星色物語bR3



アマゾン 編    



 テラ系シュシュの空は驚くほど澄んでいた。
「悪いな、二人をダシにしちまってよ」
アマゾンは謝った。
「そんな事ないよ、充分に楽しんでいるさ」
タダは答えた。二人は今日からの一週間、大学を休んでアマゾンの故郷に滞在す
る予定なのだ。
「そうそう、気にすることはないぜ。オレもやっとパイロット・ライセンス取れ
たんだもん。後の授業は必修じゃねぇから全部落っこちても卒業できるんだも
んな」
フロルは明るく言った。大学生活もあと半年たらずになっており、フロルも無
事にライセンスを取る事ができたのである。
「ほんっとにバカな息子でごめんなさいよ。わざわざ大学のお友達に頼んだり
して… 」
彼の母親が恐縮している。
「こちらこそ済みません。ごやっかいになります」
タダは挨拶した。人が良さそうでおせっかい焼きみたいな人柄が伝わってくる。
アマゾンによく似た逞しそうな母親だった。彼女はアマゾンの頭をゴツンとた
たいたのである。
 アマゾンはずっと以前から気になっている女性を誘う為にタダとフロルが必
要だったのだ。つまりデートに誘いたいのだが、大学に行っているのでそうい
う訳にはいかない。それに随分長い間帰っていなかったので何となく誘いにく
い所があったのだ。
「うまく話を合わしてくれよな、タダ。きょうからお前たちは新婚旅行でここ
に来ていてオレがその案内役だからな。そしてフロルの為に女の案内役が欲し
いってお前が言ったって事にしといてくれよ」
アマゾンはねんを押した。白々しいくらいにありふれたお膳立てなのだがアマ
ゾンは必死だったのである。
アマゾンは拝むようにして頼んでいた。

シュシュの夜は長い。二人は早い食事を取って知覚を散策していたのである。
「タダ、新婚旅行ってのがあるんだな。テラには」
どうやらヴェネにはないらしい。ないというより自由なのだ。つまり行く者も
あれば行かない者もある、そんな具合であった。
「お前そんな事ちっとも言わなかったじゃねぇか!」
フロルはタダを責めた。
「だってわざわざ行かなくても僕たちって実習でいろんな星にいってるじゃな
い。だからいいと思ってさ」
タダは弁解したのである。 
「ま、いいけどね。でもアマゾンって純情なんだな、ずっと前から好きだった
のに何もしないなんて」
「フロル、男ってね。意外と純情なものなんだよ」
タダはフロルをたしなめたのだった。
「でもお前、すぐにプロポーズしたし結婚前に手ぇ出したじゃん。オレみんな
そんなのだと思ったぜ」
そうだった。タダは墓穴を掘ったと知り、話題を変えたのであった。

 シュシュの朝食は豪快なものだった。いきなり大きな肉の塊が出てくるので
ある。狩猟が盛んなシュシュの者らしく体中縦横無尽に傷の入ったアマゾンの
父親が、しきりに二人にそれをすすめたのだった。それが客人を歓迎するこの
星の作法だったからだ。しかしこれには二人とも閉口したのである。
“いつものシンプルな食事と差があり過ぎる”
タダは小声で言った。
“オレ、無理して食べたけど胸が悪いや”
フロルも気を使っていたのである。しかしアマゾンは久しぶりの故郷の味を楽
しんでいたのだった。

