星色物語bR5



卒業式編    



 宇宙大学星暦で二年半に一度、テラ暦で現すと一年に一度、卒業式は行われている。
その日だけは何があっても不動の日であり変更という事はないのであった。この大学の
卒業生全員は大学内にあるメインコンピューターに登録されており、その証明書である
卒業証書は各分野において絶大なる効力を発揮する事ができるのだ。宇宙大学とはそれ
だけの価値のある最高学府であり、まぎれもなくエリートとして故郷の星々で活躍でき
るのであった。

「オレ絶対、卒業式に出るからな。だって一生に一度しか経験できないんだぜ」
フロルの言う事はもっともなのだった。だからタダはあえて止めなかったのである。し
かしそのころは出産間近なのだ。かねてよりシベリースで出産すると言っていたのでタ
ダとしては一足先にシベリースに戻っていてほしかったのだ。
「フロル、考えたら君は入学テストの時からずっと何かにつけて話題の人だったな」
石頭、ことグレン教官はフロルに向かって言った。ここはグレン教官の部屋なのだ。二
人は入学以来ずっと事あるごとにここに立ち寄っていたのである。二人だけではない、
白号でテストを受けた者は学科にかかわらず彼を頼りにしているようだった。
「卒業しても遊びに来るから!」
フロルは明るく言った。屈託のない笑顔がいつも周りを幸せな気分にしてくれる彼女は
来月にはもういなくなる。グレン教官はなんと5年という歳月の短いことかと、感じず
にはいられなかったのである。まさか5年前、こんな気持ちになるとは思いもしなかっ
たのだった。本来なら筆頭教官がテストに加わるという事はめったにない事なのである
が、自分の宇宙大学時代の先輩である長老の養子が受験するというのであえて加わった
のだった。
「僕はここに入って本当によかったと思っています。漠然と考えていた将来を方向づけ
る事ができた」
タダはすでに就職が決まっていたのであった。テラ系総合政府所属シベリース公営航空
局にである。ここは宇宙大学の推薦状があれば入る事ができるのだ。確かな人材を確保
したいシベリース航空局は、その場限りの付け焼き刃の知識を重視する一般企業みたい
なテストは行わないのであった。フロルに関しては出産を終え、勤務できる状態になる
まで推薦状は発行されない。したがって保留状態になっていたのである。
「確かにそうだな。タダみたいに将来の道がはっきりしてておまけに家庭まで作って卒
業して行く学生は少ないからな。どちらかというと要領がいい方だぞ」
要領がいいなんて、今まで言われた事はなかったのだが当たっている。
「オレのおかげだぜ。感謝しろよ」
横でフロルが言った。これも常々タダは感じていた。彼女は自分にとってそういう存在
だったのだ。
「これを… 」
グレン教官は手紙の束を出して来た。王様、マヤ王バセスカからである。彼はいつもグ
レン教官宛に10通送って来るのだった。今回のはいつもよりひとまわり大きく分厚か
った。
「来月から私宛に送られるのが減ってしまうって書いてあったよ」
グレン教官は言った。ヌー、トト、赤鼻以外の者はそれぞれの星に帰ってゆくからだ。
出会いがあれば別れもある。培ってきた友情というものは変わりはないものの、ばらば
らになるのは事実なのだから…
「卒業したくねぇな… 」
フロルがぽつりと言った。
「もっとここでいたいや。オレの人生でこれだけ充実した時はなかったんだ。何より親
友ができた。愛されるだけでなくて愛する事も知った… 」
フロルはちらりとタダの方を向いた。こういうセリフを臆面もなく言えるのはフロルな
らではの事だろう。
「卒業してもぜひここに立ち寄ってほしいものだな」
グレン教官は社交辞令でなく本心から言っていたのである。

