星色物語bQ6
惑星の異変編
「それは神の領域だ」
グレン教官は他の教官たちの前で発言した。
「どちらが先というよりもこのさい一切放って置いたらどうなのだろう?」
宗教学科のミル教官が言った。
「それではテゥーシ恒星の第5惑星は滅んでしまうぞ」
スミス教官が反対した。
「強い者が残り弱い者が滅びる、これすなわち自然の原理なのではないか? それに
どっちが高等がわからない」
ミル教官が再びみんなに聞こえるような大きな声で発言した。
ことの起こりはささいなものだった。航空科の学生が遠距離に実習飛行をしている
時、気まぐれで立ち寄ったサバ系の惑星で新種の菌を見つけて来たのである。それは
一種のキノコなのだが寄生キノコだったのだ。その惑星は近くに位置する第6惑星ジ
ュジュの持ち物で、かつては食用となる家畜を飼っていた牧場だったのだ。しかし食
文化の変化や予算の都合でもう長い間、打ち捨てられていたさびれた星だったのであ
る。そこで宇宙大学の学生達は奇妙な生物に遭遇したのであった。それは家畜にして
は異常に発達した頭脳を持っていた。普通食肉にするのはほとんど知力の発達してい
ない下等生物なのだがそれらは違っていた。結局大学星にかえって来た時に自ら進ん
で受けた検査で検出された菌によってそれらの下等生物が異常な知力を持つに至った
という事が分かったのである。
「この菌は人体には全く影響がない。しかしいつ、どこからこんな菌が?」
第5惑星にはもともとそんな菌なんて存在しなかったのだ。
「この菌を滅ぼすのはたやすい。それよりどこから来たのかという事をしらべようで
はないか」
この件に関してはこの宇宙大学に一任したいという旨の依頼が第6惑星からやって来
たから仕方がなかったのである。何でも研究の為と称してやっかいな事を持ち込まれ
るのは今に始まったことではなかったのだ。
「タダ、今度おもしろい実験材料が手に入ったんだ」
ガンガが医学科の実験室にタダを連れて来た。微生物を扱う実験室だ。
「研究科の先輩が分けてくれたんだがな。これが実におもしろい」
ガンガはおもしろそうにひとつのケースを取り出した。研究科の先輩、すなわち5年
間の大学生活を終えた後にあと5年、卒業した学科に残って専門的に研究している者
たちの事である。
「これはキノコじゃないのか?」
タダはケースの中に入った小さな肌色の物体を見てそう言った。
「そうさ、キノコだよ。これが胞子を出す前の状態なんだ」
「別に珍しくないような気がするけれど?」
タダはガンガがにこにこしているのが気になっていた。
「ほら、こいつだよ。このキノコの菌が寄生したマウスなんだけど… 」
ガンガは一匹のマウスが入ったケースを取り出した。足に小さなリングをはめている。
医学科の実験用マウスは全てこのリングをつけていたのであった。
「ほら、見ろよ」
ガンガはケースの上の方にエサをつるした。するとマウスは下に落ちている細い枝を
口でくわえて叩き落としたのである。
「どういうこと… そうか。このキノコの菌のせいなのか」
タダは直感した。こんな知恵はこのマウスにはないのであった。
「そうなんだ。この菌が大量発生した惑星があるらしい。人体には無害だというもの
の家畜の一部の種類には爆発的に広まってしまったんだ。このマウスのように頭をの
っとられてしまってるんだな、つまり」
ガンガはもう一度エサをやった。マウスはさっきと同じようにエサを食べた。
「そしてこの後どうなるんだ?」
タダは聞いた。
「どうにもならないよ。このまま天寿を全うする。このままの知能でな」
ガンガは真剣な顔になった。タダは今ガンガと同じことを考えていた。これは明らか
に侵略なのだ。
その時マウスが突然激しいクシャミを始めた。何度も何度も繰り返している。
「喉にキノコが繁殖しているんだな。生命維持に支障がない程度にな」
タダは言った。クシャミによって胞子を吐き出したキノコが新しい寄生主を求めて空
中を漂うというものらしいのだ。
「そのとうり。ただしこの菌は血管に入らない以上繁殖はしない。寄生主が見つから
なかった菌は一週間で死滅する」
「つまり傷を持った者同士の接触とか性交渉によって感染するって事だな」
タダが続けた。こういうタイプの病原菌は過去に幾度となく人類を襲っていたのであ
った。ただしこれに関しては家畜の一部だけだが…
ふたりは感染していないマウスを出してきて菌を植え付けた。喉にキノコができる
