淡きこと夜明け前の夢のごとし編(佐為)




  <やはり私は存在していたのですよ・・・>

 佐為は消えた・・・
ヒカルの悲しみが今から始まる。


人は死ねばどこに行くのだろうと思っていました・・ 
入水した私にはその答えがすぐわかるものと思っていました・・

 今、こうやっているとヒカルと出合った頃がさっきの事のように浮かんできます。人は死ぬ
前に自分の一生を振り返るとか言うそうですが、私にはその余裕なんてありませんでした。 
だって水は苦しいです。
少しの後悔が私のプライドに障ります。
所詮、私は生きてはいられない人間だったのですから・・

今ぐらいに強かったならもっと違った結果が待っていたでしょう。
しかしもう遅すぎたのでした。
天寿をまっとうせずに死を選ぶ私に架されたものは、わたしにとって甘い悦楽でした。
後世に名を残した本因坊秀策。
囲碁を世にしらしめたヒカル・・
それを育てた自分という意識。

きっと私は満足して消えるでしょう・・・
できればもう少し碁を打ちたかったけれど、今が潮時なのかもしれません。
きっと今が私の意識の天寿なのでしょうから・・
考えたら私は3度の生を受けていたのですね。
それはなんと贅沢なものなのか・・
 私が誰かに生かされているとすれば、私を生かしてくれたすべての存在に感謝していま
す。
<ありがとう・・・ ありがとう、と>


 佐為を溶かしてゆく光のようなものが静かに降って来た。
肉体を持たないとはいえ意識ある佐為は生きていたといえるだろう。
淡い光はヒカルの身を包み込む。
しかし佐為の抵抗はない。

ゆっくりと消えてゆく佐為・・・
ヒカルにゆだねた心を彼女は理解するだろう・・・
少しは時間がかかるかも知れないが、いずれはわかってくれると思う。


<ああ・・ 私は今、最上の微笑を浮かべていると思います・・ >

消えかけたた佐為の意識は中空をしばしただよった。
光の片鱗がヒカルの肩に残っている。
それは最後に置かれた佐為の手だったのかも知れない・・


そして佐為はヒカルの碁になった。
       

                                             終
 

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