「工学博士か、アマゾンがなぁ… どっちかってゆうとハンターの方がおうとるのにな
ぁ」
チャコが首をかしげていた。ここはいつもの喫茶室である。
「ぬかせ、お前こそどうなんだ。チャコ・カカ教授だろ!」
チャコはまよったあげくに故郷のクエスで天文学を研究しながら大学教授への道を選ん
だのだ。婚約中のクィーニはハイスクールの先生になる予定だった。
「トト、赤鼻、私たちは居残り組だ。これからもよろしく頼む」
ヌーが二人を交互に見ながら言った。自分は高僧になるために、赤鼻は星間弁護士にな
る為に、そしてトトは植物学の研究を続ける為にここで後5年間を過ごすのだった。
「四世はすぐに政界に入ってしまうんだな」
ガンガの言葉にみんなは彼の方を向いた。自分の意思ではどうにもならない境遇におか
れている四世は、生まれた時から未来が決まっていたのであった。それは王様も同じ事
だったが… 
「そのとおり、そしてまだ見た事のない姫と婚約している。しかも王様の星の姫なんだ
けどね」
それは初めて知る事実だった。彼は隠していたわけではないのだが話題にしなかったの
である。見合いも無しの婚約だった。
「でもその婚約者、王様がきめてくれたんだ。だから僕の好みもちゃんと伝えてあるか
ら心配ないと思うよ」
四世はそれを不服に思ってないようだ。彼は運命を受け入れるタイプの人間のようだっ
た。
「ガンガは医者になるんだったね」
「そう、長寿の研究をしながら金儲けもしないとね。それに早く子供を作らないとせっ
かくできた子供とのふれあいの時間が少なくなる」
ガンガの時間は限られていた。しかし彼の事だ、時間をうまく使って無駄にはしないだ
ろうとみんなは思っていた。それぞれの道を歩いて行く仲間たちはこういった会話をす
る事も後わずかであることを口にはせずに感じていたのである。
 ここにいるすべての者が王様からの手紙を受け取っていた。もう長い歳月、顔をみた
事もないのだがそれでも彼は自分たちの一員だったのだ。もっとも四世だけは里帰りを
したときに、政治がらみで会うことができたのであるが… 
 
 タダの所に届いた内容にもその友情はあふれていた。しかし一カ所だけ気にかかる事
が書かれてあったのは事実だった。タダはその内容についてどう処理すればいいのか少
し判断に困っていたのである。ずっと前から気づいてはいたもののタダ自身の胸にしま
っておいた事だった。しかし王様が知ってしまった今となってはそういう訳にもいかな
いのではないか、とも思うのだ。卒業までに何とかしなくては… しかしその何とかの
答えを選ぶのは彼にとって困難な事だった。

「王様が心配してるんだ。僕の婚約者の事についてだがな」
四世がタダと二人になった時に言った。
「そりゃそうだと思うよ。だって見ず知らずの女性なんだもの。間に入った王様が心配
するのは無理もない」
タダは正直だ。
「王様の星、アリトスカ・レと僕のアリトスカ・ラは昔から仲が悪かった。だからこそ
こんな結び付きが必要なんだよ。それに僕の妹と王様の婚約が正式に決まったんだ。そ
の前に僕は王様の選んだ婚約者と結婚し、夫婦でそれに列席するんだよ」
四世はまるでひとごとみたいにさらりと言ってのけた。タダは四世に対し何も言えなか
ったのである。
「でも僕は、王様が選んでくれた相手と結婚してから恋愛しようと思ってるんだ。一つ
一つ相手のいいところを見つけて行きたいんだ。一生をかけてね」
そんな考え方もあるんだ、タダは四世が思ったよりも大人で自分をしっかりと見つめて
いる冷静さを持った人間だと感じずにはいられなかった。
「四世、君ってほんとにいい奴なんだな」
タダは思った通りの事を口に出した。まるでフロルのような口調だな、とタダはおかし
かった。

「フロル、もう帰ってたのか?」
タダは声をかけた。
「うん、今日はこいつが動き回るので相手してやってるんだ」
そう言ってフロルはおなかをさすっていた。へたをすると卒業を待たずに飛び出しかね
ない状態なのだ。
「元気な男の子だな」
タダはおなかをさすりながらそう言った。
「じいさんがベビィの服、いっぱい買ったって手紙が来てたぜ。男の子用なんだって。
おもしろくないよな、お前らオレより先に性別がわかっちまってるんだもん、じらす楽
しみがねぇよ」
「だって楽しみは早く知りたいのが当たり前だろ?」
タダはさも当然というように言った。長老にしても同じだろうと思われる。きっとこの
二人は直感力を最大限に働かせて密かに楽しんでいるのかも知れないと思うと少し腹が
たってくるフロルなのだった。しかしそれだけ楽しみにされているのだから少しでも早
くベビィの顔を見せてやりたいとも思うのである。
「いまに見てろ、こいつがお前以上の直感力の持ち主だったらオレの味方につけてお前
を降参させてやるからな!」
「はは、楽しみにしてるよ」
タダは軽く受け流したのであった。

