星色物語bQ3
ツェット編
“フロル、愛してる… ”
タダからのメッセージが届いていた。彼は今、航空科必修科目の長期惑星探査に出て
いるのだ。この惑星探査は航空科3年の科目であり、宇宙関係の学科の学生が1度は
体験しなくてはいけないのであった。期間は一カ月間、タダは春の月が与えられた期
間だった。そしてアマゾンもタダと同じ期間、工学科から人工衛星の実験の為、ここ
に来ているのであった。
タダやアマゾンのいる恒星シグマ第一惑星ツェットは宇宙大学星から5000光年
のかなたに位置していた。ここはサバ系に属し、サバ総合政府が地球総合政府に協力
する形で宇宙大学の為にシグマ太陽系を管理しているのであった。従ってここは基本
的に宇宙大学の関係者しか入れないのである。宇宙観光地図にも載っていないこの惑
星の存在を知る者はきわめて少ない。
入学して以来こんなに長く離れた事のないフロルは今、落ち着かない日々を送って
いたのである。フロルはもう一度メッセージを見ていた。
“あいつ愛してるなんて言葉、今までほとんど言った事なんてなかったのにな”フロ
ルはタダのまねをして“アイシテル”とつぶやいてみた。しかし返事はない。彼女は
普通の朝が普通でない事を改めて感じたのだった。春の月が過ぎたらタダは帰ってく
る。しかし入れ替わりに自分が行かなくてはならないのだ。夏の月はフロルだけでな
く天文学科からチャコとクィーニが行く予定である。
“オレはここに勉強する為に入学して来たんだぞ!”
フロルは心に何度も言い聞かせていた。しかしチャコ達が二人一緒にその準備にかか
っているのを見ると、やはりつらくなってしまうのであった。タダが帰ってくるまで
後二週間、その後自分が出発するまでの期間はたった二日だった。
「いよっ、さえない顔をして。せっかくの美人がだいなしだぜ」
四世が声をかけてきた。彼は経済学科なのでツェットでの研修はない。
「しかたねぇだろ。タダがいねぇんだもん」
フロルは正直だ。
「君ははっきりしているからわかりやすいよ。でもレディは人前でそんな事を言わな
いもんだ。それよりどうだ、たまにはどこかに行かないか?」
四世はタダの為にフロルをなぐさめてやろうと思っていたのである。
「何だよ、お前やさしいじゃん。そう言ってオレを誘惑しようとしてるんじゃねぇだ
ろな」
「バカ! 考え過ぎだ! どうして僕が君を誘惑しなきゃならないんだよ」
そう言ったものの確かにフロルは魅力的であった。変化した当時の少女の面影が消え、
最近では女性本来の美しさが全面に出ているのだ。自分がひかれたとしても不思議で
はない。ただし口さえきかなければの話だが…
「バカで悪かったな! ここんとこずっと落ちてねぇぞ。ワープもコツさえ覚えりゃ
どうって事ねぇよ」
パイロットコースでの授業を言っているのだ。
「はは、ちっとは元気になったな! それじゃ今夜ドライブに行こうぜ! フロルは
星を見るのが好きだってタダが言ってたんだ。僕が取って置きの場所を教えてやるよ。
そうだ、チャコ達も誘ってやろう」
四世はやや強引に決めてしまったのである。
“オレそんなに落ち込んでたように見えたのかな… ”
フロルは四世が気を使ってくれているのを知っていたのだ。彼女は中庭に面したガラ
スに写っている自分の顔を見た。
「なんだ、フロルにメッセージか?」
アマゾンが声をかけてきた。タダと同室なのだ。
「うん、毎日この時間に発信してるんだ」
タダは短いメッセージを打っていた。
「お前、マメなんだな。でも長いよな、一カ月なんて。お前らすれ違いになるからよ
けいだな」
アマゾンは同情していた。今までずっと一緒が当たり前だった二人だという事を知っ
ているからだ。タダが帰ってその二日後にフロルが出発するのだった。
「でもフロルって心配だな。あいつきっと言い寄られてるぜ、お前がいないからな。
特に四世なんかが心配だな」
アマゾンは冗談混じりに言った。タダは笑った。
「明日、いよいよだな、アマゾン。君の人工衛星が飛ぶ日」
タダは話題を変えた。工学科ではグループ毎に人工衛星を作っていたのである。専門
家がついているとは言えこれは並大抵の事ではない。しかし成功した時の喜びはひと
しおだろう。アマゾンは得意になって人工衛星の飛ぶ仕組みを説明していた。
