続くといいな・・・(2)




   世間はもうクリスマスだと言うのに閃はうかれた様子もなく祖父と稽古に励ん
でいた。
いや、うかれる心を落ち着かせるようにしているのが祖父である朱門に見抜か
れていたのだが・・


 クリスマスに近い日曜の朝は晴天だった。
今日は礼央と一緒に少し離れた町にある遊園地に出かける約束をしていたの
だ。
電車の駅には早めに来た閃が待っている。
"やっぱ、遅い時間まで引き止めるのはますいよな。んじゃ、夕方になる前にこっ
ちに帰って来てどっかに入って・・ 送って行くのは6時ごろかなぁ・・"
なんてコトを考えている。
それともう一つ!

閃にとって、礼央との歴史に残る第一歩ともいえる予約の事を考えていた。
そう、以前約束していたキスの予約である。
「あん時は礼央のヤツ、させてくれなかったもんな。でも今日は・・」
閃は待っている間、礼央の唇や反応を想像しながら一人でモンモンとしていた
のである。

「皇!!」
時間ちょうどに礼央がやって来た。
「おぅ・・っておめー、何か女っぽいな」
閃は赤いチエックのスカートをはいた礼央に見入っていた。
「なんだよぅ」
お世辞じゃない閃の言葉に戸惑っている礼央。
こんな時の彼女はいつもかわいいのだ。
「へへっ!」
嬉しくなった閃が礼央の手をつないだ。
「デイトだからよー」
閃が言った。
「ばっか!」
恥ずかしくなった礼央が照れている。
たしかにデイトには違いない。そう、違いないのだがはっきりデイトというのは
まだ恥ずかしく感じている。
"今まで男子とこんなコトしなかったから"
と、礼央は自己分析している。
今まで気にならなかった男子の事に関する女子間の会話も今では貴重な部
分になっている。
「なんでぇ?」
と、閃が顔をのぞき込んだ。
「うるせーよー」
横を向く礼央はそれでもつながれた手をはなそうとしなかったのだった。



 電車は混んでいた。
今まで通学に電車は必要なかったし、俗に言うラッシュアワーを体験した事の
ないふたりには珍しい体験だった。
「なぁ、皇ぃ。立ってる感覚ねーのに立ってるって変な感じだな」
「うん、オレもそう思う。だってよ、オレのカバン、人に挟まれてるから重さを感
じねーんだ」
閃もまた、とぼけた事を言っている。
「あたしも、弁当が軽い」
彼女はおもしろそうに笑っていた。

 しかしその笑いが消えたのは後少しで目的地に着く時だった。
礼央は何だか変な気配を感じて振り返ったのだ。
「どした?」
閃が聞く。
「いや、何かさ・・いや、気のせい・・・っ!!」
と、言った礼央が息をのんだ。

 礼央のスカートの中に進入した手がお尻をまさぐっている。
しかし礼央は驚きのあまり声が出なかったのだった。
 初めての体験であり、しかも満員電車の中であり、おまけに閃と楽しく話をし
ている最中だった事もあって全くのフェイントだったチカンになすすべも無い礼
央だった。
「礼央っ!」
閃が大声を出すのと電車のドアが開くのは同時だった。 

慣れているのか礼央に触れていた手がスッと離れた。
しかしドアからダッシュで出て行こうとした男の手を閃はしっかりつかんだの
である。
「おめー、礼央になんて事すんだ!!」 閃は低い声で相手を睨みつけた。
しかし明らかに自分より小さく、いかにも中学生という閃に逆切れしたので
ある。
「文句あるのか? 坊や」 高校生風の男は閃につかまれた手を引きながら改札口に向うのだ。
閃もここではまずいと思いおとなしく彼にしたがったのだった。


