竜色伝説



戦士MAX編



しばらく時間をくれないか・・・

 デイジィがそう言ってアベルのパーティーから離れたのはヤナックが戦線復帰してか
らの事だった。かけがいのない弟を失い平静ではいられない心を癒す為にというのも一
つの理由だが、実の所もう一つあった。
"アベル、あんたには言ってないけどあんたはもうあたしを抜いているんだよ"
それはいつか来ることだと感じていた。又そうでないと勇者としては失格だと思ってい
た。しかしそれが自分の甘えだと感じたのはヤナックの飛躍的なレベルアップを目の当
たりにしてからだった。
 自称ニューヤナックは恐るべき強さになっていたのである。なにも勇者だけが戦うの
ではない。平均したレベル、自分にしかできない攻撃、助け合えるだけの実力、それが
ないと巨大な敵なんて倒せやしない!
"だからヤナック、あたしもあんたに続く!"
そう決意したからこその一時的な別離だった。

「いいか、デイジィ。おまえの帰る所はここなんだからな」
ヤナックは彼女に自分たちの行き先を詳しく印した地図を渡したのだ。
「うん」
デイジィは小さくうなずいた。
「本当はオレの腕の中が帰る場所と言いたいんだけどなぁ」
ヤナックは両手を差し出した。
「バカ!」
その手を拒否して彼女は去っていったのだ。しかしヤナックは差し出した手に一枚の地
図を持っていた。それが今、デイジィの手の中にある世界地図なのだ。そこには自分の
いる場所とアベル一行がいる場所が不思議な力によって印されていた。これがあるとデ
イジィは間違いなく彼らの元に戻れるのだった。

「ヤナックみたいにルーラが使えたら楽なのに・・」
彼女は最初の町で買った馬に荷物を乗せて駆け出した。修行する所なんてどこでもいい
と思っていたのだがヤナックが是非にと言うのでその場所に決めたのだ。
"覚醒の洞窟"と、呼ばれている洞窟はあまりにも町に近い所にあった。聖なる場所と呼
ぶにはあまりにもお粗末なような気がする。
しかし松明に火をつけたデイジィはためらいなく中に入って行った。何の変哲もないた
だの洞窟のようだ。ほこらも碑もない入り口には焚き火の跡がたくさん残っていた。き
っと修行に後ずれる者が後を絶たないせいだろう。ついさっきまで燃えていたようなの
もあるところをみると近くに人がいるのかも知れない。
しかしその名称の通り自分は新しい自分へと覚醒するのだろうか?
かつてヤナックがホーン山脈に帰り修行したように自分ももっと強く・・・強くならな
いと、もっと戦士として勇者をたすけうるだけの攻撃力を身につけないとバラモスなん
て倒せない!
「おかしいな、自分がこんなに弱気だったなんて・・・」
デイジィはふっと笑ったのだった。
迷いはない。しかし自分の力が信じられない。強い不安感は仲間がいないからなのだろ
うか?
 今までずっと一人だけの旅が続いていた。しかしアベルたちと行動を共にするうちに
仲間の大切さを知ってしまったのだ。しかしそれは弱さにつながらないと思う。
「アベルに力を貸す、なんて言いながらあたしが力を分けてもらってたんだ」
それでもずっと仲間というものを知らずにいるよりよい。大切に思うものが増えた分だ
け強さも又、増えるのだろう。それは愛情にも言い換えることができると思うデイジィ
だった。

彼女はさらに奥に入って行った。松明がゆらめいているのはどこかから外気が流れ込ん
でいる為だという事がうかがえる。所々ヒカリゴケにおおわれた壁は青白い特有の光を
放っており、いかにもといった感じなのだ。珍しく枝分かれしていないこの洞窟は曲が
りくねりながら広くなったり狭くなったりしながら続いているように見えたのだった。
「わぁ・・・」
デイジィは感嘆の声を出した。
低い天井の場所を抜けると現れた地底湖にはやはり青白い光を発している魚らしきもの
が群れなしていたのだった。壁のヒカリゴケと発光魚の相乗効果で狭いはずの洞窟はあ
たかも広大な満天の星の中にいるように感じられ、彼女はしばし我を忘れて見とれてい
たのである。

