わたしには、好きな人がいる。
それははっきりと断言できるほど片思いなんだけど。
人に言ったら「キモイ」とか「やばい」とか言われるかもしれないけど、
だけど、その人の事が、わたしは好きだった。
これだけは諦める事なんてできなかった。
例え変でも、片思いだったとしても……。




『Like』と『Love』の狭間に





「で、綺羅は誰かにバレンタインチョコあげるのー?」
始まりは、その一言だった。

友人の言葉に、わたしは妙に納得した。
もうすぐ、この聖クリステル女学院では大イベントであるバレンタインが来る。
そっち系の子は(わたしも人の事言えないけど)大好きな先輩や後輩、
もちろん同い年の子にあげる人もいれば、先生にあげる人もいる。
そして初等部の女の子は姉妹校である私立美波野男子小学校の男の子とかに。
そう言うやり取りを見るのは、なかなか微笑ましくもあり、何故だか妙に、自分まで幸せな気分になってしまう。
だけど、今年のバレンタインは――……、


思い出されるのは、初等部だった頃の、忘れられない彼女との出会い。
いつも地味で暗くて、何のとりえもなくて。
そんなわたしはイジメっ子から見ればいいイジメ相手だった。
だけどそんなある日、泣いているわたしに話しかけてくれる子がいた。
『ねぇ、あんたバレー部に入らない??』
『……え?』
『ほら、いっつもいじめられてたでしょ?何か始めなよ。そして、いじめっ子が
驚くようなとりえ、作っちゃいなよ。だから、ね!』
当時初等部バレー部の部長だった彼女にとって、それは勧誘以外の何でもなかったのかもしれないけど……。
でも、バレー部、はいろ?…にっこりと笑った女の子に、わたしはときめきを感じた。
……そう。いじめられっ子で何のとりえもなかったわたしを変えてくれた無二の友人、
長瀬綺羅
(ながせ きら)ちゃんに、わたしはその時から恋焦がれていた。

傍から見ればやっぱりわたしって変人なんだと思う。
同性愛者だ、と避けられても仕方が無い話だと思う。…それでも。
「ねぇ聞いてる綺羅ってば!?」
「ん?ああ、聞いてる聞いてるー。」
「ふーん?じゃあ何聞いてたと思う?」
「え、今後のバレー部の活動について。」
「……はぁ、あんたってほんっとバレー以外に興味ないのねー!」

呆れたようにため息を吐く友人と綺羅ちゃんのやり取りを見て、思わず笑みがこぼれた。
綺羅ちゃんはバレーが本当に大好きで、綺羅ちゃんは「バレーはもう一人のあたしだ」と笑って話していた記憶がある。
バレーしか見てなくて、恋話を嫌う綺羅ちゃんに、最低なことにも
わたしは心の中で安堵していた。…片思いでも、綺羅ちゃんにはまだ好きな人がいない、と言う証だったから。
「え?バレンタイン?」
だけど、最近綺羅ちゃんは同じバレー部の先輩と仲が良い。
…何だか、第三者から見ていると微笑ましいやり取りをするんだ。
わたしと話している時とは違う感じ。本当に、楽しそうで。

わたしは綺羅ちゃんみたく綺麗な人間じゃない。
私は綺羅ちゃんじゃないから、
『綺羅ちゃんが幸せなら、いいよ』
……なんて綺麗な言葉、呟けないから。

「――うん、渡すよー。」
「え、マジでー!?」
「にゃははー♪マジマジ♪」
ノーテンキに笑う綺羅ちゃんを見て、わたしは心の中で落胆した。
やっぱり、綺羅ちゃんは先輩が好きなんだ。
先輩じゃなくても、その渡す相手はわたしじゃないって事くらい分かる。
現に、
「ねぇ、恵美は誰かにあげるの?」
「……あ…。」
にっこり微笑んで訊いてくる綺羅ちゃんに、わたしはどきっとさせた。
…ほらね。貴方はわたしに、笑いかけてくれるもん。



*



――ああ、なんてわたしは醜いんだろう。

バレンタイン当日になり、わたしは複雑な気持ちでいた。
綺羅ちゃんの想いなんて関係なく、綺羅ちゃんが少しでも自分を見てくれることを望んで。
思えば、綺羅ちゃんを好きになってしまったあの日からわたしは醜かった。
…今思うと、綺羅ちゃんと会わない方が良かったかも、しれない。
(綺羅ちゃんは…こんなわたしを知ったら、引く……よね。)
だって、普段口数は少ない癖して心の内では嫉妬とか醜い感情で
いっぱいの女の子なんて、気持ち悪いだけだもん。

綺羅ちゃんは、言わばわたしのアイドルだった。
いつも高い所にたっていて、みんなの人気者で。わたしとは大違い。
それでいて嫌味なんて無い綺羅ちゃんは更にわたしをときめかせた。
そんな綺羅ちゃんと自分がつりあう筈も…なくて。
でもわたしはとっても醜いから、綺羅ちゃんと付き合う事ができなくてもいい。
だけど、綺羅ちゃんに愛人ができないで欲しい。そんな我侭な事ばかり思っていた。
(……でも――。)
思い出されるのは、昨日の綺羅ちゃんの「うん、渡すよー」といった時の満面な笑顔。
あの様子だと、本当にその人の事が好きなんだな、って誰から見てもそう思うから…。
わたしは我侭な事を考えても、実際綺羅ちゃんに迷惑は掛けたくない。
だから。
(…今日で……最後。)
綺羅ちゃんとはいつも広場で待ち合わせて、寮まで一緒に帰る約束をしている。
だからきっと、綺羅ちゃんがその人のチョコを渡したら此処に来てくれるだろう。
(……その時にでも、綺羅ちゃんに訊こう。)
好きな人には渡せた?って。不自然に引きつらないで、自然に訊かなくちゃ。
そして綺羅ちゃんの嬉しそうな返事を聞いてチョコ渡せて良かったね、って笑って、それで終らせよう。




