| 「てなわけで、レムオンちょっと付き合って」 「カイア・・・突き合うというのならもっと広い場所を選べ。ここは執務室だ」 カイアテートの愛剣セジェク=フェドが喉元に突きつけられているのを理解しながら、あくまで冷静にレムオンは言った。その指はするすると書類を整理している。 「それは本気?冗談?ツキアウってそういう意味じゃ・・・」 「無いのなら剣を納めろ・・・・・・書類整理は全て終わった。脅さずとも、望むならお前に一日付き合おうではないか」 既に夕暮れは間近の時間だったが。 黒く青く色の変わる瞳を動かしてレムオンはカイアテートを見た。 剣を納めたカイアテートは、軽やかな足取りで執務室のドアまで向かう。ちょいちょいとレムオンを招いた。 何故かそんな気分になったレムオンは自分でも不思議に思いながら、カイアテートの横に付いた。場所が執務室であった事もあるだろうと、無理矢理自分を納得させながら。 カイアテートは何気に有頂天であった。この義兄が、文句も言わず呪文も使わさずさくさく言う事を聞いてくれることは珍しい、というより一年に一度あるかないかの僥倖だ。 それを幸いに有無を言わせる暇も無く、エア直伝のテレポートで、気に目的の場所へと移動した。 「・・・・・・カイア、せめて行き先と移動手段ぐらいは前もって報告してくれ。いきなりでは、俺も驚く」 「その顔が見たかったから。嘘、ゴメン」 レムオンの両手が柄にかかったのに、慌ててカイアテートは謝った。機嫌を損ねて帰られても困る、それでは折角連れて来た意味がない。 「全く・・・それで、ここは?」 「夢幻の湖だよ。来た事なかったの?」 広い、澄んだ湖を背にカイアテートは告げた。 ノーブルで暮らしていた頃、両親やチャカとよく来た場所だ。胸に突き刺さる懐かしさよりも、レムオンとこの場所に来れたことが嬉しく、カイアテートの笑顔が輝く。 レムオンには当然だが義妹の意図がわからない。分からないものの、その笑顔には胸が温まる。しかし表情は動かない。 いつもいつも自分を振り回して少しも思い通りにならない義妹は、何を考えて自分をここに連れてきたのだろう。先程までとはうって変わってしおらしくなっているが、ここで気を許せばいきなりシャドウノックが飛んでくるのか?それともソニックブロウが・・・・・・いや、よそう。 考えすぎるのも馬鹿らしい、そう思わせるほど風景は優しく。日々の雑務や謀略合戦に擦り切れそうな神経を癒していく。 風が湖に波紋を呼んだ。静寂がいっそう濃く、ただ二人の声が日常を語る。 静かに日は暮れる。赤く染まった夕日が、空を幾重にも染め上げる。 やがて藍色の布を引いてアスラータは地平線へとその姿を隠した。 「アスラータがその身を隠したか。いつまでここにいる気だ?」 「魔物なら、昼間一掃したから大丈夫だよ」 だから昼間留守にしていたのか。レムオンの額を冷や汗が流れる。 「いや、そういうことではなく・・・・・・」 “竜殺し”の通り名はあるがまがりなりにも年頃の娘と、健全な男性が二人っきり、しかも人里離れているので大声をだそうとも誰も気付かないだろう。 そう考え出すと、レムオンは耐えられなくなった。 「か、帰るぞ。嫁入り前の娘が男性と二人っきりでなど・・・」 「何オヤジなこと言ってるの。大体今日は一日付き合うって言ったでしょ」 「駄目だ」 「・・・・・・リューガ家の御当主様ともあろう方が、約束の一つも守れないのですか。それとも一介の小娘相手では約束を守る価値もないと仰りたいのですか?」 声が非常に低い。慇懃な言葉は機嫌が加速して悪くなってきている証拠だ。悲しい学習にレムオンが怯む。 が、なんと言われようと有象無象の輩に、あらぬ噂で彼女の名誉を傷つけさせるわけにもいかない。 「テレポートでロストールまで送れ。それが嫌なら歩いて帰るぞ」 内心の動揺を押さえ、どこまでも冷淡に背中を向ける。 いつものパターンにはまっている事に気付けない辺りがこの二人の関係が進まない理由の一環である事は間違いない。 「・・・・・・デュアル!荘厳なる猛き炎、清廉なる優しき水、厳粛なる気高き地、崇高なる清き風、我は全ての精霊の力の元に、激しき烈光を希わん!!更なる力を示せ!」 しまった、とレムオンが思った時はもう手遅れだった。容赦の無い四種精霊複合下位呪文、通称スパークが彼を襲う。 激しい爆発にレムオンはこれまたいつものようにずたぼろになった。スペルブロックのスキルが無い事をこれほど後悔する話も無い。 「次はデュアルアドヴェントですけれど、ど・う・し・ま・す?」 わざわざ一言一言区切って発音しているのは脅し以外の何物でもない。やっぱり実力行使かあと思いながら、レムオンの頷きを期待するカイアテート。 だが、倒れ伏したレムオンは一向に起き上がる気配が無い。不審に思って人差し指でつついてみる。 「・・・・・・レムオン?あれ・・・・・・気絶してる」 容赦ない、というより感情のままにスパークを放ったせいで、加減ができなかったようだ。