 声が聞こえたような気がした。
"誰かこんな奥までやって来たのかな?"
デイジィは体にまとったシーツを剥ぎ取り剣に手をかけた。浅い眠りだったのだろう。
しかし誰もいなかった。ここは覚醒の洞窟といわれている。聖なる力で守られていると
ヤナックは言っていた。まさかモンスターがあらわれたのだとは思えない。
"気のせい? でも確かに・・・"声が聞こえのだ。しかしほのかに明るい洞窟は自分以
外の者はいなかったのである。
"焚き火のあった場所に人が帰ってきたのかな?"
入り口付近の声が届くとは思えないのだが彼女はあえてそう思おうとした。
"やはり寂しいのかな?"
デイジィはかすかに微笑んだ。今チラッとヤナックの別れた時の顔が浮かんだのだ。何
かを言いたそうな表情だった。

外に出ずに一昼夜を過ごすと暗闇に目が慣れてきた。本格的に修行をしなくてはと剣を
取る。
 デイジィは精神を統一しようとしていた。ずっと弱かった遠い日、強くありたいと願
った日によくやったように、剣を正眼に構え目を閉じた。
"おかしい・・・"
いつもならすぐに雑念は消えるはずだった。しかし今日はうまくいかない。どうしてな
のだろうと思う。気になってしかたない何かがある。しかしそれが思い出せないのだ。
彼女は剣を置き、その場に腰を下ろしたのだった。


 デイジィを欠いたアベル一行は予定通りの行程をとり進んでいた。しばらくはたいし
たモンスターが出てこないだろう場所をたどる事になっている。バラモスを倒す為のア
イテムを揃える為に必要な町まで後しばらくはかかりそうだ。
「デイジィ、どうしてるかなぁ」
先頭を歩いていたアベルが誰とはなしに言った。
「覚醒の・・・だったかな? それって誰でも強くなれるのかな?」
モコモコが返事になっていないセリフをはいた。
「強くなれるもなれないも本人次第なの」
ヤナックがピシャリと言った。
 強い者とはレベルが上がっている者の事だ。ある程度の到達点が見えていると言って
いいだろう。しかしレベルの低い者の実力は未知数だ。それが以前のアベルだった。
"デイジィはオイラのせいで離れて行った"
アベルは彼女が一時的にでもそうした訳が薄っすらとわかっていた。ごく最近だが対峙
して悟った事だった。すでに実力の差はないように思う。いや、自分の方が勝っている
かも知れない。かつて全くかなわなかった相手の動きが読めるようになったのがその証
拠だろう。
"でも弱くない"
デイジィのレベルの高さは並ではない。しかしそれを肯定すると自我自賛になってしま
う。
「・・・アベル」
ヤナックが呼んだ。
「深く考えなさんな」
まるで心を見透かしたようなヤナックの言葉にアベルははっとした。
「かなわないなぁ」
アベルは照れくさそうに頭をかいた。
「大丈夫だ。デイジィは生まれながらの戦士だよ。もっと強くなる」
ヤナックは自信ありげに彼の背中をポンとたたいたのであった。

 洞窟の中にも音があった。魚のはねる音、したたる地下水の音、それに自分の息づか
い・・・何がそんなに気になるのか・・・それは単なる雑念に過ぎないのか? 
デイジィはしばしその場に腰掛けたままで動かなかったのだった。
「  !?  」
彼女は突然立ち上がった。
「違う! これは雑念なんかじゃない!」
デイジィは剣を鞘におさめ両手のひらを見つめていた。彼女は思い出さなければならな
いものを思い出したのだった。

