それは、満月の綺麗な夜の出来事だった。


苦しそうな男の叫び声が響く。
月下には和服の少女が札を構え、立っていた。
『おのれ、小娘…良くも……!!』
「ごめんなさい…すぐ楽にしてあげます。」
そう言うと少女は目を瞑り、何か呪文を唱えながら印を作る。
そして詠唱が終わったのか、少女は目を開けると手にしていた札を振り上げた。

『ぐああああ……!!まだだ、まだ死ぬ訳には――……!!!』
悪霊は苦しそうに呻き、少女を睨みつける。
それでも暫くすると少女の札の中へと封印された。
「――さようなら彷徨える魂よ。どうか、安らかに。」
そう言うと、少女は静かに目を瞑り、懐にその札を大事そうにしまう。




――それは、満月の綺麗な夜の出来事だった。








#01,『日常』の朝







「…ふああ眠……。」
あくびをしながら、朝の学校への道を歩く。
多分、これが昨日の深夜12時に大活躍した女の子の素顔だとは誰も判らないんじゃないかな、うん。
「やだなぁ、もうこのお仕事やめたいなぁ、悪霊さん怖いもんなぁ……。」
だって昨日の悪霊さんのわたしを睨んだ、顔。
あれはもう善の心を持った者の目ではなかった。…あー思い出しただけで怖〜〜ッ!!!
それに毎日、深夜の12時に出勤するのは健全なる女学生としてどうかと思う。
悪霊さんは怖いし、それに変なおじさんにあったらどうするって言うのよ〜っ…!
帰りは遅いから寝不足にはなるし。…はぁ。
……こんなわたしは藤沢美冬
(ふじさわ みふゆ)
ちょっとボケてる、とかちょっと抜けてる、とか言われるけど、こう見えても普通の女の子…だと思う。多分。
ただわたしには、一つだけ他の女の子と違う所があった。
何と、わたし。美冬ちゃん様は『ゴーストバスター』様様だったのです。



代々藤沢家は悪霊退治を仕事とする『ゴーストバスター』の家柄で、
それは去年の出来事。16歳の誕生日を迎えたわたしも(嬉しくないんだけど)
藤沢家のゴーストバスターとなってしまった。
…この仕事、わたしにはかなり不似合いだと思う。
だってわたし怖がりだし、お化け苦手だし、ドジだし……エトセトラエトセトラ…。
それでも、たとえ嫌でも『あの人』に歯向かうと何されるかわかったもんじゃないからなぁ…。
あの人って言うのはわたしのお父さん。
わたしとは正反対で根っからのゴーストバスターで、
現役だった頃はかなりノリノリに悪霊退治をしていた…らしい。
そんなお父さんはこの藤沢家に代々引き継がれていく
ゴーストバスターの仕事への侮辱などにはかーなり煩い。
現に初めて仕事を任された時だってわたしが『そんな仕事嫌!!』って
言っただけで6時間はお説教され続けたもん…。
(まぁ、こんな仕事も何だかんだ言いつつ一年。段々慣れてきてはいるんだけど……。…って、あれ。)
どうでも良いことを考えながら歩いていると、突然視界が真っ暗になった。
一瞬だけ驚いたが、やがてそれは彼の仕業だと認識した。
「だ〜〜れだ♪」
「珪くん。」
「うっわぁせいかーい♪おはよ、美冬。何で俺だとわかったの!?あ、わかった。愛の力だね♪」
「う、う〜〜ん…。って言うか、こういう事するの珪くんくらいしかいないから。」
「あ、そっかぁ…。あ、でもそう言う認識してくれてるって事は愛の力だよね!!」
何だか訳の分からないような事を言うと、少年…珪くんは明るく笑った。
彼は結崎珪
(ゆいざき けい)くん。…一応、わたしの彼氏。
一応って言うのは、まだ正式には付き合っていないから。

一週間前に同じクラスだった彼から告白を受けた。
クラスでも地味な方であるわたしは当然付き合ってる人もいなかったんだけど、
男の子と付き合うって言う経験がなかったから上手い返事を出す事ができなかった。
そんなわたしを察してくれたのか、珪くんは
『じゃあさ、試しに付き合うだけでいいから!嫌だったらすぐに別れてくれていいから!』
なんていうすっごく優しい言葉を言ってくれた。
明るくてテンションが高くてマイペースな彼に最初こそは戸惑っていたけれど、
段々それが日常となってきて、満更でもなくなってきてる今日この頃。
「って訳で一緒に学校いこ、美冬。」
「うんっ。」
控えめに差し出してきた珪くんの左手を、わたしも控えめに握る。
そんなやり取りはまるで、本当の恋人同士みたいで恥ずかしくて笑えてきた。




+あとがき+
『まだ』まともな一話目でした!(笑)
幼馴染の彼氏、珪くんを出しましたが彼は天然腹黒です。(うわあ爆笑
ちなみに本命は彼じゃないです(酷

珪「酷…っ。俺ってもしかしなくても不幸……。」

と、とは言え逆ハーモノなので正式にCPは決めてないんですけどネ…!
さて、次は本命っぽいような彼が出る予定です!


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