星色物語・シリーズbU


フロルの故郷編


1年生



 銀河は渦巻き状になっている。その渦巻きのはずれにはボールのような形に星が集ま
っている所があり、銀河をまるく包んでいるのであった。そんな星団には比較的若い星
がまばらに集まっている散開星団と、比較的年よりの星がボールのようにぎっしり集ま
っている球状星団に分かれている。フロルの故郷のヴェネは、数十万の星々からなる球
状星団に属していたのである。

 幾度かのワープを繰り返して惑星ヴェネに着いた時にはもう薄暗くなっており、空に
かかる銀河がぼんやりと光っていた。タダはその銀河を見ながらまだ会ったことの無い
フロルの両親を想像していた。彼女は末っ子だと言っていたのでおそらく初老を迎えた
ころの夫婦なんだろう。髪の色は… 母親の方は明るい金色かな? そして父親は…
 タダの故郷、シベリースの言語に比べ、このヴェネの言語は複雑であった。タダはか
なり覚えが早い方であるが一週間やそこらで覚えられる訳は無い。が、幼児なみの片言
くらいは話せるようになった。
「あ、兄上が迎えに来てくれている!」
フロルはステーションのデッキにいる背の高い栗色の髪をした青年に向かって手を振っ
た。タダは自分の兄となる人物を初めて見た。ここから離れているので顔の輪郭しか分
からないが整った顔立ちをしているみたいである。

「ようこそ、ヴェネへ。タダトス・レーン君」
彼は妹の婚約者に手を差し出した。
「はじめまして。お世話になります」
タダはやや緊張しながら挨拶をした。これが彼女の両親に会うための第一段階である。
今日から三日間、タダはフロルの家に滞在する予定なのだ。
「わたしはジード、フロルの実の兄です。君のことはフロルからよく聞いてるから初め
てあったような気がしないよ」
フロルが自分の事をどんな風にしゃべっているのか分からないが、悪く思われていない
のが分かる。タダは少しだけ安心した。実の兄と言うからには母親が同じだということ
だろう。一夫多妻性の星なのだから… 二人はジードの車に乗ってフロルの家に向かう
のであった。
「兄上、姉上たちは来てるんか?」
嫁いで行った姉たちの事だろう。
「ああ、子供も一緒に押しかけてるよ。お前が女に変化して、婚約者を連れて帰って来
るって言うのだから来ない方がおかしい… だろ?」
そうなのだ。フロルは変化してから一度もヴェネには帰っていなかったのである。
「タダ、驚いちゃだめだぞ。うちはすごいからな。おまえんちとは大違いだからな」
何の事を言っているのか分からなかったがおそらく人数もはんぱな数じゃないだろうな、
と思うタダであった。

 フロルの家はタダのシベリースと同じく自然の多い所に建っていた。近くには大きな
町はなくのどかな村が点在しているのである。
「タダ、あそこにいるのが父上だ。こっちを見ているよ」
タダはフロルの指さす方を見た。タダの想像どおりの人物が表に立っている。
「父上、ただいま。タダを連れて来たぜ」
フロルは星間用語じゃなくても同じような話し方であった。
「おおっ、君がフロルの話していた学生だね。こんなに遠い所によく来てくれた。私た
ちは君をおおいに歓迎するよ」
フロルの父親は上機嫌のようだ。
“この青年がフロルの恋人なのか。フロルの話通り賢そうな顔付きをしている… ”
握手をした手でタダは父親の心を探ってみた。彼の後ろにはフロルによく似た女性が立
っている。その横には似たような年齢の女性が二人立っていた。
「初めまして、タダトス・レーンです。あつかましくやって来て済みませんでした。ご
やっかいになります」
タダの言葉はたどたどしかったがどうにか通じたらしい。
「タダ、母上だ」
フロルは彼女によく似た女性を紹介した。
「騒々しい所だけど我慢してやってちょうだいね。うちはいつもこんなのだから」
母親はにっこりほほえんだ。フロルと同じ髪の色の落ち着いた女性である。
「そしてこっちがお隣に住んでいるおばさん。父上の二番目の奥さんだ。そしてその横
は三番目の奥さん」
フロルが次々違和感無く紹介するのを見て、タダは初めて接する一夫多妻制を不思議に
思った。
「タダ、お前の考えている事くらいわかるぜ」
フロルの言葉にえっ、と小さな声を出したタダを彼女の父親はじっと見つめていた。
「君にとってはおかしな事かもしれないが、このヴェネでは当たり前の事なんだよ。私
には三人の妻がいて近くに固まって生活している。子供達もこのフロル以外はみんな結
婚し、家庭を持っているんだ」
タダは改めてあとの二人の奥さんたちに挨拶をした。奥の方からは賑やかな声が聞こえ
て来る。この夫婦の孫たちが食事を待っているらしい。
「さあ、あっちに行こう。君のために子供達が集まって来ているんだ。口に合うかどう
かはわからんがくつろいでいってほしい」
父親はタダを案内した。

