同窓会編(社会人)
チャコとクィーニの結婚式からひと月半が過ぎた。今日は宇宙大学で彼らの披露宴と称した同窓会
みたいなものが開かれるのだ。要は会えさえすればいいというものであったが… その披露宴にタダ
とフロルそしてレイは参加する為になつかしの宇宙大学に向かうのであった。
「卒業してから10カ月がすぎたんだな」
フロルは懐かしそうに言った。レイが産まれる前の月に卒業したのだから…
「ヌーや赤鼻やトトが色々企画してくれているらしいぜ」
タダはそんな連絡をヌーから受けていたのだった。
「久しぶりだな、タダ、フロル」
石頭がニコニコしながら迎えてくれた。
「ご無沙汰しています、グレン教官」
タダは律義にあいさつをした。石頭はすぐにフロルのマタニティ姿に気づき驚いた。
「タダ、もしかして?」
石頭は思わず笑ってしまったのだ。この前ベビィができたと思ったら… 石頭の考えていることなんて
直感力を働かせなくてもわかるタダだった。
「はい、今5カ月になったところです… 」
タダは少しはずかしいような気がしたのだがフロルはいたって平気である。
「いや、いい事だぞ。おめでとう、タダ」
石頭はレイを抱き上げながらタダ達を祝ったのである。レイは初めて見る石頭に泣き出しもせず抱っ
こされていたのであった。
「珍しいな」
フロルは驚いた。いつもは初対面の者には決して近づかないレイだったのだ。
「わたしは子供に好かれるんだよ。家に帰ると4人の子供がいるからな」
そう言って石頭は笑ったのだった。彼は週末になると自分の星に帰る生活をずっと続けていたので
ある。
「やぁ、フロル。またマタニティかい?」
赤鼻が教官室に入って来た。
「なんだよ、グレン教官と同じことを言うんだな」
フロルは又か、という顔をした。しかし彼女の姿はやはり目立つのだった。
「確か1年前もそうだったね?」
トトもやって来たのである。彼は教官室に飾る花束を両腕に抱えていた。
「わっ! すごい花束。これお前が育てた奴だな。きれいだ… 」
フロルはオレンジ色をした綿のような花芯の花を取り上げた。シベリースでもヴェネでも見たこと
がない花だ。
「新種だろ? これ。やっぱ、お前って天才だよ!」
フロルはおおっぴらに褒めた。事実トトは植物学においては他の者の追随を許さぬほどに、その才
能を開花させていたのであった。
「チャコはもうすぐ着く予定だ。そしてガンガもな」
「 ? 」
ガンガという言葉を口にした石頭は何かひっかかるものがあった。
「 ! 」
それはタダも感じたのである。
「ガンガはいつこっちに?」
タダは石頭に聞いた。
「いや、後少しすればこの星に着く予定なのだが… 何か引っ掛かる」
それはタダと石頭が同時に感じた事なのだった。
「タダ、ステーションに行ってみよう!」
石頭はタダを促した。
「何かわからんが気をつけるんだぞ!」
フロルはタダの後ろ姿に向かって声をかけたのである。タダは軽く手を上げてそれに答えたので
あった。
悪い予感… それは当たりやすいようにタダは思う。石頭もそうだった。当たってほしくない
もの、避けたいものに関しての方が直感力を刺激するのだった。
「タダ、いったい何だろう? さっきガンガの名を口にしたとたんに何かが閃いた。しかしそれ
が何かはわからない」
「僕もそうなんです。何かがおこりそうな… でもそれが何かはわからない」
タダはあせった。確かな胸騒ぎ、それは確実に何かが起ころうとしている前兆なのであった。し
かし表面上はまだ何もない。それだけに怖かったのである。
ステーションに着いた石頭は最初に管制塔に入って行った。
「宇宙大学国のグレンだ。何か異常はないか?」
ステーションの職員はグレン教官の慌ただしい様子にただ事ではないと思い、あわてて調査したの
であった。しかし何も異常は見当たらない。宇宙船は正常に運行されている。予定通りあと1時間
もしない内にここに到着するのだった。二人はほっとすると同時に次の理由を考えてみた。ガンガ
個人に関する事か? しかし急病などの異常があった場合はすぐに連絡が入るのだ。何も連絡が無
い今は、それは考えられなかったのである。
“落ち着け… 何かが起こるのだけは確かなのだ… いったい何なんだ?”
