妖乱!三国志

曲「帝」
著作権は北田康弘さんに帰属します


目次(人物紹介じゃないよ)

1、劉備玄徳  2、張飛益徳  3、関羽雲長  4、初仕事  5、最強三人組
6、曹操孟徳  7、孫堅文台  8、人望   9、   ・次ページへ

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1・劉備玄徳

時は183年。中国。
琢県楼桑村で賊どうしの争いが起こった。
互いに50〜60人ほどの人数で、身長2m近くある大男・張飛益徳がそこを通りかかったのは、まさに2つの賊がぶつかり合った、直後だった。
もともと、喧嘩好きの張飛は、おもしろ半分にそれを眺めていた。
張飛の目には、力が均衡して、すぐに収まる喧嘩には見えなかった。
その時、馬のひずめの音と共に、一人のでかい男が、張飛の前の道を颯爽と駆け抜け、喧騒の中へと踊り込んでいった。張飛は瞬間、その男に目を奪われた。
男は派手で美しい衣服を纏っていた。そして、180pほどある長身で、二本の刀を抜き舞うように、喧騒の中に突っ込んだ。
・・・美しい!・・・
それは、天女が舞っているかのごとく張飛の目に写った。
争いが収まるのに時間はかからなかった。彼が舞ったその直後、すでに勝敗がついていたのだ。数人が慌てて逃げ、数人が、道に倒れうずくまっている。
決着がついた集団に、張飛は近づいていった。自然に惹かれるように。
大男の張飛が近づいてきたことで、賊徒達は警戒し道をあけた。
その男達の間を抜けて、さっきの派手な長身の男が、ずいっと前に出てきた。
張飛の目は、やはり釘付けになっていた。
顔立ちも姿も、息を呑むほど美しく、気高かったのだ。
「さっきここを駆けた時に、気になっていたが・・・。俺は、劉備玄徳。貴方は?」
澄んだ通る声。それは、威圧するでもなく、傲慢でもなく、安心感を与えるような響きがあった。
「お、俺は、張飛。字は益徳。」
ちょっと動揺しながら、答えた。
「さっきの奴らの仲間か?」
劉備は聞いてきた。
「いや。喧嘩が面白そうだったから、見物していただけだ。」
張飛は答えた。
「それは、よかった。お前と戦う事になったら、かなわない。」
劉備はにこっと笑った。媚びるでもなく、怯えているでもないその態度。瞳からは強い光があった。


2・張飛益徳

張飛は喧嘩では、絶対に負けない自信があった。小さいときから無法者だった。きっと、この劉備にも負けるはずはなかった。自信はある。しかし、戦う気がしなかった。というより、この男に、手出しはしたくないという感情が涌き出ていた。それは、張飛が初めて味わう感覚だった。
張飛には、連れがいた。関羽雲張という、張飛に並ぶ、つわものだ。
関羽は、張飛より5つほど年上で、強い上に、思慮深かった。
初めて、張飛が関羽にであった頃、関羽の強そうな容貌にいきなり喧嘩を仕掛けていった。
まだ、張飛は幼かった。関羽に負けた。初めての負けだった。それから、なんとなく関羽と一緒にいるようになった。しかし、それ以降、誰にも負けたことはなかった。
とにかく初めて会う強そうな奴には必ず喧嘩をふっかけてきた張飛だったが、劉備には、そんな気持ちになれなかった。だからといって、劉備が弱そうに見えたわけではない。強い。それはわかる。
長身で、しなやかな四肢をもつ劉備。派手な衣装も、その容姿に会っていて、神々しさすら感じられた。
「何か俺の顔についてるのか?」
自分の顔を凝視している張飛に、不思議そうに劉備は問い掛けた。
その言葉に、張飛はちょっと顔を紅潮させた。まさか、見とれていたとは言えない。
「いや、耳がでかいなぁー、と思って・・・。」
とりあえずそう言った。劉備は笑った。つられて、張飛も笑った。張飛益徳17歳。


