お守り編(2年生)    





 航空科の実習は優秀なパイロットになる為にあると言っても過言ではない。この学科の学生
達の半分以上は大学を卒業後、自分の故郷の星々でプロのパイロットとして勤務する事になる
のだ。あらゆる知識を必要とするパイロット、しかしその実習は慣れた者にとっては単純なも
のだった。何もない時の宇宙は静かで女性的な顔をしている。少し冷たくて、そのくせ誘うよ
うに手を差し伸べているのはパイロットの思い込みなんだろうか?




「航空科ってけっこう派手な学科だと思ってたんだけど… 実習はあんがい単純で地味なんだな」

タダの同級生のドンが言った。船の操作に慣れてきた2年生の前期というものは、とにかくたる
みがちなものなのだ。

「僕は地味で単純でいいよ。次から次に問題がおこっちゃ体がもたないからね。不必要なドラマ
は嫌いなんだ」

タダはあっさりと返したのだ。

「でも目的地までの単純なワープだろ。その後、惑星に着地。少し休憩してからしばらく手動の
練習… そして大学に帰る。そんな繰り返しだもんな、つまらんものだ」

彼は今度は反対側の隣にいる学生に同意を求めていた。今回は大型実習船に50人の学生が乗っ
ている。いつもの10人ひと組だと自分の担当時間が長いのだけれど、50人ともなると時間を
持て余す者も多いのは仕方のない事だったのだ。おまけに今回は教官が5人も同乗していたか
ら余計であった。ドンの横にいた学生は彼に同意し、タダをのぞいて話は盛り上がっているよ
うだった。

“軽い奴ばかりが集まったもんだな… でも悪意のない奴らだと思うけど”

タダは苦笑したのだった。



「今回もフロルと一緒になれなかったみたいだな」

廊下で外の星を見ていたタダに石頭が話しかけた。どうやらタダの思考を読んだらしいのだ。

「しかたありませんよ、遊びじゃないから」

タダはさも当然というような顔をして返事をしたのである。彼一流のポーカーフェイスだった。

「そうだ、遊びではない。実習と言えどもここは宇宙空間なんだ。今から一分先には何がある
かわからない、そんなものなんだ」

彼はひとりでうなずいていた。

「僕も… でも好きなんです」

タダは外に目をやった。星の密度の濃い所を慣性飛行に入っている。

「宇宙がかね? それもとフロルがか?」

音もなく進む星の海は地上では見られない幻想的なものであった。誰かの顔がそこに浮かんで
いるかのような錯覚におちいりそうになる。石頭の質問に答えなかったタダの頬が赤くなって
いた。どっちでもいいような質問であったがなぜか嬉しくなってゆく人の悪い石頭だったので
ある。




・・・ !! ・・・




 爆発がおこったのは船尾の方だった。けたたましい警報が鳴り、学生達はパニックにおちい
った。



        ・・・ ! ・・・

 再び爆発があった! 今度は船の中央の方だった。


「全員スペーススーツ着用!」

タダだけでなく他の数名の学生が叫んでいた。その時ほとんどの学生が船首のロビーにいた。
一方教官たちは船尾にある小リビングでくつろいでいたのだった。

《スクランブル発生だ! みんな無事か?》

船尾にいる石頭がロビーにいる学生達に聞いてきた。しかし通信経路に障害があるのか声が
くすんでいた。

「無事です! 全員スペーススーツ着用、指示をお願いします!」

誰かが通信機に向かって大声で言った。

《こっちにケガ人が出た。教官3名、学生2名だ。残りの学生7名は無事だ。しかしそっち
までは手がまわらないから君たちだけで対処してくれたまえ。こちらに向かう通路は既に遮
断している》

船首にいる学生は全員で41人だ。、全員生きている計算になるのだった。

“良かった… しかし… ”

これからが問題なのだ。

「何がおこったんだ! 爆発の原因は?」

タダだけでなく誰もがいだく疑問だった。ゴミ等による外部からの衝撃ではない。そんなも
ので傷つくような船体ではないのだ。もちろん船体に強力な爆発物が取り付けられていたと
いう事もない。

“まさかこの中で誰かが爆発物を?”

