人は誰でも・・・編




(設定・17歳交際中)




 それはほんの思いつき。

ヒカルは何も考えずに新幹線に乗っていた。
いや、何も考えずにというとウソになるだろう。
だって以前から旅行雑誌を買って読んでいたのだから。

「ああ、塔矢。オレ」
・・・
「え? 今、尾道」
・・・
「うん。まぁ・・うん、急に行きたくなってさ。わかった」
・・・
「うん! じゃ」

 東京から離れて仕事をする機会が増えているヒカルだが今まで因島での仕事は
なかったのだった。
したがって二度目となるのだが今回は河合さんは一緒ではない。


「一人旅って言うんだな・・これ」
考えてみるとプロになってから何度となく遠出をしていたのだ。
しかし仕事でのそれは一人旅とは言わないと思う。
「オレ、旅行って言い方より旅って方が好きだな」
因島に渡るバスの中でヒカルはそんな事を考えていた。
同じ意味合いなのだが響きが違うと言いたいのだろう。
「前は佐為を探してだけど、今度は秀策を訪ねてなんだよな・・」
ヒカルは窓に広がる空と海を漠然と見ながらつぶやいた。
平日の午後の時間のバスは空いていて、乗り心地がいい。



 秀策の生家跡にある記念館は以前見た所だった。
"ここに虎次郎がいたんだよな"
ヒカルは故人を感じようと目を閉じた。
観光客のかわす声がしばし止まる。

少しだけ彼を感じられた。

"聞こえる? オレがおまえに呼びかけてんの。おまえさー、佐為を知ってるだろ? 
オレに佐為の事、教えてよ"
ヒカルは目を開けた。
昼下がりの陽射しが目にまぶしい。



木陰で休むことなく秀策の墓地へと向う。
彼の墓に今はヒカルだけ。
手向ける花はないけれど気持ちだけは供えようと思う。
"今だったらわかる。オレさ、おまえが佐為に体を乗っ取られたんだって
思ってたけれど、本当はおまえも佐為と一緒に打ってたんだな"
ヒカルは佐為と共にある虎次郎を感じていた。
"おまえがいい人だったって佐為は言ってたけど、お前の碁と佐為の碁は同化してた
んじゃないかって思う。だから佐為、自分を責めなくていいんだぜ"

ふっ・・と、笑った。
佐為も後で笑っているような気がしてふり向いたヒカル。

彼の姿は見えなかったけれど、その隣りには虎次郎がいたらいいなと思ったのだった。

"お墓なんてさ、死んだ人の物だと思うけど・・ 本当は生きている人の為にあるのか
もな"
こうやって懐古の念にかられるのも墓があればこそだからと思うのだ。


 ヒカルは空に向って両手を広げていた。
"この世界におまえが生きていた時があって、今オレが生きていて・・ 千年と140年
と今がつながっていてオレがいて・・ なぁ、佐為。こうやって人は影響しあって生きて
いくんだな"
それは生とか死とか超越していているものだった。
"オレ、今を生きているんだな・・ "
ヒカルは今を大切にしようとつくづく思うのだ。
"そして佐為、オレが生きている以上お前は生きているんだぜ。そして虎次郎もな"





 夕暮れにはまだ少し時間がある。
だから今日は帰ろうと思うのだ。





 新幹線の駅でアキラは待っていた。
東京に着く随分前から彼はそこにいた。

「ただいま」
と、ヒカルが言った。
「お帰り、進藤」
アキラが返す。
 彼女がどんな顔をしているのか心配だったアキラだがヒカルは笑っていた。
「おまえ、複雑な顔をしてる」
ヒカルは茶化すように言った。
「君が好きだから・・」
心配だったと言いたいのだろう。しかしその語尾までは言わない。
「うん・・」
聞きなれたセリフだけれどやはり嬉しくなる。
「送って行くよ、いや、送らせてくれ」
そう言ってアキラはワキをあけた。ごく自然に腕を絡めるヒカル。
ありがとうの言葉を言おうとした時、タクシーがすべりこんで来た。
 ヒカルをふり返りニコリとするアキラ。
きっと彼にはヒカルの声が聞こえていたのだろう。



 本当に短い旅だった。

しかし心の旅だった・・・




                                   終

 

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