the TV series layer:09 story


「もし、苦しみから逃れたいんだったら、神様を信じる事ね。貴方が信じようと信じまいと、神様はすぐ貴方の側にいるのよ…。」
1947年7月4日、アメリカ・ニューメキシコ州の砂漠に奇妙な航空機が墜落した。それが何であったかは、未だに証明される事の無いまま、憶測が事実となり、噂が歴史となっていった。

1984年、TVのプロデューサーであった、ジェイムス・シャンデラの自宅に、匿名の人物から茶封筒に入った未現像のフィルムが届けられた。そこに写されていたのが、いわゆる【MJ-12文書】と呼ばれる物である。
ロズウェル事件当時のCIA長官、ロスコー・ヒレンケッターを筆頭とする12人のメンバーが、大統領直属の機関として、地球外生命体と密約を結んでいたと言うのが、その内容であった。この文書に書かれていた、トゥルーマン大統領の署名は、他の文書からそっくりコピーされた物と認められている。
【MJ-12】メンバーの一人として指名されていたのが、MIT工学部長であった、ヴァニヴァー・ブッシュである。

ヴァニヴァー・ブッシュが1945年に発表した【MEMEX】記憶の拡大構想は、半透明のスクリーンにマイクロフィルム化された情報を映し出すシステムだった。彼が構想したのは情報の圧縮と迅速なアクセス。コンピューターが登場する以前にブッシュは、原爆実験マンハッタン・プロジェクトの指揮をすると同時に、現在のマルチメディアの基礎を生み出していたのだ。

インディオの麻薬物質とアイソレーションタンクによる感覚遮断実験によって、人間の無意識を探ろうとしたジョン・C・リリーは自らの実験中、宇宙的存在者とコミュニケーション・ネットワークを介して接続していると考えた。彼を導く存在を、リリーはECCO【地球暗号制御局】と呼んだ。
後にリリーは、イルカとのコミュニケーションの研究に転身する。イルカは長音波により、水中のかなり広範囲なネットワーキングを可能としている生物である。

ヴァニヴァー・ブッシュ、そしてジョン・C・リリーと言う二人の異端の先駆者に学んだシオドア・ネルソンは、軌道上に静止衛星の巨大な電子図書館を打ち上げ、電波と電子回線によって地球上のどこからでも、どんな端末でも利用出来るデータベースを作る構想、【ザナドゥ】を発表する。一切の文字文化が永遠に無くなる事がないと言われる蒙古の理想郷──、それが【ザナドゥ】である。
それをこの世界に具現し得る思想こそ【ハイパーテキスト】であり、テッド・ネルソンはその考案者として歴史に名を残すだろう。

地球には、地球自らが持つ固有の電磁波が存在する。電離層と地表との間で、ELF帯に8ヘルツの周波数で常に共鳴が起こっている。これを【シューマン共鳴】と呼ぶ。
この地球が常に放っている、いわば地球の脳波は、人類にどれだけの影響を及ぼしているのか、未だに判っていない。
地球の人口は、やがて脳内のニューロンと同じ数に達する。ダグラス・シュラコフは、地球上の人間同士がネットワークで相互接続する事により、地球自身の意識をも覚醒させ得ると主張している。確かにネットワークはニューロテックに進化を遂げており、人の脳内のシナプスに繋がれたそれと同じく、地球そのものがニューラルネットワークと化したと言える。

橘総研の主任研究員だった英利政美は、地球を覆うニューラルネットワーク仮説を更に進化させ、地球上の人間は凡して、デヴァイスすらも必要なく、ワイヤレス・ネットワーク上に無意識かに配置されると言う仮説を発表した。
更に彼は、第七世代目のワイヤード・プロトコルに、シューマン共鳴ファクターを独断により暗号化して書き加えていた。
事態を知った橘総研は、英利を解雇。その一週間後、英利政美は山手線路上で轢死体として発見された。