 さて、このフロルの事なのだ。彼女自身のではないのだが、彼女に関する事なのだ。
その気掛かりな事というのは… 王様の手紙にはそれがはっきりと確信を持って書いて
あったのである。
“どうしよう?”
正直言ってタダは悩んでいたのである。自分も感じていた事、そして今までそれをわざ
と避けて通っていた事、それを王様に打ち明けた事実… 卒業間近でもう会えなくなる
安心もあったせいなのだろうか? タダのとる行動によって将来に影響を及ぼすかもし
れないのだ。繊細な心は純粋さにも通ずる所がある。その純粋さがタダはこわかった。
「フロル、ちょっとヌーの所に行ってくるよ」
タダは時折ヌーとこむづかしい話をする。何かにつまずきそうになった時、ヌーという
親友は諭すのではなくて深く心に話かけてくれるのだ。彼は仲間の中ではそんな存在だ
った。
「オレも行くよ!」
すかさずフロルが言った。
  「だめ、ちょっと話たい事があるから」
タダは断った。
「オレがいちゃまずいのか?」
当たっているだけにタダは返事に困った。気まずい沈黙が流れた。
「行きたいんなら行けよ! オレもクィーニんとこに行くから!」
フロルは突き放したように言った。
「ごめん」
ひと言だけ残してタダはアパートを出て行ったのである。

“なんだよ、あいつ… ”
フロルはタダの気持ちがわからなかった。さっきは口から出まかせでクィーニの所に行
くといったけれど、出て行くのもたいそうなので近くを散歩しようと外に出た彼女であ
った。
「やぁ!」
アパートのすぐそばにある農学科の野外栽培農園からトトが声をかけてきた。
「あれ、お前こんな所にいたのか?」
フロルは不思議そうな顔をして聞いた。ここは主に1年生が使っている初心者向けの小
さな農園なのだ。トトの横には1年生らしき学生が何かの苗を持って話をしている。
「後輩にこれの接ぎ木の仕方を教えてるんだ。基礎だからしっかり覚えて欲しいんだ。
それより大丈夫なの? 一人で出歩いて」
トトは大きなおなかを見ながら言った。
「平気だよ。まだ出てこねぇみたいだから」
フロルは軽くポンとたたいた。
「時間があるんだったら研究農園に来ない? 今、研究中のを見せてあげるよ」
トトは誘った。横では1年生が変な顔をして見ている。しかしトトはかまわずフロルを
案内したのであった。

「これ、カビなんだ」
トトは得意げに試験官を出して来た。
「見りゃわかるけど?」
「これ、改良種のカビなんだ。植物の種や球根にこのカビを付着させて感染させると害
虫被害がなくなるだけじゃなくて花の色も良くなるんだ。今までもそんなタイプのカビ
っていっぱいあったけどさらに改良を続けてたんだ」
トトは自分の研究に自信を持っているのだろう。そんな目をしている。いつもおとなし
いトトなのだが植物の事に関しては饒舌になるのだった。
「お前、植物と心中しそうだな。結婚なんて考えた事もねぇだろ」
フロルはからかった。
「そんな事ないよ! 僕もいつかは… って考えてるんだもん」
トトはたちまち真っ赤になってしまったのだった。
「悪い悪い! でもお前の奥さんはきっとやさしい奴なんだろうな… おとなしくてさ」
「そう、フロルとは逆のタイプだと思う!」
トトの返事にフロルはむっとした。
「はっきり言う奴だな、ま、いいけどな」
「でもフロルは友達としては最高だよ。もっと一緒にいたかったな… 」
トトは一瞬、寂しそうな表情を見せた。
「オレもそう思う。シベリースに行ったらしばらくはどこにも行けないだろうな。今ま
で当たり前みたいに毎日会って話していた生活が昔話になっちまうんだもんな。自分の
星で生活してこれから生きていくんだろうな、きっと… でもお前やヌーはここにいる
んだから又、遊びに来るからな」
「うん。ちゃんとベビィも連れておいでよ」
トトは気持ち良く笑っていた。
「本当なら何かプレゼントしたいんだけどチェックが厳しいからね。シベリースでよく
育ちそうなものもあるんだけどな。改良種や新種だと余計にチェックされるしな… 」
トトは残念そうに言った。自分の改良した植物を渡したかったみたいなのだ。
「その気持ちだけもらっとくよ。それに変な植物を見るたびにお前を思い出すからな!
 だって入学する前からの友達だもんな、そしてこれからもそうだぜ」
フロルは気を利かして言ったつもりだった。
「変、と言う言葉ははぶいてほしいな」 
「違いない」
二人は笑った。こんなにゆっくり話をしたのは久しぶりの事だった。