「ま、オレみたいに一般の数学論にはついて行けない奴でも好きな事に関する数学分
野ならできてしまうのさ」
アマゾンは自分の机に広げた配線パネルや運動法定式のファイルを指さした。
「成功するといいね。いやきっとうまく行くよ。そんな気がする」
タダは気休めではなくてそんな気がしていたのである。
「おっ、ありがたい。タダがそう言うならきっとうまくいくんだな。よーし、明日が
楽しみだ!」
タダはアマゾンの資料に目を通していた。
「この人工衛星、二週間の設計寿命なんだね」
タダはあまりに短い設計寿命に驚いていた。
「そりゃそうさ。回収にコストがかかるし何より3年の全グループが飛ばすんだぜ。
寿命の長いやつだと空がいっぱいになっちまうさ」
アマゾンは笑った。
「それじゃ僕たちが大学に戻るころ、君の人工衛星は流れ星になるんだね… 」
タダは窓の外を見上げた。
“フロルの事を考えてるんだ… こいつ。かなりまいっているんだな、あまり顔に出
さないけど… ”
アマゾンは思った。新婚の夫婦とはきっとこんなのだろうな、と。
惑星探査というのは難しい授業ではない。むしろ医学科の実習や工学科の実習に比
べたら簡単なものだった。グループに分かれ、自分たちで行き先を探し現地まで小型
ボートで飛ぶのである。ただし緊急事態を想定している為、複雑な計器類を持たずに
選んだ場所の惑星探査を行う事が義務づけられているのである。タダは手渡された惑
星ツェットの地図をながめていた。ほぼ、宇宙大学星と同じくらいの惑星である。質
量、空気中の酸素含有量、太陽との位置関係… サバの総合政府は必死の思いでこの
惑星を探し出した事が想像できる。タダは地図をポケットにしまい込んだ。原始的で
はあるが今なお使われている方位磁針(方位磁石)と地図、そして最新式のガンが、
航空科の学生達に許された道具だったのだ。彼らはその原始的な道具を頼りにもう一
枚の白地図に自分たちの探索結果を記して行くのであった。危険地帯はあらかじめ記
載している。それ以外の地域ならどこに行っても良いのである。
「まるでお遊びだな。昔こんな遊びをやった事があるぞ、オリエンテーリングってい
うヤツさ」
グループのリーダー的存在のジローがばかにしたように言った。どこにでも仕切りた
がる者がいるのだ。タダは黙って他の3人の反応を見ていた。ジローを含む4人はタ
ダとは面識はない。しかしその場の雰囲気でジローをリーダーとして認めているよう
だった。
「今日はここだな。X−12.Y−29ポイント。着地するぞ」
ジローは狭い空き地にボートをに停めた。むっとするような熱気がドアを開けたとた
んに入ってくる。ここは夏なのだろうか? あるいは熱帯なのであろうか?
「イオウの匂いがする。きっとここは火山帯なんだ」
ルータスがあたりを見渡しながら言った。近くには低い山がある。煙を吐いていない
ものの活火山なのかもしれない。あたりは樹海で覆われており一歩その中に足を踏み
入れると迷ってしまいそうな所だった。
「危険だ… 」
グループを組んでからあまり口を開かなかったタダが言った。一同はタダの方を見た。
「なんだ、お前。臆病なんだな。たまに口をきいたかと思えばこれだ」
ジローが呆れたような口調でタダを非難した。ルータスもジローと同じような目をし
てタダの方を見ている。
“何だろう? 変な感覚だ。鳥や昆虫が普通と変わらない状態だから地震じゃあるま
い… でも何かおかしい… ”
タダは考えた。その様子を見ていたジローはあからさまに舌打ちした。さすがのタダ
もこれにはむっとしたのである。
「あいつはいつもこんな調子さ。気にするなよ」
グループの一人のリーアがタダに耳打ちした。彼はジローと同じクラスなので彼の事
を良く知っていたのだった。
「とりあえずこの場所を調査してみるか。大気調査ははぶいて、後は惑星探査のマニ
ュアル通りでやろう。この場所の資料はないからちょうど探査にはもってこいだ」
ジローは音頭を取っている。他のメンバーは彼に従っていた。みんなジローの気性を
知っているのだろう。彼は従う者には寛容なのだ。タダも別に反対はしていない。彼
もジローに従ってそこの探査をはじめていった。ここに下りた時に感じた違和感は消
えないのだが今は精神を集中して考える気がおこらない。自分ではっきりわかるほど