<デイジィ、こうやってだな・・>
ヤナックが彼女の手のひらに自分の手のひらを重ねた。
<ほら、何かを感じるだろう?>
彼の手のひらから熱いパワーが伝わって来る。そしてかすかだが、自分からも同じよう
なパワーが出ているのを感じたのだった。
<これがオレの場合だとマジックパワーになる>
ヤナックはその手を真横に突き出しバギの呪文をとなえた。すると小さな真空の刃が近
くにある木に当たり、大きな亀裂を作ったのである。
<デイジィにも同じような力が眠ってるんだけどな>
ヤナックが首をかしげた。何かのパワーを感じるのだかそれが魔法として現れる訳では
なさそうだ。
<このパワーの使い方はおまえ自身が見つけるしかないな>
彼が言った。
<無理だよ。あたしは魔法使いじゃない。そのパワーを操れないよ>
彼女は手を横に振った。
<やってみなくちゃわからんだろう?>
その時のヤナックはいつになくしつこかった。
<出来ないって言ってるだろっ!!>
デイジィは怒ってその場を去ってしまったのである。

"そんな事があった・・・"
デイジィは手のひらを見つめていた。
"ヤナック、あんたがどうしてパワーの事を言い出したのか今ならわかる。あんたはい
つだって1歩先を見てるんだ"
それはいずれ自分がアベルに抜かれるだろう事を予測してのレベルアップの薦めだった。
"力が欲しい・・・皆の足手まといにならないだけの力が欲しい!"
彼女は無心にパワーを願ったのである。あの時のような手のひらの熱さは今は感じられ
ない。あれはヤナックのパワーが流れ込んだだけの幻だったのか?
"いや、ヤナックはあたしのパワーだと言っていた。あんな時のヤナックはウソなんて
つかない"
デイジィはヤナックを信じ、自分のパワーを信じようとしたのだった。


 その町はバラモスやモンスターに縁がなかったせいか道ゆく人たちものんびりとして
いたのである。いくらバラモスが多くの手下を操っているとは言え、平均的に配置して
いる訳ではない。中にはそんな町もあっておかしくないだろう。
「ま、ゆっくりやろうじゃない」
ヤナックがアベルとモコモコに向かってウインクした。
「たまにはうまい酒を飲みたいもんね」
彼はボトルで飲むふりをした。
「ちえっ、呑気なおっさんだな。でもオラもうまい肉が食いてぇな」
モコモコはよだれをたらさんばかりなのだ。それに気付いたのか宿屋の女将が階下の酒
場に案内してくれた。身なりに似合わず装備が立派なアベル一行を上客と踏んだせいだ
ろう。
「この町の名物は鹿肉と辛口の地酒なのですよ」
彼女はにっこり笑って教えてくれたのである。何だかんだ言ってもアベルもモコモコも
食べ盛りの時期だから、目の前に出された皿は見る見るうちに空になってゆく。
「本当によく食うな・・・」
半ば呆れ顔のヤナックは一人で飲んでいたのである。飲みながら思うのは他でもないデ
イジィの事だった。
"デイジィのヤツ、今ごろ泣いてなんかいないだろうな・・・"
強気な割には涙もろいところがあるのを彼は知っている。ぶっきらぼうに見えて、実は
優しいのもお見通しだ。ささえがいらない強さを持ってはいるものの、たまには誰かに
頼りたいこともあるだろう。しかしいつも拒否されている自分がそこにいたのだった。
"もっと甘えて欲しいな、デイジィちゃん・・・"
口に出さずにヤナックが言った。
"オレも驚いてるんだよな。自分は本気で人を愛せるヤツだったって事がわかったんだ
から"
「ヤナック、寝るなら部屋で寝ろよな」
モコモコに言われて初めて自分が寝ているのに気がついたヤナックだった。
「そうするよ。どうも今夜は酔いが早い」
彼は素直に従った。
「歳じゃねぇの?」とモコモコがからかう。
「男の魅力は30を越してからなの!」
ヤナックは捨てゼリフを残して部屋に帰って行った。