3・関羽雲長

「天女が舞って、賊を鎮圧しただぁ?」
関羽が張飛の言った言葉を反復して、顔をまじまじと見つめた。
「お前何言ってんだ?黄巾賊に洗脳でもされたか?」
関羽が心配そうに張飛の顔を覗き込んだ。
「いや、違うって。兄貴!そいつ、劉備玄徳って言って一瞬で賊を鎮圧したんだって!!」
張飛が喚くようにいうと、関羽は納得したように頷いた。
「なるほど・・・。劉備玄徳か。」
「えっ?兄貴知ってるのか?」
「名だけはな。この辺りでは有名だ。義賊としてな。」
「へぇー。義賊かぁ。」
なるほど、というように張飛は頷いた。
「で、お前はそのまま、挨拶だけして帰ってきたのか。強そうな奴を見たら、喧嘩するのではなかったのか?それとも、かないそうに無い相手だったのか?」
関羽は興味深そうに張飛に問い掛けた。
「いや、兄貴。喧嘩なら、俺や兄貴のほうが勝つ。だけど、そんな、喧嘩とかって、いうような器じゃないって気がして・・・。」
「?どういうことだ?」
さらに興味を示した。
「どういうことって・・・。そうだ。一回兄貴が会ってみたら?」
張飛がこんな事をいうのは初めてだった。
確かに、劉備には興味があった。この辺りの腕っ節の強いやつらが、こぞって、劉備の配下になりたがるという噂を聞いていたからだ。強い奴はふつう、自分が上に立ちたがるものだ。そのうえ、張飛まで、こんな事をいっているのだ。
会ってみる価値は充分にあった。
張飛と関羽には数人のつわものたちが付き従っていた。強い彼らに惹かれ、付いて来たもの達だ。弱い奴らは、振り払い付いて来る事さえ許さなかった。
翌日、皆で劉備に会いに行った。
劉備は筵を売りに街に行く途中だったらしく、一人で歩いていた。
「筵売りの家か・・・」
関羽はぼそっと呟いた。隣にいた張飛は、劉備の姿を見つけると、関羽と一緒に素早く後を追った。仲間たちもそれに続いた。
派手な衣装を纏った劉備の前に関羽達数人が立ちはだかった。
関羽の身長は2mを超えている。立派な髭を蓄えていて、見るからに強そうだ。
大男の張飛と並んで立っている。周りにも強そうな男達を従えている。
「劉備玄徳殿か?」
関羽が劉備に問い掛けた。
劉備はものものしい男たちに動じるふうでもなく「そうだが。」と通る声で言い放った。
強いまなざし。高貴で、美しい顔立ち。
関羽は一瞬息を呑んだ。なるほど、張飛が喧嘩をしないわけだ。
肝の座り具合といい、華美でいながら、高貴で、それでいて、慈悲深く強い瞳。
張飛の言っていた“器が違う”の意味を関羽は再認識した。
「どこへ行かれる?」
関羽は何を話して言いか分からないといったふうに、そんな事を聞いた。
「私は、筵を売りにこれから、街へ行くが・・・。貴方は誰ですか?」
劉備は問い掛けた。
「これは、失礼。私は関羽。字は雲長。この、張飛と共に、この辺りを旅していた。このもの達はそれに付いて来たものだ。」
劉備は頷いた。敵意が無い事を悟った。
「しばらくここに留まるのですか?」
劉備は聞いた。
「とりあえずは」
関羽が答えた。
「見たところ、かなり腕の立つ方々とお見受けします。しばらくこの地に留まるのなら、軽く一仕事してみませんか?」
劉備は関羽に言った。その言葉に興味を持った。
「仕事?」
「はい。今日の午後から出ようと思います。もし、来る気があれば、ここで落ち合いましょう。」
「仕事とは?」
関羽が聞いた。
「馬を・・・、賊に取られた馬を取り返すと言う簡単な仕事です。依頼主から必要な馬と武具を貰いうけています。報酬は成功した暁に、と言うことになってますが。」
劉備が言った。声は落ち着いている。成功報酬とは、なかなかだ。よほど、腕が立つのだろう。それか人がいいのか。しかし、人間性・・・すなわち器なのかもしれない。そう、関羽は思った。


