アキラの挑戦編
アキラがヒカルを意識するようになってから数ヶ月が過ぎた。プロ試験に合格し、春から夏
にかけて手合いをサボっている彼女が気になって問い合わせをした時に、初めて彼女が
女性棋士として登録してあると知ったのである。
その時の衝撃はすごかった。
もともと綺麗な顔だと思っていた。女の子じゃないかと考えた事もあった。しかし嬉しい誤
算に彼は我を忘れていたのである。
一回り大きくなって現れた彼女を前にし、一回り大きくなったアキラの息子が喜んだのは
秘密の事実だった。
"しかし君は何を着ても実に女らしい・・"
その女らしいとは、和谷に言わせたら女だろうか?女かも、に通じるのだがアキラのそれ
はソレじゃない。
"恥ずかしいヤツ・・・"
越智はアキラの行動を観察していたのだ。
生真面目なアキラは真面目にアホな事を実行する。
純真がうえに生み出す不幸な行動とでも言おうものか、それは変態に近かった。
今もアキラはそんな行動を本気でとっている。
"見えた!"
彼の顔がパァァァ・・・っと明るくなった。
ヒカルが好んではくパンツはダボっとしたものだ。
その膝丈のパンツルックであつかましいアクションを繰り広げるヒカルが大きく足を上げた
時。
そう、そのパンツのすその奥の奥を目を凝らせて見ているアキラはついにお目当てのモノ
を見てしまったのだった。
瞬時にして見抜いた彼の眼力はものすごいものがある。
"白じゃないか! しかもふちにレースがついていないヤツ"
きっと木綿の素朴なパンティだろうと想像できるアキラは一人で顔を朱に染めていた。
この映像は今夜のおかずになるというものだ。
アキラは健全な男子中学生である以上、みだらな行為は想像してはいけないと思ってい
る。
しかし彼の夢に出てくるヒカルはいつもみだらであり、しかもアキラの息子を熱くさせるも
のだった。
"ああ・・・ボクは異常なのだろうか? それとも他の男子はボクみたいにこんな事やあん
な事をしているのだろうか?"
そのしている事はきっと同じだろうが、生憎彼にはそれを語る友人がいなかった。優しい
母は柔らかいティッシュをいつも部屋に用意してくれている。しかしまさか母には相談でき
ない種類のモノだ。
緒方ならばもっと一歩も二歩も踏み込んだ・・いや、10歩踏み込んでアキラをあらぬとこ
ろに連れて行くかもしれない。だから相談するのはやめておく。
玄関に人の声がした。
"誰だ? こんな時間に・・"
今夜は両親がいないから自分が出るしかないアキラはめんどくさそうに玄関を開けたの
である。
「進藤!!」
思わずアキラは大きな声になった。
「な・・ 何だよぉ! びっくりするじゃねーか!」
実際ヒカルはドキドキする胸に手をあてた。それはまるで"私を抱いて・・"と誘う女の態度
のように見えるアキラだった。
「あ、すまない・・しかしどうして君が?」
「緒方さんに頼まれた。これをおまえにだって」
ヒカルはなにやら妖しげな紙袋を手渡した。紫地にピンクと黄色の大きな水玉の模様をし
た脇に抱えられるほどの大きさだ。
「ありがとう・・」
とりあえず受け取ったアキラは一瞬考えた。
"これはチャンスじゃないのか?"