 ヤナックの思いとはうらはらにデイジィの毎日は充実していたのだった。新しいパワ
ーが嬉しいのは戦士に生まれついたサガのなせる技なのか?
"こうやってると剣にまでパワーが伝わって来るみたいだ"
彼女は深く念じて剣を一閃した。あきらかにいつもと感触が違う。まるで腕からわいて
出たパワーが手のひらから剣に伝わったみたいでいつも以上のすばやさと破壊力が感じ
られたのである。
「やっ!」
きれいな弧を描いてピタリと剣が止まる。目の前の地底湖が波動で波打った。

" !! "

 思わずアッと叫んだような気がする。
「パワーを操れる!」
デイジィは思わず両手を広げてじっと見つめたのだった。まだまだ未熟だけど武器を通
して使う事ができる。
「あたしは手にした武器の攻撃力をアップできるんだ!」
そんな確信があった。そしてそれは彼女の思った通りだったのである。彼女のパワーと
は武器による攻撃力の事だった。
 デイジィは更に強いパワーで剣を振るった。地底湖を割った波動が突き当たった壁に
炸裂する。
「これも戦士の力・・・」
彼女は感動の反面、使い方の難しさも悟ったのであった。


 比較的ゆっくりと歩を進めていたアベル一行が次に目指したのは大きな港町だ。ここ
であらかたのアイテムが揃うはずなのだ。デイジィと落ち合うのもその町だった。
「モンスターの気配がするぞ」
ヤナックが突然立ち止まる。今まで聞こえていた鳥の鳴き声が消え、森は静まり返った
のである。
「上だ!」
アベルがパッと飛びのいたその場にドラゴンゾンビが骨の腕を振り下ろした。骨竜属の
モンスターで冷気の攻撃をかけて来る。
「わっ! 何だ、こいつ。気味が悪いヤツだ」
モコモコが思い切り尻餅をついた。
「モンスターに気味が悪くないヤツなんていないの!」
ヤナックはイオラの呪文を放った。その前に放たれた凍える吹雪が3人に襲いかかる。
素早く移動しドラゴンゾンビに致命的な傷を負わしたアベルが逃げ送れたモコモコを抱
いて転がった。目の前でイオラが爆発する音が聞こえ、直後に茶色の宝石がコトリと落
ちたのだ。
「まあまあのモンスターが出るじゃない」
ヤナックがモコモコにベホイミをかけながら言った。
「今までたいしたモンスターが出なかったのが不思議なくらいだったんだ」
アベルの言うようにこの大陸に移ってからはバラモスの宝石モンスターはほとんど現れ
なかったのだ。だからバラモスに関係ない弱い野生のモンスター(野獣)が生息してい
るのだろう。
「でもそろそろお出ましになる頃かな? 団体さんで」
ヤナックがおもしろそうにモコモコの頭をポンとたたいたのだ。
「いってーな! 何すんだ!」
「ははは・・その調子!」
モコモコが顔を真っ赤にして怒っている。しかしそれによって妙な緊張感はなくなった
のである。
「でもデイジィ・・・大丈夫かな?」
アベルが心配そうに言った。ここから先にはもっと強いモンスターが現れる可能性もあ
る。そんな時に一人では心もとないだろう。
「うん、でもデイジィちゃんを信じるしかないのよね」
不安を隠してヤナックが答えた。覚醒の洞窟での修行が終わっているのなら今すぐにで
も迎えに行きたいとも思う。しかしルーラで様子を見に行った時、まだそこから出てき
た形跡はなかったのであった。


