メイの心編(5年生)
“捨ててやる… こんな星なんて… ”
メイは観測所に展示されていた球状星団に向かってつぶやいていたのであった。誤っ
た進化を遂げつつある星だとも思っている。辺境星フロイト、それが星の名前だった
のだ。
「先輩のおなかにベビィがいるって本当ですか?」
メイはフロルに聞いた。
「本当だよ、卒業してからすぐに産まれるんだ。男の子なんだって」
クィーニから聞いていたものの会うのは初めての後輩だったのだ。
“変わっているけどいい子なの”と、クィーニは言っていた。
「私も早くベビィがほしいな… 」
メイは本心からそう言ったのだった。
「おいおい、ベビィはまだ先でいいぞ、だってオレもこれは予定外だったんだからな。
それに色々言う奴もいるし… 」
あわてて言ったフロルの言葉にクィーニは失笑した。
「でもさ、やっぱり自分のおなかに自分と自分が好きな奴とをつなぐ証しみたいなも
のがいるんだと思うとやっぱり嬉しい。これって経験してみないとわかんねぇと思う」
フロルは少しふくらみかけたおなかをさすりながらそう言ったのだった。
「いいなぁ、幸せそうで… 早く結婚したいなぁ… 」
メイはため息をついたのだ。
「でもメイ、その前に恋人をつくらなくちゃね」
クィーニはそう言って笑っていた。彼女にとってかわいい1年生の後輩なのだ。どう
しても妹のように思えて仕方がないのである。
「私… 」
メイは少し考えていた。彼女は時々落ち込んだような不思議な顔をする時がある。そ
れがどうしてかという事を彼女は言わない。クィーニも聞かない。いずれ彼女が話し
てくれると信じているからだったのだ。こんな時にタダがいたならすぐに彼女の気持
ちを察してくれるのに、と思うフロルだったのであった。
「お前の星、なんて星なの?」
唐突にフロルが聞いた。一瞬驚いたように目を見開いて…
「フロイト星… X−1142ポイントの小さな星です。どの星系にも属していない
んです」
彼女は小さな声で言ったのだった。
「じゃ、辺境星なんだな」
フロルもそうだったけれど辺境星から大学にやってくる者も少なからずいたのである。
一般的に辺境星は星系に属していない分だけ他の星の影響を受けにくく、独自の文化
が存在していたのである。
「ふうん… X−1142星か。僕も聞いた事がないよ、フロイト星… チャコなら
すぐに調べるだろうけどな。クィーニはきっと遠慮して調べなかったんだろうな、そ
の星の事」
タダはフロルの言葉から察するにはその星に何らかの原因があってメイが落ち込んだ
りしているのかもしれないと思うのであった。
「明るそうな奴なんだぜ、メイって子。オレの事うらやましいって言ってたんだ。き
っと子供が好きなんだな」
フロルは嬉しそうに話していた。彼女はベビィができた事に対し好意的な者には寛大
なのだ。
「子供が好きなの… メイだけじゃないんだよ」
タダはフロルの額にこつんと触れた。
「わかってるよ、お前が一番楽しみにしているのなんて当たり前じゃん。あえていわ
ねぇけどこの子がお前のテレパシーを毎日聞いている事くらい知ってたさ。きっとこ
いつはテレパスになる」
それは彼女の直感だった。もっとも半分はタダの血を引いているのだからテレパスが
産まれても不思議ではないのだが…
「早く産まれねぇかな? 産まれてからの方が忙しいって言うけれど、おなかの中に
もっているってやっぱ… プレッシャーがかかるんだ。こんな事考えちゃいけねぇの
かも知れないけど。産まれりゃお前とオレの共同責任になるだろ? 今だとオレだけ
がなんかさ… なんか… 」
急にフロルがふさぎこんだのでタダはあせった。
「君が不安になるのは僕の責任だ」
産まれてくるまではフロルが一人で育んでいかなければならないのだ。それは彼女自
身充分に承知している事なのだけれど、不安はついてまわるものなのだ。
「僕は何もできない。僕は今、すべての父親が一度は感じたと思う事を感じている…
自分の妻を目の前にして何もできない自分の無力さを」