4・初仕事

劉備は関羽の返事も聞かずに街の方へ歩いていった。
関羽も詳しい依頼内容も聞かずに、劉備と共に、参戦する事を決めていた。
「行くだろ?兄貴。」
見透かしたように、張飛が言った。
「確かめて見たいからな。あやつの度量を。」

約束の時間に劉備達がその場所を通った。劉備は派手で、煌びやかな武具を纏っている。他のもの達は普通の武具だ。後方に、人が乗っていない馬を数頭引きつれていた。そして、武具と武器も。
「俺達が来ると思っていたのか?」
用意された武具を着けながら張飛が劉備に聞いた。劉備はにこっと笑った。またまた、張飛もつられて笑った。
「好きそうだ。こういうことが、特に、張飛は。」
にこっと笑って、劉備は言った。
心の中を見透かされているような気分だった。しかし、それが嫌ではなかった。逆に母親に守られている子供のような気分にさせてくれる。不思議な感覚だった。

賊の中に立った。相手は200以上。自分達は50〜60人。そして、向こうは500頭の馬群を率いている。
形成は全くの不利だった。
しかし、全く負ける気がしなかった。関羽と張飛達だけでも、奪い返せる自信はあった。それは、力では負けない自信があるからだ。だが、この、予想以上の高揚感と連帯感、そして絶対に負けないという感覚は、劉備の自信に満ちた表情を見ていて、感じたのだ。劉備達は統率力のとれた動きをしていた。皆で戦ったという感じだった。当然、予想以上の働きをしたのが、張飛と関羽だった。彼ら2人の動きはすさまじかった。
誰も付け入る隙が無かったのだ。
舞うような、劉備の動きに士気を上がらせる仲間たち。そして、関羽と張飛の無敵の太刀。あっという間に決着がついたのだ。
それからの行動も素早かった。劉備は守備良く馬をまとまらせ、周りを固め強固な陣で依頼主の元へと戻った。

結果的に馬は取り返せた。しかし、劉備が最初に言ったような、軽い一仕事ではなかった。明らかに、形成不利での戦いだった。だが、関羽も張飛も騙された気は全くしなかった。報酬は約束通り、ちゃんと貰えた。そして、依頼主の張世平が酒宴まで開いてくれた。
関羽は楽しかった。高揚した気分は収まらなかった。それは劉備と会ったときに感じた。今回の事で、確信した。
張飛も似たような気分になっていた。なぜか、劉備になついていた。なぜか・・・というより、それは当然なのかもしれない。
「器か・・・。」
関羽が酒の杯を片手にぽつりと呟いた。張飛はかなり飲んでいて、機嫌よさそうに関羽の独り言に頷いていた。


5・最強三人組

翌日、何事も無かったように劉備は家に戻り、筵を織る手伝いをしている。
関羽も張飛も自分達が留まっている場所に戻っていた。
劉備は朝早くから織った筵を売る為家を出た。
「玄徳アニキ!」
家から出てしばらく歩くと、太く明るい声が近くの廃屋の影から聞こえた。
劉備が立ち止まって、廃屋の影を見つめると、中から、張飛がにこにこしながら出てきた。
「おう、張飛か。」
劉備はまるで、昔からの連れのように張飛に話し掛けた。
「どこへ行く?」
張飛は子猫のように、劉備の周りにまとわりついた。
「筵を売りに街までな。お前は?」
「俺は、ここで、玄徳アニキを待っていた。」
「俺を?」
「うん。」
劉備は足を止めることなく歩いていた。張飛も劉備に歩調を合わせ付いて来た。
「俺さ、玄徳アニキがどうしても気になった。俺、むちゃくちゃ興奮してる!どうしてだ?」
張飛の不思議な質問に劉備はくすっと笑った。
「お前にわからないものが、俺にわかるか。」
笑いながら、劉備は言った。張飛もつられて笑っていた。
そのまま、無言で二人は歩いていた。無言でも、まったく気にならなかった。すでにお互い気を使う仲を通り越していた。張飛は当たり前のように、劉備にくっついて、街までいった。
翌日からは、それに関羽も加わっていた。
そんな日が何日か続いた。張飛と関羽はすっかり劉備になついていた。