 洞窟から出てみると真昼の太陽が照り付けていた。久しぶりに見る太陽は一瞬デイジ
ィの視界を閉ざしたのである。
「大丈夫かい?」
入り口付近で修行していたと見られる若者たちが彼女の傍に駆け寄った。まるでデイジ
ィがそこから出てくるのを待っていたかのようなタイミングだ。
"入る時にあった焚き火の主なのかな?"
・・・と思ったが目が慣れなくてそのまま若者の腕でじっとしていたのだった。
「すまない。ずっと中で生活してたから」
めまいをおこした言い訳をしながら彼女は若者から離れた。まだふらついてはいるもの
の目は慣れたような気がする。
「ずっと中にいたのか?」
さっきからまわりで見ていた若者の一人が驚いて聞いた。彼らは雇い主のヤナックに若
者が修行していると聞いていただけだった。まさかデイジィみたいな女性がいるとは思
わなかったのだ。
「そうだけど・・・あんたらも修行に来てたんじゃないの?」
逆に彼女が聞いた。
「うん、まぁ・・・でもバラモスとか何とか世間は言ってるけど、今ひとつピンと来な
いんだな。オレたちの町に宝石モンスターなんていうヤツは出ない。ここには仲間達と
修行とまではいかない程度の剣の稽古に来ていただけなんだ」
「そうさ。ここは結構平和なんだぜ」
「君もしばらくゆっくりしてゆけば?」
と、口々に好きな事を言っている。しかしデイジィにそんな余裕はない。
「ありがとう。でもあたし、行かなくちゃ」
それでも一緒に昼食を楽しんでから彼らに別れを告げたのだった。

 ヤナックにもらった地図には彼らのいる場所が印されている。
"案外近いな"
デイジィは馬を飛ばしその町に向かった。途中にはモンスターの気配もなく、気が焦る
だけの楽な旅だったのである。

翌日の昼下がりにデイジィは港町に着いた。しかし思ったよりも大きな町で人も多く
アベル一行がどこにいるのか見当もつかなかったのである。
"どこにいるんだ?"
デイジィは見つけられない自分にイラだった。ここにさえ来れば皆と合流できると思っ
ていたからだ。人の波に揉まれながら彼女は自然と背の高いヤナックのターバンを探し
ていたのである。もう夕暮れが迫っていた。そろそろ宿屋を探さないと野宿になりそう
だ。
"まるで迷子だ・・・・"
デイジィは思った。まるで、じゃなくて間違いなく迷子なのだが。しかし大きな声で彼
らの名を呼ぶのは恥ずかしい。仕方なく人ごみを歩き回るデイジィだったのである。
"このまま会えなければどうする?"
不安が彼女の思考を乱す。デイジィは仲間を知る事によって孤独を知ったのだ。知らな
ければ感じられないものの何と多い事か・・・愛もまたしかりだろう。
"もう2度と会えない・・・"
不安が更なる不安を呼ぶ。
"2度と会えないのはトビィとルナだけで十分だ!"
彼女は死んでしまった弟や妹の姿を思い出していた。アベルより少し背が高かったトビ
ィ。いつまでも小さいなりのルナ。いずれももう会えない。こみ上げるものがあったが
ここで泣く訳にはいかない。キッと顔をあげ再び歩き出したデイジィだったのである。

「もう行っちゃったのか」
ヤナックは若者たちに宝石をひとつ手渡した。前金でも十分な額だったのにと丁寧に礼
を言う彼らはウソをついていなかった。どうやらヤナックが来なかった日にデイジィは
洞窟から出て行ったみたいなのだ。
"と言う事はもう港町に着いてるかも知れないな"
ここから馬だとそう遠くはない。彼はルーラで港町に戻ったのだった。