「僕の妻の為に時間を取ってしまって申し訳ありません」
タダは握ったその手で思いを伝えたのである。アマゾンの好きな彼女、ヒナは
星間用語が通じない。ヒナは驚いた。生まれてこのかたテレパスと接触した事
がなかったのだった。彼女はあわててアマゾンの方を向いた。
「ヒナ、今日はよろしくな。オレの親友たちなんだ」
アマゾンはほほを赤らめて頼んでいた。
「わかってるよ、アマゾン。あたしがこの人達の気に入りそうな場所につれて
ってやるよ」
ヒナはかわいくウインクした。健康的な小麦色の肌をした美人である。アマゾ
ンでなくても見とれてしまうくらいにヒナは人目を引く容姿だったのだ。
「アマゾンって面食いだったんだ!」
フロルはからかった。アマゾンは大きく咳払いをしてフロルの野次に耐えてい
た。星間用語のわからないヒナは変な顔をしてそんな二人を見ていたのであっ
た。フロルは少しでもこの星の言葉を理解しようとアマゾンから小さな辞典を
借りていた。タダのようにテレパスだったら便利なのになと思ったが仕方のな
い事である。
 ヒナは山に囲まれた古い建物にフロルを案内した。どうやら民族博物館のよ
うだ。中にはきれいな衣装が展示してありここはタダの方が気に入っているみ
たいだった。タダは他の観光客と一緒にそれに見入っていたのである。
「ほら、こっちに来てみなよ!」
ヒナが呼んでいる。中庭になっているそこには見た事のない小動物が放し飼い
になっていたのだった。
「わぁ… かわいい!」
すぐにフロルが飛びついた。子犬よりも小さな熊みたいな動物がしっぽを振っ
ている。彼女が抱き上げてなでるとうれしそうに目を細めていた。ヒナも同じ
ように抱き上げてなでていた。フロルとヒナは顔を見合わせてほほ笑み合った。
ずっと昔から友達だったみたいに自然な表情の二人だった。
“言葉が通じないのは不便だな”
フロルはこの星にくる前に少しでも勉強しておけばよかったと反省したのであ
る。
「あんた、動物が好きかい?」
ヒナは聞いた。フロルは言葉よりも彼女の動作でその意味をよみとったのであ
る。
「好きだよ」
フロルも同じく動作で言葉を表した。何も知らない人が見たらふざけあってい
るみたいだが二人は大まじめだったのである。

 ここの昼食もすごかった。アマゾンは気を利かせてあっさりしたものを注文
してくれたがそれでもタダ達にとっては豪快すぎたのである。
「よっぽど肉が好きな人種なんだな」
フロルは肉の塊をつつきながらため息をついた。
「悪いな、フロル。オレ達の星の料理ってこんなのが多いんだ。町に行ったら
色んな星用のレストランがあるんだけどあいにくここは一軒しかなくてね」
アマゾンは食の進まない二人を気の毒そうに見ていたのである。
「なぁ、アマゾン。フロルは動物が好きみたいだから山の方に行かないか?」
ヒナが観光地図を見ながら言った。すぐ近くに観光牧場があるのだ。
「そうだな。シュシュにはめずらしい動物がたくさんいるもんな。いいかも知
れないぞ」
アマゾンはやっぱりヒナと来て良かったと感じていた。大学に入学してからず
っと離れていたのである。付き合ってくれとか言った事はなかったがお互い意
識しあっていたのは確かだったのだ。しかし奥手のアマゾンのせいで彼女はや
きもきしていたのも事実だったのだ。それが今回の“新婚旅行”のお陰で違和
感なく会話する事ができたのだった。
「やっぱりヒナに頼んで正解だった!」
アマゾンは思わず彼女の肩に手を回した。しかしその手は哀れにも拒否された
のである。
“オレは嫌われてるのかな… ”
アマゾンは自信をなくしたのであった。
“せっかく二人に協力してもらっているんだぜ… 少しは脈があると思ったの
にな… ”
アマゾンの変化をいち早く見抜いたタダはヒナの方を見た。彼女もアマゾンの
変化を気にしているのだ。
“これは… ”
タダは悪いと思ったがヒナの心をのぞいたのであった。
“なんだ… ”
何のことはない、彼女はアマゾンに好意を持っているのだ。

