裏・激情編(1)
設定・・アキラは中学卒業と同時にヒカルに告白。相思相愛状態。しかし棋院
では交際の事は隠し続けて2年がたっていた。
今日のヒカルはいつもと違っていた。
そう、今日は特別なのだ。
結構おしゃれなヒカルはいつもカジュアルに、ボーイッシュに決めている。
しかし今日のいでたちは今までのそれじゃない。
「清楚な女流棋士に見えるように」
と、注文が付く取材だった。
だから今日の格好になったのだ。
「かわいい、さすが進藤君。どこから見ても清純派のお嬢さんだ」
記者たちはヒカルを褒めていた。
淡いブルーのタイシルクで仕立てられたAラインのワンピース。
胸元には同系色のシルクオーガンジー素材のコサージュをつけている。
そんなヒカルはどこから見てもきれいであり、かつ上品に見えた。
"進藤・・"
そんな彼女に今さらながらアキラは心を奪われた。
"殺人的にか・わ・あ・い・いぃっ!!!"
アキラは心の中で絶叫した。
もし、彼に羞恥心がなかったならば棋院の中心で愛を叫んでいただろう。
そう、新幹線が真横で通過する音量ほどに。
"あ・・・あ・・・ダメだ! こんな所で!"
アキラの息子がむっくりと起き上がる。
角度で言えば175度、ジャンケンでパーを出す手で言えば親指の角度といったトコ
だろう。
それは若さの証明だ。
しかしこんな所でテントを張るのはいただけない。
だから彼はわざとヒカルの事を考えないようにし、トイレに向かったのだった。
「おっ! 進藤。お前もそうすりゃ深窓の令嬢じゃん!」
「うるせー! バカヤロウ!」
照れたヒカルが和谷にほえている。
しかしアキラはその照れた様子をうっとりと見ていたのだった。
"進藤・・・君はボクを過労死させる気なのか・・・"
さっきトイレで1本抜いてきたアキラだがそれでもまだたりなかったらしい。
幸い今日は取材だけで彼女は開放される予定になっている。
アキラも今日は手合いがドタキャンになりヒマを持て余していたのだった。
「進藤、碁会所に行く前にちょっと付き合ってくれないか?」
アキラはヒカルに言った。
「ああ、いいけど、どうした? 今からだと随分打てるのに」
「いや・・・でも・・」
いつになく歯切れの悪いアキラは彼女を前にして迷っている。
"ああ・・君にこんな事をいいたくない・・しかしミニのワンピースを着ている君を見て
いるとボクはもう抑えられなくなる!"
二人はまだ一つになってはいなかった。
もっともキスならずっと前に体験済みなのだが。
"君が欲しい!! 全てが欲しい!"
アキラの胸に熱く込み上げるモノがあった。
"うっ・・"
と言って走ってゆくアキラ。
「うえぇえぇぇぇぇ・・・」
彼はあまりに緊張したために熱いモノを戻してしまったのだった。
トイレから口を拭きながら出て来たアキラを心配そうにのぞきこむヒカル。
「おまえ、調子悪いんじゃね? 早く帰ったらどうだ?」
彼女は碁会所をあきらめていた。
こんな状態では打てはしないだろうと。
「いや、心配に及ばない。それに両親は今、日本にいないし・・それよりボクは」
と、アキラは言った。
「今からボクの家に来ないか?」
・・・・と。
両親のいないアキラの家は静まり返っていた。
「お邪魔します・・」
とりあえずひとこと言ってからヒカルは彼の後に従った。
今までも何回かここには来たことがある。
しかし今日はいつもと違っていた。
塔矢行洋夫妻がいない。
緒方をはじめとする塔矢門下もいないのだ。
つまりふたりっきりの状態。
いくら鈍いヒカルでも明が何を思ってここに連れてきたのかがわかってしまっている。
しかし抵抗はなかったのだった。
"そうなんだ・・・オレ、ずっと覚悟できてたんだよな"
彼女は心に言い聞かせていた。
付き合い始めてもう2年。
若いアキラの限界をヒカルは察していたのである。
裏・激情編(2)に続く