のに何日かかるかとか、その知能の変化の様子が知りたかった為である。二人は研究
に没頭していった。時を同じくして隣の実験室でも医学科の学生達が先輩にもらった
キノコでマウスに菌の植え付けをしていたのであった。第三者から見ればまるでおも
ちゃをもらった子供達が遊んでいるようなものであろうが、まさにその通りであった。
実験が始まって三日目にマウスの知能はどんどんのびてきた。
「ほら、こいつ何だかオレの事、気に入ってるみたいだぜ」
フロルがマウスを手のひらに乗せた。そのマウスはエサを欲しそうにじっとフロルの
目を見ている。
「ほら、食えよ」
フロルはチーズを切って与えた。マウスは感謝を表しているかのような理知的な目で
彼女の方をじっと見ていた。
「照れるな、こいつに見つめられると… やっぱりこのキノコの影響ってすごいや」
フロルはマウスをケースに戻した。
「君は生き物が好きだからね、きっとこれを見せると喜ぶと思ってさ」
タダは生き物自体に興味はないのだがフロルが喜んでいる姿を見るのが嬉しいのであ
る。彼はちょっと得意だった。
「こいつ、アパートで飼いたいけどな… でもこの実験室から出しちゃいけないしな。
しかたねぇ、また来るしかないよな」
「そう、残念ながらそうなんだ。でもガンガはマウスだけじやゃなくていろんな種類
の動物で実験するって言ってたから今度来た時にはちょっとした動物園状態かもしれ
ないな」
「それは楽しみだ!」
フロルは単純に喜んだ。彼女は実験自体には興味はないのであるが可愛い生き物は好
きなのだった。
二人は殺菌室を経てから外に出た。さっきまでいた実験室の両隣も同じ菌の実験を
しているらしいのだ。今、このキノコはちょっとしたブームになっていたのである。
「逃げ出さなければいいのにな」
タダはだれでも考えるような不安を口に出した。ちょっとした不注意で科学はとんで
もないことを引き起こす。実験室から漏れた菌によって惑星が滅びるというケースも
まれではない。人類発展途上において科学者が細心の注意をはらっていてもこういう
事は起こりうるのだ。だから絶対的な権威を誇る宇宙大学の医学科だからこそ、科学
者や軍事的組織以外でこういう実験が学生の手によって行う事ができるのであった。
航空科1年のジャネットは今、スランプに陥っていた。女性の少ない航空科で男性
と肩を並べて勉強する事はかなりの努力が必要なのであった。小柄で体力のない彼女
はなんとか頑張ろうとしていたのであるがやはりどこかで無理があってとうとう大学
を休んでしまったのであった。彼女は挫折感と共に言いようのない孤独に耐えて、ア
パートにひっそりこもっていたのである。
「あれ?」
小さな物音がする。微熱があるせいかいつもなら聞こえない音にも敏感になっている
のであった。そっと音のする方を見てみると、じっとこちらの様子を伺っている小さ
な目に出会った。足にリングをはめたかわいいマウスである。それはまるで自分の身
を隠すかのように黒いハンカチをまとっていたのであった。ジャネットはビスケット
を取り出してマウスの近くに置いた。そして自分に敵意がない事を知らせる為に一歩
退いたのである。マウスは相変わらずジャネットの様子を伺っていたがやがてビスケ
ットに近付いて食べ始めたのである。おなかがすいていたのであろうかものすごい食
欲であった。ポロポロと菓子くずを落としながら食べている様子を見ていると、何だ
か航空科の授業でつらい目にあっている事を忘れてしまいそうである。
ジャネットはマウスが被っていた黒いハンカチを外してやった。不思議と抵抗しな
い。
「お前、賢いんだ。それにおしゃれだね、リングなんかはめてさ。きっとどこかから
逃げ出して来たんだね」
ジャネットはマウスに語りかけた。
「おなかが空いたらここにおいで。いつでもエサをあげるから」
彼女がそう語りかけるとまるでその言葉を理解できているかのように丸い目をウルウ
ルさせているのであった。ジャネットは愛しそうにマウスの頭をつん、とつついた。
マウスはされるがままになっていたが決して逃げようとはしなかったのである。
「マウスが逃げた!」
ガンガが夜中にタダのアパートにやって来た。彼のマウスではなくてその三日後に菌
を植え付けた近くの実験室のマウスだった。
「こんな不始末をしでかすなんて… オレと同じクラスの飼ってたマウスなんだ。し