 何十人もの食卓の賑やかさにタダは呆然とし、あまり食事が喉を通らなかった。タダ
は今まで長老と二人きりの生活に慣れていたためこういう賑やかさは苦手だったのだ。
しかしこの情景を見ていると、フロルのたくましさと言葉遣いの乱暴さはこんな所から
来ているのかもしれないな、と思うタダであった。案内された寝室にはバルコニーがつ
いており、初夏の風が入って来る。今のヴェネの季節はシベリースと同じようであった。
「タダ、入るぞ」
タダの返事を待たずにフロルが部屋に入って来た。
「お前、腹へってんじゃねえのか? オレ食いもん持って来てやったぞ」
フロルは小さなテーブルにサンドイッチのような軽食を置いた。タダが気疲れしてあま
り食べていなかったのが気になっていたのだ。
「ありがとう。いただくよ」
タダはさっそくそれをつまみ、飲み物を手にした。フロルはタダが食べているのを黙っ
て見ていた。
「フロル、僕は君の父さんに話がある。さっき食事が喉を通らなかったのはそのせいで
もあるんだ」
食べ終わって一息ついたタダはフロルの手を握って言った。彼女の父親から正式に結婚
の許可をもらいたいのだ。これはタダがずっと以前から気にかかっていた事だったから
だ。タダの真剣な顔にフロルはなぜか自分まで緊張してきたのである。
「父上なら下の部屋にいるぜ。さっき兄上のガキどもをフロに入れてたから、多分今頃
母上とくつろいでいると思う… 」
フロルは少し顔が赤らんで来た。やはり少し緊張している。いや、かなり緊張している
のだ。
「フロル、君まで緊張する事ないだろ!」
タダはフロルの両手をつかみ、自分の心臓の所にあてた。大きな振動が伝わって来る。
「お前、むちゃくちゃ緊張している… 」
フロルはタダの胸に耳をあてた。大きな音が聞こえて来る。
「フロル、僕に勇気を分けてくれる?」
タダはフロルにキスをした。いつもより少し長いキスだった。タダはようやく決心がつ
いて下の部屋に降りていった。

