文化祭編(閃礼央中一)
瓦礫が丘中学校でも恒例の文化祭が行われていた。週5日制になってからというものは土曜日
に文化祭を持ってくる学校も多く、この中学校でも例外ではなかったのである。
文化祭にしては遅い冬に近いものだったが、近隣の学校からの生徒が多く集まってきてにぎやか
なものとなっていたのだった。
「わ、かわいい!!」
「赤いリボンも付けちゃえ!!」
「やめろって!!」
「駄目よ、今日は茶店の看板娘になってもらうんだから」
礼央とクラスメイトの女子との会話だ。
茶店らしく和風な飾り付けでコーディネートされた教室に着物姿に赤いまえかけの女子が並んで
いる。
「だいたいなんであたしがこんな格好をしなきゃいけないんだ?」
「だって男子が厨房に入りたいって言うんだもん。それに女子が接客する方がいいでしょ? な
んせ他の中学の子も来るんだからね」
「でもあたし、厨房の方が向いてるよ!!」
と、言っても誰も聞いていない。
「はい、かわいいわよ、礼央。きっと皇君が惚れなおすから」
「ほんと、皇君って礼央しか見てないんだもんね」
誰とでも気軽に話をする皇が唯一女の子と意識して話しているのが礼央だという事はみなが認め
ている。
「そんなんじゃねーって!!」
あわてて否定する礼央。しかしやはり誰も聞かないのだった。
「あったー!! ここじゃ」
いつもの皇の声がする。
「あ、火月さんだ。着物着てるよ」
これもよく聞く秋葉の声。
「ほぇ〜。礼央、いつもと違うじぇ」
「本当だ、火月さんってじっとしてればおとなしそう・・・」
と、言う秋葉のセリフが終わらないうちに手刀が直撃したのだが・・・
が、その後だ。
「こんにちは・・・」
はにかみながら入ってきたのは忘れもしない女の子。
原田羽奈だった。うしろには大きな金魚のフン的存在のごっちゃんもいた。
<なんでこいつが皇と一緒にいるんだ?>
礼央が思うのはもっともである。クラスどころか学校も違うのだ。
しかし今日は文化祭。
他校の生徒も押し寄せていたから不思議ではない。
礼央のまわりの空気が微妙になる。
しかし平静を装う礼央。
少し苦しいかも・・・
「いらっしゃいませ〜」
その空気を察してか、わざと明るく出迎えた礼央は4人を窓際の席に案内した。
一方じぇんじぇん空気の読めない閃は校内マップを広げていろいろ教えているようだ。
<礼央、怖い・・・>
と、思ったのはクラスの女子だけではないようだ。カーテンでしきられた厨房の部分にいる男子
たちもそれを読み取っていたのである。
「火月さん、これを運んでくれる?」
男子が礼央に声をかけた。さりげなく差し出すジュースのコップが震えている。
「ああ」
短く返事して受け取った礼央は閃のテーブルに注文の品を運んでいったのである。
「サンキュー、礼央。やっぱ女の子だな、胴着姿から想像できないぜ」
礼央をじっと見ていた閃が少しマジに言った。
<閃さんったら・・・>
これは原田の嫉妬の心。確かにこうやって見ればあの山田吾郎の姿からは想像できないほどに女
性らしい。自分よりは10馬身ほど劣るけれどもまぁ、かわいいかも知れないと思う原田なのだ。
一方隣りのごっちゃんは礼央を見ている。
<羽奈の方がぜったいかわいいって!!>
これはごっちゃんの心の声。彼女は気が付いていないが原田の引き立て役になっている事間違い
なし!!