「一局どうだ? 進藤」
アキラはつとめてさわやかに白い歯をのぞかしてほほ笑んだ。
「・・ん、どうしようかな」
ヒカルは少し考えた。もう8時をまわっている。夕食はいらないと言ってきたものの終れば
午前様になりそうだ。
「やっぱやめとく。今度にしようぜ」
ヒカルは申し訳なさそうに断った。
しかしアキラはあきらめられない。
「ちゃんと送って行くよ。まさか深夜に一人で帰すようなことはしない。それは信じて欲し
い」
アキラは必死だった。下心アリアリの彼なのだが今はそれを隠しといて・・
「じゃ、一局だけな」
ヒカルはアキラの熱心さに負けてOKしたのだった。
「で、どうしてここにツケる?」
「おまえこそハネに食いつきそこねたくせに!」
検討の時のお決まりケンカ。それは二人の親しさの証明のようなもの。
しかし今日は違っていた。
「雨・・?」
ヒカルが気がついた時にはすでに降り出した雨が強く窓をたたいていた。
閃光の後に聞こえてくる音の間隔が大きく短くなってくる。
「近づいてるな、夕立にしては遅い時間だ」
冷静にアキラが言った。
「やむ・・・のかな?」
ヒカルが不安そうに窓を眺めている。
「雷が恐いのか?」
その後からアキラが聞いた。
「恐かねーよ!」
と言いつつ小刻みに震えている細い肩。
"抱きたい・・ この腕に抱きしめてそのまま・・"
考えるだけで下っ腹が熱くなる。急に窮屈になったファスナーの下には彼の正直な息子
がいたのである。あまりの窮屈さに彼は少しだけファスナーを下ろしたのだった。
その時アキラの携帯が鳴った。
<ああ、アキラ君だね。あれを開けてみたのかい?>
携帯の向こうから緒方の声がする。
「え?」
<今夜は雷雨になるとニュースで言っていた。きっとアレが役に立つ>
「はい・・?」
意味のわからないアキラはさっきの袋を開けてみた。
「 !! 」
中から出てきたのはベビーピンクのネグリジェだ。しかもご丁寧にブラとパンティもセット
になっている。さらに袋の底には四角い小袋が二つ用意されていたのである。
<進藤のお泊りセットだよ。君へのプレゼントだ>
「お・お・お・・・」
<ああ、礼はいいから>
クククと笑う緒方が携帯を切った。
「なんだ、こりゃーー!」
ネグリジェを手にしたアキラを見てヒカルも固まった。
緒方のいたずらか本気かわからないが自分がカモネギにされていたのである。
「あの・・な? 塔矢・・」
「緒方さん・・・」
うん、そりゃ進藤が泊まる状況になるのは大歓迎だった。
いいぐあいに行けば雷に震える進藤をこの手に抱き、体中にキスの雨を降らせて・・
そして二人は結ばれるのだ。
小袋は二つ。
破らずに使えば2回はできる!
一度だけ風呂場で実験をした事がある。小袋に水を入れてふくらまし、強度を調べて
みたのだった。
"ボクがいくら大きくなっても破れないだろう"
そんなアホな事を思い出しているアキラは本当にアホだった。
"でも無理じいはできやしない。進藤の気持ちを確かめてからでないと"
彼は今まで恋らしい恋をした事がない。
中学生で恋愛に長けているのも考えものだが、少なくとも初恋か二度目の恋ぐらいは
済ませておくのが普通だった。
しかし普通じゃないアキラはこんな場合の対処の仕方がわからない。
「進藤!」
アキラはヒカルの真正面に立った。
「泊まっていきなよ」
彼は正直に言った。
「でも・・」
「着替えならコレがある」
アキラは緒方にもらったネグリジェを指差した。
しかしヒカルは困っていた。
最低自分はこんな格好をしていても女の子であり、いくら知っているとはいえ男の子の
家に泊まるわけにはいかない。
「塔矢・・俺、女なんだぜ」
ヒカルはなさけない声で言った。
「わかっている、男だったらこんなことは言わずにさっさと追い出すよ。君だからボクは
誘っている」
「誘う??!」
「どこへ? 何を? どう??」
ヒカルは焦っていた。
「ボクは君が好きだよ」
アキラはヒカルの手を取った。充血した目はヒカルしか見ていない。
「君が好きだ!進藤・・」
彼はキスをしようと彼女の頭と腰に手を伸ばしたのだが・・
「う・・・わぁ!!」
突然ヒカルがアキラを突き飛ばしたのだ。
「やだ〜っ!!」
突然ヒカルが泣き出した。
彼女は下ろしたファスナーからあふれ出た彼の息子を見てしまったのだった!
「やだよ〜っ! こんなのお前じゃねーっ!! そりゃ俺も塔矢のコト、好きだよ。で
もさ、でもさ・・」
ヒカルは所詮、恋愛にうとい女子中学生だった。そしてアキラも又、経験不足の子ど
もだったのである。
ヒカルの家まで送っていったアキラは紳士だった。今日の出来事はきっと緒方が見
せた悪夢だ、とでもしておこう。
しかし彼女の肩をしっかり抱いているアキラは次のチャンスを狙っていた。
"そう、今度こそ・・"
そうやってアキラの更なる挑戦は続いていくのだった。
終