慌てずイクスキュアの呪文を唱えるが、やはり起きる様子はなく。 「これってもしかしなくても・・・・・・寝てる?」 昼は雑務に追い回され、夜は刺客の脅威に眠りの浅い彼は、熟睡するということがまず無い。カイアテートの二撃は精神的疲労が頂点に達していた彼に、優しくは無いもののパーシィの加護を呼び寄せたようだ。 「ま、いいか。時間はまだだから」 きひ、と悪戯っぽく笑うとレムオンの身体を起こす。 静かな夢幻の湖に、膝枕で眠る麗しき寝顔の君が優しい瞳に見守られながら、一枚の絵のように存在していた。 「起きないとデュアルアドヴェント」 ぱち、とレムオンは目を開けた。発条仕掛けの人形の勢いで跳ね起きる。 今何かとてつもなく不吉な事を聞いたような・・・・・・。 「な、何か言ったか?」 「寝ぼけてるの?それよりレムオン、空を見て」 膝を払い、立ち上がりながらカイアテートは言った。その瞳は既に暗やんだ夜空を映している。 言われてレムオンは空を見上げ、息を飲んだ。 「綺麗でしょ。これを今日見せたかったの」 「これは・・・・・・見事だな」 まるで世界にたった二人しかいないと錯覚させる程、その光景は幻想的で。 風にさやぐ緑の海原が細波を歌う。 夜のヴェールに覆われた世界では降頻るほどの星が空を覆い尽くしていた。ひらりひらりと流れる星が、儚く輝き夜空を彩る。そして大地にも。 空を映した自然の鏡が、手を伸ばせば届く場所で星を幾千も散らしている。 湖に近付いたカイアテートが、星を一つ掬い上げた。 「星だって手に入れることが出来るんだよ。レムオン」 出来ないことなんか何も無い、と暗に秘めて、カイアテートは言った。 流石のレムオンも言葉を失う。風景に酔ったのか、ぱさりと地面に腰を下ろした。その横で、カイアテートは星空を見上げながら立ち尽くしている。 「エスト兄さんから聞いたんだけど、今日は東方では特別な日なんだって」 「特別な日だと?」 「天によって引き離された恋人が、一年に一度だけ会える日・・・だから、その二人が願いを叶えてくれる特別な日」 嬉気に目を細め、エストから聞いたという話を語るカイアテートは何時もに増して美しくレムオンには映った。 白い肌が淡く星光を纏って、その金の髪は逆に星光を跳ね返し、美の女神リアルーンもかくやといわんばかりの輝きを放っていた。だが、カイアはリアルーンなどではないな・・・心の無いカイアなど、ぞっとするだけだ。 カイアテートの話を聞いていたレムオンは少し興味を持った。 その特別な日に、ここへ連れて来たと言う事は。 「お前でも願う事があるのか?」 レムオンの言葉に何時もならデュアルな精霊禁呪を放つカイアテートが今日は違った。淡く微笑みながら、碧の瞳を煌かせる。 そこにこそ、願いを掛ける星があるように。 「幸せになりますように・・・」 誰よりも、何よりも、貴方が。貴方を傷つける全てのものから、守ってあげたい。だから、強くなって・・・私になんか傷つけられないように。 不意にカイアテートの感情が昂ぶった。すい、と顔を寄せる。 珊瑚色の唇がふわりとレムオンの額に触れた。 「無限のソウルからの祝福だよっ!」 驚きにただ呆然となるレムオンに、桜色に頬染めたカイアテートが照れ隠しのように言い放つ。 こ、これはもしや何かの罠なのかっ!? 一瞬思考が暴走したレムオンだが、徐々に落ち着きを取り戻すと、何故か素直に好意を認められた。 常ならば氷塊のままに冷たい瞳が、氷の解けた春のように優美に微笑んだ。 「ならば、月を抱く俺から祝福を与えようか」 高鳴る胸はどちらのものか、欲しているのはどちらなのか。 ゆっくりとレムオンは近付き、カイアテートは動かない。 緑の海にそっと横たわった、淡い二つのシルエットが一瞬一つに重なって。 「〜〜〜〜し、神聖なる幾重もの輝きよ、真白き薄影よ、玲瓏なる響きの煌きのもと、我が敵を滅ぼし尽くせ・・・・・・」 それはきっと、星の輝きが起こした小さな奇跡・・・・・・。 〜Fin〜 |
後書き・・・やっぱりこんなオチ(爆)<桃雪みゅのんの小説>
冷月様につられて七夕編です。
とっても短い(笑)かつ、やっぱりカイアはカイアってことでお許しください。
この後この二人がどうなったかと言うと、勿論くっつきません(爆)
でも、レムオンは嫌われてはいないとわかってちょっと安心。
カイアはまさかレムオンがそんなこと出来る(笑)とは思ってなかったので
どきどきな感じです。
距離は縮んだかなというところです。
カイアはレムオンの言う事なんかちっとも聞きませんけどね。
これから先もずっと。好きと、それとこれとは別な人。
冷月様につられてといえば、
ちょっと社交界でびう編も書いてみたいなあ・・・・・・
王宮ぶっ飛ばしそうで怖いけど(笑)
でわでわ。ここまでお付き合いくださり有難う御座いました♪
鵲の橋を渡る恋が幸せな結末であるように