「父上、タダが話があるってさ」
フロルが居間に入って行った。中には父親だけでなく母親もいて、二人は静かにお茶を
飲んでいた。
「どうぞ… お入りなさい」
やや緊張している父親の声が聞こえた。タダはその声の様子から、自分だけでなく父親
までもがそのようになるのかと思い、あらためて事の重大さを感じるのであった。
「失礼します」
タダは父親のすすめた椅子に腰をかけ、正面を向いた。二人の間に沈黙の時間が流れた。
最初に口を開いたのは父親の方だった。
「君がこの星に来ると聞いた時からずっと考え続けてきた事がある。私も普通の父親だ
から君の存在はずっと気になっていたんだ。ずっと前から男になる事が夢だったフロル
の気持ちを変えたという学生とはどんな男なんだろうとね。政府に交渉し、宇宙大学に
受かったら男になる許可が下りるように頼み込んだ努力は何だったんだろう? とかね」
父親は淋しそうに笑った。
「その点は申し訳なく思っております」
タダは頭を下げた。この星では長子でないと男になれないのである。
「君はテレパスだと聞いている。言葉で話さなくても私の考えなんぞわかってしまうだ
ろうから私は君がここに来るまでに、できるだけ穏やかな気持ちになっていなくてはと
努力したつもりなんだ」
しかし彼の心には、娘が異星の人間と結婚する事を不安に思う気持ちが詰まっていた。
それは十分に予期できる事だった。
「僕は小さい頃、事故で両親を亡くしました。それからはずっと村で医者をしている長
老に育てられ… 彼の勧めで宇宙大学を受験し、フロルに出会ったのです。知り合って
たったの45日だったけど、プロポーズをしたという事を決して後悔はしていません!」
タダは話しているうちに気持ちが落ち着いて来た。フロルの父親はとうとう一番聞きた
くない言葉がタダから飛び出す事を覚悟し、一息ついた。
「フロルを妻と呼びたいのです」
タダは最後の言葉を言った。父親の気持ちは複雑である。しかし反対した所でフロルは
この男を選ぶだろう。自分は物分かりのいい父親を演じるしかないのだ。シベリースは
一夫一婦制だと聞いている。この男ならフロルを任して間違いないと思いたい。タダは
悪いとは知りながら、彼の心を余すところ無くキャッチした。フロルは黙ってタダと父
親を代わる代わる眺めていた。
「フロルをよろしく頼む… 、と言えばいいのかな?」
三人の姉たちの時は何も悩む事無く嫁がせてしまったけれど、今回だけは違っていた。
「この子は他の兄妹に比べ小さい時から出来がよかったんだ。ケンカも強く、銃の扱い
もうまかった。男になったらどんなだったのだろうとよく想像したものだった… 大学
に落ちて女になったとしても隣の領主からの結婚話が来ていたんだ」
「父上! そんな事を言わなくてもいいじゃんか!」
フロルは叫んだ。父親の泣き言なんて聞きたくなかったのだ。しかしタダは、フロルの
肩に手を置き首を横に振った。彼の気持ちが分かりすぎるくらいだったのだ。彼は末っ
子のフロルを本当にかわいがっていた。
「分かっているよ、フロル。おまえの目に狂いはない。よい相手を選んだな」
父親はフロルに向かってほほ笑んだ。
「父上… 」
フロルは何も言えなくなって涙ぐんだ。
「ありがとうございます」
タダは父親に向かって頭を下げた。今まで気になっていた事がやっと片付いたのだ。そ
れは父親にとっても同じだったが… タダはいつしかフロルと寄り添っていた。
「この子を頼みます」
今まで何も言わなかった母親が初めてタダに話しかけてきた。彼女は未来の息子に手を
差し伸べ静かにほほ笑んでいる。
“あなたの星は一夫一妻制だと聞いています。この子だけに愛情を注いでもらえるのは
母親としてはうれしい限りです”
母親はタダをテレパスと知って心で訴えて来た。主人には聞かれたくないのだろう。ど
うやら心の底では一夫多妻性に反対のところがあるみたいだ。タダは黙ってうなずいた。

「タダ、オレなんだか力が抜けちまった… ゆうべものすごく緊張してたからな。今日
は何も考えられないよ」
フロルは居間のソファーにころがった。タダもほっとしたのか何となく弛緩状態の自分
を隠せない。
「おい、フロル。お客だぞ。こっちに通すからな」
兄のジードが声をかけた。おそらく近所の友達がたずねて来たのだろう。入って来たの
は数人の男達だった。少し年上みたいである。
「フロル、久しぶり。女になったんだってな」
栗色の髪をした青年がフロルに向かって話しかけた。
「やあ、ロック。オレが帰って来てるの、誰に聞いたんだ? オレ、黙っててくれって
言ってたのに… 」
彼女は首をかしげた。
「ここの子供に聞いたんだ。君が帰って来るからその準備に忙しいんだってね」
ジードの子供達である。
「君が全然帰って来ないんで心配していたんだよ。なあ、パイスン」
「ああ、変化してからは一度も帰らなかったからな」
パイスンと呼ばれた男は暗い顔をして言った。彼らの目的はテレパスでなくても分かる
くらいはっきりとしていたのである。それは婚約者のタダを観察するためだ。彼らはみ
んなフロルをねらっていたのである。彼らの自分に対する敵意がひしひしと伝わって来
て、タダは辛かった。フロルはそんな彼らの心なんて知らないので平気な顔をしてタダ
の紹介をした。彼らの差し出す手を握るたびにタダは憎まれ口までも受け取ってしまう
のであった。彼らのにとってタダはあぶらげを取ったトンビであり、まさに釣り餌を食
い逃げした魚であったのだ。両性体であった時から彼女はみんなにとってはアイドルだ
ったのだろう。ここにいるロックとパイスン、そしてもう一人の男、ジョブはタダが許
せなかったのだ。
「外に出ようか」
タダは自分から声をかけた。どうせもめるのならここで小競り合いをしてフロルに心配
をかけるより、外に出て話をつけたほうが気が楽である。どちらにしても何もなしで終
わりそうにない事をタダは感じていた。
「フロル、悪いがお茶の用意をしてくれないか? 僕たちはあそこに見える木の所にい
るから」
タダは大きな庭の外れの木を指さした。ベンチが設けられており外で食事ができるよう
になっている。フロルは何か悪い予感がしたがタダは大丈夫、というように手を振った。
フロルの父に結婚の許可を得たタダにとって、もう怖いものなんて無かったのだ。