「張飛。」
ある日、関羽が決心したような表情で張飛に語りかけた。
「なに?改まって・・・。」
張飛が不思議そうに関羽を見た。まだ、幼さの残る表情だ。
「俺は、決心した。」
「何を?」
「天下を馳せ、動乱を治める!」
「!!なに!これまた、でかいことをいうなぁー!」
もともと、劉備と似たような義賊のようなことをやっていた二人だった。しかし、確たる展望を持っていたわけではない。
「俺は、劉備殿を見て思った。自分に何が出来るかを。」
「?」
「自分は、世を平定するような器は持っていない。だから、いままで、このような事を思いつかなかったのだ。義賊といっても、ただの賊徒とたいしたかわりはない。志と、それを目指す器を持った人物が、まさに、今、目の前に現れた。これは天が与えた期だ!」
「なんか知らんが、難しいぞ!兄貴。」
「俺は、劉備殿を立て、天下を平定することを目標に決めたぞ!!」
「おおっ。」
張飛は目を丸くした。
「お前は、お前で、自分の生きる道を考えろ。自分と同じ道を強要はしない。」
そういって、関羽はすぐにそこを出て行こうとした。張飛は慌てて、関羽の腕を引っ張った。
「何いってんだ!!自分だけ!俺だって玄徳アニキのそばに居たい!玄徳アニキの傍にいると、面白いものが見れる!面白い事が体験できる!違う世界を与えてくれる気がする!」
瞳をきらきらさせて言った。
「ふっ、同じ事を考えていたか。」
関羽が笑った。張飛もつられて笑った。
「とりあえず、格が違う。俺達は、あの人の盾になり武器になる。あの人は俺達を手足のように使う。そう、将軍に仕える家臣のようなものだ。そして、劉備殿を盛り上げるのだ。共に夢を掴もうではないか。」
「おお、さすがは、兄貴。博があると言うことがしっかりしてる。そうか、家臣かぁ。なんか、豪族みたいでいいなぁ。」
張飛が言った。
「豪族などではないぞ。目指すは、天下だ」
「よし!」
二人は劉備そっちのけで、盛り上がっていた。

「・・・家臣って・・・。」
家の前にひれ伏している、二人の大男を前に困ったように劉備は立ち尽くしてた。
「この関羽雲長と張飛益徳。命尽きるまで、劉備殿に付き従います。」
二人は意思の強いまなざしで、劉備を見つめていた。
劉備には、二人の気持ちはいたいほど伝わった。

関羽雲長。劉備にとっては初めて接するタイプだった。奥の深い男。劉備の関羽に対する第一印象だった。冷静で思慮深い。この辺りのチンピラとは格が違った。
血気盛んな張飛は、ある意味、自分の周りにいるタイプに似ていた。さすがにあれほどの力をもった人間は見たことがないが・・・。

「あなたがたは、この辺りには居ない卓越した人たちだ。そんな輩に2人も会えるなんて、世の中はさすがに広いと思った。出会えて、よかったと思う。関羽、張飛。」
劉備は、関羽に突出した才を見出しそう言った。言葉になにかを含みはしなかった。素直に言った。
その言葉をうけて、関羽はにっこり笑って言った。
「劉備殿がそう認めてくれた私たちが、大将と担ぎたくなる素質を、貴方はもっている。」
関羽は真剣なまなざしで劉備を見つめていた。
その視線を受け流すわけでもなく劉備はまっこうから見つめてた。
「張飛が言ってました。あなたの取り巻き達が羨ましいと。自分も信頼されあなたを守りたい、と」
「ふっ。馬鹿な事を。何ほどのものもない。」
劉備はそういって視線を外した。しかし、関羽は劉備から視線を外さなかった。