「フロル、来てないの?」
クィーニのアパートに連絡を入れたタダなのだがそこにはいなかったのだ。
「お前でもカンがはずれる事あるんやな」
電話の向こうでチャコが感心したように言った。
「いや、そっちに行くって言ってたから、じゃ」
タダは、はっとした。
「トトの所だ!」
ヌーとタダは顔を見合わせた。
「行ってみよう」
ヌーが言った。

 二人が研究農園に着いた時、フロルとトトは楽しそうに話をしていたのである。し
かしタダがそこにやって来た時、トトは気まずい表情を見せたのだった。
「フロル、あっちの花を見に行こう」
ヌーは声をかけた。向こうの方にきれいな花が咲いていたのである。ヌーはフロルを
その場から遠ざけたのであった。

「トト」
タダは話しかけた。しかし後、どんな言葉を続けたらいいのかまよってしまったので
あった。
「タダ、言いにくいだろう? いいよ、気にしなくても。王様に言った通りなんだ。
僕はずっと前から… きっとタダと同じときぐらいからフロルの事が好きだった。今
もそうだよ。でもわかってる… さっきフロルに言われたんだ。植物と心中するんじ
ゃないかってね。それに… 彼女は言ってくれた、僕の事思い出すって。そしてこれ
からも友達でいてくれるって」
タダは黙って聞いていた。
「君のことだから最初からわかっていたと思う。そしてそれを許してくれていたとい
う事も」
トトはすっきりしたようだ。いまになってやっとタダにその事を正直に言えたという
事で。
「僕は悪い事をしていたのかも知れない」
タダはすまなそうに言ったのだ。トトの気持ちなんてわかりきっていた事なのだ。し
かしあえて考えないようにしていたのだから…
「ありがとう、君もフロルも僕にとっては大切な友達だよ。それは信じて欲しいんだ。
僕はやっと心のつかえがとれたみたい。良かった、今日フロルとゆっくり話す事がで
きて」
やっとあきらめられる… そんな彼の心の声が聞こえて来た。
「ごめん」
タダはそれだけ言った。そしてそれからはその話題に触れない事にしたのだった。

「今から泣いててどうするんだよ」
卒業式の朝、アパートを出る前からずっと泣いていたフロルにタダがうんざりしたよ
うに声をかけた。
「君、ハンカチだけじゃ足りないみたいだな」
タダはからかった。
「それじゃタオルとティッシュを用意しといてくれよ」
フロルは冗談ではなく本気でそう言った。
 いよいよ今日は卒業式である。5年前に入学した学生が一部を残してこの宇宙大学
から巣立って行く記念の日なのだ。明るい未来に向かってそれぞれの顔は輝いていた。
入学を断念した者、単位が取れずに留年になった者、途中で退学していった者、させ
られた者を除く5年生が広い講義室に集合した。これだけの同級生がそろったのは入
学以来である。
「フロル、元気な子、うむのよ」
ティラとカズがハンカチを握り締めてやって来た。パッピもそばにいる。クィーニも
フロルのそばで泣いていた。
「なぁ、今生の別れじゃねぇんだからそんなに泣くんじゃねぇよ!」
そういってフロルだけは泣きもせずにみんなをなぐさめているのだ。
“僕は何の為にタオルとティッシュを持ってきたんだ?”
タダはフロルをみながらそう思ったのだった。
 
