日中戦争見聞記―1939年のアジア (講談社学術文庫)



日中戦争見聞記―1939年のアジア (講談社学術文庫)
日中戦争見聞記―1939年のアジア (講談社学術文庫)

ジャンル:歴史,日本史,西洋史,世界史
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興味深い見聞録

著者はオーストリア育ちのジャーナリスト(発行当時はナチス支配下のドイツ人)。
西洋人ながら、日本や中国に対して民族的な心情までを理解しようとつとめている
姿勢に好感が持てる。

この本の論調は全体的に「日本人のアジア大陸に対する影響力を過小評価するな」
であるが、これは当時の一般的ドイツ人の歪んだ世界観に対する警告であろう。
例えば総統ヒトラーの『我が闘争』は日本に関してほとんど言及しておらず、
中国、近代に入ってからは西洋の文明を猿真似するだけの存在として捉えていた。
著者の文章の端々に、あぁここは我が闘争のあの部分に反論しているのだな、と
思える記述がある。

もっとも日本や中国の弱点にも冷静に言及しており、鋭い指摘もある。
戦争の様相にしても淡々と記述していて、当時の紀行文の一つとして非常に
興味深い作品だが、当然、間違いもあれば、時代背景の予備知識なしでは
著者の意図を誤解するおそれも大きい。一次資料を読み込む段階の人向け。
中国をどう見るか

ドイツに併合されたオーストリア人ジャーナリストとして、著者は白人特有の偏見があるとはいえ、日本にかなり好意的である。
従って「満州で日本はよくやっている」と評価している。
それが「満州国は成功するだろう」という間違った予測を生んだ。
もっとも、「満州国は関東軍に守られているという事実は動かしがたい」とも認めている。

この本はイデオロギー的に読むべきではないし、政治的に利用するものでもない。
日本や中国で様々な人物に会い、それを豊富な語彙で生き生きと描いている点が魅力だ。
第一級の旅行記である。

興味深いのは、中国に対する理解の深さだ。
「中国人は不気味なほど知的な民族で、日本人はもちろん、白人もこれを凌駕できないだろう」という叙述がある。
著者は恐らく知的な中国人としか話さなかったのだろうが、それにしても当時の日本人が中国人を侮り、
結果として日中戦争を泥沼化させたことを思うと、その認識の違いに驚くのである。
「中国は70年前と変わっていない」と、中国の本質を知るための本 


日本が日中戦争の泥沼に入ってしまった理由は、中国の宣伝活動に完全に負けたからだ。
日本人はとにかく、自己を表現する(自己の主張の正当性を宣伝する)のが下手だ。

それは、「日中戦争見聞記 1939年のアジア」にもはっきりと書いてある。

この本では、日本の満州国経営を高く評価しているし、「日本は中国で中国人と戦っているのではない」と明言している。

しかしそこで「日本人はまったく宣伝が下手であり、たとえ彼らに言い分があっても、全世界は信じようとしない。(p.186)」とコメントしている。

その民族的な欠点は、外交下手に現れているわけだが。


当時の日本の影響力を知る

著者が訪れた地は広範囲に渡り、中国や満州国のみならず、日本、朝鮮、モンゴル各地の描写も興味深い。数少ないが、収録されている写真も鮮明なものばかりで、本書は当時を知る上での貴重な資料になると思う。

満州国立銀行や満州国官庁の威厳あるたたずまいと、北満の機械化された農業が、最も近代化というものを感じた写真である。特に北満の大地にトラクターが走っている様は、北海道を除けば今の日本でも見ることが出来ないのではないか。

次に近代化というものを感じたのはソウルの描写からで、上海では日本の存在感がすでにイギリスを上回っている。それらのことから、当時の日本が大陸に及ぼしていた影響がいかに大きなものであったのかを認識出来る著作でもある。
『大東亜共栄圏』の理想が鮮やかに蘇る

著者がそう『親日的』でもないことは、中国人を『日本人よりも肉体的にも精神的にも優れており』『不気味なほど知的な民族』と手放しで絶賛し、一方日本人を『知性が不活発』だとか優柔不断だとか果ては『島国のちびな男たち』とまで評していることなどからも判る。にもかかわらず、カバーに書かれているような『軍国日本が東アジアに影を落とす』様子は本書中全くみえず、むしろ満州、朝鮮や中国占領地に於ける、日本の活発な開発経済活動によって潤う地元住民の活気ある息遣いが感じられるかのような、明るい描写に満ちているのは、やはりそれが当時の真実を伝えているからではないだろうか。

著者の見解によれば、「自分達は中国の民衆を相手に戦っているのではないという日本人の主張は正しい」。中国の民衆は日本軍を敵視していず、むしろ『新秩序の伝達者』として受け入れていたのだ。一般市民は秩序の回復者としての日本軍を歓迎し、日本人相手の商売に勤しんでいた。
『日本軍に協力している少なくともかなりの部分の中国人は国家主義的愛国者』であり、売国奴とはよべない、とも著者は言っている。

また著者のみたところ日本人は『中国人の共感を得ようと努力して』おり、驚くべき有様で『一般に何らの摩擦もなく中国の生活に溶け込んで』ゆく。
道筋には『侵略者日本の暴虐に抗して立ち上がれ』とアジる反日宣伝ポスターが貼られているが、民衆は全く相手にしていない。

著者の優れた観察眼は、中国を巡る欧米列強や近隣諸国、即ちソ連、ウイグル、モンゴル、チベットや朝鮮らとの歴史的或いは地理的関係の上にも遺憾なく発揮されており、満州・ソ連国境の紛争や半植民地化の事態を招いた中国自身の問題点にも言及するなど示唆に満ちている。

東アジアのそれぞれの国柄を生かしたうえでの『大東亜共栄圏』の理想に燃えた、かつての日本が、まぼろしでもプロパガンダでもない、ありのままの姿で読者の前に再現される。



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