「とにかく・・・。気持ちは伝わったが、私にはそのような力はない。しかも、見て分かるように、只の貧しい筵織りの家系だ。まだ、豪族に仕えた方がよいだろう。」
諭すように、優しい声で言った。
「劉備殿はこの世が、今のままでいいとお思いですか?!」
関羽が言った。
「それは思わない。」
「でしたら!」
張飛が続けた。
「しかし、力がないといっただろう。そりゃぁ、皆が笑顔で暮らせる国ができれば一番いい。」
「そのお心さえあれば、成せるのです!私達が力を注ぎます。」
関羽が劉備の言葉を受けていった。
劉備が困った顔をした。
「劉備。行きなさい。」
その時、奥から、母の声がした。
「あなたは、中山靖王劉勝の末裔。資質は充分にあるはず。」
母の言葉を受けたから、というわけではなかったが、劉備は決心した。中山靖王劉勝の末裔なんて、この世にはいて捨てるほどいるはずだ。しかし、何かを成したい気持ちは、劉備にも少なからずあったのだ。彼らが言うようにトップをとれば、国を思うがままに動かせる。今の乱れたこの情勢を何とかできるかもしれないのだ。
「分かった。どうなるかはわからぬが、進むか!」
劉備がそういうと、二人は顔をあげ目を輝かせた。
「しかし、家臣というのはやめてくれ。3人だ。ここは、志同じくする兄弟と言う事でどうだ?」
優しく包み込むような表情で劉備は二人を見た。
「兄弟!志が同じ、兄弟ですか!」
関羽が感動したように目を輝かせて言った。
「ってことは、劉備殿が一番年上だから長兄で関羽兄貴が1コ下だから、次兄。んで、俺が、6つ下だから、末弟ってことになるな!!」
張飛は嬉しそうに劉備をみつめて、言った。
劉備はにこっと微笑みながら、頷いた。はしゃぐ張飛をたしなめて、関羽は言った。
「こら、それは心の中での事だ。」
「我ら兄弟は、産まれた日・場所は違うが、今ここで、固く結ばれた。死す時は3人一緒だ。」
劉備の強く響く声に、張飛が浮かれて喜んでいた。


6・曹操孟徳

184年。中国全土に渡り、太平道という宗教が蔓延していた。これは、世が乱れていた証拠であった。
帝は豪遊の限りをつくし、民は苦しみ、不満が満ち溢れていたのだ。
最初、太平道は宗教という形を保っていたが、教徒を増やすにつれ、朝廷に反乱を起こす大暴徒となった。
戦う人たちは農民が主ではあったが、数が多かった。朝廷では、それを鎮圧する為、義勇兵を募った。

「兄者、義勇兵の募集があります。」
張り紙を読んだ関羽が、劉備に言った。
「太平道の反乱か・・・。乱れているな。」
劉備が吐き洩らすように言った。その目には鋭い光が差していた。
劉備一向は義勇兵に志願した。