かも20匹もらしいんだ。タダ、何とかならんか?」
とりあえず実験室に来て欲しいのだろう。
「オレも行くよ。いいだろ? ガンガ」
いつの間にか着替えを済ませたフロルがタダの横に立っていた。もちろんいやとは言
えない。
「ああ、悪いが頼む」
三人は医学科の実験室へと走って行った。実験室にはすでに逃げられたグループだけ
でなくて同じ研究をしている仲間たちが協力して発見に努めていたのであった。
医学科の教官と研究生によって構成された惑星探索チームは第5惑星で調査を始め
ていた。この菌がどこから来たのか、という事が主な目的なのだった。もともと小動
物だけしか生息していなかったこの惑星に、となりの第6惑星の住民が家畜を放牧し
たのである。わずかな監視員しか住んでいない惑星に観光客は無縁だった。
「観光客が持ち込んだという事はないな」
教官が学生に言った。
「まずないでしょう。しかし自然発生したのではないと思われます」
学生が答えた。
「とりあえず捕獲をしよう」
教官は研究用に何頭かの食肉用の家畜を捕獲した。そして研究の為に船に持ち込んだ
のである。その夜、船内において解剖された家畜の残骸は食用にならずそのまま船外
に捨てられたのであった。考えてみるとその行為は愚かなことであったが、今までた
かが家畜と思っていたものに対しそこまで注意が行かなくても不思議ではなかったの
である。翌朝もう一度、同じ種類のものを捕獲しようとして外に出た学生が襲われた
のであった。
「危険です! ここの家畜は我々の事を敵としてねらっています!」
襲われた学生は危うく命を落とすところであったが辛うじて逃げ果せたのである。家
畜の残骸は、そのままそこの惑星に住む家畜たちにとっての宣戦布告になったのだ。
研究班はあわてて宇宙大学に引き返したのであった。ここの家畜を敵に回してしまっ
た以上滞在するのは危険である。彼らは改めてその菌の危険を感じたのであった。直
接人体には影響がなくてもこういう形で悪影響を及ぼすものもあるのだ。研究班の報
告は大学内において発表され、研究材料として許されていたキノコの回収が行われよ
うとしていたのであった。
「ガンガ、僕たちのマウスにキノコが発生した!」
タダは自分たちのマウスの喉を調べて言った。
「それじゃ三日以内に逃げたマウスを捕まえないと菌が外に出てしまうぞ!」
ガンガは実験室で実験を手掛けた者にそれを伝えた。
「あそこだ、フロル。そっちに回って!」
タダの直感力が冴える。ガンガや他の学生達もタダの指示に従って次々と捕獲が進ん
でいたのであった。
「こんなことずっと昔にやったことがあるような気がする」
手に網を持ったフロルはのんきな事を言っている。
「そんな事言うんじゃない!」
タダはフロルの頭をくしゃっと触った。とはいうものの何となくみんなは半分楽しみ
ながら捕獲しているようだった。人類に影響しない菌と聞いていたせいもあったのだ
ろう。そんな態度にガンガはいらだちをおぼえていたのであった。
「ガンガ、後何匹だ?」
タダは聞いた。さっきからずっと神経を使っているので疲れが出て来たのである。い
くら直感力が冴えていても捕らえられなくて逃がしてしまえばもう一度やり直しなの
だ。
「あと3匹だ」
ガンガが答えた。
その時、医学科の教官にマウスに逃げられた事を知らせに行った学生が青い顔で帰
って来た。
「大変だ。この菌に侵された惑星の家畜が氾濫を起こしたらしいんだ。研究生が襲わ
れて帰って来たらしい。大至急マウスを全部捜し出すようにとの事だ! 逃げたマウ
スが迫害をうけていたとしたら大変な事になる!」
その学生の言葉に今まで遊び半分のムードは飛んでしまったのだった。遅れてやって
来た教官たちは学生達に発破をかけながら捕獲作業を進めて行ったのであった。
「1匹たりない… 19匹いるのに… 」
逃がしてしまったグループの一人が申し訳なさそうに言った。
「タダ!」
ガンガはタダの方を向いた。
「わからない。ここにはもういないのかも知れない」
タダは疲れていた。遅れてやって来た石頭、ことグレン教官もタダと同じ意見なのだ。
「逃げたマウスを探すのなんてできるのだろうか… 」
一人の学生が言った。
「しなくてはならない。少なくともこの大学内にいると思う。超能力開発コースも動
員して捜し出すしかないな」