タダはしてはいけない事だと思うのだけれども基本的なものだから誰かを疑ってみたのだっ
た。今までそんな者はいなかった。そしてこれからもいないと信じたいからこそタダはそう
するのだ。彼は自分の能力をフル回転させてこの事故を対処しようとしたのだった。

 しかし41人はすべて何も知らないのだ。事件を起こそうとしている者はいない。タダの
直感力は確かである。この中にテレパスがいない事を知っている。誰もがこの事態に自分と
同じ思いで接しようとしているのがわかるのだ。タダはほっとした。しかし事態はなんら変
わりはないのである。

「航行に支障はないか?」

タダは聞いた。

「爆発で船のバランスが狂った。ワープができない!」

パイロットシートに座っていた学生は即答した。しかしワープができなくても何とかなるだ
ろう。大学はすでにこの事故の事を知っている。爆発と同時に救助信号を発していたタダだ
ったのだ。

「これ以上爆発の危険はないな?」

誰かが聞いた。

“爆発の危険!”

タダは直感力を働かせようとした。しかし集中できない。回りがざわついているというより
も自分が興奮しているからだと思う。

“落ち着け! いつもの自分に戻るんだ!”

彼は自分の心に言い聞かせた。しかしこの異様な興奮は何なのだ?

“誰かの意志に飲まれているのか?”

しかしまわりにテレパスはいないのだ。

“どうしてなんだ!”

その時、彼は気づいた。直感力をたよりにしすぎている自分に。

“そうだ、まずするべき事がある”

タダは外部の損傷を調べようとしたのだった。

「グレン教官、そちらの様子はどうですか?」

彼は通信機を通して船尾の様子を聞いたのだ。

《ケガ人の緊急手術をしている。お前たちは船体を見てくれないか? 爆発箇所の確認と
修理。何とかできないか? タダ》

石頭は聞いて来た。彼もあわてているのかテレパシーで話して来ないのだ。

「やってみます」

タダは答えた。少しだけ冷静さが戻ったような気がする。

「タダ、船尾に近い横っ面に穴が開いてるぜ。真ん中の方は無事みたいだな」

しかし遮断壁の状態は完璧だった。グレン教官たちのいる船尾には行けないものの外に
空気のもれる心配はなさそうだ。

「修理はできそうなのか?」

タダは聞いた。

「わからない、しかしこの船に積んである物で何とかなるかも知れない」

スクリーンを見ていた学生が報告したのである。

「僕が行くよ、誰か工学の知識を持っている者はいないか?」

タダはみんなに聞いた。彼は興味のある医学科のコースはずっと専攻していたのだが、
工学科のコースはアマゾンの付き合い程度にとどまっておりそれ程くわしくはなかったの
である。しかし彼には持ち前の直感力があった。いざという時にはそれが大いに役立つの
だ。

「オレたちが行くよ。タダ、指示を頼む」

同じクラスの学生が3人名乗り出たのである。彼らはずっと工学科のコースを専攻してい
るのだった。その中にはさっきまで退屈していたドンの姿もあったのだ。

「お前の言うとおり地味で単純な実習の方が良かったけど、まあ仕方ないな。でもお前が
ついててくれるから安心して外に出られるってもんだ」

彼が自分を信頼してくれているのがわかる。それにこたえる為にも細心の注意を払わない
と、と思うのであった。

「僕はお守りなのか?」

タダはちょっときつい目をして彼をにらんだのであった。

「いや、救いの神だよ。お前はなかなかのラッキーマンだからな」

彼は意味ありげに片目をつむったのだった。

“環境が変わるとこうも変わるものなのかな”

タダは思った。大学に入るまでの自分、入ってからの自分、全く同じ者なのだけれど人
に与える印象が全然ちがっているらしいのだ。

“僕は僕なのに… フロルのせいなのか?”