タダはフロルを抱いていた。
「ごめん、オレやっぱり弱いんだ。お前に甘えている自分がわかっていてもどうする
事もできねぇ。いつもお前が気を使ってくれているのを知ってるくせに自分だけがつ
らいんだと思っちまう。だれもいねぇ時に陣痛がきたらどうしようとか、産まれる時
はものすごく痛いんだろうかとか考えたら恐いんだ。母親ってだれでもこんな気持ち
を乗り越えてベビィを産むんだろうか? それともオレだけが意気地なしなんだろう
か? オレわかんねぇや。だってまわりには誰もそんな事、知ってる奴がいねぇんだ
もん」
フロルは明るい口調で言ったものの内心はそうではない。タダも又、そんなフロルを
抱き締めたままで何も言葉がでてこなかった。最初の子供を身ごもった時に感じる不
安をふたりは今、わかちあっていたのである。身近に相談する者がいない孤独なフロ
ルにタダは責任を感じずにはいられなかったのであった。
ダイオキシンをはじめとする化学物質は確実にX−1142・フロイト星の人間を
むしばんでいた。が、その事に気づいたのは最近である。いつの間にか無性別の生き
物が現れたり、本来なら単性のはずの生き物が両性になるというケースが増えていた
のだった。そしてこの星の人間はいつしか不妊症に悩むようになったのであった。し
かしその星の人間は環境改善よりもクローンの研究に力を入れ始めたのだ。
“だからと言ってクローンが最上の方法だなんて… ”
彼女は納得がいかなかったのである。クローンの研究は確実に進んでおり、一般に向け
ての実施は近いうちに行われるだろう。
“私はやはり許せない… ”
彼女は唇をかんだ。
彼女は知っていた。
自分は試作品のクローン人間であり、自分と同じ顔をもつ試作品が少なくとも3体はある
という事も。そしてしのうちの1体はスペアと呼ばれ、自分を含めた3体の臓器が痛んだ
時にそれを取り出す為にわざと人格を与えられていなかった。スペアはただ生きる、それ
だけの人間だったのである。
《君の頭脳は期待されているんだよ》
政府の高官がこの大学に入学する時に言ってくれた言葉である。
“私はクローン人間を造る為に生かされているんだわ”
培養液の中にいるたったひとつの細胞、それが自分だったのだ。
《君がこの星に帰って来た時にはぜひ我々に力を貸してほしいのだ》
それはほぼ強制的のような気がする。
《良かった… あなたが大学に受かって… 》
メイの母親が嬉しそうに話しかけた。入学の数日前だった。
《お前の値打ちが上がったな、私は嬉しいよ》
父親の言葉だった。彼らはともに同じ政府のクローン研究所で働く研究員だったのだ。
《私は結局ただの作品だったのね… 》
メイはその言葉に両親との決別を決めたのであった。
「君はぜんぜん平気なんだね」
タダがフロルに言った。彼女はよく動くのだ。妊婦というのはあまり動かないだろう
と思っていたタダなのだがフロルは違っていたのである。しかし胎児には悪影響はな
さそうなのだ。きっと二人のベビィは間違いなく元気な産声をあげるだろう。力強い
心音が今日もタダを奮いたたせてくれるのであった。
“僕は父親なんだな”
フロルの後ろ姿をながめながらタダはほほ笑んでいた。嬉しい! 表現できないよう
な充実感がタダの心を支配する。
ィを実感できないだろうな”
我ながらだらしないと思うのだが、さすがのタダもこの感情だけはとうていセーブで
きそうにないのだ。
「フロル、僕は本当に君が好きだよ!」
タダは彼女の髪をなでていた。
「ばーか!」
返って来たフロルらしい返事に思わず苦笑するタダだった。
クィーニはメイと共に観測室につめていた。大学惑星が公転している太陽系内の惑
星を観測しているのだ。大学惑星よりも太陽の近くを公転している惑星の観測だった。
「見える時間が限られてるから今夜は泊まり込みね」
クィーニはメイたち一年生に向かって要領よくマニュアルの説明を始めていた。彼女
は教えるのがうまいのだ。
