倉橋の挑戦???
"いったいどうして・・・ "
それは素直な疑問だった。
"そしてどうやって?"
倉橋は一瞬の失神から目覚めてぼんやりした頭で考えた。
いや、考えたというものではない。
未だに現実が把握されない状況で、自分を認識しようとしていた。
そう、私は冷静な分析者なのだ。
さっき軽く手合わせした片桐貴人のようなバカではない!!
"山田吾郎。私はもう一度お前と戦いたい!!"
その思いが私を現実に引き戻したのだった。
「その山田が皇閃に倒されただなんて・・・」
倉橋は男子Bブロック準々決勝第2試合を観戦しながらうめいていた。
"強い奴が多いと言う事か・・ やはりこの異種格闘技大会は大いに学ぶ所があった・・ "
倉橋は改めてそう思うのだった。しかし山田に敗れた時の思いは今なお消えない。
"格闘家の悲しいサガか、直接戦った奴への悔しさの方が強い。やはりもう一度奴と戦い
たい・・・ "
自分を冷静とのたまうわりには傍から見れば単純な倉橋は決意したのだった。
たいていの週日、礼央は王狼館で過ごしている。そこには同世代の生徒や学生たちが稽
古に励んでいたのだった。
「王狼館、山田吾郎様・・ だとよ」
そう言って一通の手紙を差し出したのは王狼館の館長にあらず3バカトリオのひとりだっ
た。ちなみに3バカというのは火月礼央に、女だから手加減してやったと負け惜しみを言
っていた門下生たちだった。結局彼女に恐れをなして謝ったのだが。
「あたしに?」
と言って差出人を見ると隣りの中学校の3年生、倉橋正人だった。
「皇閃の前におまえとあたった奴でねぇの?」
3バカの一人が言った。
「ああ・・ でもなんで? あたしあんまりこいつの印象がないしぃ。少林拳の奴だった
よな?」
礼央は瞬時にして破った相手をなんとなく想像していた。しかしはっきりした輪郭すら浮か
ばない。おまけにどういう戦い方をするのかも知らないのだ。
「こう、のっぺりとした顔の奴じゃねぇか?」
と言われても思い出せない。とりあえず開封してみると、「明日瓦礫が丘中の近くにある
ファーストフードの店で会いたい」との事だった。
<君が来る事を信じている>そんな内容だった。
「なに書いてんだ? こいつ」
礼央はその真意がわからず戸惑っていた。そこに女子が集まってきて彼女をはやしたてる。
「きっとデイトよぅ」
「倉橋君ってちょっとした紳士だったよ。結構有名じゃない? 知ってる人もいたよ」
「ひょっとして礼央が女の子だって知っているんじゃない? 隠していたってあの試合で
気がついた人もいただろうし」
「この年で男っ気なしっつーのも寂しいじゃん。行ってきなよー」
彼女たちは好奇心と無責任から好きなような発言をする。
「ち・・ 人のことだと思って」
礼央は倉橋からのやっかいな手紙を自分のタオルの上に置いた。とりあえず今はやるべき
事がある。
"仕方ねぇな"
彼女はいつものように3バカやそこらへんにいた男子数名と稽古を始めたのだった。
瓦礫が丘中の1年の教室は1階にある。田舎の学校だけに窓から入ってくる風は気持ちが
いい。礼央は教科書を片付ける手を止めて昨日の手紙を取り出した。
<午後4時半に〇〇にて・・>と、書いてある。
"倉橋・・・? だめだ・・ 鼻血しか思い出せない・・ でも気がすすまないけど帰り
に寄ってみるか"
礼央は覚悟を決めて立ち上がった。考えていても仕方ない。それに別にデイトというわけ
じゃないから構える必要もない。運良く今日は何かにつけてやって来る皇閃は居残りして
いると誰かに聞いていた。もっともこんな時こそいて欲しいと思う気持ちもあるのだが・・・
倉橋は生真面目な生徒だった。夏制服のカッターをボタンひとつだけはずし、ズボンの折
り目はしっかりとつけ、学生カバンは教科書でふくらんでいたのである。彼は学校から直行
し店の奥を陣取っていた。
「倉橋さん、山田は来るでしょうか?」
「普通は警戒してこないんじゃありませんか?」
後輩たちが不安そうに聞いた。彼はなんだかんだ言っても先輩であり道場のエースを瞬時に
して倒した山田吾郎に興味を持っていたのである。
「来る! 山田は逃げも隠れもしないだろう。格闘家とはそう言うものだ」
倉橋は自信を持って言った。しかしその根拠はない。後輩たちもいやがうえに高まる緊張感
の中で山田吾郎を待っていたのである。
・・・・・・
自動ドアが開いて入ってきたのはショートボブの女の子だった。
誰かを探しているのような様子だ。
「倉橋・・?」
「は?」
倉橋は間の抜けた返事をした。礼央は目の前の男子生徒の顔に鼻血を足して想像していたの
である。一方、倉橋はどうして女の子がここにいるのかわからなくて戸惑っていたのであった。
「人を呼びつけといて何っ?」
礼央は失礼な倉橋の態度に腹を立てて文句を言った。
「・・・・・」
倉橋はまだわからない。
「こんなもん、返すよ!!」
礼央はカバンから手紙を取り出して倉橋の目の前にたたきつけたのだった。唖然とする倉橋
たち。
「君は・・・ 山田吾郎なのか?」
彼は目の前の現実が信じられないでいた。どう見ても彼女は同い年か少し下の女の子なのだ。
「だったら悪い?」
「失礼した。しかし・・私は女の負けたのか・・・」
考えてみれば自分は女だと言う事を隠して試合に出ていたのだ。知らなくても不思議では
ない。
「あたし、帰る!!」
むしょうに腹が立ってきた礼央は倉橋の前から立ち去ろうとした。しかし彼はとっさに手を
伸ばしたのである。
「うわっっ!!」
そう、倉橋は礼央のスカートを握ってしまったのだ。
おまけに強く引っ張ったものだからウエストのホックが外れ、ファスナーが一挙に下がって
しまったのだった!!
「こ・・・ の変態!!!!」
薄いブルーのシンプルなショーツが倉橋の目に飛び込んだ。
それと共に礼央の蛇蠍拳が綺麗に決まったのだった。
が、さらにその時、礼央のブラウスのボタンが吹っ飛んだ!
手のひらにすっぽりおさまるぐらいのBカップの胸の谷間が倉橋の消えゆく視界の中に入っ
てきた・・・・
ついでに鼻血がどっと吹き出した。
満面の笑みを浮かべて倉橋は失神してしまったのだった。その姿を見ずに礼央は顔を真っ赤
にし、その場から去って行ってしまったのである。
我に返った倉橋は目の前に並んだハンバーガーを二つトレイの上に横に並べていた。おまけに
自分のブルーのハンカチを取り出し三角形に折ってその下に置いたのだった。
"おっぱい・・・ おへその見えるパンティ・・ "
後輩たちはちょっと恥ずかしい先輩の仕草を眺めていた。
しかし何もつっこまなかったのである。
これが先輩の本来の姿なのだ。
「アイ ウィル フォール イン ラブ・・・ 」
倉橋は頬を染め、そっとつぶやいた。
しかし英検3級の割にヘタな発音だったが・・・
終