「想像できなくて悪かったな!!」
礼央はそれだけ言ってそこから離れたのだった。二人が・・・正確には4人だが、が、一緒の空
間にいるのが耐えられない、そんな気がするのだ。
<あたしやっぱり皇を意識している。でも認めたくないだけ・・>
礼央は思った。別に女である事がイヤという訳じゃないし嫌いでもない。山田になったからといっ
ても男になりたくてなったんじゃない、と。
<恋に臆病になってんのかな? 恋をして変わっていく自分が怖いのかも知れない>
新しく入ってきた他校の生徒に注文を聞きに行きながら、礼央は閃と原田の関係を想像していた
のだった。
「山田・・ 」
と、呼ばれた礼央がいる。
「え・・・ 」
彼女が声をかけたやつの顔を見ると、なんとそこには倉橋と彼の道場の仲間達がいたのである。
彼らは普段着を着ていると、とても中学生には見えはしないのだ。
選んでいる服も少しおじん臭い気がする。
「倉橋・・ さん?」
とりあえず上級生なので、さん付けで呼んだら自分の名を知っていてもらえた倉橋は喜んで表情
をくずしていた。
「君が茶店にいると片桐君に聞いたのだ」
<くっそー、片桐のヤツ・・ あたしは見世物じゃねー!!>
と、礼央は思ったが口には出さない。
「やはり思った通りかわいいよ。君は和装がよく似合う。だいたいおかっぱと言うヘアスタイル
には洋装より和装なのだから」
倉橋は歯が浮くようなセリフを臆面もなく言う。彼は自分を一撃で倒した相手が年下の女子と知
り礼央に対し興味をいだくようになっていたのである。
<はぁ? こいつ脳ミソ腐ってんじゃねぇ?>
しかし今日は茶店の売上の為に貢献しなくてはいけない。売上が少なければ打ち上げもできやし
ないのだ。
「何にしますか? 倉橋さん」
さっきのセリフを無視して礼央が聞いた。解説好きなのはわかったから放っておくのが得策だろう。
「私はブラックを」
「あ、オレはジュース」
「オーレね」
とても中学生に見えない倉橋たちはメニューを見ながら注文した。その時倉橋は二言三言何かを
話しかけてきたのだがそれも適当にうなずいてその場を離れようとした時だった。
「うな田、次、行くじぇーーっ!!」
閃が席を立った。それに続いて秋葉やごっちゃん、原田が立ち上がる。
「どこがいい? うな田。あと少しなら時間とれるから付き合うぜ」
またしても閃の声。
<皇・・ 原田を案内してんだ>
その言葉をきかなくても安易に想像できる展開だ。しかし礼央は閃が教室から出て行くまで彼の
方を見なかったのであった。
「礼央、気にする事ないって。皇君は親切だからねー」
「そうそう、あの子、どこかで見た事あると思ったらとなりの中学の子よぉ」
「でもあの子、皇君の方を熱っぽい目で見てたじゃない?」
「皇君のこと、好きなのかな?」
「バカ!」
相変わらず心配してるのかしてないのかわからない女子の声。
「気にしてねーよ」
礼央はぶっきらぼうに答えたものの、やはり原田の存在を気にせざるをえない自分が悲しかった
のである。
茶店の売上げは思ったよりも多くお茶にケーキが付くほどだ。暗くなるまで騒いでいた礼央た
ちのクラスメイトは担任の先生が解散宣言をしたためにおひらきになったのだった。
同じ方向に帰る友人のいない礼央はゆっくりとした足取りで星を見ながら歩いていた。
拳法をやっている時とは違う充実感が気持ちいい。
礼央は近道だからというのじゃないが、安全な町中を通らずに公園をぬけて家に向っていたの
である。
石段をあがった所の休憩所に人影が見える。それは彼女が近づくのを察して動き出したのだった。
「礼央〜っ。一緒に帰ろうじぇぃ」
思った通りの声。
「皇、何してんだ?」
きっと自分を待っていたのだろうと察していたがわざと聞いてみた。
「おめーを待ってたに決まってんじゃん。ひとりだったらやべーからさ」
この場合にやべーというのはチカンに対峙した時の礼央の破壊力に対するものも含まれていたの
だが・・・
「ふうん」
わざとそっけなく返す礼央。しかし悪い気はしない。昼間の原田の事が気になっていたがわざわ
ざ聞くのもしゃくだった。
「なぁ、礼央」
突然、閃が切り出した。
「倉橋ってヤツ、来てたよなー?」
「はぁ?」
「おめーのクラスによ」
「 ・・・ああ」
閃は何かを言いたそうだ。
「おりゃ気になってたんだじぇい。倉橋と楽しそうに話してるおめーが」
「え? あたしが?」
「あん時。俺がうな田と出てく時」
「 ・・んなもん、してねーよ」
「いんや、してた。おめ、嬉しそうな顔してたじぇ。いったい何言われたんじゃ?」
「 ・・・ 」
「な?」
「着物、似合うって言われた」
礼央は正直に言った。
しかし嬉しそうな顔なんてしていなかったと思うのだが。
それより今、こうやって閃が自分の事を棚に上げて意識して聞いてくれるのが嬉しい礼央だった
のである。
「あー、似合うって言ったの俺の方が先じゃ!!」
「いーや。あんた、いつもと違うって言ったんだよ!」
「でもオレの方が先に似合うと思ったんじゃ!」
ムキになる閃につい笑いがこみ上げる礼央だった。きっと原田の事は礼央が思っていたほどのこ
とではないような気がする。
「はいはい」
笑いをかみ殺して礼央が言った。
「あー、何笑ってんじゃー!!」
閃はいきなり礼央の肩をつかんで揺さぶった。
「あ・・ 離せよ」
「いやじゃっ!」
「あんたって本当に・・・」
肩をつかまれていては腕をつかえない。かといって蹴りを入れるのもどうかと思い、されるがま
まの礼央だったのであった。
そして・・・
まだまだ幼い二人の青い思いを知ってか知らいでか、思わず寄り添いたくなるような冷たい風が
吹いていたのである。
終