「惑星βの第四惑星である大学惑星の内側には三つの惑星が回っている、でもここか
ら見えるのはこの第三惑星だけなの。この惑星には衛星もたくさんくっついて回って
いるから見落とさないでね」
クィーニは注意した。この衛星まで正確に見つけられる一年生は少ないからであった。
「何か質問があったら遠慮なく言ってちょうだいね」
クィーニはにっこり笑って一年生を見渡したのである。彼女の優しくて誠実な性格は
下級生の男心をくすぐるのに充分だったのである。
「メイはどうして天文学科を選んだの?」
クィーニは聞いた。観測時間外なので担当の学生を除いたら自由に過ごしてよい時間
だったのだ。
「私は… 」
彼女は少し考えるふりをした。
「私は遠くに行きたかったんだ… 」
星が好きだったと答えようとしたのだが、それでもこの答えの方があっているような
気がする。
「いつも夜空を眺めながら… 故郷の星を離れてどこか遠くに行きたいと思っていた
んだ… 」
彼女はクィーニを見ながら作り笑いをしようとしたのだった。しかしその表情があま
りにも寂しそうなのでクィーニは戸惑ったのである。何かを聞いた方がいいのだろう
か、それとも聞かない方が親切なんだろうか、それは彼女にはわからなかったのであ
る。
「先輩は卒業してしまうんですね… 」
メイの笑顔が消えていた。
「もし… 卒業した後でこの大学に立ち寄った時、私が先輩の事をわからなくっても
何も言わないでくださいね… 」
彼女は真剣なまなざしで訴えるように言った。
「 …え?」
クィーニはその意味がわからなかったのだが聞き返すのもはばかられて、つい何も言
わないままに聞き流すふりをしたのであった。
「それは私じゃないかも知れないから」
彼女は言った。メイはクィーニ先輩が何かを察してくれるのを期待せずにいるみたい
だった。事実クィーニには彼女が何をいっているのか全くわからなかったのだが…
その時観測室に入って来たのはフロルだった。横にはタダもいる。
「よぉ、明け方まで暇だと思って差し入れを持って来たぜ」
フロルは軽食の入ったバスケットをクィーニの前に差し出したのであった。大学惑星
より内側を公転している第三惑星を観測できるのは明け方と夕暮れ時だけなのだった
のだ。みんなはそれぞれ好きな者とかたまってしゃべったりティータイムを楽しんで
いたのである。
「ありがとう、よかったらお茶にしない? メイ、もちろんあなたもね」
クィーニはさっきの気まずい雰囲気から逃れられてほっとしていたのである。メイの言って
いた意味がわからなくて、それでも彼女は自分に何かを言いたかったのがわかるけど
真意を察する事ができない自分がはがゆかったのだ。
「さっきチャコの観測室をのぞいたらあいつ、クィーニどうしてるって聞いてきたん
だぜ。たった一日会わねぇだけなのに仕方ねー奴って言ってやったんだ」
フロルがさっきのチャコの顔を思い浮かべながらくすっと笑った。
「チャコらしてじゃないか、笑っちゃ失礼だよ、フロル」
と言うタダも笑っていた。チャコはクィーニに対する愛情表現を惜しまない。
「でもさーっ、おっかしいぜ、あいつ。クィーニが風邪ひいてないんか、だってさオ
レいやんなっちまうよ」
「君が嫌になる事ないじゃない、奴の気持ちもよくわかるよ。誰でも口に出すか出さ
ないかの差だと思うよ。普通の人間なら何だって口に出さなないとわからない。察し
てもらう事を期待するのは一種の我がままかもしれないね」
タダはフロルの頬に両手をあてた。
「だから… 何なんだよ?」
タダが何を言っているのかわからないフロルが聞いた。
「いや… チャコがいい奴だって事を言いたかっただけなんだ」
タダは言葉をごまかしているようだった。フロルには何となくわかるのだ。
“君の事を言っているんだよ、メイ”
タダはメイに向かって目で話しかけていた。しかし彼女は気づかないのだ。彼女のオ
ープンになった心を読むのはタダにとっては簡単な事だったのだ。彼女はまるで箇条
書きをしているかのように順序だてて自分の事を考えていたのである。