何でもフロルに結び付けてしまう単純なタダだったのである。



 宇宙空間における金属溶接は地上におけるそれよりも簡単であった。くっつけあう両
方の面をツルツルに磨いてやるだけで良いのである。低温溶接、つまりコールド・ウェ
ルディングは一般的によく行われていた溶接の方法だった。この空間では物質と物質の
表面の分子交換がしやすい為にお互いにくっついてしまうのである。

《実際にな…》

作業が終わった時、ドンがタダに話しかけた。ヘルメットの中で彼の声がひびいてくる。

《え?》

船体に張り付いた格好でタダが振り向いた。

《オレはいつもどうしてこんなに詰め込んで… ホラ、故郷に帰ると大学生がよく暇を
持て余して遊んでいるだろ? 学期の間には長い休みなんかもあってさ。でもこの大学
はそんなものは無い。単位の基準も故郷の大学よりはるかに多いんだ。ちょっと嫌にな
る時がある》

彼は上を見た。上も下も無い空間なのだがとりあえず顔を宇宙に向けたのだ。

《それが当たり前になれば嫌にならないと思う。より多くの知識を得る為に大学に入っ
たんだから。知識は多ければ多いほどいざという時に役に立つ。現に君の知識が今、役
立っているじゃないか》

タダは平然として言ったのだ。

《な、お前はやはり人とは反応が違ってる。普通なら同調して大学の悪口を言い合うも
のなんだぜ》

ドンは不服そうに言った。友達までとはいかないもののタダは気になる同級生だったの
だ。いや、友達になりたくても友達として認めてもらえないような気もしていたのであ
る。彼とは違う、一目置かれている、タダはクラスメイトにとってそんな存在だったの
かも知れない。

《無理して話を合わす気にならないだけさ》

ドンの思っていたような言葉がタダからかえってきた。しかし彼は面倒見が良くて優し
い事を知っている。

《だから好きなんだな》

タダはこのドンという男の心を覗いてみた。ふだんならそんな失礼な事はしない。しか
し宇宙の膨大な星の中という不思議な空間がタダの常識を狂わせたのであった。

“僕はこの男に友情を求められているんだな”

タダは表情を和らげて手を差し出そうとした。

“あっ!!”

タダの頭に衝撃が走った。

《みんな、中に入るんだ!》

タダは外にいる学生達に呼びかけた。

《早く!》

彼の心は危険を知らせていた。何かが、差し迫った何かが不安にさせるのだ。

《どうした? タダ!》

誰かが聞いて来た。しかしそれに対する正確な答えはない。彼の直感がここにいてはいけ
ないのを教えてくれるだけの事なのだ。

《早く!!》

今はそれだけしか言えないのだった。



    ・・ !!!!!!! ・・



 誰かがハッチを閉めて数分もたたないうちに三度目の爆発がおこったのであった。今度の
は前のよりかなり大きい。タダたちは床にたたきつけられて大きくバウンドしたのだった。

「くそっ、重力スイッチをオンにしなけりゃよかった」

頭をさすりながらスイッチを入れた学生が言った。

“偶然か?”

タダの胸に再び疑惑が起こったのだ。

“僕たちが中に入るのを見計らっているようだ”


タダは静かに目を閉じた。

《大変だ! こっちに来てくれ!》

ハッチの近くについている通信機から大きな声が飛び込んできた。かなりあわてているら
しい。

「何があったんだ?」

ドンがその通信機に向かって大声を出した。

《早く!》

声の主はいらだちを隠せないような声を上げていた。

「よく急かされる日だな」

ドンはぶつぶつ言いながらみんなと一緒に声の主のいる場所に向かったのだった。

「落ち着いて… 聞いてほしいんだ!」

その声の主は落ち着いてはいなかった。タダは聞くより探る方が早いと思って持ち前の能力
を使ってしまったのであった。

「この船の船尾にもう一発の爆薬が仕掛けられている。たった今グレン教官から連絡が入っ
たんだ!」

震えながらもしっかりと内容を伝えているその学生は泣いているようだった。そのグレン教
官も負傷をして動けなくなったらしいのだ。さっきの爆発は船尾の方で、かなりの規模だっ
たらしい。スクリーンに映し出された船体は中央より後ろでぽっきり折れた形になっており、
かろうじて皮一枚の格好でつながっているようだった。