玲音は、NAVIに埋め尽くされた部屋に居た。真っ暗な部屋を、NAVIのモニターが照らし、NAVIの稼働音が響く。
ピチャ…ギィィ。
床一面に敷き詰められたNAVIの冷却水が跳ね、部屋の扉がわずかに開く。
「誰…?」玲音は問いかける。
扉の開いた隙間からは、赤と緑の縞模様のセーターを着た、背丈1m程の男が除いていた。その瞳は全て真っ黒で異様に大きく、まるで地球の者では無い様であった。
玲音が驚くと、その者は僅かに笑い、姿を消した。玲音は、くまパジャマのフードを被り蹲った。

lain TV09-01 コネクトワイヤード…。
レインは、ワイヤードに居た。そこには、だけの顔、だけの頭、だけの女が居た。
「あった事を無かった事にしてしまうなんて、どうやったら出来るのよ。」レインは叫んだ。
「…君が、レインか。そうかそうか。」は、レインを見つめる。
「私は、あんたの事なんて知らない。…なのに、あんたは私の事を知っている。」レインが睨み返す。
「情報と言うのは常に双方向に流れるとは限らない。君は、このワイヤードが生まれた時から、ずっとここに居る。ここでは君は自由な存在だ。」
「だから、それは私なんかじゃ無いだって!」レインは、激しく反論する。
「そうだな…。では我々は、いつからここに居る?この世界が出来た最初の時から居た訳ではあるまい?」が問いかける。
「そんな事は関係無い!存在自体が記憶されていれば、それは既に記録なのだ!」が言い返す。
「それって乱暴じゃないかな?このレインと言う子が一体幾つに見えるのよ。まだ子供じゃない!」が言う。
「…私の事よりも、今は…」レインが割り込もうとすると、が姿を消す。苦虫を噛み潰すレイン…。

lain TV09-02 玲音は、サイベリアに居た。ブースの中からJJに、口笛で呼び止められる。
「忘れ物だよ。昨日、あそこのフロアに忘れていっただろ?要らねぇんだったら捨てるけど?」JJは、茶封筒を玲音に差し出す。
「私が忘れていった物なの…?」玲音は、不可思議に思い茶封筒を受け取ら無い。
「そうだって言ってるじゃん…。」JJの言葉に頷き、茶封筒を受け取る。

玲音は、ホールの片隅で茶封筒を開封する。茶封筒の中には小さなチップが入っていた。
チップには、幾つかのと石と「ナイツの紋章」が…。

玲音は奥のテーブルへ向かう。そこには、いつもと変わらずタロウ達の姿があった。
マサユキに小突かれ、玲音に気付くタロウ。
「前に、約束したよね…。」
「…なんだっけ?」タロウは疑問の表情を浮かべる。
「デートするって…。」
「なっ、何言ってるのよ!」ミューミューが眉を顰める。
「…したっけ?約束?」タロウが素っ気なく言うと、玲音はうなずく。
「だとしても、俺がデートしたかったのは、今のあんたじゃないんだよ、玲音!」
全くその気の無いタロウに対して、玲音は鋭い視線で見つめながら言う。
「一緒なの、私は私。一人しか居ない!」
タロウ達は、見えない何かを感じた。