“君は自分がクローン人間なんだってみんなに言いたいんだね。故郷の星では自分の
両親ですら君を作品扱いするだなんて… そして君はすべてを話した後で一人の人間
としての自分をみんなに認めてもらいたいと思っている”
タダは彼女に同情していた。
“どんなに普通になりたかったか… 当たり前のように恋をし、当たり前のように結
婚して普通の家庭をもつ事が君にとってどんなに困難な事なのか… 普通にあこがれ
る君の心が僕には痛い。でも君はれっきとした普通の人間なんだよ。君の星でどう思
われていようと”
タダは人とは違う能力が恨めしくなる事がある。好奇心に勝てない時があるのだった。
「メイ、どうしたんだ? さっきからぼーっとしてさ。何か言いたい事でもあんのか?」
フロルは彼女の様子が気がかりだったのだ。
「いえ… あの、うらやましいなって思ったんです。何もかも… 」
メイは言葉をにごしていた。しかしそれ以上の事は言わないのだ。
「クィーニ先輩は私のあこがれなんです」
彼女は本当に明るく笑ったのだった。しかしその笑顔の裏に隠されている事実を知っ
ているのはタダだけだったのである。彼は何も言わなかった。それが彼女の望みなの
だから。そして何もなく毎日が過ぎて行く… それでいいのだった。
短い休みにメイは故郷に帰っていた。両親が呼び寄せたのだ。
《大事な用事があるの》
メイの母親からの短いメッセージが入っていたのだった。
《週末に帰ります》
その返事の通り彼女はフロイト星に帰って来た。彼女はまだ母親に対する未練がある
のだ。もしかすると自分の思い過ごしであり、本当は実の子供として愛してくれてい
たのかも知れないという期待が残っている。まだ少し甘えてみたい気持ちもあるのだ
った。
「ただいま」
淡い期待をいだきつつ彼女は家のチャイムを鳴らしたのである。
「メイ、久しぶりね。待っていたのよ、あなたが帰って来るのを」
母親は嬉しそうに両手を広げて彼女を迎えたのである。
そしてその後に続く言葉は…
「私はおもちゃじゃないわ!!」
メイは叫んでいた。今まで出した事のないような大きな声だった。
「あなたの優秀な卵子がすぐに欲しいのよそれと体細胞も少しね。実験に使いたいの。
政府からじきじきの要請なのよ。わかってちょうだい、メイ。こんな名誉な事はない
んだから!」
母親も必死だったのだ。
「健康な体でしかも宇宙大学に入学できたというあなただからこそ要請があったのよ。
聞き分けのない事を言わないでちょうだいね」
「そんな… 」
メイはもう何も言えなくなってしまったのだ。心の中に残っていた母親に対する甘え
はすでにない。
“私はこの星から逃れられないのかしら?”
彼女は悲しかったのだ。
「あなたの体には未来がかかっているのよ… 」
母親は気ままな子供を諭すようにもう一度彼女の後ろから声をかけたのだ。素直にう
なずくメイに明日の希望はなかったのである。
メイは地下室で飼われている“スペア”の様子を見に行った。臓器交換の為だけに
生かされている実験用の人間、それがスペアなのだ。自分と後の二人のクローン人間
の為にこのスペアは存在を許される。そしてその最優先の使用権は一番優秀なクロー
ンであるメイにあるのだった。
“かわいそうね、私よりずっとずっとかわいそう… でも本能だけで生きている分、
幸せかもかも知れないね”
彼女はガラスの向こうにいる自分と全く同じ顔をしたスペアに話しかけていた。しか
し言葉は通じない。ガラスの向こうの自分は何も知らないきれいな目をしてメイの顔
を眺めていた。自分の母親は彼女の母親でない。だからこそ彼女の世話ができるのだ
ろうと思うのだ。もし自分に何かがおこったらその子の命はなくなるかも知れないか
らである。
“狂っているんだ。この星全体が… もっと環境改善に力を入れるべきだったんだわ。
みんなおかしいのよ! クローン人間なんて作ったら男も女もいらなくなってしまう
のよ。みんなどうしてこんな簡単な事がわからないの?”