 観光牧場はかなりの奥地だったがさっきの所よりはにぎやかだった。平日と
は言うものの、めずらしい動物が多くいたので母親に連れられた小さな子供が
走り回り歓声をあげていたからである。母親達はしばし育児を忘れおしゃべり
に夢中になっていたのであった。
「かわいいな」
フロルが言った。名前はわからないがウサギみたいな動物がはねている。ヒナ
もフロルの横に行ってその動物を抱いていた。
「オレはあの動物になりたい!」
アマゾンはタダにもらしたのである。アマゾンに言うべきか言わざるべきか…
  タダは自分だけが知ってしまった事実に悩んでいた。

「!!」
さっきまでおしゃべりに夢中になっていた母親が叫んでいた。どうやら子供達
がいなくなったらしいのだ。そういえばさっき目の前を通り過ぎて奥の森に入
って行った子供がいたな、と思ったフロルはその事をアマゾンに告げた。
「森に入って行っただって!」
アマゾンから知らせを受けた係員は驚いた。彼はすぐにコンピューターをチェ
ックしたのである。
「オフになっている… 」
係員たちは顔を見合わせた。シュシュには危険な動物も多くいる。そのために
この観光牧場では目に見えないバリアが張ってあって入り口以外で出入りでき
ないようになっていたのである。
 それは非常に危険な事態だった。直ちに張られたバリアの中で行方不明にな
った子供達の母親は震えていたのである。係員たちはあわててガンを取った。
しかしコンピューター管理されていたため人数は少なかった。
「オレが加勢するぜ」
アマゾンが係員に言った。彼は狩猟が得意なのだ。係員たちは喜んでガンを渡
してくれた。この星の男ならたいがいの者がガンが使える。
「僕も行くよ」
タダもガンを持った。彼はアマゾンほどじゃないがガンが使えるのだ。
「あたしも行くよ!」
ヒナがガンに手を伸ばそうとしたのをアマゾンは止めた。
「何が出てくるかわからないんだぜ。ヒナは行くんじゃない!」
アマゾンはヒナの手をつかんだままで言った。
「でも… 」
「お前がガンを使えるのは知ってるさ。でも射撃場とは違うんだぜ。オレはお
前を危険な目にあわせたくない」
アマゾンはそう言って森に入って行ったのである。ヒナはそんなアマゾンの後
ろ姿をじっと見ていたのであった。
“好き”
フロルは辞典を取り出してその単語の所を指さしてヒナに見せた。彼女はこく
りとうなずいたのである。フロルは彼女の肩をポンとたたいてにっこり笑った
のであった。
 森は深かったがタダは持ち前の直感力で子供達の居場所がすぐにわかったの
である。途中に出て来た動物はあまり危険なものでなかったためにガンの世話
にはならなかったのだ。道に迷って帰れなかった子供達は無事に救出され、母
親の元に帰っていった。
「あたし、子供ができてもあんないいかげんな母親にはならないからね!」
ヒナは大袈裟に泣いている母親達を軽蔑するかのように見ていたのである。
「じゃあ… 」
ヒナはどんな母親になるんだい? と、聞こうとしたアマゾンだったが彼は言
葉が詰まって出て来なかったのである。
「アマゾン、ヒナがお前の事、好きだって言ってたぜ」
フロルがさっきの事を教えてやった。アマゾンは急に自信を取り戻したのだっ
た。
「ヒナ、大学を出たらオレはここに帰ってくる。それまで誰とも付き合わない
でいてくれないか?」
そう言ってアマゾンはヒナの肩に手をまわしたのである。幸い今度は拒否され
なかったのだ。彼女はアマゾンの目をじっと見つめ、やがて大きく首を縦に振
ったのである。

