激情編





 アキラがとうとう自分の気持ちに気がついたのは、ヒカルがプロになった頃だった。
「進藤・・月並みな言葉だがボクはどうやら君に惚れているらしい・・」
アキラはヒカルの棋譜を見ながらつぶやいた。
しかし気付いたのもつかの間、彼女の姿は棋院から消えた。

佐為を見失ったヒカル。
佐為を探す旅に出たヒカル。
佐為の為に碁を打たないヒカル。
それを知らないアキラ。

 アキラはずっと考えていた。
自分をこれほどまでに引きつけて放り出して・・
どうして彼女がいるのだろうと。

 恋を知らずに愛に気がついたアキラ。
解けなかった謎がとけたアキラ。
しかし彼女はいない。


「しかしボクには自信がある。ボクはおそらく君以外の女性を好きにならないだろうという・・」
アキラは思う。

 しかしその頃のヒカルの中にアキラの影はなかったのだった。
佐為が消えた理由がわからず迷い、悩み、そして疲れていた。

ヒカルはひとりで棋院の近くを歩いていた。
初夏のにおいのする風が体をすり抜ける。
ふと何かを感じてふり向けども佐為はいない。
あらためて失意の中に自分を置くヒカル。
誰か助けて・・
彼女の心は叫んでいる。
しかし・・・

 アキラはヒカルを見つけた。
棋院からさほど離れていない公園に彼女はいた。
"進藤?"
一瞬アキラは息が止まったかと思った。
彼女が揺らすブランコのきしみがかすかに聞こえてきる。
はかない影は間違いなく彼女のもの。
"こんな遅い時間に・・"
しかしアキラはしばし彼女に見とれていた。

淡い色調のシャツは色白の彼女に似合っていた。
仰いで見る夜空に星はない。

暗い外灯が照らす彼女は今にも消えてしまいそうなカゲロウのようで、アキラは恐かった。
そして突然気付く。
自分がいかに彼女の事を知らないということに。
"彼女は何を悩んでいる? ボクには彼女を救えないのか?"
アキラは自分だけの世界で生きてきた自分を悔いていたのである。

ヒカルはアキラに気がついていない。
それが幸いした。
"もう少しだけ・・・"
彼女を見ているのが許されるのだ。
"何もしない。彼女を見ていよう"

今の自分には彼女をどうこうする資格はないと思う。
しかし信じようと思う。

やがて彼女は答えを見つけるだろう。
ボクらしくないけれど激情を抑えよう。
その時を待とう。


そして伝えたい。
"君を愛している"と・・
その時、君は笑ってくれるかい?

永遠を信じるボクと共に歩もうなんて口には出せないけれど、それでもボクが選んだ君だから。

君への愛は汲んでも尽きはしないのだから・・・


                                 終
 

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