その知らせを聞いた、張世平が、劉備達の軍に金と馬を用意してくれた。
彼は、商人で戦いに参加する事はなかった。普段は、金儲けにだけ動く人間だが、劉備の心意気にすごく感嘆していた。もともと、義賊だった劉備に何かと肩入れしていた。そして、きっといつか世にでる人物だと思っていたらしく、義勇兵に応募したと知った矢先に駆けつけたのだ。
「できる事は、なんでも致します。」
張世平は言った。劉備は礼をいい、彼の言葉に甘えた。そして、それぞれの武器を手に入れた。
関羽は、龍の口から、大きな刃が伸びる“青龍偃月刀”という大きな薙刀を、張飛は刃先がうねった蛇のようになっている“蛇矛”と呼ばれる大きな矛を手に入れた。劉備は、刃渡りの長い刀を2本履いていた。
100人にも満たない兵ではあったが、この辺りでは敵無しの無頼者の集まりだった。
劉備達は、朝廷のある洛陽へ行った。そして、皇甫崇と朱儁という将軍の下についた。大勢の兵の集まりだた。さすがは、調練をつんだもの達の集まり。太平道の教祖の弟、張宝・張梁達の黄巾軍を相手に果敢に戦っていた。
その中で、特にすさまじい動きをする軍があった。
劉備はもとより、関羽も張飛もその軍に目を付けた。
「俺らも、行こう!兄貴!!」
その軍の働きを見せ付けられた張飛は、押さえきれないように、馬を駆けさせた。後を追うように、劉備が走り、その隣を守るように関羽が走った。
閃光烈火の精鋭騎兵達に掻き回され崩れかけた黄巾軍を立てなおそうとしている、主力がある塊に向かって劉備軍は一気に駆け降りた。そして、張飛の蛇矛が道を作っていった。そこに劉備が気高く舞っていた。あたかも鳳凰のように。それを守るように、関羽が残兵を確実に排除していった。
荒い力のある兵力。黄巾軍は一気に潰走し始めた。残兵をまとめる余裕さえ与えない。
その、すざまじさに、勢いをつけられた先ほどの軍が、劉備軍と共に、潰走兵を追撃し始めた。
その兵の中の主力と思われる人物が劉備に近づいてきた。
「すごいな!どこの軍だ?」
息をはずませながら、眼光鋭い小柄な男は劉備に尋ねた。
「琢県の義勇兵です。」
劉備はにこっと笑いながら、答えた。小柄な男は、吸い込まれるように、劉備の表情を見つめていた。
「義勇兵か。私は騎都尉だ。曹操。字は猛徳。」
「私は劉備。字は玄徳。」
お互い走らせている馬上での会話だった。
近くで見ると、はっとするような美しく品のある表情。再び曹操は劉備の表情に魅入っていた。
「すざまじい動きですね。じっとしてはいられなくなりました。」
劉備の言葉に、曹操はにこっと笑った。
「それは、こちらの台詞だ。劉備殿。」
そのまま、二人は別方向へと進んだ。
追撃は終わった。