タダは落ち着こうとした。しかし落ち着けない。あまりにもガンガが身近すぎて冷静に考えられな
いのだ。後、1時間の間に何かが起こるのか? 何が? どこで? 誰に? ガンガにか?
「緊急医療体制だけは充実させておいてくれないか?」
石頭はステーションの職員に命じておいたのであった。ここで働くほとんどの職員は宇宙大学の航
空科出身なのだ。石頭の顔を知らぬ者は少ない、彼らの動作は迅速だったのだ。
レイは暇を持て余していた。小さな子供にとって束縛とは空腹に次ぐ苦痛なのだ。もちろんレイ
も例外ではない。彼はフロルのひざでぐずぐず言い出したのである。
「ちっとは我慢しろよ」
フロルは彼の好きなおやつを取り出した。一般的な口封じである。しかしレイはそれをあまり食べ
なかったのだった。レイはさっきから石頭の机に置かれた模型を気にしていたのだ。練習用小型宇
宙船の模型であった。レイはそれに手を伸ばそうとしたのである。
「だめっ! これは壊れやすいんたから!」
フロルは叱った。手をたたかれたレイは大声で泣き出した。
「フロル、かわいそうだよ… 」
トトはフロルによく似た目をしているレイが泣くのを見ていられなかった。
「でもこいつ、何でも壊しちまうんだぜ。模型なんて触らせない!」
レイはまだ模型に向かって手を伸ばしている。
「もう… しかたないなぁ… お前、今日はしつこいぞ!」
普段ならもっと聞き分けがいいのだが何だか興奮しているようだった。きっといつもと違う場所に
来ているというのがわかるらしいのだ。
「仕方ねぇな。じゃ、ママがこの船を見せてやるよ」
フロルは教官室から出て行った。
航空科専用の発着所は航空科の学生であふれていた。フロルも去年まではここの練習船に乗って
いたのだった。
“懐かしいな… ”
フロルが感傷にふけっていると航空科の後輩が集まって来たのである。
「先輩、ごぶさたしております」
みなフロルから色々教わった者たちなのだ。
「いつこられたのですか?」
美人で面倒見の良いフロルは後輩のあこがれの的だったのだ。
「みんな、頑張ってるか? もうライセンスは取れたのか?」
フロルは愛想よく彼らに話しかけたのであった。
その時、空気の振動と共に4機の練習船が帰って来たのである。
「ほら、レイ。さっきのといっしょだぞ!」
フロルは練習船を指さしたのだ。
「あれ? 1機足りない」
後輩の一人が言った。確かに5機が一つのグループになっていたのだった。
レイが泣き出したのと騒ぎが起こるのとは同時だった。
「ワープミスです! 1機がついて来なかった」
練習船から降りてきた学生が顔色を変えて発着所の教官に告げていた。こんな時に限って教官
は一人だったのである。
「どこにワープしたんだ?」
教官はいらだちを隠せないようにどなった。
「わかりません! 僕たちがワープからでた時には4機しかいなかったんです!」
それは大変な事だった。ワープポイントは予め決められたポイントがある。しかしそのポイントが
ずれてしまうと最悪の場合、衝突という恐ろしい事態が待っているのだった。
その時レイが激しく泣いた。フロルは急に悪い予感がして来たのであった。
「お前らがワープしたポイントを教えてくれ!」
フロルはさっき帰って来た学生に向かって言った。
「フロル、手伝ってくれ! 軌道を知りたい!」
教官が言った。急を要する事態なのだ!
「X−229−4… 」
フロルは逆算したデータをスクリーンに写し出したのであった。
「これは確かだな?」
教官はねんを押した。フロルはうなずいたのである。残る1機のワープから出てくるポイントは宇
宙大学惑星ステーションに発着する船の行路上だったのだ!
「教官! ステーションに着く船とぶつかる!」
フロルは叫んだのだった。
航空科の発着所から直ちに連絡が入った。ステーションの滑走路やその近くにある船は全て移動さ
せるように指示がとんだ。管制塔にいるタダや石頭はフロルからの連絡で全てがわかったのだった。
それはガンガの乗っている船がステーションの上空で、ワープから出て来た学生の練習船と衝突する
危機に瀕しているという事だったのだ!