「済まなかったな、タダ。でもオレこんなにうまくいくとは思っていなかった
よ」
アマゾンは上機嫌だった。昨日の事は夢ではないのだ。アマゾンはタダと二人
で居間でくつろいでいたのである。フロルはヒナと共に出て行ってしまったの
だ。言葉は通じないものの妙に気が合う二人だった。
「そういえばフロルと似ているね」
タダが言った。気が強くてはねっかえりでそのくせかわいいところが、である。
「ほんとだ。だから気が合うんだな。あれで話が通じたらこわいのがあるだろ
うな」
アマゾンは大きくうなずきながら同意したのである。彼は胸のつかえが取れた
せいかいつもよりハイであった。とりあえず付き合ってみるという約束ができ
たのである。これはアマゾンにとって大きな収穫であった。タダに言わせれば
もっと前にアマゾンが何とかしていればいい方向に行っていた… のであるが。

 ヒナの車がアマゾンの家の前に止まった。
「早い帰りだな」
アマゾンは二人を出迎えようと腰を上げたのである。その時だ、タダはものす
ごい衝撃を受けたのだった!
「アマゾン、アマゾン!」
ヒナが叫んでいる。
「どうしたんだ?」
アマゾンは飛び出した。
「フロルが… 」
と言いかけて彼女は口をつぐんだのである。フロルは車からおりて来てタダの
前に立った。

「タダ、お前… 男か女か完全体か、どれだと思う?」
フロルはタダの首に手を回して言った。タダは自分を押さえ切れず、小さくガ
ッツポーズを作りフロルを抱き締めたのだった。
「母さんがいたからわかったんだ」
ヒナが言った。ヒナの家で調子をくずしたフロルに母親が気づいたらしいのだ。
「タダ、やったじゃないか! しかしお前たちってさぁ… 」
アマゾンはつくづく話題に事欠かない二人だと痛感したのである。ヒナはフロ
ルのおなかの辺りを見つめていた。あの中に小さな命が宿っている。それは彼
女をおおいに感激させたのであった。

 予定を早めて二人は大学に帰る事にした。アマゾンは後少しシュシュにとど
まってヒナとすごす予定になっている。
「あいつら今頃うまくやってるだろうな」
帰りの船の中でフロルは楽しそうにしゃべっている二人を想像しながらタダに
話しかけた。しかしタダの頭の中からアマゾン達の事はきれいに消えていたの
である。
“僕が父親になる!”
タダはその喜びでいっぱいなのだった。今は大学の事もキャプテンになるとい
う夢も、自分たちの新しい命に比べたらひどく小さな事のように思えて仕方が
ないのである。まさかこんな気持ちを味わう事ができるなんて予想できなかっ
たのであった。
「おい、返事くらいしろよな」
フロルはタダの肩を揺らした。彼は我に返りフロルを気遣ったのである。
「フロル、おなか空いてないか? 何か買ってこようか? それとも食堂に行
くかい?」
タダはすごくけなげだった。
「今は何も欲しくねぇよ」
フロルの返事にタダの表情が曇った。
「何か食べないと… 君はシュシュに行ってからあまり食べてなかったじゃな
いか」
タダは心配したのである。
“卒業したらすぐにパイロットになるという夢が消えちまったな… ”
フロルは心の中でつぶやいたのであった。

 大学でちゃんとした検査を受けた結果、フロルの体は陽性反応を示したので
ある。もちろん異常もない。
「ほんとうにおめでとう。まさか在学中にベビィができるとは思わなかったな。
つくづく君たちは見ていて飽きないよ」
グレン教官は驚きを隠せなかったものの喜んでくれたのであった。
「前例はなくはないもののめずらしいケースだ。体に気をつけて卒業までの授
業に励んで欲しいものだな」
そう言って彼はフロルを励ました。外見上の変化は全くないものの内面的な変
化は確実に起こって来ている。しかしタダがついていればむちゃな事はさせな
いと安心する石頭だったのであった。

「そうだ、タダが悪い!」
仲間達の前でフロルはタダを責めていた。みんなは喜びの態度をタダを冷やか
すという形でとっていたのである。タダは本当の事ゆえ反論はできなかったの
だ。
“こんな僕になるとは思っていなかったな”
タダは冷やかしを一身に受けながら優越感に浸り幸せを感じていたのであった。
                                終



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