医学科の教官がマウスを取り出して喉を調べながら言った。まだキノコらしきものは
見受けられない。しかし2〜3日後には確実に生えて来るのだ。残された時間は少な
いのであった。
「今日も来たんだね」
ジャネットは嬉しそうに冷蔵庫からハムを取り出した。マウスは待ってましたとばか
りにそのハムに飛びついた。嬉しそうに大きな前歯でかじっている。時々彼女の方を
見上げ、安心したような顔をして食べている。
「あんたがしゃべれたらいいのにな。私ね、友達が少ないんだ。ここに入学してから
ずっとついて行くのに必死で友達を作る暇なんてなかったから… 」
ジャネットはもう一切れ切ってやった。今日は微熱もなくて体調は戻って来ているみ
たいなのだ。しかし大学には行きたくない、軽いノイローゼにかかっているのかも知
れない。ジャネットはマウスの前にそっと手を出した。マウスはその手のひらにチョ
コンと乗ったのである。
「私も他の航空科の人達みたいに賢く生まれたかった… ここに入学して改めて自分
が凡人以下だって事を思い知らされたんだ。あんたにはいってもわかんないでしょう
けどね。同級生がみんな賢く見えて仕方がないなんて情けないよね… 」
ジャネットはマウスを抱いた。こうやっているとずっと前から飼っていたペット見た
いな気がしてくるのだ。マウスもまるで慰めるかのようにジャネットの目を見つめて
じっとしている。彼女は小さな幸せを見つけた。ジャネットは再び大学で頑張って行
く勇気がわいて来たのであった。
「大丈夫か? タダ」
フロルは昨夜遅くまでマウスの捕獲に追われていたタダを気遣っていた。
「何ともない」
タダは短く答えた。やはり疲れているのだろう。超能力を使った後は非常に疲れるも
のらしいのだ。フロルは気を利かせてそれ以上何も言わなかった。
「心配するなって。最近変だぞ、妙に静かになっちまって、聞き分けのいい君なんて
君らしくないぞ」
タダは冗談交じりに言った。しかしそれは本当の事なのだ。2度目のプロポーズをう
けてから、彼女自身に内面的な変化が現れているのだった。
「オレらしくない? でもオレわかんねぇや… そんなに変なのか?」
確かに自覚している所もあるのだ。今まで漠然と考えていた結婚が現実の事として迫
って来ていたのである。言いようのない喜びと不安がフロルを悩ませていた。
“本当にオレらしくねぇな… ”
「でも、しおらしいフロルも好きだよ」
タダはフロルの背中を両腕で包み込んだ。彼の腕におさまるくらい彼女は小さくなっ
た。
「オレもお前の腕が好きだ」
「なんだ、腕だけなの?」
タダは不満そうだ。フロルはいたずらっぽく笑っていた。
もうすぐ授業が始まる。今頃は手の空いた教官が必死になっているころだろう。超
能力開発コースの教官は直感力に優れているものばかりだ。しかしなぜか安心できな
いタダであった。
ジャネットは上級生と週に1度、合同授業を受けているのであった。アパートでだ
らだら過ごしていると同級生との差が開く一方である。彼女はスランプを脱しようと
自分に言い聞かせて今日は授業に出ているのであった。
航空科でも昨日の“マウス事件”はちょっとした話題になっていた。休んでいたジ
ャネットは知らなかったがそのマウス捕獲者には医学科から謝礼が出るために、遊び
感覚で捕獲に協力する学生が中庭や食堂をうろついていたのだ。
「お前ずいぶんてこずってるな」
フロルがジャネットに声をかけた。航空科では数少ない女性なのだ。当然目だってい
る。突然上級生に声をかけられたジャネットはなんて言ったらいいのか戸惑ってしま
った。彼女は即答できるタイプではないのである。
「オレさ、1年の時、この授業に落ちまくったんだぜ。だからお前の今の気持ち、よ
ーくわかるぜ」
フロルはシュミレーションの前でもたもたしているジャネットの横に座り、操作方法
を教えてやった。自分がつまずいた所を彼女が困っているのでフロルには的確に教え
る事ができるのだ。
「ほら、これがポイントなんだ。ここのタイミングさえあえば後は何て事ねぇよ」
フロルはジャネットの手に自分の手を重ねて教えてやった。
“この先輩も苦労したんだ… きっと色々悩んだんだろうな”
ジャネットは自分のものさしでフロルをはかっていた。
「オレの顔に何かついてんのか?」
ジャネットは、つい自称劣等生だった先輩をじっと見ていたのだった。
「い… え、ごめんなさい。先輩も人知れず悩まれたのかなと思って… 」