「この船とコンタクトがとれるか?」
管制塔の職員に石頭は聞いた。
「さっきからやっているのですが応答がありません!」
職員は焦っていた。
「もう一度やってくれ!」
石頭は大声で言った。タダと石頭の脳裏にぶつかって砕け散る練習船の映像がリアルに浮かんで来
たのである。もちろん学生達の命はない。
《 ・・・ ・ 》
かすかに応答がある。やっと通じたのだった。
「止まれーっ!!」
石頭はマイクを取り上げて怒鳴った!
ステーションの上空で小さな船の姿が突如として現れた。それはどんどん大きくなりやがてステー
ションに降り立ったのである。この騒ぎの張本人たちの操縦する練習船だった。
「驚いたぜ。いきなり急停止するんだからな」
ガンガはその時の様子をみんなに教えてやった。まだ興奮が冷めないらしい。チャコやクィーニもガ
ンガの話に夢中になっていた。
「でも何も無くて良かったな。ぶつかってたらガンガ達も無事では済まなかったかも知れないよ」
タダもほっとしていたのである。
「まるでレイが知らせてくれたみたいだな」
フロルはレイの方を向いて笑った。レイはタダの膝で何事も無かったような顔をしておやつを食べてB
いる。
石頭は思わずタダと顔を見合わせた。
“レイかも知れない”
この事態を最初に直感したのは… しかし二人はすぐにそれを打ち消した。レイはまだちっちゃなベビィ
なのだ。しかもまだ言葉すら話せないのだった。
ガンガの乗っていた船のパイロットは大学惑星のステーションホテルで一泊していた。
「で、止まれ、って声と共にベビィの泣き声を聞いたような気がしたんだ」
パイロットは同僚に言った。
「お前、酒を飲んでいたんじゃないだろうな」
その同僚は笑って相手にしなかったのである。
「そうだな、気のせいだろうな… ここんとこ仕事がつまってたからなぁ… 」
彼は自分の言葉を打ち消したのであった。
「フロル… 」
久しぶりに迎える大学惑星の夜だった。
「この星を僕たちは5年間見ていたんだったね」
タダは呼びかけた。
「たった5年間だったけど、ここの星はシベリースの星よりもよくおぼえている」
彼は言った。
「どうして?」
フロルは聞いた。
「だって君と一緒に見たからだよ。ほら、ここから見えるあそこや… あの場所に一緒に行っ
たじゃないか」
タダは指さした。
「そして次は、どこに行こうとか言ってたじゃない」
タダは懐かしそうに目を細めたのである。
「行かなかった場所もたくさんあったよな… 」
フロルはポツリと言った。
「うん、だからさ。これから一緒に行けばいい」
タダはフロルの髪を撫でた。目を閉じると学生時代がよみがえってくる。色んな事があった… 思い出
という言葉で片付けられてしまった出来事が今、目の前に広がっていった。
「いい時を過ごしてたんだ… 」
フロルはそっとタダに寄り添った。
「君がいなかったらそんな時を過ごせなかったよ」
タダはフロルの顔をのぞき込んでキスをした。軽いキスだけどフロルが泣き出すのには充分だったの
である…
今日もステーションは何事もなかったかのようににぎわっていた。
「また会おう!」
「約束やで!」
「じゃ… 」
それぞれに声をかけ、ヌーやトトや赤鼻の見守る中、みんなは自分の星に帰って行ったのだった。
今度はいつ会えるかわからなかったが、お互い共通の話題を持つ親友たちにとってはどうでもいい
事だった。なぜなら彼らにははるかな宇宙空間をも越える確かな絆があるのだから…
帰りの船でフロルとレイは眠っていた。慌ただしい旅行の疲れが出たのだろう。タダは二人の寝顔
を交互に見ては、込み上げてくる幸せを隠しきれずほほ笑んでいた。回りに乗客がいるというのにタ
ダは自分の世界に入り込んでしまっていたのである。タダは二人を起こさないようにキスをした。そ
のやわらかな唇の感触がタダをさらに幸せな気分にしてくれる…
“おやすみ… シベリースまでまだ時間があるからさ”
タダはそっとつぶやいた。
しかし彼は、乗客たちが不審な目で見ていることに気づかないのであった…
終