曹操は気になっていた。黄巾軍追討の軍義に劉備は参加していない。100人程度の義勇兵なので、当然といえば当然である。しかし、今回の戦いにおいての彼らの功績はすごかった。力と速さがあった。
彼の両脇を固めた、大男2人の動きはとりわけすごかった。自分の軍にも、彼らほどの者はいなかった。
それに、あの妖艶な男、劉備。徳と品を兼ねそろえ、華麗で豪快。雄々しい戦闘とは裏腹に、物腰の柔らかい落ち着いた、優しく優雅な喋り。
一体どういう人物なのか、曹操の関心はもっぱら彼らにあった。
「劉備軍?ああ、幽州や青州で、手柄を立てている男だ。黄州の魯植殿のもとより、こちらの救援に回ったのだ。一見優雅で強そうには見えんが、彼の傍にいる関羽と張飛などは一人で兵千人に匹敵するだろう。心強い寡兵だ。」
皇甫嵩が教えてくれた。


7・孫堅文台

劉備達は朱儁の元にいた。荊州の別の反乱の鎮圧をやっていた。
「呉郡、孫堅文台!3000の寡兵と共に、ただいま到着した!」
威勢のいい声が軍営中に響き渡った。
朱儁の幕舎の前に、大きく屈強そうな男が不屈の笑みを浮かべて、寡兵を引き連れ立っていた。
「おお、孫堅殿。3000の寡兵とは心強い。そうそう、今、この幕舎に同じく寡兵の劉備殿が居る。紹介しておこう。」
朱儁は孫堅を快く迎えると、同じ幕舎にいた劉備を紹介した。
「劉備玄徳と申します。」
煌びやかで派手ないでたち。それに引けを取らない、美しい顔。孫堅の目を引いた。
物腰の柔らかいいい方だった。立ちあがった劉備の意外にも高い身長に少し驚きを見せた孫堅は、劉備に挨拶をした。
人を惹きつける気品のある顔立ち。どこかの、豪族の坊ちゃんだと思っていた。
「えっ?義勇兵?」
驚きは隠せなかった。この乱世で生き延びるような感じには、見えなかったのだ。
全てを許しそうな、優しげな微笑とやわらかな物言い。一瞬自分に平和をもたらしてくれるかのような錯覚に陥ってしまう。
「3000の寡兵とはすごいですね。」
にこっと笑って、劉備は孫堅に言った。孫堅はそんな劉備に顔を近づけ、小声で言った。
「ここだけの話し、3000は嘘だ。本当はもうちょっと少ないがな。数は多く言ったほうが効力がある。」
そういって、劉備の背中をばんばん叩いて、豪快に笑った。
「まっ、3000だろうが、2000だろうが、俺は強いぜ。」
孫堅はそういって、酒の杯をあおった。目には強い光があった。
「楽しみです。貴方の戦い。勉強させてもらいましょう。」
美しいその顔に笑みを浮かべ劉備は言った。戦場に出ている姿が想像できなかった。
甘さがあるように見えた。
しかし、次の日の戦場で、孫堅は劉備に対する見方を変えた。
表情が違った。昨日幕舎で話したときとはまるで別人のようだった。華やかな気品は備えてはいるものの、か弱さは微塵も感じさせなかった。そして、彼の傍らに立つ番犬のような大男。風貌からして、屈強だということがわかる。
戦場での戦いぶりは、目を見張った。舞うように戦い、それを見る者達が、士気を高めている。そして、人外の者のような動きをする、関羽と張飛。辺りの敵を蹴散らしている。
戦況はこの劉備軍の参入で一気に好転する。
「やるではないか。」
最初、甘ちゃん坊やを危機で助けてやるつもりで、戦況を見ていた孫堅は、体を熱くした。
「俺らも負けられんぞ!」
そう叫ぶと、強靭そうな陣営に向かって、つっこんでいった。
「これだから、この世は広い!というんだ!おもしろい男がいるもんだ!」
孫堅は嬉しそうに叫びながら、参戦し、次々に敵を蹴散らしていった。勇猛果敢。そんな言葉がぴったりくる部隊だった。
孫堅文台29歳。実力はかなりのもので、男気のある人物だった。10代の半ばから、海賊を相手に戦い、さまざまな戦歴を経て、実力で塩城県、くゆ県、下ひ県の県丞を任ぜられていた。

黄巾の乱の鎮圧で、各地にいた豪傑が頭角をあらわし始めた。
その中でも、強大な武力を持ったのが、ろう西の董卓(45歳)。河北で一番大きな勢力・財力・地位を持つ名門、袁紹。その従兄弟の袁術。
そして、宦官の家系で文武両道、財力・地位のある実力者の曹操(30歳)。
それに、呉郡の実力者孫堅(29歳)である。
名声、実力を兼ね備えていた彼らは、黄巾軍鎮圧の功として、高い官位を与えられた。
劉備軍もこの乱で、彼らに名を覚えられる程の活躍をした。が、もともと、100名前後の義勇軍だった為、与えられた功は中山国安喜県の慰(警察署長)だった。