「君が外に出たのは正解だったな。俺たちの話をフロルには聞かれたくないからな。君
には分からないだろうが俺たち三人はお互いに手を出さないという暗黙の了承でもって
フロルを愛し続けていたんだ。彼女が小さな子供の頃からずっとだ」パイスンが言った。
「彼女が宇宙大学に受かれば男になると知った時、どんなにショックだったか君には分
かるまい。しかし彼女は男にならなかった。君が現れたからだ。君は俺たちからフロル
を奪ったんだ」
ジョブの握ったこぶしに力が入っていて彼が必死で感情を抑えているのがわかる。
「殴りたければ殴ればいい。ただし僕も手加減はしない」
タダは挑発した。この場合ウミは早めに出してしまった方が良いと判断したからだ。タ
ダは5才の時から長老の元で英才教育を受けていた。長老は彼に自分の知っている限り
の知識と武術を身につけさせたのである。
「 …… 」
しかし、彼らは殴り掛からなかった。タダの持つ雰囲気に押されたのか或いは自分たち
の行為の惨めさに愛想を尽かしたのかは知らないが彼らの感情の高ぶりは収まってきた
のである。
「君はかしこすぎる… 」
ロックがタダに向かって言った。
「君がもっと意気地の無い男だったら俺たちは黙っていなかったのに… 君は冷たい男
だ。俺たちにチャンスをくれなかった」
“冷たい… そうかも知れない。昔から妙に冷めているところがあったっけ…”
タダは自己判断をした。確かにポーカーフェイスで通っているのだった。それは彼の環
境のせいだったのか元よりの性格のせいだったのか分からないが…
「でもどうしてフロルが君を選んだのかが分からないよ。彼女にはもっと違う男が似合
うと思っていたんだ」
パイスンはフロルをちやほやと持ち上げるような男を想像していたのである。しかし現
実は大きく違っていたのであった。フロルの兄から聞いた通り、エリートの集う宇宙大
学でも優秀な部類に入っていると言うのはまんざらウソでは無さそうな顔付きの男だっ
たのだ。多少彼らのひがみも入っているのであろうが…
「あ〜っ、本当の事を言うと君を思いっきり殴りたい気分なんだ!」
決してそうはしないのだがジョブはこぶしを大きく振り上げた。