「タダ、グレン教官が… 」

タダはうなずいて通信機を取り上げた。

《グレン教官、応答願います》

低くてはっきりした声でタダは呼びかけた。しかし返事はしばらく返ってこなかったのである。

《タダか… こっちはほぼ全滅だよ。救助はいらない、お前たちは次の爆発までじっとしてい
るんだな。さっきの奴にも言ったが間違っても助けに来るなんてばかなまねはするんじゃない
ぞ》

彼の声は厳しかった。そんてそのまま通信機のスイッチを切ってしまったのであった。何の為
に仕掛けられたかはわからない爆発物が後ひとつ、この船尾の部分に残っているというテレパ
シーだけがタダの頭に響いて来た。

「助けに行こう! あっちには教官だけじゃなくて僕たちのクラスメイトもいるんだぜ!」

誰かが言った。しかしタダは首を縦に振らなかった。

「グレン教官が後10分程したら爆発するって言っていた。まだ10分もある、すぐに行け
ば… 今すぐ行けば… みんなで行ったら何とかなるよ!」

ドンは力説した。それに同意して何人かの学生がハッチに向かって走って行こうとした。

「止めた方がいい。もう無駄だ!」

タダの口から出たセリフは冷たかったのだ。

「うそだろ? タダ」

ドンが聞き返した。彼はハッチに向かっていた一人だったのだ。

「お前なら何とかしてくれると思っていたのに!」

彼は興奮しているようだった。

「単純な事だ。こっちは41人、そしてあっちは14人。残り時間7〜8分、無理だ!」

タダはこれ以上はないというほど落ち着いていた。

「お前… 冷たい奴だな、ええ? タダ! 少しでもいい奴と思ったのはオレの錯覚だっ
たのか?」

ドンの声は大きくて… そしてせつなそうだった。

「友情で救える命じゃない。教官もそう言っている。耐えるのもパイロットだと僕は思う」

彼の声も大きかった。

「もうすぐ爆発がおこるだろう」

タダはスクリーンの方に目をやった。彼にならって他の学生達もそのスクリーンに釘付け
になったのだ。


         ・・・ そして爆発… ・・・



 石頭の言った時間より早く爆発はおこったのだった。静かに離れて行く船尾の部分は大きな
塊を残し、その破片は雪のように散っていったのであった。雪はそのまま与えられた力の方向
に進んで行くだろう… 

 学生たちはタダの方を向いた。その目はキャプテンを見るパイロットの目だったのであった。
情に流されない的確な判断力、それは決して冷たいのではなく当然の計算の結果だったのである。

「タダ… 」

ドンは振り向かないタダの後ろ姿に向かって呼びかけたのだった。



 救助艇が目の前に現れた。

“あっ!!”

タダは心の中で叫んだのだった。

“わかった… なんだ! わかった!”

窓にはりついて救助艇を眺めている傷心の学生たちの後ろでタダは大きく息をついたのだ。次か
ら次へとパズルがはまってゆく時の快感を彼は今、感じていたのだった。

“そういえば変だと思っていたさ”

タダはもうすぐドアを開けて目の前に現れる人物を待っていた。この恐るべき陰謀の首謀者、そ
れがその人物なのだ。



 学生たちの驚きの声があがり、石頭ことグレン教官が入って来た。

「グレン教官! どうして?」

彼らは半信半疑で教官の顔をじろじろ眺めていた。

「わたしは生きているよ」

彼はそう言って笑っていた。

「君たちには悪い事をしたと思っているが現実も知ってもらわないとな。いかに宇宙がこわいも
のか、単純な中に危険が同居している、その同居人がいつ首を出すかも知れないという事を知っ
てもらいたかったんだよ」