8・人望

劉備の仕事は忙しかった。民とよく接し、賊を追い払ったりして、人心を掴んでいった。
もともと、劉備はそういう事が好きだった。人と話し、心を通じる事。
彼は、派手ではあるが、贅沢はしなかった。当然、関羽も張飛も贅沢する事に全く興味がなかった。
人々はそんな彼らに親近感を覚えた。
関羽と張飛も、賊討伐などはお手のもので、楽しそうにやっていた。おかげで、ここいら一帯には、無法な賊や、争い事が全く無くなった。よほど、関羽と張飛が恐かったのだろう。
何かを成したい、という気持ちはあるのだろうが、あせる事はしなかった。劉備の性格がのんびりしていたのだ。劉備を立てたい・その気持ちが強かったのは関羽だった。
「兄上、我らにもっと力があれば、兄上をもっと大きくする事ができたのに・・・」
3人で飲んでいたとき関羽が、劉備に向かって真剣に言った。
「世が必要とすれば、自然と大きくなるものだ。関羽にも、張飛にも私には無い力がある。度胸もある。私もお前達に負けないように力を付ける時だ。色々な力を・・・。何を、焦るか?」
やさしく劉備が言う。張飛はただ、嬉しそうに劉備の話しを聞いて飲んでいた。
「俺は、劉兄と関兄貴と一緒に暮らせる今が、結構気にいっているけどな。」
3人は同じ館に一緒に住んでいた。毎日一緒に飯も食っていた。寝るときも一緒だった。夜遅くまで、3人で他愛も無い事を話し込む事があった。よく笑った。張飛にとってはそれが嬉しかった。劉備もその言葉を受けにこっと笑った。その笑顔も張飛は大好きだった。劉備の笑顔を見ると安心するのだ。
「兄上はもっと大きくなられる御方だと思う。」
関羽は杯をあおりながら言った。もともと、大きくなる野心があったわけでもない劉備を世に誘い出したという自負が関羽にはあった。劉備にとって、それは迷惑だったのだろうかと不安になった。
「深く考えるな。関羽。お前達の夢が私の夢だ。志は3人同じだ。」
劉備の深く落ち着いた声が響いた。関羽の気持ちは語らずとも分かるようだった。それだけで、関羽も安心し、満ち足りた気分になった。
安喜県の治安の安定と劉備の視察は近隣では有名だった。
劉備の優しげな物言いと高貴な顔立ち、必ず守ってくれるという安心感。人気が高かった。
劉備が歩くと、よく人が付いて来た。
公の場では必ず、関羽・張飛が横に立っていた。2人が劉備を守るような形で、ぴたりとはりついて、決して動かなかった。
賊の噂を聞いたのは、久しぶりだった。館に、街の人が飛び込んできたのだ。
「おお、久しぶりに暴れられるな!」
張飛が嬉しそうに立ちあがった。
「あまり、無茶をするなよ。張飛。皆が恐がるぞ。」
関羽がそう言い、それでも、ちょっと体を弾ませながら立ちあがった。
そんな2人の様子を微笑んで見ながら、劉備は馬に乗った。
賊は山野から出てきて近隣の町を騒がせた輩だった。人数は30人ほど。
張飛は踊るように、賊の中に突っ込んでいった。その背後を追うように関羽が勇み足できり込んだ。
瞬時で、決着がついた。賊の頭を張飛が捕まえてその脇を劉備が優雅に歩いた。
その光景を遠くの岩陰から見ていた少年達がいた。
「うっわー!!すげぇー。天女が賊を捕らえたぁー。」
少年の一人がため息をつくように言った。
「あれが、噂の劉備って人だぜ!知らないのか?趙雲。」
「えっ?劉備って、強くて優しいって有名な安喜県(ここ)の慰の?」
「そう!行ってみようぜ!」
少年達がそんな会話をしている間に、劉備たちはその場を去っていた。
『劉備様かぁー。華麗な人だったなぁー。』
趙雲の心に劉備の姿が深く刻まれていた。


9・翔

そんなある日のことだった。安喜県に中山の督郵が巡回してきた。彼は、県の慰がちゃんと仕事をしているか視察をしに来たのである。・・・ただしこれは名目だった。彼らの根性は腐りきっていた。巡回と称して、県の慰から賄賂を貰い、私腹を肥やしていたのだ。
そんな悪習を全く知らない劉備たちが、巡察官を迎える準備をし、城外まで迎えを出したのだが、彼はそれを全く無視した。
その上、劉備達がなんとか彼の機嫌を取ろうと、彼が泊まっている宿舎に直接会いに行き、ひれ伏していても、全く無視していた。
どうやら、賄賂をほしがっているようだった。たいした金品も持たずに、自分に会おうとは無礼まで言ってなじったあげく、解任をほのめかした。
街の人々は劉備の解任を心配した。
「劉備様。どうか、ここに留まって下さい。お役人様にお渡しする金品は私達でなんとか致します。」
町の人達が劉備の館に集まって心配そうに言った。
「そんなことは・・・。」
劉備は困った顔をしてうつむいた。
ちょうど、こんな状態を待ってましたとばかりに、巡察官が現れた。
「なんだ?町人達はまだまだ出せる税をしこたま溜め込んでいたのか?」
いじわるそうな表情で町人達の顔を舐めるように見まわした。
「ここの役人は仕事をしっかりしていなかったようだなぁー。」
にやぁーっといやーな薄ら笑いを浮かべている。
「さてと・・・。幾らくらいで、罰を軽くしてやろうか・・・。」

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