自暴自棄になっているみたいなのだ。これではいけない、タダは反省した。フロルが
いないとどうもおかしい…
樹海の中は暗い。光を遮る木々は所狭しと生い茂り、時折聞こえる鳥の鳴き声はけ
たたましく響いていたのである。彼らはガンを握り締めながら進んで行った。
「あまり遠くへ行かない方が良いような気がする」
最後尾にいるタダが言った。今度はジローがむっとした。彼は指図されるのが好きで
ない。
「どうしてお前はそんなに臆病なんだ? いったい何を恐れているんだ」
ジローはタダに強い口調でたずねた。
「何かはわからない。ボートからあまり離れない方がいい、ただそんな気がするんだ。
それに僕はお前ではない、タダトス・レーンだ」
タダは冷静に答えた。
「気がするだって? お笑いだぜ、全く。誰がそんな事信じるというんだ?」
タダはふっと笑った。彼は自分の言葉の反応を楽しんでいたのである。直感力の存在
を全く知らない者はどんな風に受け止めるのであろうかと。そんなタダをジローは薄
気味悪く感じていた。
四世はとある高原にフロルを連れて来た。地理に明るいチャコもこんな場所ははじ
めてだったのだ。今夜はクィーニはいない。それがフロルに対する思いやりだったの
だ。
「フロル、ここに寝転んで空を見てごらん。空を飛んでいる時に見られない星が見え
るよ」
四世はその場に転がった。
「ホントだ。ここに寝っ転がっていると目の前全部が星になっている… お前、誰と
ここに来てるんだ?」
フロルの問いに四世は答えない。かすかに笑ったのだが暗闇の為、その表情はわから
ないのだ。
「 … 一人で来るのか?」
フロルは静かに聞いた。その問いに四世は躊躇したのである。
「フロル… 君はいいよ。チャコ、君もだ」
四世はいつになくシリアスだった。闇夜のため彼の表情まではわからないのだがその
声はいつもの彼とは違っていた。フロルは思い出した。いつかタダが言っていたのだ。
四世の結婚は政治なのだという事を… 彼は貴族という故郷での身分の為、自分の意
思を封じ込めなくてはならない事もあるのだ。
「どういう事や?」
チャコは知らないらしい。フロルはチャコをにらんだがやはり暗闇が彼女の表情を隠
していたのである。四世は自分の立場をチャコに話していた。
「悪かったな、わて全然知らんかった」
チャコは初めて聞く四世の立場に同情したのである。
「はは、君がシリアスになる事ないさ。僕はこれでも結構楽しんでいるんだからな。
少なくともいろんな面で優遇されているんだ! 一度、僕の星に来ないか?歓迎する
ぜ」
“自由と引き換えに優遇されている立場なんて… ”
フロルは思ったが口にはださなかった。チャコも黙り込んでしまったのだ。人それぞ
れに色んな悩みをかかえているのだろう。それは本人だけにしかわからない事の方が
多いものなのだ。四世は彼なりに大学生活で自由時間を楽しんでいるのかもしれない…
「フロル、ごめん。何だか僕の愚痴になってしまったようだな。こんなつもりじゃな
かったんだ」
四世は謝った。いつもの彼の声だ。しかしきっと彼は何度もここに来て、一人の夜を
すごしているのだろう。それに比べたら自分は何をくよくよしていたのだろうと思う。
愛する者がいて好きな未来に進む事ができる。離れ離れになっているとは言え毎日メ
ッセージは送られて来るのだ…
“ごめん… 心配かけちまって… ”
フロルは声にださなかったが気遣ってくれるみんなに感謝していたのであった。
「方位磁針が狂ってる!!」
ルータスの言葉に一同は自分の方位磁針を取り出した。動かない物もあれば違った方
向を示す物もある。もはやそれはそのもの本来の働きをしていないのであった。
「ボートに戻らなくては!」
ジローが冷静を装ってみんなに話しかけた。しかし光をも遮る樹海の中だ、方位磁針
の使えない今それはたやすい事ではないのである。ただしタダの直感力を使わない場
合に限るのだが… しかし彼は黙っていた。今しばしジローの反応を見ていたい気が
するのだ。
“我ながら意地が悪いな… ”
タダは樹海の中を歩き回るジロー達の後について同じように迷っているふりをしてい
たのである。タダは今、直感力のない普通の人間を体験していたのである。しかしや
みくもに歩き回ってもどうなるものではなかったのだ。
「確かにこの方角だったぞ」
