という言葉の読みを『げっきょく』と思い込んでいた為、漢字変換ができずにイライラしてしまったばかりである。ちなみに、それを和歌に訊くのも癪なので、『月』と『極』に分けて変換して済ませたため、未だに『月極』の読みは不明のままである。
 それはともかく、面倒なので、ユイは『杞憂』についてもあえて訊かないことにした。
 「・・・あんまり安心されても、こっちが安心できないんだけどね・・・。もし、あれが彼女だって言ったら、どうする気だった?」
 「それはもちろん、」
 ユイは、あれ、とリビングの方を指差しながら、撫子に尋ねた。撫子は珍しく表情を崩して、にっこりと微笑む。
 「消えていただきます。」
 「怖。」
 現実的に考えれば、和歌がそう簡単に撫子に消されるはずもないのだが、撫子の浮かべる不気味な笑みを見ていると、なんだかそういうことも可能なんじゃないかな、などという気になってしまうから不思議である。
 「それはそれといたしまして、」
 「あーすっごい嫌な予感がするんだけど。」
 少々肥満気味かと思われる、足の短い犬をデザインしたクッションを抱え、ユイは思わず身構えて撫子を見る。撫子は、ユイのそんな態度を気にも留めない様子で、ベッドの上にすっくと立ち上がる。
 彼女は、そのままベッドを降り、ユイが座っている位置のすぐ前で停止し、再び正座の形に座り直した。
 真っ直ぐにユイの瞳を見据え・・・・・・実際には、ユイが目を逸らしているため、目は合っていないのだが・・・・・・無表情で、告げる。
 「私と、お付き合いいただけませんでしょうか。」
 「あんた、ちょっとは空気読む努力しろよ!」
 思わずユイが叫ぶと、撫子は心底驚いたかのような顔で、眉をひそめる。
 「失礼ですね。私は、きちんと今までの話の流れから判断して、勝算があると・・・。」
 「どう聞いたらそう聞こえるんだ!」
 ずい、と正座のままにじり寄ってくる撫子から逃げるように、ユイもじりじりと後退する。撫子は、その後退するユイを追いかけて、さらににじり寄る。
 「では、私ではご不満でしょうか?!」
 「いや、今更そんなに声荒げて言われても。」
 後退するユイの肩が背後のクローゼットに達し、小さな衝突音を立てる。それ以上後退することができないユイに対し、撫子は容赦なく迫ってくる。
 「私のどこがいけないのですか?」
 ほとんどユイに覆い被さるような格好で、撫子は困り果てたような表情を浮かべて言った。ユイは、目の前に迫った黒い双眸を眺めながら、彼女の『いけないところ』を頭の中で箇条書きにする。あまりに長すぎるそれを整理し、ユイが発した言葉は、たった一言。
 「怖い。」
 「3文字で済ませないでくださいっ!」
 クローゼットの扉に両手をつき、撫子はユイを追い詰める。彼女が勢い込んで喋るため、彼女の唾がユイの顔目掛け、降るように飛来するのがたまらなく不快である。
 「僕なりに頑張ったんだよ!本当は1983文字だ!!」
 「文字カウントしないでください!!」
 どうしてほしいんだ、と胸中で叫びながら、ユイは犬のクッションを顔の前に掲げ、突き刺すような撫子の視線と唾から身を守る。
 撫子は、むー、と唸って、両手をクローゼットから離し、ユイの持つクッションを奪い取った。
 「わかりました。お付き合いいただけない、ということですね?」
 撫子は、そこで初めて、心なしか悲しげな表情を見せた・・・・・・ような気がした。
 ユイは、クッションを失った両手を所在無く彷徨わせながら、少しだけ首を傾げる。
 もともと、ユイは来るものは拒まない方である・・・・・・否、『来た』ものは拒まないが、『来る(途中の)もの』は気にも留めない主義である。・・・・・・この辺りのことを細かく言い出すと、ついこの間までクラスメイトだった一つ下の女の子はどうなんだ、等々、色々とややこしい話になるのだが。
 ともかく、ユイは基本的にそういう主義なので、例え相手がどういう人間であろうと、ハッキリと断る、ということはあまりしない。
 撫子は、間違いなく『来た』ものである。というか、むしろ来過ぎである。
 撫子の、和歌よりも深い漆黒の瞳を見上げながら、ユイは困ったように眉根を寄せ、口を開いた。思ったまま、口に出す。
 「うん、無理!!」
 「困ってるように見えるのは顔だけなんですかっ!!」
 生まれて初めて主義に反したユイの言動が、撫子にとってはどうやら不満だったらしい。ぼすぼすとクッションを叩き付けられながら、ユイも負けじと反論する。
 「だってあんた怖いんだよ!!ハッキリ言うけど友達も無理!!」
 「ハッキリ言いすぎですっ!!なぜなんですか?!」
 「なぜなんですかはこっちのセリフだっ!!なんでわかんないかな?!」
 叩き付けられるクッションを両腕でガードしながら、ユイは半ばムキになって言い返す。ユイにとっては、近年稀にみる頑張りである。あの姉でさえ、ユイをここまで必死にさせたことはなかったかもしれない。
 「ともかく、私は・・・、」
      ピーンポーン
 撫子が何か言いかけた時、突然、早朝の水無瀬家にドアチャイムの音が鳴り響いた。
 「え?・・・誰?」
 早朝3時45分。こんな時間にインターホンを鳴らしそうな人間は、目の前の撫子くらいしか思いつかない。撫子もまた、怪訝な顔で動きを止めた。動きを止めた、ということは、夜中のドアチャイムが非常識だとわかっているということなのだろうか。
 ともあれ、これはチャンスである。
 「ちょっと出てくる!」
 「あっ!」
 動きの止まった撫子の体を素早く押し退け、ユイは立ち上がって部屋のドアを開く。背後で声を上げる撫子を置き去りに、ユイは玄関へ向かった。

 

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