メイは階段を駆け上がり外に飛び出した。もうこの家にいたくない。彼女の体は走っ
て来た車の中に吸い込まれるようにして消えていったのであった。
「大丈夫、メイの細胞はまだ使える。すぐに培養を始めよう。政府もそれを望んでい
る」
メイの父親は冷たく夫人に言ったのだ。彼女は少しだけ涙ぐんだ後でその作業に取り
掛かったのだった。その為のスタッフもすでに集まってきているのだ。フロイト星と
はそんな星だったのである。
「大学にはナンバー2のクローンを送り込めば良いのでは? 検査を受けてもばれや
しないだろうし」
スタッフの誰かが言った。しかし母親はそれをきっぱり断ったのである。
「私の娘はメイという子だけです。他の誰にもメイという名を名乗って欲しくありま
せん」
そしてその後に思ったのだった。
“私は今、本当の母親になったような気がする”と…
メイの死にクィーニはショックを受けていた。彼女を見送りに行った時、まさかも
うあえなくなるとは思いもしなかっただけに余計である。
「誰もあしたの事はわからへんもんやな… 」
チャコはぽつりとつぶやいた。彼の腕の中で泣いているクィーニがこわれてしまわな
いように、背中にまわした腕に力を込めながら…
「ずっとあたしの事をうらやましいって言っていたの… あの子も生きていれば素敵
な人と恋をして… そしてね、きっとあたしたちがうらやましくなるくらい幸せにな
るって信じていたのよ… 」
クィーニは本当に彼女の死が悲しかったのだ。
チャコから連絡を受けたタダたちも又、メイの為に祈っていた。
「クィーニは大丈夫かな? あいつメイに入れ込んでいたからな。かわいそうだよ、
クィーニ… 」
本当にかわいそうなのはメイなのだけれどフロルにとってはクィーニだったのだ。
「クィーニにはチャコがいる。彼女なら大丈夫さ」
タダはクィーニを気遣うフロルがいとおしかった。誰も知らないメイの秘密はタダのB
胸の中だけに収まっている。
“メイの事を知っている奴は僕と石頭だけだったかも知れないな”
タダはぼんやりとメイを思い出していた。しかし一度会っただけという一年生の印象
は薄かったのである。何度か会っているフロルですら彼女の死よりもクィーニの方が
気掛かりだったのだ。
「何のために生まれてきたのかな?」
タダの口からついて出た言葉だった。クローンの実験の為だけだとすればあまりにも
悲しい一生だったような気がする。
「誰が?」
フロルが聞いた。
「いや… メイがさ。もういないけれど」
タダは言葉を濁していた。
「よくわかんねぇけど… きっと両親を悲しませているんだと思うとあいつって親不
孝な奴だって思っちまうんだ。やっぱ、子供が先に死んじゃだめだよ」
フロルはおなかの子供の事を考えているようだった。もしこの先、自分たちの子供が
そんな目にあったとすればフロルだけじゃなくて自分も正気ではいられないような気
がするのだ。
“でもメイは違うんだ”
タダはもう一度、彼女を思い出していた。今度ははっきりとはいかないまでも頭の中
に顔が浮かんで来た。タダの思いでの彼女は寂しそうなほほ笑みをたたえ、じっとタ
ダを見ていたのだった。
“何も考えずにゆっくりとおやすみ”
タダは心の中でそう語りかけていた。それで彼女の魂がいやされるとは思わない。し
かしそう言わずにはいられないのである。
クィーニはチャコと共にサバ系の大きな惑星で買い物をしていたのである。たまに
はデイトをかねて遠出する二人だったのだ。
「あれ、メイじゃない!」
クィーニはチャコに言った。彼女とそっくりの女性がすぐそばにいるのだ。
「ホクロの位置まで同じなの」
クィーニは驚いていたのである。
「ほんまかいな、他人の空似やで」
しかしチャコは信じない。メイならひとつきも前に事故で死んでしまったはずなのだ
から。
「でもチャコ!」
クィーニは引き下がらない。しかしその時メイにそっくりな女性の母親らしき人物が
彼女の名前を呼んだのだ。
「○○!」
その名はメイではなかったのだ。
「他人の空似だったのか… 」
クィーニはそれでもまだ不審顔である。
「世間には自分とよう似た奴が三人おるとゆうからな」
チャコは言った。そんな事もあるのだろうとクィーニは納得しようとした。
しかしチャコたちは知らない。その子がメイと同じ細胞から作られたクローンだっ
て事を…
終