手の込んだいたずらのような実習、それは特に選ばれたこの50人に課せられたものだったらし
いのだ。たるんだ連中を集めて鍛えるという古来から行われていたものを航空科流に行ったので
あった。爆発物を仕掛けた教官たち、学生の安全を見計らっての爆発、船尾に教官と共にいた学
生たちはすぐに事情を知らされてケガ人のふりをしていたらしいのだ。そしてタダはといえば…


「タダ、悪かったな。いつ気づいたんだ?」

石頭が聞いた。

「実は救助艇が着くまでわからなかったんです」

タダは頭をかいていた。

「お前らしくもない、すぐに気づくと思っていたのにな」

彼はそれが不思議だったのだ。

「僕も選ばれてあの中に入ったクチですか?」

タダは聞いた。

「そうだ、お前はあの連中のお守りとして入れたんだよ。お前なら何とかすると思ってな。悪い
いみじゃなくてお前を信頼していたよ」

彼の言葉にウソはなさそうだった。

「お守りですか… 」

タダは気の抜けた返事をした。ドンにも言われた事なのだ。

「僕はやはり教官の感応力にはかなわないんですね。どうしても直感力が働かない時があった。
きっと教官のせいだったと思うんですが」

気を取り直したタダが笑っていた。

「頼り過ぎるのも良くないが持っている能力を出せないのもいけない。そのバランスが大事なん
だよ。お前にはもっと大きな力が眠っている、わたしはそう思っている。いや、これはわたしの
直感だ、はずれない」

彼は自信ありげだった。

「買いかぶりですよ」

タダは謙遜ではなくて本気で言ったのだ。

「わたしの直感の方がお前より確かだよ」

彼はタダの肩をポンとたたくとその場から去っていった。タダは今日の疲れが一度に出たのか近
くのベンチに腰掛けたのである。




“これが現実の場合もあるんだな… ”

プロになると全てがそうなのだが…

「疲れた… って顔してるぜ!」

目隠しした白い手はフロルのものだった。

「帰ろうぜ、オレが荷物、持ってやるよ」

彼女は相変わらずのようだった。

“でも今日の実習、君がいなくて良かったよ”

タダは心の中で思ったのだ。もしフロルが船尾にいたとしたら自分は迷う事なく彼女を救いに
行っただろう。

「力、弱いくせに無理しなくていいよ」

気持ちだけで充分とばかりにタダは荷物を抱えていた。

「オレが親切に言ってんだから素直に聞けよな!」

フロルの親切は押し付けでも気持ちいい。タダは素直に従ったのであった。



「疲れたよ… 今回は」

タダはベッドに横になっていた。

「ただの実習じゃなかったんだろ? 誰かうわさしてた、石頭が死んだって。ふざけてるよな、
変な映画でも見たのか?」

フロルがベッドの横にやって来てタダの顔をのぞき込んだのだ。

「そんなのじゃなくて… 」

疲れ過ぎて話をするのがおっくうなのだ。

「いいよ、話さなくても。ゆっくり眠ったらいいさ」

フロルは出て行こうとした。

「ここにいればいい」

タダは立ち上がったフロルの手をつかんだのだ。

「わがままな奴。じゃ、ついててやるから… 」

ベッドの横でフロルはタダをずっと見つめていた。

“時々甘えるんだよな、こいつ… ”

すでに眠っているタダのほほをなでながらフロルはかすかにほほ笑んでいた。

“ヒゲ、伸びてるんだ… ”

当たり前の事だけどフロルはおかしかった。

“オレだけしか知らねぇ姿だよな”

人前では横にならないタダなのだ。こんな所を安心して見せられるのは彼女の前くらいだ
ろう。

“おやすみ、タダ”

急に睡魔が襲って来たフロルは彼の横で丸くなっていた。しだいにもうろうとして来る頭
の中で彼女はふと思った。

“お前… どんな夢を見るんだろな”

どうでもいいような事なのだけれどなぜか妙に気になった。しかしもう目が閉じようとし
ている…

“やっぱ… 眠い… ”

彼女もいつしか眠っていた。彼女にとってもそこは最も安心できる場所なのだ。夢も見ず
に眠るふたりはいつしか無意識によりそってゆくのであった。



                                     終



BACK


TOP