今日は晴れ! その2(続・明日はきっと)
細い山道を登っていくと開けた視界に大きな日本家屋が見えた。隣りに道場らしき建
物が建っており少し奥にはもう一軒の似たような家が建っていたのである。
「道場の横がオレんちで、その奥が友んち」
と、閃が説明した。
「ここがあんたの家? 広いな」
「ああ、三人で住むには広すぎる。でもよー、家族が増えりゃ楽しいんだけどな」
閃がいたずらっぽく笑う。
"こいつ、悲しい時でも笑えるヤツだから・・"
礼央はずっと前に死んだ彼の母や弟の話を思い出していた。しかし閃はその意味で
言ったのではない。
「礼央はこんな田舎、嫌い?」
「は?」
「何でもねー」
「閃・・」
礼央が何かの返事をしようとした時、玄関から出てきた者がいる。
「あれ、閃。火月さんも・・・」
ごく普通の格好をした友が声をかけた。
「おじいさまが一人でヒマそうだったから」
と、自分が話し相手をしていたのだと言う。
「いつかは来ると思っていたけど」
友は礼央の方を向いて言った。
「何もない所だけどごゆっくり」
の、言葉を残して友は家に帰ったのである。
道場、という看板も掲げられていないこの道場はかつて焔豪将騎も修行した場所で
ある。数人の選ばれたもののみが修行できる秘境、それがここだった。
「結局こうなるんだ」
と閃は苦笑した。
あの後意気投合した礼央と朱門が道場に立つまでに10分とかからなかったのである。
「じーちゃん、おりゃ礼央とよー」
閃は不満そうに言う。
「黙れ、閃! 礼央さんはワシとの稽古をとったまでじゃ! お前の中途半端な丹田法
じゃもの足りんだろうて」
朱門は嬉しそうに礼央に対峙した。彼にとって孫と同じ年の、しかも将来ひ孫を抱くた
めの必要不可欠な彼女とのふれあいを大事にしたかったのだ。
と、同時に彼女の持つ未知数の何かを彼は感じ取っていたのである。
"先が楽しみじゃ"
朱門はあらゆる意味でそう感じていたのであった。
知らぬ間に加わっていた友を含め4人が道場にいた。
「パワーに対抗するにはスピードが必要だ。それは閃や私、そして火月さんにも言える。
火月さんがここにこもって修行したら閃が喜ぶぞ」
友が言った。
彼のことだ、決して閃をからかっているのではなく本気で言ってるのだろう。
「ばっ・・・!! そんな! 友!!」
あせって肯定か否定かわからぬリアクションをとった閃。
「うむ、確かに礼央さんはまだまだ伸びるぞ」
朱門も嬉しそうだ。まさかこの年になって、このように才能ある者達の相手ができると
は思わなかったからだ。
「礼央〜! おめー、また男子の大会に出るって言い出すんじゃねーだろーなー!」
「今さら出ねーよ! バカ」
ふたりが痴話げんかを始めている。
「もったいないな、火月さんは女子の大会では実力を出せないのだから・・」
友が言う。
「そうじゃのう・・ それでも強くなる為に努力する姿勢が気持ち良い」
朱門が目を細めている。
「その理由のひとつに閃の為というのもあると思う・・」
「友の言う通りじゃな」
じゃれあっている閃たちを見て二人はそう思うのであった。
夕方にはまだ少しという時間に礼央はバス停に立っていた。送って行くと言った閃も
そこにいる。
「閃、学校で火月さんをみはっててやるぞ」
道場を後にする時にささやいた友の言葉に大きくうなずいた閃に不安がなくはない。
"礼央は自分がどんだけ男に好かれてるのか知らねーんだから"
彼はそう思う。
出あった頃の性別不明の外観が消え年頃の女性らしくなった礼央。そのくせ言葉遣い
や自分の性に対する無頓着さは昔のまま。
そのアンバランスが魅力のひとつにもなっているのを彼女自身が感じていない。
だから無防備なのだろう。
「もういいって!」
電車の駅で礼央が断っている。
「でも送っていくって」
と閃もゆずらない。
「それじゃこの分の電車代、あたしへの電話代に使えよ」
「あ・・・」
「寂しいから・・」
「え?」
「あんたの声、聞きたいよ」
「 ・・・ 」
「返事しろーっ!」
「へへ・・ 」
他愛ない会話がふたりの距離を縮めている。
そんな事を知る由も無い乗務員の警笛が遠くから聞こえてくるのだった。
終