 ――綺羅ちゃん、チョコ渡せてよかったね。
      
…本当は、とてもそんな事思えないけど


 ――わたし、綺羅ちゃんの恋、応援してるからね。
      
…嫌だよ


 ――綺羅ちゃん、
     
 …わたしは、





「やっぱり――…嫌だよ……っ」
心の中で一生懸命そう言い続ければ、きっと嘘でも綺羅ちゃんの
恋を応援できると、そう思ったのに。
不意に胸が苦しくて、たまらなくなってわたしは泣いた。
「喜べないよ、こんなの。」
本当は今すぐにでも綺羅ちゃんに好きって言ってしまいたい。
だけど、そんなの綺羅ちゃんが困っちゃうから。
「綺羅ちゃん……っ」
……わたし、どうすればいい?
わたしね、綺羅ちゃんの迷惑にはなりたくないの。
でもね、綺羅ちゃんを誰かに取られちゃうのは凄く嫌なの。
嘘でも、『チョコ渡せて良かったね』って言うべきなの?
でも、それって本当に――
「あ、恵美じゃーん!こんな所にいたのか。」
「……え?…綺羅、ちゃん……?」
突然、何の前触れもなく聞こえて来た声にビックリして、わたしは声の主を見た。
それは紛れも無く、嬉しそうな顔した綺羅ちゃんで。
「…ん、泣いてるのか?大丈夫?あ、またいじめられた!?」
「えっ、う、ううん……そうじゃなくて――……」

頭の中が、ぐるぐる。ぐるぐる。

なんていえばいいのかわからなくて、わたしはただ慌てる事しかできない。
何て言えば、何て……そうだ、まずはさっき頭の中で練習してた事を言わなくちゃ。
綺羅ちゃん、チョコ渡せて良かったね……って。そう言えば――…
「じゃじゃじゃ〜〜んっ★そんな君にこれをあげよう♪」
「………え??」
「ふふふん。愛妻弁当に対抗して愛妻チョコ♪嬉しいー?」
「え、え、え……?」
「もう、恵美ってば動揺しすぎー!あ、食べたくなかったら捨てていいのよ。」
「う、ううん!!そうじゃなくて……」

何で、わたしなんかに、くれるの――……?


紡ぎたい言葉は、混乱しているせいかなかなか出てこなかった。
友チョコなのかな、とも思ったけど、それにしてはラッピングが豪華すぎて…。
「何言ってんだよ。あたしが恵美の事が好きだから、じゃ理由にならない?」
「……え…!?で、でも…えっと……その、チョコ…って……。」
「うん??このチョコ??」
「う、うん……本当に好きな人に、あげる用じゃ――…。」
わたしの言葉の意味が分からないのか。綺羅ちゃんは暫し首を傾げる行動を
何回かとっていたけど、ようやく「あー」と納得したかのように一言呟いた。
「うん、本当に好きな人にあげる用だよ?」
「………………ぇ…???」
「あー恵美ってば鈍感すぎぃ!!ここまで言えばわかるだろ!?」
「え、え……綺羅、ちゃん……!?」
そんな事、言わないで。
私だって本当は、すっごく期待してるんだもん。
もしかしてその好きな人ってわたしなの?って…。
だけど綺羅ちゃんは今日もまた、わたしの考えなどお構いなく私の好きな笑顔を向けた。
「あたしは恵美を愛してるからさー!」
「〜〜っ……」
「え、や…恵美、何マジ泣きしてんのよ!?」
「だ、だって……っ」
ほんとうに、嬉しかったんだもん。
妄想とか、空想とかじゃなくて、本当に綺羅ちゃんがわたしにそんな事言ってくれるなんて、思わなかったんだもん。
だから今のはさっきの涙とは違うの。…嬉し泣きなんだよ。
そんな事を心の中で言ったが、綺羅ちゃんには生憎通じなかったらしく、
『あ、あたしそこまで変な事言った!?』とわたしを見てオロオロしていた。
そんな綺羅ちゃんが本当に可笑しくて、わたしは笑った。





*あとがき*
初めての完全百合モノと言う挑戦でした!!
それにしても今回は初の主人公が嫉妬深くて醜い、と言う設定でした。
キャラには沢山いても主人公にするのは初めてで書いてて楽しくもあったり…!
いちおう恵美は受けって設定ですが、この綺羅への愛の深さ…。攻めもいけそう、な……。(ぇ

はい!長くなりましたが、ここまで読んでくださって有難う御座いました!
小説書きは文の構成とページのレイアウトにいつも悩まされます……。
ではでは、また機会がありましたら宜しくお願いしますv



--------------キャラ設定----------------


天王寺恵美(てんのうじ めぐみ)
本編主人公兼ヒロインで、いじめられっ子の女の子。
地味で勉強以外取り得がなかったが、綺羅にバレー部に誘われてからは魅力的な少女になった。
ちなみに受け。


長瀬綺羅
(ながせ きら)
女子校ノリの元気少女で、女子バレー部期待のエース。
いじめられっ子だった恵美に勇気をくれるきっかけとなった少女。
ちなみに攻め。


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