思春期交差点3・閃の欲望編

 瓦礫が丘公園を通るのが学校への近道だ。
そっち方面の生徒たちはそうするのが常であり、礼央もまたそうだった。
しかし今は冬休み、生徒たちの影はない。

「山田ぁーーっ!」
閃が呼ぶ。しかし返事がない。
「礼央―っ!」
もう一度、閃の声。
「うっせーっ・・」
遠くで礼央の声。

たまたま礼央が早朝の走り込みをしていると閃が逆立ち歩きで公園内をうろついていた。
だから一緒に走ろうとさそった礼央だが閃の基礎体力に驚いていたところである。
"走り込みでもこんなに差があるなんて・・"
礼は小さく舌打ちをする。
並みの男子と比べて遜色のない彼女の実力は王狼館で証明済みだった。体力もまたし
かりである。

瓦礫が丘公園の一番高い所にあるベンチにならんで腰かけた2人は下に広がる町を眺
めていた。
息の荒い礼央が隣りにいる。
「皇ぃ、あんたサルだな」
唐突に礼央が言った。
「なんでー?」
「人間じゃねぇって事だよ」
ようやく息が整った礼央がこたえた。
ふふん、というように閃は胸をはった。
ふざけているのかどうなのか分からないリアクションだが本人は得意そうなのだ。
「あーーー、かなわねぇ!!」
礼央はベンチの背にもたれて両手をあげ大きくのびをした。
大会後に退院した閃に組み手の相手をしてもらったのだが、彼の底知れぬ実力に閉口
するばかりなのだ。
「いやんなるよな、あんたみたいな奴がいるなんて」
礼央はお世辞でも何でもない本音を閃に言った。確かに毎日努力して修行しているから
強いのだと思うのだが、それは持って生まれたバツグンな格闘センスの上に積み重ねら
れたものだと思うのだ。
「でもよ、おめーもすごいじゃん。いつも上を目指してるしよ。女子レベルじゃねーじょ」
閃は冗談ではなく本気で言った。
「まだ弱い」
礼央は即座に言い返す。
「弱いと思うからもっと強くなれる、そんなもんでねーの? 満足しちまえば進歩はねー
からさ」
そう言って閃は笑ったのだった。
「うん」
礼央はあいづちを打った。彼女もそう思うからだ。
「やっぱ、あんたの夢ってアレか?」
「そうだじぇ! 俺の目標は世界最強の格闘家になること」
閃は強い口調で言った。
「そしたらさ・・」
そこでちょっと区切る閃。
「また父ちゃんに会える・・!」

「え?」
「父ちゃん言ったんだぜ、俺と戦いたければ頂点を極めろって。えっらそーによ。そこで
待ってんだって」

あまりにも意外であり、それでいてもっともな閃の声にドキンとした礼央。
閃の中にある本音を垣間見たようで悲しくもあり、それを話すのが自分の前であった事
に嬉しくも思っていた。


 早朝の時間は去り、朝が来た。
「帰ろうじぇ!」
突然閃が手を差し出した。
何も考えずに手を出す礼央。
条件反射で手をつないだ彼女はハッとした。
"恥ずかしい!"
でもイヤじゃない。そんな感情が支配する。
ドキドキするけど心が弾んでくる。
会話が途絶えたのはお互いが意識しているからだった。

2人で並んで歩いていると何人かの中学生とすれちがった。いずれも瓦礫が丘中学校
の生徒なのだ。

「皇ぃ」
礼央は手を離そうかどうか迷っていた。
しかし閃は離さない。
「照れるじぇー!」
と、閃が明るく言う。
「照れるのはこっちだ!」
と礼央が応えた。
「女の子の手ってやわらかいもんだと思ってた」
「悪かったなー!」
「悪いなんて言ってねー。おめーの手だからつなぎたいと思っただけじゃ」
言ってから閃は自分の言葉を心の中で繰り返した。
"あれ・・"
「どうした? 皇」
妙な顔をしている閃に礼央は聞いた。
「いや、何でもねー」
閃ははっきりとした気持ちを口にはしなかった。

"そーだろうなぁ・・"
と、思った。
今は手をつなぐだけ、それで満足だと。
"でも次は・・"
と、考える。
「どーした、つってるんだよ!」
礼央がもう一度たずねる。
「何でもねーじょ!!」
今度は顔を真赤にして何かを否定する閃がいた。

時間はまだまだある。そう思う冬休みの朝だった。




      




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