玲音はタロウと共に、家に帰る。タロウは、玲音の膨大なNAVIを見て、はしゃいでいる。
「すげーっ!よくこんな物作ったよなぁ。ああ、そうか。並列処理のシンクをこれでとってるんだ。あんまりスマートじゃないけど、このやり方ならまだまだ拡張出来るものなぁ。何で冷却してるの?液体炭素…?」
「そこに座って。」はしゃぐタロウに、玲音は諭した。タロウは不機嫌そうに、玲音の指した椅子に座る。
「これが何だか知ってるでしょ?…タロウ君なんだよね?」
玲音は、そう言いながらタロウの前にナイツの紋章の入ったチップを置く。タロウの表情が険しくなる。
「ナイツなんだよね…!」 タロウは、恐る恐る玲音の方を振り向く…。「本当の…レインだ…。」そこに居るのは、紛れも無くレインであった。
「ワイヤードの中に、私がもう一人居るかどうか、それは判らない。でもこのリアル・ワールドに、私がもう一人居るなんて事は絶対に、無い!肉体を持つもう一人の私が姿を見せたのは、あのクラブだけ。あそこに居た人の記憶だけを操作すればいいんだよね…。」
「俺…、そんな事…わぁ!」タロウは、レインの言葉と表情に威圧され、立ち上がり、躓き、そして転ぶ。それに追い打ちを掛けるかの様に、レインの背後に仮想モニターが浮かび上がる。
「Play!Track44!」その言葉と共に、サイベリアの音と光景が再現される。
タロウの元へ迫るレイン。「ストップ!」その声と共に、通常の光景に戻る。
「俺じゃないよ!でも、JJの所に流されてくるデータに、こう言うイフェクトがあるって事は知ってた…。」
レインは、タロウの眼前にチップを差し出す。
「このチップをインストールしたら、私はどうなるところだったの?自殺?それとも正気を失うの?」
「知らないってば!俺みたいなガキが正規のナイツに成れる訳ないじゃん。俺は、ただの…ウグッ!」
レインは、タロウの口にチップを押し込み、威圧した口調で問いかける。「どうなっちゃうのかな?」
タロウは、チップを押し込まれ動かしにくい口をモゴモゴさせながら、答えた。
「それは、不揮発性メモリーだよ。既にある記憶を上書きする…。どんな記憶かは、知らない…。」
レインは、ようやくタロウを解放する。タロウは立ち上がり言い放つ。
「ナイツはタダのクラッカーじゃないんだぜ、玲音。」
そこに居たのは、レインでは無く、玲音だった…。ハッとするタロウ。
「…あんたは、おかしいんだ、きっと。だから、ナイツが関心を持つ。ナイツは、たった一つだけしかない事実を、事実とする為に戦う行使者なんだ。」
「よく判らない…。たった一つの真実って何?」
「だから、俺は正規のナイツじゃ無いからさ、きちんと教えて貰ってないんだ。でもこれはマジだぜ!真実は真実だからこそ強いんだ。真実だからこそ正義なんだ。説得力あるだろ?そんな真実欲しいと思わない!?」
玲音は、力説するタロウの前で、黙り込んでいた。
「俺…、もう帰って良い?ミューミューが焼き餅焼いてるからさ…あんたに。」
「ありがとう…タロウ君。」玲音は、部屋を出て行こうとするタロウに、静かに感謝した。
するとタロウは振り返り、玲音を引き寄せ、不器用にキスをする。虚空を見つめたまま、呆然とする玲音。
「デートだもんな。俺だって男だからよ!」そう言うと、タロウは部屋を去っていった。
玲音は、口の中の何かに気付く。取り出してみると、それはタロウの噛んでいたチューイングガム…。

階下のリビングには、康雄と美穂、そして正気を失った美香が居た。
康雄は二階の玲音を気にするかの様に、天井を見つめていた。「もう…そろそろ終わりですね。」
そんな康雄を抱擁する美穂…「だから今の内…。」
美香は、そんな二人を気にもしない…。「ピーピー、只今交信中…、ピーピーガーガー…」

lain TV09-03 NAVIに向かう玲音。そのNAVIには、先程のチップも…。
「ハローNAVI。かちかちかち、かちかちかち、メモリーチェック…」
玲音は、過去の記憶と思しき光景を観ていた。
光に包まれた世界…、見知らぬ男に連れられた玲音は、岩倉家にやってきた。そこには、康雄と美穂、美香が待っていた。そして、そのまま康雄に連れられ、二階の自分の部屋へ。そこには…、NAVIを見つめる自分が居た。
「それが、私?」
「そう、これが私。」
「じゃ、あの人達は誰?」
「私は貴方なんだから、知らない。」
「…嘘だよ、こんなの…」
そこには、もう誰も居ない。
「嘘だよ全部!どうしてこんな事するの!?」

天を仰ぐ玲音…。
「たった一つの真実…神様…」
「そう、僕だ…。」
振り向く玲音…そこには対峙していたのは、英利政美。

 to Be continued 

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