眠り姫の時間(1)




 これはいつか来る日だと思っていた。

ヒカルはアキラには聞いてもらいたいと、佐為の事を話したのだ。
アキラが気がついたもうひとりの存在を、彼はわかってくれるものと思っていた。






「塔矢、だからサイはオレの中にいたんだよ。もう一人のオレに気がついたおま
えならわかってくれるだろう」

ヒカルはのぞき込むようにしてアキラに聞いたのだ。

「う…ん、まさかとは思うけど・・まさかね。でも君の中にいた…」

実際アキラにとっては納得のいく話だが急には信じがたいことだ。

「進藤、ボクにはわからないよ。君がそう思いこんでいただけで佐為は君だった
のかも知れないし・・」

ヒカルは佐為を否定されたと思いハラがたったのだ。

「佐為はいたんだっ! オレの中に本当にいたんだ! だからオレ、碁を打つよ
うになったんだ」
「しかし幽霊だなんて・・」

アキラは半信半疑なのだ。
しかし思い当たる部分もあり、アキラは長考していたのである。

「いいよ、もう話さねーから! 塔矢に言ったのが間違いだった! オレ、帰るっ!」

ヒカルは碁会所を飛び出した。



そう、飛び出してそのまま・・・






そのまま・・










   うわ〜〜ん!どうしてこうなっちゃったんだろう? こんなのいやだぁ!


ヒカルは思いっきりさけんでいた。
しかしその声は誰にも届かない。


救急車が着くと同時に開かれたドアには看護師さんが立っていて、ストレッチャー
を誘導しているのが見えた。
病院の処置室に運び込まれてマスクした医師やたくさんの看護師さんにかこまれ
ている自分がいる。
服をはぎとられた自分の姿につい赤面するヒカルだった。


   あーー、オムツなんてされてるよー。おまけにあんな所にチューブを入れてるぅ!
   オレ、まだ16の女なんだぜ!
   それにあのパンツ、もっとかわいいのをはいときゃ良かった! 上下おそろい
   の取っておきの奴。


ヒカルの頭に昔好きだったマンガが浮かんできた。
主人公じゃないけど植物を自在にあやつる銀髪の妖狐が出てくるマンガ。
そのマンガの主人公みたいに自分がなってしまったのだ。


   あれはどうやったら主人公が元に戻れるんだったっけ?たしかに恋人のキ
   スだよな?
   あ、でもオレ、恋人なんていねーぞ! そりゃ塔矢が好きだけど・・・
   オレが好きだけで塔矢はオレのことを好きじゃなかったら・・・
   いや、オレまだ告ってねーし。

ともかく今のヒカルは意識がない状態だということだった。
廊下には蒼白になった父母がいた。
少し離れて祖父母もベンチに座っている。


   おかあさん、おとうさん! オレだよー。見えねーの?


ヒカルは大声で話しかけている。
しかし誰も答えてくれなかった。


   う・・・


と、こらえていたものが溢れてきた。

   オレ、死んじゃうんだぁ・・まだ死にたくねーよー!
   誰だぁ? オレを殺してんの!


ヒカルはおいおい泣き出した。
しかしその姿は誰にも見えないのだ。


   こんな時はだれかが助けに来てくれるってのが相場だろ?
   どうして誰も来てくれないの?


グスン・・と鼻がなった。






自分は意識だけの存在だということはすぐに理解できた。
しかしそれだけである。
これからどうするのか、どうしたらいいのか。


救いはあるのかどうか、全ては謎の中・・・




                            つづく



 

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