 グレン教官はこの日を知っていた。偶然の事なのだが近くの惑星に親睦会議が開催
される事実を。

 石頭を除く9人がいつの間にか集まった。タダ、フロル、アマゾン、チャコ、四世、
トト、ヌー、ガンガ、赤鼻… 
「いい時を過ごしたな」
アマゾンが言った。
「夢といってもいいくらいだった」
赤鼻が続けた。
「運命に感謝したいくらいだ」
ヌーの言葉である。
「まだ別れてないのに今度いつ会えるのかを心配しているなんて… 」
四世はしんみりとしている。
「きっと会えるさ。生きていればね」
ガンガらしい言葉である。
「会おうよ、みんなそろわなくても会っていこうよ!」
トトが強く言った。
「そうや、わてらずっと仲間やんか」
チャコもトトに同調した。
「今、ふたり欠けているけどな」
フロルずまぜっかえすような事を言う。その言葉にみんなは王様の顔を思い出さずに
はおられなかったのだ。

「11人いるぞ!」
グレン教官だった。
「わたしの部屋に王様が待っている。君たちに会いにここによってくれたんだ」
おそらくグレン教官に宛てた王様からの手紙に書いてあったのだろう。みんなは教官
の部屋に直行したのだった。

 そこにはひとまわりたくましくなった王様が座っていた。
「11人そろったんだ… 」
タダが言った。
 王様は一人一人をなつかしそうに眺めていた。
「11人いる… !」
タダ以外の誰かもうれしそうに言った。これで全員がそろったのだから。
「この日がみんなで過ごす最後の日にならないようにしようではないか」
王様がほほ笑みながら言った。彼の言葉はなぜか説得力がある。一同は深くうなずい
たのであった。

 タダとフロルが一番にこの宇宙大学惑星を離れる事になった。航空規則で妊婦が乗
船できるぎりぎりの期間だったからである。
「グレン教官、絶対たのむな、こいつらいい奴ばかりなんだ。本当は連れて行きたい
んだけどやっぱりだめだったんだ」
フロルは教官室にマウスやいろんな植物を置き土産にしたのである。
「ははは… 」
グレン教官はむなしく笑った。しかし彼はそれをここで飼おうと思っていたのであっ
た。彼にとって忘れられない教え子たち、それが今、未来に向かって羽ばたこうとし
ているのだ。グレン教官は胸が熱くなる思いだった。その微妙な心の動きを感じ取っ
たタダは思わず涙がにじみそうになってしまったのだ。
「おせわになりました。そしてこれからもよろしくお願いします」
タダはグレン教官の手を握った。
“これから先、わたしのところに届く手紙が増えそうだ… ”
グレン教官は直感したのだった。

「また会おう!」
タダはみんなに向かって言った。さよならという言葉を使うとたまらなくなりそうだ
ったから。
「元気でな、二世を見せてくれよ」
みんながフロルに言った。
「きっと。約束するよ! ここに連れて来るからな。トト、ヌー、赤鼻、同窓会は早
い目にやろうぜ。教官室を貸してもらってもいいな」
フロルはそんな具合に明るくふるまっていたのである。

 そしてふたりを乗せた船は港から出て行ったのであった。そしてあらたなる旅立ち
を迎えた者達の前途はいかに?
 
 トトとヌーと赤鼻を除いた6人を送り出したグレン教官は一人でグラスを傾けてい
た。彼らが今でも自分に隠れた所で“石頭”と、呼んでいたのを知っていた。
“石頭… か、もう身近でそう呼んでくれる者も少なくなってしまった… ”
寂しかった。
 しかし、彼の元には王様だけでなく多くの者達からの手紙が届く事になるだろう。
握手をしたタダの手がそう語っていたのであった。

「グッドラック… 」
石頭はみんなが旅立った港の方にグラスを差し出して、ひとりつぶやいたのであった。

                                  終



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