「あーーっ!! 何するんだっ! お前らっ」
フロルが大きな声を上げた。彼女はティーポットとカップを持ち、すぐそばにまで来て
いたのである。フロルはそのひょうしにカップを下に落としてしまった。
「お前、タダの事、殴ろうとしただろ」
駆け寄ったフロルはジョブを叱咤した。彼女は顔色を変えて怒っている。
「誤解だよ。フロル、彼はふざけてただけなんだ」
タダは彼のために弁解した。
「でもよ、こいつ本気みたいだったぜ」
フロルはまだ怒っている。
「ごめん、半分は本気だった。俺たちはお前の婚約者に嫉妬していたんだ」
ジョブは素直に謝った。
「やっぱりお前らーっ!」
フロルは右手を振り上げた。ティーポットはまだ握ったままである。中身はとっくにこ
ぼれてしまっていた。
「よしなよ!」
止めに入ったタダにティーポットが思い切りよくぶつかり、彼は顔面に火花が散るのを
感じた。
「タダッ! タダ… 」
フロルが大きく揺さぶりをかけてくるのだが痛くて返事ができないタダ。ロックはハン
カチをタダに差し出した。鼻血が流れ、彼の服にしみを作っていたのである。思いっき
り格好悪いタダであった。
「フロル、ちっとは手加減してくれよ… 」
タダは力無くつぶやいた。
「お前の事だから避けられるかと思ってさ。ごめんな」
フロルはタダに謝った。しかし彼女の顔は笑っている。
「とっさの時に予測なんかできるわけないだろ」
タダは言い返した。さっきまでの冷静なタダはどこかに行ってしまったのだ。フロルの
前では大きくペースを崩されるタダであった。ごく自然な会話の中にフロルのタダに対
する愛情が感じられ、ジョブたちは太刀打ちできないなと痛感するのであった。完璧に
負けである。
「フロル、幸せにな」
「俺たち、ずっと前からお前のこと好きだったんだ。お前はおそらく気がついていなか
っただろうけどな」
「この男さえ出て来なかったなら俺たちにもチャンスがあっのに… 実に残念だよ」
彼らは実にいさぎよい男達であった。
“フロルのまわりには良い人間が集まってくるみたいだな… ”
  それはタダの直感であった。彼女の性格にもよるのだろう。彼女は初めて聞く彼らの告
白に戸惑っていた。
「 … オレさ、お前らの事、好きだよ。でも違うんだ… 」
フロルはどう言えばよいのだろうと考えていた。しかしよい言葉が見つからない。彼女
は黙り込んでしまった。
「少なくとも嫌われて無いと分かっただけで嬉しいよ。フロルはいつも恋愛には興味な
かったからな」
ロックは笑って言った。タダには容易に想像する事ができる。フロルが自分では気が付
いていなかっただけで、みんなから愛されていたのであった。
「ごめんな、としか言えねぇや… 」
フロルは考えた末に言った。他に適当な言葉が浮かんで来なかったのだ。
「いいんだよ、フロル。お前が気にする事はないんだから。俺たちはもう帰るよ。だか
ら… ここらへんを案内してやれよ、彼に。ヴェネには良い所がいっぱいあるんだから」
フロルの気持ちは複雑であったが少しだけほっとした。彼らはタダにフロルの事を頼ん
でから去って行った。頼む、と言うより脅迫に近かったかもしれない。フロルに何かあ
れば承知しないぞ、という内容だったからだ。タダは彼らの気持ちがわかるので何も言
わなかった。ただ、軽く会釈しただけで…

 やっと二人きりになったかと思うと今度はフロルの姉たちがこちらに向かって来てい
るのが見えた。どうやら食事を外でするみたいである。けたたましい子供達の笑い声と
姉たちの叱咤の声が聞こえ、辺りは急に賑やかになった。
「フロルーッ! こちらにいらっしゃい。一緒に食べましょう!」
兄のジードや両親も木陰のベンチに腰掛けて待っている。子供達はもう食べ物を口にほ
うばって、何かもごもご言ってはしかられていた。久しぶりの里帰りを楽しんでいる姉
たちの質問はタダに集中した。
「あなた、フロルのどこが気にいったのかしら?」
「あんなに男になりたいって言っていたのに急に女になると言った時にはすごく驚いた
のよ。せっかくのチャンスだったのに棒に振ってしまったんですもの。でもあなたみた
いに素敵な子を見つけてしまうなんて、フロルはラッキーよね。宇宙大学でも成績優秀
な学生が私の弟になるなんて私、鼻が高いわ! だって第一夫人ったらすごく性格悪い
のよ。何でも自慢しちゃってさ。私が第二夫人だからばかにしてるんだと思うわ」
「それはあなたが性格悪いから嫌われてるのよ」
三人の姉たちは子供以上に賑やかであった。両親やジードは閉口するしか無い。主婦達
のパワーはすごかった。
 昨夜の食事の再現みたいだったが今回は食事がおいしかった。胸のつかえが取れただ
けでこうも違うものかと感心するタダだったのだ。両親は穏やかな目でタダの方を時々
見ては目を伏せた。暖かい心を感じる… 何も言わなくても彼らの気持ちがこぼれてく
るのであった。結果的にタダは合格点だったのだ。

 三日間はあっと言う間に過ぎてしまった。二人はフロルの家族に見送られながら船に
乗った。両親に向かって手を振っているフロルは何だか急に淋しくなって泣き出してし
まった。こんな事で泣くなんて… と、恥ずかしくなってしまったがタダは決して笑わ
なかった。フロルを後ろから抱きしめて… ただ、抱きしめていた。
 フロルはその暖かなぬくもりを背中に感じ、タダの愛情をも感じ取っているのであっ
た。
 

                                     終

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