リーアが言った。
「違う! ここからあの山は見えなかった。きっとこっちだ!」
ルータスはタダに同意を求めるように言った。
「お前のいう事なんてあてになるもんか。このまま進んだらいいに決まってるんだ!」
ジローは自分に言い聞かせるようにして言った。強がってはいるものの自信がなかっ
たのである。タダはそんな様子を冷たい目で見続けている嫌な自分に気が付いていた。
ここにフロルがいればひっぱたかれそうだ、しかし彼女はいない。仲のよい友人もい
ない。タダはだんだん自分勝手な自分に腹がたってきたのである。
「帰ろう! ボートから随分離れてしまった」
タダは嫌な自分を振りほどくかのように明るい声で言った。
「帰るだって? 今まで帰る為に歩いていたんじゃないか! いまさら何を言ってい
るんだ?」
ジローは怒鳴った。
「見当違いの所を歩いていても帰れやしない。僕が先頭を行くよ」
タダはジローの前に立った。異様な雰囲気が流れている。リーア達はタダとジローを
見比べていた。
「君に何か良い考えでもあるのか?」
今まで口を開かなかったミキウスがタダに向かって言った。
「考えはないけど帰れる自信はある。ついて来る来ないは君たちの自由だ。でも危険
地帯ではないとはいえ一晩過ごすにはあまり良い条件とはいえないだろう」
タダの口調ははあくまでも冷静だ。ジローも完璧にタダに押されていたのである。
タダはボートに向かって歩いている間、ずっと反省し続けていた。忘れていた自分が
顔を出した事に対する嫌悪感。不本意に作られたグループとはいえ、その一員として
の自分を見失っていた事実。だからこそタダは今、直感力を最大限に駆使し彼らをボ
ートまで導いて行ったのである。
「直感力って… その… 便利なものだな」
ジローはタダに向かって手を差し出した。彼なりに反省している部分があるのだと言
うことがわかる。ジローはタダが思っていた通り単純な男だったのだ。
「 …… 」
タダは黙ってその手を握り返していた。彼も又、彼なりに反省していたのである。ル
ータスもリーアもタダに感謝していた。あのままジローの言う事を聞いて樹海をさま
よっていたとしたら夕食に遅れるだけの騒ぎではなかっただろう。
「おい、遅かったじゃないか」
アマゾンが声をかけてきた。
「いや、ちょっと迷っちまって… 変な樹海にもぐりこんでたんだ」
タダは言い訳した。
「でもお前がついていながら迷うのか?」
アマゾンはまさか、というような表情をした。つまらない自分の意地の為とは言いに
くい。
「いや、それは… 」
タダは言いにくそうだ。
「ま、お前でもそんな時があるんだな。それよりフロルからメッセージが入ってたぞ」
タダはアマゾンの笑い声を後に自分の部屋へ走って行った。
「タダトス」
ふいにタダは呼び止められた。ミキウスが立っている。
「方位磁針が狂った訳がわかったよ」
彼は唐突に言った。
「土を持って帰っていたんだ。気になっていたのですぐに調べたら結果が出た」
タダはミキウスが見せてくれたデータに目を通した。タダの入って行った樹海は火山
から流れ出した溶岩の上に広がっていたのである。しかもその溶岩には磁性を帯びた
鉄分が含まれていたのである。
「だから磁針が狂ったのか… 」
タダはミキウスの対処に驚いた。他のメンバーはそんな事すら考えられないくらい精
神が不安定だった。しかし彼は違っていたのだ。
“君みたいに自分の力を出し惜しみする奴は卑怯者だ”
ミキウスは口には出さなかったがタダにははっきりと彼の思考を読み取る事ができた。
彼はタダが並以上の直感力を持っているとは知らなかったのだ。タダはその場で血の
気が引いて行くのを感じた。
… 決定打だった!
「ミキウス、君はすごいよ。僕はそこまで考えつかなかったよ」
これがタダにとってポーカーフェイスを崩さずに言える最大の言葉だったのだ。ミキ
ウスはタダの言葉に満足したように自分の部屋に帰っていった。タダがもう少し落ち
着いていれば、彼のタダの直感力に対する羨望が見えていただろう。しかし今の彼に
それを望むのは無理のようだった。
タダはフロルから届いていた短いメッセージに目を通した。彼女からのメッセージ
はいつもあっさりとしている。彼女らしいと言えばそうなのだがタダにとっては物足
りなかったのだった。
“会いたい!!”