 モンスターは突然現れる。今回もそうだった。突然海が波打ったかと思うと海中から
大型のマーマンダインが群れなして現れた。港の隣にある砂浜にもマドハンドが現れ手
だけの体をくねらせて人を襲っている。
 平和な港町の人々は当然初めての出来事に驚いた。今までバラモスのうわさを聞いて
いた事があったがまさか自分の町がその危機にさらされようとは思ってもみなかったか
らだった。
 逃げ惑う人々で町は混乱し、増える犠牲者になすすべもない状態だったのである。
「モンスター?」
港に突き出した灯台でポツリと腰掛け感傷にふけっていたデイジィが勢いよく立ち上が
った。人々の叫び声が大きく響いてくる。その声のする方に駆けて行くと上陸したマー
マンダインが暴れている所だった。
「あんたの相手はこっちだよ!」
デイジィは一番近くにいたのに声をかけたのだ。
「  !!!  」
声も出す間もなくマーマンダインは宝石になった。
「お次はあんただ!」
デイジィは勢いよく隣のに斬りつけた。水際立った腕前は見る者に一種の感動を与える
。人々は逃げる足を止め、しばし見入っていたのだった。しかしデイジィは思う。
"こんな雑魚相手に本気は出せないな"と。
洞窟の中では壁を傷つけただけで済んだ。しかしここでは被害が出るかも知れない。

"もっと強い敵で試したい!"
戦士のサガがそう思わせるのか、彼女は別のモンスターを探していた。しかしまわり
にはマーマンダインしかいない。彼らは仲間がやられたので人々を襲うのをやめてデ
イジィの方に集まってきたのである。

「デイジィ!」
と、呼ぶ声がする。人ごみに中からヤナックが現れた。
「ヤナック!」
デイジィが彼の名を呼んだ。思ったより大きな声だったのに驚く彼女だった。
「探したぞ、デイジィ」
ヤナックが言った。そして素早くメラゾーマで一匹を片付けたのだ。
「探したのはあたしの方だっ!」
デイジィが言い返す。ヤナックはもっと何かを言おうと思ったが彼女の赤くなった目を
見て言葉を飲み込んだ。
"デイジィ・・・"
彼女へのいとおしさが頭をもたげて来る。

一瞬の隙を突いてマーマンダインがマホトーンを唱えた!!

「  !!  」
ヤナックが口を押さえている。声を封じ込まれて呪文が唱えられないのだ。呪文さえ使
えれば集まったモンスターを一掃する事ができるはずだった。
「何やってるんだ!」
デイジィがヤナックの前に来たマーマンダインに斬りつけた。ヤナックが"済まん!"と
いう表情で両手をあわせて拝むポーズをしている。
「本当にっ!」
こんな時にボヤッとして・・・と言うまでに彼女は湧き出るパワーを込めて思い切り剣
を真横に凪いだ。次々倒されていくマーマンダインはきらめく宝石になり散ってゆく。
鮮やかな剣にヤナックは見入っていたのだった。
"一瞬だったな"
呪文の解けたヤナックがうなっている。
"こりゃ夫婦喧嘩は命がけだな・・・"と、彼はつぶやいた。

 まわりの人々は声もなく二人を見ていた。突然現れたモンスターとそれを倒した女戦
士に魔法使い。どれをとっても見た事のない者ばかりなのだ。
 しかしのんびりしている場合じゃなかった。アベルの方にもモンスターがいるのだ。
「デイジィ、急げ!」
ヤナックは砂浜に向かった。勿論デイジィも後に続いている。
 案の定マドハンドがキリなく砂から手を伸ばしていた。
「しつっこいヤロウだぜ!」
モコモコが息を切らしている。倒しても倒しても無事なヤツが仲間を呼ぶ。その繰り返
しだった。彼らにとっては弱い敵だが体力の消耗が著しい。
「イオナズン!」
さっきの名誉挽回とばかりにヤナックが叫んだ。大爆発が起こりマドハンドたちは一瞬
にして宝石に変わっていったのである。
 が、そのうちの2匹が断末魔の叫びで大魔人を呼んでいたのだ。むくむくと砂浜が盛
り上がり、手を振り上げた彼らはアベルたちに迫っていた。そして今まで怖いもの見た
さに近くにいた人々もあまりの迫力に遠くに引いてしまったのだった。
「アベル、大丈夫か?」
ヤナックが二人にベホマの呪文をかけた。礼を言うやいなやアベルは一匹の前に飛び出
した。そして聖剣で大魔人を切りつけたのである。
「こっちは任せな!」
デイジィも後の一匹に迫っている。
「デイジィ、大丈夫か?」
心配したアベルが彼女に向かって叫んだ。ヤナックがスクルトの補助呪文をかける。モ
コモコはアベルの加勢をするべく大金槌を振るっていた。
 しかし心配は無用だった。デイジィは大魔人が現れてからの様子を見て、動きを見切
っていたのである。

会心の一撃!!