 どこの駅にもある死角に閃と礼央は連れ込まれた。
「あんたねーっ!」
と言う礼央の声が震えている。
軽くひねれる相手にいとも簡単に触れられてしまった自分が情けない。
気が付くと涙がポタポタ落ちている。
そんな礼央を制すように閃が前に立った。
「俺は俺の前で礼央を悲しませた俺が許せねーんじゃ!」
と言いつつ男に向って拳を突き出した。
手加減したせいもあるのだが相手の男はさっと避けたのだ。
「やるのか? 無駄だ!」
今度は男が拳を振り上げたのである。

 しかし一瞬だった。
倒れた男をふり向きもせずに閃はその場を離れたのである。
「礼央―、ごめんなー」
閃はひたすら謝っていた。
初めて性的に辛い目にあった礼央が不憫でならないのだ。
しかし反面、まだ自分が触れた事のない部分に触れた相手がうらやましい・・・
「帰るか・・?」
閃が聞くと礼央は横に首を振った。
「やだ、せっかく来たのに!」
目をこすりながらも彼女はどんどん歩いてゆく。 「へへ・・」
閃はあわててその後を追っていたのだった。


 遊園地に行くまでに大きな公園がある。市民の憩いの場と称された公園に
は背の高い木がたくさん植えられており、ちょっとした森林浴ができるぐらい
だった。
 それを横ぎるのが近道だとガイドブックに書いてあったので二人は散策を楽
しみながら歩いていたのである。

" ・・!!"


二人の前に現れたのはさっきの高校生風の男とその仲間だった。
「さっきはよくも・・」
と、言うのが悪役のお決まりのセリフである。
7〜8人の高校生が二人の前に立ちはだかっている。
「それを言うのはあたしじゃん!」
と、冷静な礼央がかれらの前に出た。
そして静かに腰を下ろしスッと構えたのだった。

 隣りの閃も当然そうしている。
「おい、あのガキ、強いぞ!」
チカンの男が閃に向ってあごをしゃくりながら言った。
「こっちは多勢だ。心配ねぇ」
仲間の誰かがそんな事を言っている。
 しかしいかにも素人の相手にとって閃と礼央は強すぎるのだった。
「 ・・  」
声も出さずに礼央が急所をついた。
さっきのチカンにだ。
それは蛇蠍拳とまではいかないほどの軽い突きだが彼を倒すのに充分だっ
た。
「礼央、加減しろよー!」
と、閃の声。
「おめーとそいつじゃケンカにもなんねーじぇ!」
「ああ、わかってるって」
礼央もそれを心得ていた。
バトルインパクトに出て来た予選の相手よりもはるかに弱い素人相手だけに、
それなりには気をつかったのだ。
「おい、こっちの女もつえーぞ!」
閃にばかり向けられていた目が礼央にもいく。
しかし相手に何もアクションを起こさせないままに二人はかれらを倒してしまっ
たのだった。



「ふふ・・」
礼央が笑っている。
閃は心が軽くなっていた。
「はー、スッとした! だってさー、すっげーイヤな気分だったんだ。あんなコト
されてさー」
「俺もそーだ。だって礼央だからよー、おめーを守れなかった俺がいやだった。でも
礼央の今の顔見てホッとした」
そしてその時になって彼女との予約を思い出したのである。
"そっかー。今日の俺、礼央にキスしてーなとずっと思ってたんだった"
閃は急に考え込んだのである。

"でも今日はやめた!"

閃はあせらないでいこうと思ったのだった。
"そう、時間はあるんだから・・俺はずっと礼央を大事にしてーと思ってんだか
ら・・"
「どーした?」
礼央が不思議そうな顔でのぞき込む。
「何でもねーじょ!!」
おおげさに手を振ってニパッと笑う閃。
それはもういつもの明るい閃だった。
「さぁ、今日は一日デイトじゃ〜〜っ!」
「大きい声で言うなっ!!」
礼央の突きが眉間に決まる。
「いてっ!!」


 そして二人の初めての遠出のデイトは終ったのだった。
閃は思う。
きっとこれからもこんな感じで続いたらいいな、と・・・



                                 終

 

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