□プロローグ□〜アリオス&アンジェ〜



【コツン…コツン…】
「!?」
湯上りなのかパジャマは着てるものの、まだ濡れている髪をとかしていたアンジェは慌てて鏡台の椅子から降りて部屋を見渡した。
「気…のせいかな…?そ…だよね?こんな時間に…」

【ゴツン!!】
「きゃあッ!」

今にも割れそうな勢いで大きな音が窓ガラスに響いた。
アンジェは少しおびえるが、おそるおそる窓に近づき、ゆっくりと窓を開けた。
「アリオス!?きゃ!待って待ってやめてっ!」
アンジェは慌てて顔を手でかばう。窓の外には大きな石を今にも投げようとしていたアリオスの姿があった。
「よっ!やっと出てきやがったか。」
アリオスはクッと喉を鳴らして笑い片手に持っていたビニール袋をアンジェに見せた。
「なに…?」
アンジェはビニール袋の中身を見つめるが中身までは見えず首をかしげた。
「花火だ。やんねぇなら捨てるぜ?」
アリオスは得意の意地悪な笑みを浮かべアンジェを見つめた。
「はっ、花火!?やるやる〜!」
「じゃ、後一分だけ待っててやるから、早く降りて来いよ?」
「い、一分!?そんな事無理に決まってるじゃない…だって私パジャマ…」
「ほら、急げよ。残り40秒だぜ?…クッ、何だったら俺が手伝ってやっても良いんだぜ?」
アンジェはアリオスの言葉に一瞬硬直するがすぐに頬をふくらまし反論した。
「んもう!アリオスの意地悪っ!見せられる訳ないじゃない!」
顔を赤くし、反論するアンジェにアリオスはまた喉をクッと鳴らし笑う。
「分かった分かった。別に俺もお前の裸に興味ねぇしな。」
「う…うそつきっ、…この間だって…」
アリオスの一言に思わずアンジェの瞳は涙で潤む。
「ククッ…この間だって?何だよ。」
アリオスはまだ笑みを浮かべたままアンジェを構っている。
「んもう!!アリオスなんて大ッ嫌い!」
「バーカ、冗談だ。ほら、さっさと来ねぇとホントに捨てちまうぞ?」
「!やだっ、今すぐ行くから待っててよ?」
アンジェは慌てて窓から顔を引っ込めた。
「…ったく、いつまで俺を待たせんだ?…ククッ…ガキ」
閉まった窓を少し見つめ言葉とは裏腹に笑顔がこぼれる。
この間だって…か。
アリオスは少し照れくさそうに数日前の出来事を思い出す。
俺だって男なんだぜ?
気にならねぇ訳ねーだろ?
…クッ…俺もガキって事か。
「アッリオス♪おまたせっ!待っててくれたんだ…ありがとう。」
「帰ったら何言われるかわからねぇしな。」
「んもう!」
アンジェは白いノースリーブのワンピースをふわふわさせながら、まだ乾いていない髪をかき上げ冗談っぽく頬をふくらます。
「……」
「ん?どうしたのアリオス?何か…変?」
アリオスがアンジェを見つめ沈黙しているので不安げに自分の格好を見直す。
「ああ、変だ。」
「ええ?どこどこ?」
「俺が…な。」
アリオスは不安げなアンジェに小さくつぶやくと後ろを向き右手を差し出した。
「何…?」
「つないでやるって言ってるんだよ。そんな格好で外歩いて他の男に目で犯されんのはシャクだからな。」
振り返りもせず言うとアンジェは意味が分かったように嬉しそうにアリオスの右手に飛びついた。
「あ、ありがとうっ」
「クッ…たまには…な。次は無いから期待すんなよ?」
「またそう言う事言う…。」
アンジェは少し残念そうにアリオスを見るが、アリオスの顔が少し照れくさそうなのを見つけ「くすくす」と笑顔を見せた。
「何だよ。」
「ううん、何でもない。ねっ、どこで花火するの?」
「どこでも良いぜ?あんま人の居ないトコが良いけどな。」
「そうだね、人の多いトコ苦手だもんね。…あ、約束の地に行こ?あそこだったら広いし…アリオスも好きでしょ?」
「…クッ…そうだな。」
アリオスは意味心な笑顔を見せアンジェとともに約束の地へと向かった。

