入学テスト終了!・編(1年生)





“どうして自分だけが?”

フロルは胸にうっすら浮き出ている赤ハンを見つけたのだった!B  悲しくて情けなくてそして何よりみんなに対し申し訳なかったのである。1人でも落伍者が出れば
10人全員が不合格、試験官はそう言ったのだ。

“オレがあと8日さえ生きていられれば… ”

それまでこの症状が隠しおおせるのだろうか? いや、できはしない。第一タダには直感力がある。
それは不可能に近かったのだ。でもガンガは自分の力で治す事ができたのだ。

“熱はまだ低い。でも気分が悪い… 局部マヒは… 大丈夫だ”

フロルは鏡に写した自分を見つめなんともないと言うように大きくうなずいたのである。




「フロル、指を!」

突然タダにつかまれたその指の感覚は失われつつあったのだ。

「死んだっていい! 女になるくらいなら 」

女になるくらいなら… そうじゃない。みんなを巻き添えで不合格になるくらいなら死んだっていい、
そう思ったのだ。しかしみんなはあまりにも優しい。

“今までの努力をオレの為に棒に振ってもいいなんて… なんてバカなんだよ”しかしボタンは押さ
れてしまったのだ。その瞬間を見ていられなかったもののみんなの本心が… 10人の心が一緒にな
った瞬間に、あらためて自分が11人目だった事に気が付いたフロルだったのだ。



“熱が高くなってきた… 起き上がる力もねぇよ… ”

救助艇のベッドでフロルは不安と悲しみにさいなまれながら力無く横になっていた。

「もう大丈夫だよ。すぐに眠くなるからじっとしてなさい」

医師たちが枕元でそんな事を言っていたようだ。

“オレは… ”



 目をさました時にはもう熱がひいていた。そしてフロルは自分のおかれた立場にあらためて思う事
があったのだ。

“テストに合格して男になる夢… 消えちまった… でもそんな事よりみんなに顔が合わせられねぇや”

自分はいままで精一杯やってきた。ヴェネの法律、特別な功績を残した者のみに与えられる特権、
“性の選択の自由”それはもういいのだ。



 ドアが音もなく開き石頭が入って来た。

「フロル、どうだね? 調子は。丸一日ねむっていたから心配してたのだがどうやら良くなって来て
いるようじゃないか?」

石頭はサイドチェアに腰掛けた。

「石頭… ごめんな… オレの為に… 」

彼の声を聞いたとたんに涙があふれてきたのだった。それでもフロルは真っすぐな瞳で石頭を見てい
たのである。

「いや、謝るのはわたしの方だよ、君は… きみもタダもみんな合格なんだ。そうわたしが11人目
だった。わたしはこの大学の教官だったんだ。君たちのグループはベストワンの成績で最終テストを
クリアできたんだよ」

石頭はにっこりと笑って言った。一瞬フロルは声が出なかったのだ。

「君の望みはかなえられるな」

そう言って彼は病室を出て行ったのであった。

 石頭の出て行った後、フロルは呆然と天井を見つめ続けていた。信じられない合格の知らせ、それ
は思いもしなかったのである。

“嬉しくない? いや、嬉しい… 嬉しいんだよ… な? でも”

素直に喜べない自分に気づく。

“僕の星にくればいい”

タダはそう言った。“ロタ系以外との婚姻の自由”それは認められていたのである。

“そしてオレはタダのプロポーズを受けたんだ。でもあいつ… 本気で言ってたんだろうかな?
  オレを慰める為だけだったんだろうか? 18も年上の領主の所にとつがされるオレに同情して… ”

タダの真意はわからなかった。

“でも… オレはタダが好きだ! 今のオレは男にでも女にでもなれる”

もともと単性に生まれている者なら選択権はないのだが、今のフロルは全くの自由だったのだ。

“最初から気になる奴だたんだ。オレは自分でも気が付かなかったけどきっとあいつを意識していた、
そんな気がする。でも… 何もなくてオレが発病してなくて、合格していたらいったいどうなってい
たんだろう? タダはプロポーズをしただろうか? 不合格だと思ったからこそ …だったんじゃね
ぇのかな。それじゃ今のあいつの気持ちはどうなんだろう?”

フロルは急に不安になってきた。自分はもう女になるしかないと思っていた。思っていたからこそタ
ダはプロポーズをしてくれた。そして…

“どうしよう? オレの気持ちは変わらねぇ、オレ、お前が好きだ! 今までこんな気持ちになんか
なった事ねぇ。本当に好きだよ、タダ… ”

胸が苦しくなってきた。

“好きだからこそお前のプロポーズを受けたんだぜ。でも… 大学に入っちまえばよりどりみどりだ
から断ってくるなんて事ねぇよな?”

タダの気持ちはわからない。

“だいたい男になりたいっていう動機がもてはやされたいだけだったなんてあまりにもばかじゃねぇ
か?”

でもその為に頑張ってきたのだった。

“それをオレは拒否しようとしている。でもヴェネじゃなければ男でも女でも対等だよな? だって
タダの星は一夫一妻制なんだって言ってたし… ”

まだ少し頭が痛い。熱気が残っているんだろうか? 一人でいると色んな思いが頭の中で交差し落ち
着く事ができないのだった。でもこれだけははっきりと決めていた。

“オレは女になる!”

後悔なんてするもんか。父上や母上が何て言おうと女になってタダと結婚するんだから”



 タダが入って来た。ちょっと複雑な顔をしている。

「良かったな」

タダが言った。

“良かった… やっぱりタダ、気が変わってなかったんだ。そしてオレが男になれるから喜んでいる
んじゃないかって思ってるみたいだ”

「少し残念だけど… 」

“その言葉が嬉しい… そうじゃねぇんだよ、タダ。オレ… 女になるんだぜ”

「なってもいいや、女に」

“なるって決めてたくせして何て意地悪なんだろう? でもこんなのも… いいかな?”

タダは驚いているようだ。

“ばかだな、お前って直感力があったんじゃねぇのかよ。オレが女になるって決めた事くらい見抜
けよ”

「お前、どのコースへ進むの?」

“よーく考えたらオレって合格する事だけしか頭になくて入ってからどうこうしようと考えた事も
なかったんだ。オレやっぱりばかなのかな?”

「パイロットコースを選ぼうと思うんだ」

“航空科に入るのか… そんな勉強した事ねぇけど… 基礎も何もわかんねぇんだけど、でもお前
が選ぶんだったら… ”

「オレもそうする」

“今、決めた!”

おだやかなタダの表情… オレの心を静かにゆさぶる… 暖かなものがオレの中に流れ込んできて、
そのくせ少し照れ臭くて、思わずシーツを引っ張り上げてしまったのだった。


“今度会う時は何て言おう?”

入学までまだ少し時間がある。タダが出て行った後でフロルは考えていた。やがて幸せなまどろみ
の中でフロルは目を閉じたのであった。








                                       終



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