タダは痛切にフロルに会いたかった! 許されるものなら今すぐに飛んで帰ってでも
彼女を抱き締めたかったのだ。タダはフロルの笑顔を… くるくる変わる表情を思い
出していた。彼は素直な気持ちをメッセージに託したのである。ふだんの自分が決し
て口にしないような言葉が次から次へと浮かんで来る。きっとフロルはキザなセリフ
を並べてると言って笑うだろうな、しかしそれでもいい。タダはそのひとときに幸せ
を感じていたのだから… タダの心はだんだん平静を取り戻していったのであった。
アマゾンが人工衛星の打ち上げに成功してから二週間が過ぎていた。設計寿命が二
週間だからそろそろエネルギーを失って大気圏に突入する頃なのだ。
「フロルがここに来る頃にみえる流星がオレのヤツかも知れんな」
アマゾンが大学に戻る船の窓から空を見上げていた。他の学生達も一カ月間過ごした
惑星ツェットを名残惜しそうに眺めていたのである。その中にはジローやミキウスも
いた。
大きなワープから出るとすぐに宇宙大学星が見えてきた。タダは高鳴る胸を押さえ
るのに必死だった。彼は真横にいるアマゾンにその気配を気づかれぬようにする為、
つい饒舌になっていたのである。
「わかってるぜ、タダ。オレに見抜けんとでも思うのか?」
アマゾンはからかった。
「お前いつも燃えるような恋なんて無縁だ、なんて言っていたけどオレに言わせりゃ
充分に情熱的だぜ」
タダは言葉に詰まった。かっとして顔が赤らむのを感じる。
「アマゾンーッ!」
タダは船内だというのに思わず大きな声を出していた。
空港では出迎えの学生達でにぎわっていた。タダが見つけるより先にフロルは彼の
そばに駆け寄って来た。
「おかえり! タダ!」
フロルはタダの首に腕をまわした。タダは“ただいま”も言わずにフロルを抱き寄せ
キスをした。ガンガやチャコ達もやっぱりと言うような表情で彼らを見ていたのであ
る。
「 … バカッ! オレを窒息させる気か?」
フロルはタダの背中をドンとたたいた。
「あ、ごめん… つい… 」
それでもタダはフロルを離さない。タダはもう一度キスをした。さっきアマゾンに言
われた言葉が脳裏に浮かぶ。タダはそれを今はっきりと感じていたのである。彼はフ
ロルを抱く腕にさらに力を込めた。
「誰だ? タダを出迎えようって言ったの」
四世がみんなの方を見た。こうなる事がわかっていたのであるがそれでも誘い合って
やって来たのだった。タダはみんなに冷やかされながらアパートに帰って行った。フ
ロルの出発まで後二日なのだ。みんなは気をきかせてそれぞれのアパートに戻ったの
である。
翌日フロルはタダと共にショッピングセンターに来ていたのだった。
「買い物くらい済ませときゃずっと自由時間があっただろうに」
荷物持ちのタダは不満だった。
「でもよ、お前がいねぇからアパートに帰っても何もする気が起こらなかったんだも
ん」
「だからといって今までほったらかしにする事もないだろ!」
タダが言うのがもっともだけにフロルは反論できない。
“今頃みんなは僕達の事をうわさしているに違いない。こんな事は直感力を働かさな
くてもわかる。ふたりそろって授業に出ていないのだから… ”
きっと彼らはタダが最も希望したような事を想像しているに違いないのだった。
「それじゃ行ってくるよ… 」
フロルは努めて明るくしようとしたが無理のようだった。タダはチャコ達に彼女の事
を何度も頼んでいた。空港では二日前とは違って見送りの学生達であふれている。ジ
ローやミキウスも誰かの見送りに来ているようだった。
「フロル… 」
タダは最後にフロルを強く抱いた。フロルを励ます為というより自分に納得させる為
のような気がする。
「 …… 」
フロルは言葉にならない言葉でタダと別れたのであった。
空港を飛び立った船はすぐにワープに入ってしまう。それでもタダは腕に残ったフ
ロルの感触を感じながらずっと空港にたたずんでいたのである。
ミキウスは空港でぼんやり立っているタダを見つけた。さっき旅立った彼女の事を
考えているのだろう。そういえば二日前の空港では派手なキスシーンを演じていたっ
け…
“案外いいヤツかも知れないぞ”
彼はタダに対する考えを改めたのであった。
タダは知った。自分は自分で思っている以上にフロルの事を必要としているみたい
だという事を… しかしそれを伝えるべき彼女は今はいないのだ。
タダの心に一陣の風が吹き抜けて行くのであった。
終