ジャネットは謝った。
「いや、オレはみんなに言いまくったぜ。一人でうだうだするの嫌いだもん。すると
誰かがヒントをくれるんだ。すると少しは分かった気になってくる、そんなもんじゃ
ねぇのかな?」
フロルはあっさりと彼女の思い込みを否定した。明らかに性格が違うのだ。
「あれ?」
フロルはジャネットの胸元についている白い毛を見つけた。
「何か飼ってんのか? お前」
フロルは聞いた。今はマウスの事があって敏感になっている。
「いえ、飼ってるんじゃなくて… 私のアパートにマウスがはいってきたものだから…
でも、別に汚くしてる訳じゃないんです」
「ひょっとしてそいつ… 足にリングをはめたマウスじゃねぇだろな?」
フロルの胸は高鳴った。
「先輩のだったんですか? 銀色のリングがおしゃれなマウス」
「やった!」
フロルはつい大声を出した。確かに実験室のマウスなのだ。
「それで今、どこにいるんだ? そいつ!」
フロルは彼女が何も知らないらしいので今までのいきさつをかい摘まんで教えてやっ
たのだ。
「… そうだったんですか… やっぱり最初からあんだけ賢いマウスなんていないん
だ」
「そういう事、地道に努力しねぇと賢くなれねぇんだ。お前もオレもな」
フロルは笑いかけた。ジャネットもつられて笑った。
「それじゃ今夜、お前のアパートに捕まえに行くからな」
そして最後のマウスがそろったところでその全てのマウスに抗生物質が注射された。
彼らはすぐに元のマウスに戻るのだ。ジャネットの申し出によって彼女のアパートに
いたものだけがペットとして飼われる事になった。たった二日の間に彼女はそのマウ
スが気に入ってしまったのだった。
「最初の議題に戻りましょう」
石頭が教官たちの前で言った。第5惑星に発生した菌はどこから来たのかという事だ。
「こんな事は考えられないだろうか? この宇宙には人型以外の宇宙生命体が数多く
生息している事は証明されている。そしてそんな宇宙生命体が我々人型タイプの者に
挑戦しているのだとしたら… 」
「するとこのマウスに発生したキノコは意志を持っているという事ですか?」
一人が聞いた。
「かも知れない。正確にはキノコというよりその胞子の中にいる菌なのだがね」
「過去に何度もいろんな星でいろんな病気が発生した。そして滅びてしまった星があ
る事も分かっている」
「しかし我々人型タイプの者は菌の助けを借りなくては生きていけないぞ」
「だから我々に牙をむくタイプもいるという事だ」
「するとそんな菌は宇宙船にでも乗ってやって来たというのかね? 自分の意志を持
って」
「意志の有無はわからんが… 宇宙船じゃなくて隕石か何かにくっついてきたのかも
しれない」
「もともと宇宙空間に生息していたものかもしれんな。宇宙から降って来るほこりは
年間何万トンにもなる、その中にまぎれこんでいるかもしれん。案外真空状態だと一
週間以上生きられるタイプかもしれんぞ」
会議場にはいろんな意見が飛び交っている。
「皆さんがご存じのようにこの菌は、知らぬ間にこの惑星に蔓延していた。一体どれ
ほどの年月がかかったのかは分からない。しかし言える事は家畜の脳にもぐりこみ、
その動物の脳を異常に活性化する事ができるという事実だ」
宗教学科のミル教官は数日前に行われた会議で発言した意見を撤回した。
「やはり放っておく訳にはいかない。我々に対し敵意を抱き挑んで来る以上戦わねば
なるまい。そのためにはこの菌の意志は認めない事としようではないか」
「賛成… 」
「賛成」
大学側の処置は早かった。直ちに第6惑星に緊急部隊が向かいその処理にあたった
のである。インベーダーに対する扱いは抹殺であった。もし彼らに意志があるのなら、
今この惑星は断末魔の悲鳴が響き渡っていたに違いない。
そして第6惑星は元に戻ったのである。
「結局こいつはただのマウスじゃないといけないんだな」
フロルはケースの中にいるマウスをじっと見ていた。ここは実験室ではない、フロル
のアパートなのだ。彼女も結局ジャネットのまねをして申し出たのであった。
「本当に飼う気なのか?」
タダは聞いた。
「悪いのか?」
「ここは独身者用のアパートだからいいけど… ファミリー用に引っ越しする時が大
変だな… 」
タダは心配性だ。どうしても先の事が気にかかる。彼はフロルが飼っているペットと
の共存を予想し、大きくため息をつくのであった。
終