明日はきっと!1
総合格闘道場・竜炎主催の異種格闘Jr大会は3回目を迎えていた。
本戦もいよいよ決勝戦となり、男子の部に皇閃、女子の部には火月礼央が残っ
ていたのである。
「礼央、おりゃやっぱり1年の時が一番おもしろかったな」
「あたしもそう。女子の部ではつまんね」
「礼央も相手がいねーもんな」
「あんたもものたりねーんだろ? 皇友はやっぱり出ねーもんな」
試合前の休憩時間にふたりはベンチに並んで腰かけていた。
ごく普通の会話を自然に話せる、そんな関係が出会いの時から続いていた。付
かず離れず少しものたりないぐらいの距離で2人は接していたのだった。
「とうちゃんがさ」
閃が突然話題を変えた。
彼が父親の事を話すのは珍しい。
あれは2年前の事だった。
突然あらわれた彼の父、皇帝に閃は完膚なきまでにやられたのである。焔豪将
騎や息子の大我が駆けつけた時には時すでに遅く、閃は秋葉道場に横たわって
いたのである。
命に別状はないものの彼は彼なりに大いに考えることもあり、しばらくは彼らしく
なく落ち込みに近い状態があった。
「お父さんがどうした?」
礼央が聞いた。
「電話があった。何でも本気でやれって」
「はぁ?」
「ま、そんな事だ」
「全然わかんねー!!」
礼央はワケのわからない閃の言葉にイラだち立ち上がった。
「くだらねー事、言ってないでそろそろ行こう」
彼女は閃をうながした。中途半端な会話は礼央の望むものではない。何かを隠し
ているのかいないのか、相変わらず閃はふざけてるのか本気なのかわからないま
ま礼央は決勝に臨んだのであった。
礼央が男子の部に出場した事は格闘雑誌記者にすっぱ抜かれ、当時話題にな
ったものだった。それに並行して今まで無名だった皇閃、そして友の存在もクロー
ズアップされていたのである。
「いっくじぇ!!」
閃は一蹴し、相手を倒したのである。破傀拳を使わずともいとも簡単に・・・
それほどの実力を彼は備えていたのだった。
それは礼央にも言える。彼女も蛇蠍拳なしで相手を俊殺していたのだ。しかもダ
メージをあまり与えないように配慮しながら・・・
「礼央」
と、閃が言った。
「二人そろって優勝だな」
彼は嬉しそうだった。
「それが嬉しいのか?」
と、礼央が突っ込む。しかし少し紅潮した頬は戦った後のものではなく別のものだ。
「お前と一緒だから嬉しいと言っちゃおかしーか?」
閃はいつになくマジだった。真剣にそんな事を言われると礼央は言葉を返せない。
「あんた、変」
「だって礼央は去年出なかっただろ、遠慮して。友も騒がれるのは嫌だって言って
出ねーし」
「だから?」
「 ・・うん、だから思い出作りかな?」
閃は頭をかきながら言った。その煮え切らない態度は彼らしくない。
2人が歩いていると何回もフラッシュがたかれていた。きっと格闘雑誌の記者のも
のだろう。気にしないで歩いていると出口には閃の祖父、朱門が立っていたのであ
る。
「閃」
と、朱門は短く言った。
「ああ」
と、閃も短く答える。2人は目で話しており、礼央にはわからない会話が続いていた
のだ。
「なぁ、礼央」
閃は明るく笑って言った。本当に明るく澄んだ笑顔は彼独特のものだった。
「なんだよー?」
礼央は何かを感じていた。
「ちょっと行ってくっからな!」
閃の言葉にどう返事していいのかわからず礼央は手を上げた。その手を閃は素早
く握り、そして言った。
「礼央、おれはいつでも本気だからな!」
その手が離された時、礼央は言いようのない不安に襲われ閃の名を呼んだ。
「すめらぎ・・」
礼央は走り去ってゆく閃を追う事ができなかった。追えばまるで永遠の別れのよう
に思われて恐いのだ。
「あんた何言ってんだよ・・」
その場に立ち尽くした礼央は閃が自分の前からいなくなったのを直感したのである。
続く