が、大魔人に決まった。真っ向から斬られた大魔人は倒れる間もなく消えたのだ。
「やるぅ!」
振り向いたモコモコが声をあげた。
"でもちょっとおっかねぇな"とも思うのだが。
 人々の歓声があがった。魚のバケモノみたいな奴らや、あんな大きなモンスターを倒
したデイジィに皆は驚いた。そしてもう一度、歓声が・・・今度はアベルに対してだっ
た。

「さすがデイジィだな。すごいや」
アベルが駆け寄った。
「悪かった。留守にして」
彼女は笑顔を見せた。そして笑った。モンスターがきっかけになって皆と合流できるな
んて、なんて"らしい"のだろうと思ったのだ。
「なんかオラだけそのまんまって感じだな・・・」
モコモコがくさっている。デイジィのレベルアップは想像以上であり、勇者を支える戦
士として十分だと言えよう。それに引き換え自分は・・・
「モコモコにはモコモコのいい所があるの。お前がいるからホッとする、そんな存在な
のよ」
ヤナックが慰めたのだった。

 今まで遠くに引いていた人々がアベルたちの周りにやって来た。彼らは初めてバラモ
スの脅威にさらされたのだ。恐るべきモンスターが再び襲ってくるかも知れないという
恐怖は消えない。しかしそれに打ち勝つ恐るべき力を持った者たちがいる事も知ったの
である。

 宿屋で大歓迎を受けたアベルやモコモコはぐっすり眠っていた。デイジィは久しぶり
に穏やかな夜を迎えていたのである。
 凪いだ海が下弦の月をうつしていた。あれほどの騒ぎだった砂浜に愛を語る者はいな
い。所々に突き出した岩の一つに腰掛けて、デイジィはぼんやりと月を見ていたのであ
る。
「いい女がひとりでいるのはもったいないね」
と、声をかけたのはヤナックだった。
「あんたが来るような気がしていたよ」
当然のように隣に来たヤナックはごく自然にデイジイの肩に手をかけた。
「あら? 今日はひっぱたかないのかな?」
おどけたようにヤナックが言った。そのセリフにかすかに笑ったデイジィは少しだけヤ
ナックに寄り添って行ったのだ。
「あたし・・・素直じゃないからこんな時にどう言えばいいかわからないけど。あんた
がいると暖かいんだ」
デイジィは神妙な面持ちでつぶやいた。何の変哲もない言葉だけれど彼女にとっては勇
気のいるものだったのである。
「ははは・・」
饒舌のはずのヤナックが珍しく言葉が選べないでいた。いつもと違うデイジィのリアク
ションがそうさせたのだろう。
"まいったな"
遊びの女ならこのままどうにでもなると思う。しかし彼女はそれではない。このまま泣
いてくれたらもっと抱きしめられるのにとも思う。きっかけを待つなんてまるで初恋を
知った少年のようだと自嘲した。
"愛してるんだけどなぁ・・・"
つくづく自分は本気の愛の未経験者だと反省したヤナックだった。
 
 最終決戦の日は迫っていた。
「ティアラが待ってるぞ」
と、ヤナックが言った。
「うん」
アベルが短く答える。彼女のために今の自分があるのだとも思う。長い間はなれている
うちに大きくなったティアラへのゆるぎない愛。それを実感していたのである。
 ラーミアが飛んで来た。この大きな鳥はデイジィによくなついている。彼女は背中に
乗って行き先を言った。
「アリアハンへ!」

竜伝説の始まりと終わりはその地だったのである!!

                                      終

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