俺も好き…か。
まぁ、確かに居心地は悪くねぇけどな…。
お前と再会できだ場所だからな。

「変わってないねぇ…」
約束の地につくとあたりを見渡し懐かしそうに言った。
「そうだな、少しの間来てなかったな。」
「本当だね…っ!ここは私の…ううん、二人の思い出の場所だからねっ?」
アリオスに嬉しそうに微笑みかける。
穏やかな風があたりの草木を揺らし二人を包み込む。
アンジェの乾きかけた髪も温かな風に宙を舞う。

「………!」
「!?」
その瞬間アリオスの腕はアンジェの体を痛いほど抱き締めていた。
「ア…リオス?」
突然の出来事にアンジェの鼓動ははちきれる位鳴り響く。
「わ、悪い。……自分でも分かんねぇうちにお前の事…」

何やってんだ俺は…
分かんねぇうちに…?いや、お前が…消えちまいそうに見えた…俺の前から忽然と…
「な…泣いてる…の?」
「!!」
アンジェの言葉にアリオスは慌てて自分の頬に流れる涙を拭う。
「…責任取れよ?」
「せ…責任?」
アンジェが困惑した表情を浮かべていると、アリオスはアンジェの体ごと地面に倒れこんだ。
「きゃあっ!!」
アンジェの叫びも表情も無視し、両手首を乱暴に押さえ込んだ。
「俺の…泣き顔を見た責任だよ。」
「ア、アリオス…冗談はやめてっ、こんな所でっ!」
アリオスの表情はとても冗談を言っているような顔ではなかったが、アンジェにはそう言うしかない。
アリオスはアンジェの必死の抵抗さえも無視し首筋から胸元に顔を下ろす。
「あ…駄目だってば…」
アンジェは顔から火が出る位に顔を赤くし抵抗する。
「……」
だがアリオスは胸元から動かない。
「アリオス…?」
アンジェも不思議に思い名前を呼んでみる。
「違うんだ…少し、このまま居させてくれ。」
アリオスはそう言うとアンジェの胸元から聞こえる鼓動に耳を澄ませた。
アリオスのいつもと違う悲しげな声にアンジェも抵抗をやめ静かにアリオスを見つめた。
「何かよ…お前が消えて…風に持って行かれる様な気が…あ、何言ってんだ…俺は。」
押さえつけていたアンジェの両手首を開放すると、自分の頭をクシャクシャっとかき上げた。
「…消えないよ?消えない…絶対。私はアリオスの傍にずっと…居るよ?」
アンジェはやっと自由がきく様になった手を自分の胸元にあるアリオスの頭に乗せ優しく撫でる。
「…ククッ…お前が天使様って呼ばれんのも分かる気がするな…けどな、俺をここまで思いつめさせるんだ…
お前はみんなの天使様じゃねぇからな。俺だけの…天使だからな?」
アリオスの言葉にアンジェは優しく微笑み小さく頷いた。
「……それにしても…お前の心臓すごい音だな…」
「なっ、アリオ…んっ」
「クッ…えらく気の強い天使様だな?そんな口きけねぇようにしちまっても良いんだぜ?」
さっきまでとは違い、いつものように挑戦的な笑みを浮かべアンジェの顔を覗き込む。
「まっ、また冗談でしょ?何度も同じ手に引っかからないもん。」
「言ってろよ?」
アリオスはそう言い放つとアンジェの耳元に唇を当て息を「ふぅっ」と吹きかけた。
「あ…んっ…」
アンジェは体をビクッと震わせ瞳を潤ませる。
「ククッ…ガキ。」
一瞬にしてまたアンジェの顔は林檎の様に赤くなる。アリオスはいつもの様に喉を鳴らして笑顔を浮かべ、
アンジェの体の上から体をどかし草を払いながら立ち上がる。
「起きろ、続きは後でな。」
「あ〜!んもう!また私を構ったのね?」
アンジェはまだ赤味の引かない顔で慌てて立ち上がりアリオスの背中を【バシッ】と思いっきりひっぱたいた。
「やったな…?俺は別にここでお前を犯ることも出来るんだぜ?」
「……いぢわるっ」
「クッ…俺への褒め言葉か?」
アリオスは何だか普段よりも楽しそうに微笑むとアンジェに手を差し伸べた。
「ほらよ。花火するんだろ?向こうの木のとこじゃねぇと風があるからな。」
アンジェは差し伸べられた手を慌てて捕まえた。
「…………離れんなよ?」
「アリオスが嫌だって言っても離さない。」
「クッ…そりゃ随分と迷惑な話だな。」
「うふふっ」
穏やかな風の舞う中、二人の小さな笑い声が風に舞う。
まるで二人を祝福するように…
二人のエピローグではなく…
プロローグ


〜fin〜



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