眠り姫の時間(2)






後悔・・・ という言葉がある。

アキラは後悔という言葉であらわせないほど後悔をしていたのだった。

"ボクはまだ何もしていない!"

彼の心にいるヒカルは会うたびに大きくなってきていた矢先のことだった。
佐為という平安の棋士にとりつかれていたというヒカル。
それを信じてやれなかった自分。
怒って飛び出してそのまま事故にあってしまったヒカル・・

"ボクのせいだ・・
ボクが悪い・・
君はきっと本当に佐為という平安の棋士といたんだね"


思い出すのは明るいヒカルの顔。
初めてあった六年生の顔。

"あの時は男の子だと思っていたんだよ・・

そして囲碁大会に中学生として出ていた顔。

"ダボダボの制服をきていたけどボクは君が女の子だと直感した"

それから中学になり初めての対局・・失望・・ネット碁の疑惑・・
北斗杯・・
その時々の顔がとぎれることなく思い出されてくる。

"ああ、こんなにも君のことを考えているボクがいるんだよ・・
これがボクの本心だと君に伝えたい・・"

アキラは夜も遅いというので病院から帰されてしまっていたのである。
そして君のせいではないから責めないで、とも言われていた。

"責めないはずがないじゃないか!"

アキラは殺風景な自分の部屋で焦燥感にかられていた。

"きっと佐為はいたのだ。
だから今の進藤がいた。
でもね、佐為はきっと君の才能を見ぬいていたんだよ。
だから君のそばにいた。
そう、ボクに父がいたように、君には佐為いた・・・"

   アキラは背筋がゾクッとした。
言いようのない悪寒がする。
このままヒカルが遠いところに行ってしまいそうで恐くなる。

"突然消えるなんて許さない!"

"佐為、聞いて欲しい。あなたが育てた進藤をボクに返してください。
ボクたちの歴史はまだ紡がれていくのだから!
神の一手はまだ生まれていない!"




アキラはいきる意味を考えていた。



どうして何の為にボクは生きているんだろう?
そうだ、自分には碁があった。
そしてヒカルにも碁がある。
人が生きるのに理由があるのなら・・
君とともに歩いていく道の未来にあるものは神の一手だと自分は思っていた。


"ずるいぞ、進藤!
君はボクにウソつきだと思わせたいのか?"

アキラは立ちあがった。誰にも聞こえない心の叫びはまだ続いている。

"そして、そのウソつきにさせたのはこのボクだと・・
ボクの前から消えていいと思っているのか?"

アキラの息遣いが荒くなる。

"でも・・・"

   "君に生きていて欲しい・・
碁を打てなくても君がいい。
君ともっと過ごしたい・・
ライバルじゃなくっても後遺症が残って動けなくなったとしても
とにかく生きて、ボクと時を過ごして欲しい!!
意識がないなんて思わない。
きっと君には見えてるんだ!"

アキラは超人的な努力で自分を抑えていた。
手合いに出て対局をし、棋院にいる者と会話し、そして病院に行く。

酸素マスクはすぐに取れ、尿道に通されたチューブが抜かれたヒカル。
鼻からとる流動食と点滴のおかげで肌もきれいな色のヒカル。

そしてまだ目覚めぬヒカルの元に通い、祈るような目をして体をさすっている。
そんな毎日が続いていた。

しかし意識は相変わらず戻らなかったのである。
そんな彼を誰もがずっと以前から付き合っていた恋人同士のように思っていた
のだった。


アキラは祈る。

"この世に神がいるのだとしたら教えて欲しい!
どうすれば彼女を救えるのだろうかと・・・"

   今まで自分を信じ、他人にすがることのなかったアキラが弱音をはいていた。
彼とて普通の人間だったと、今の彼を見たらそう思うだろう。

"進藤!
戻って来い!
ボクの前にもう一度でいいから・・
そしてその時は・・・"





                            つづく



 

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