あいつは、何度も俺の家に足を運んだ。
「俺を励ます為なのか?」
しかし、俺の悪い思考は他の考えも出てきてしまう。
『いいや!あいつはおまえなどどうでもいいと考えているのさ!あいつは、おまえの死を見に来ているだけじゃないのか?』
健康であるあいつを見ると何故か妬ましく思う。その為、俺を悪い方に悪い方に向かわせようとする。
『あいつは、自分の健康をおまえに自慢しに来ているだけだ!』
「違う!」
『自分は幸せだ!と自慢しているのだ!』
「違う!」
『そして、早くおまえは死んでしまえ!』
「違う!黙れ!」
その悪い考えを自分で振り払うが如く俺は、否定し続けている。
「あいつは、俺の為に時間を割いて会いに来てくれているんだ!そんなわけ無いだろ!」
『おまえの為に時間を割いているわけではない!あいつはあいつ自身の為に来ているだけだ!』
「あいつ自身の為?それは偽善とでも言うのか!偽善なら俺のような者にするのでなくもう少し為になる人間にすれば良いだろう!俺にそのような事をして何の得になるのか?」
『あいつは、ただおまえの死ぬところが見たいだけさ。おまえが悩み苦しむのを横で見て笑っていたいさ。』
「あいつはそんな奴ではない!」
『おまえはそう言い切れるのか?あいつがそうでないと本当に言い切れるのか?』
「黙れ!貴様は、あいつを愚弄するのか?貴様が何と言おうが俺はあいつを友として信用している!」
『おまえが、そうであってもあいつがそうでないかもしれないではないか?それでもか・・・』
俺はたいていここで詰ってしまう。俺は、あいつを友達として信用しているのだが、あいつが今日来なくなったとしても俺はそう言い切れるのかがわからない。
今は、あいつが来てくれているからそのように言えるのかもしれない。
だから、俺はいつもこの様に言う事が出来ない。
「仮にあいつが友と思って無くても俺にとって関係ないことだ!俺はあいつを友としている。」
そのような、心の中の戦いは、ほぼ毎日続いていた。
心の中の俺は、いつもこの様に言う。
『もう、死んだ方が良い!』
俺は、何度もこの言葉の通りにしてしまった方が良いのでは無いのかと思ったが実行した事は無かった。
理由は、あいつの別れ際の「また〜」と言う言葉である。
この言葉に次を期待している自分がいる。
その為、俺は、この言葉に従うわけにはいかない。
まだ、俺には生きる時間が与えられている。
その時間、何も出来ないかもしれない。
しかし、ただ、あるかどうかわからない"次"と言う希望を持って行こうと思ったわけだ。
俺は、あいつの言葉の意味が何度も聞いているうちにわかって来た。
俺には"次"がある可能性は低い。しかし、その"次"に向かって頑張ってみようという思いにさせられている。
今は、この"次"と言うのが近いからこの心の中の戦いをなんとか振り払って来ているが、もし遠くなると俺はどうなるのだろうか・・・?
この言葉に従ってしまうかもしれない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
僕は、ほぼ毎日彼の家に行く事が出来たのは、最初の2週間だけでした。
それ以降は、僕の会社の方が少しばかり忙しくなり、会社から帰ってから彼の家に行くような時間が取れなくなってしまいました。
毎日の様に残業があり、終わればもう彼の家に行くなんて出来ないような時間帯になってしまいました。
僕は、最初の方は、ずいぶん「悪いな〜」とか「彼を一人にして大丈夫だろうか?」などと不安な思いになっていました。
最初の週とか次の週ぐらいまでは、電話やメールで
『すいません。会社の仕事がかなり忙しくなり残業が入る為今日は、家にお邪魔する事が出来ません。』
と言うような意味の事柄を報告しました。
彼は、その度、「それなら仕方ないな。良い良いよ!気にしないで」と言ってくれました。
確かにその言い方には少しばかり残念と言った思いを感じられますが、それでも彼は最後に必ず、
「電話くれてありがとう。」と言った内容の事を言ってくれます。
それは、本当に心から言っているようでした。
ただ、2週間も3週間もこの様な事が続くと、僕は、「彼なら赦してくれるか。」とか
「電話やメールなどしなくてもわかるだろう。」と安易な考えが浮かび、電話やメールを行く事が出来なくなって3週間後から怠り始めてしまいました。
この僕の安易な考え方があのような事件を生んでしまうとか思いもよりませんでした。
時間が無くても僕の電話一本でもあの時の彼にとって生きがいになっていると言う事を僕は忘れてしまっていました。
行けなくなって4週間が経とうとしたその時、彼はついに自殺未遂をやってしまったのです。
僕には非常にショックな出来事でした・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あいつは、二週間大体仕事が終わってから俺の家に来た。
他愛もない馬鹿な話、笑い話などいろいろ話した。
中には、あるはずの無い、俺の将来の事を話したりもした。
「君は将来何をしたいの?」
俺はこの問いに驚いた。俺にとって将来などは、無い。
であるのに、あいつは、"君の将来"と聞いてきた。
「昔は、スポーツ選手とかになりたいと言っていたよね?」
ああ、確かにそんな事も言ったような気がする。そんな事、小学校の頃だろ?
「昔の事だな?あの頃は、漠然とカッコイイスポーツ選手に憧れたな・・・」
そう言いながら、俺は、あの時の思い出を振り返ってみた。
小学校の時、俺は運動神経が良く、スポーツは何でも出来た。
しかし、どの種目をしたいのかという事は全くわからなかった。
俺も馬鹿だった。スポーツには種類があるのに、そんな事関係無しで"スポーツ選手になりたい"と言ったわけだ。
「その後、君は何に憧れたんだ?」
俺は、あいつの声で過去から現在まで引き戻された。
「しばらくは、漠然と部活をし、次の試合に勝つ事しか考えられなかったな。」
「それで、何故、あの大学に入ろうとしたのかい?」
「したいことは無かったんだが、これも漠然と就職しやすい大学でかつあの時の俺が入る事の出来るところを選んだわけだ。」
俺は、あいつが言う前に先に言ってやった。
「そんな事、おまえ知っているだろ?高校までは一緒だったわけだしな。」
「ん?まあ、知っているけど、君の将来を聞く為に過去から話していった方が良いかなと思ってね。」
まだ、こいつ俺の無い将来の事を聞きたいのか?本当に何を考えているのだか・・・。
俺に将来が無いと言うことはあいつが良く知っているのにわざわざ聞いて来るからには何かあるのだろうと思い何も言わずに俺は、考えてみた。
俺は、仮にもし生きる事ができるなら何をしたいのか?
今迄本当にしたかった事は何か?
答えは、なかなか出てこなかった。
今、やりたい事は唯一つ、【生きたい】と言うことだけであった。
だから、こう言ってやった。
「俺は、将来を生きたい。」
あいつは、ちょっとしまったという顔をしたが、すぐに笑顔になり、
「そうだね。君にはまずはそれが先決だったねごめんごめん。」
と言った。
あいつは、知った上で、将来の希望、夢を語らせて、その事に向かっていってみようと言いたかったのだろう。
「もし生きられるなら何がしたいかか・・・。」
俺は、もう一度、考えようとした時、思わず口に出してしまった。
「それより、後悔の方があるかもしれないな・・・」
俺は、ハッとした。"後悔"だと?
俺が後悔しているのか?一体何に後悔しているのか?
スポーツをしすぎたという事か?それとも、何も考えなしに大学に行き、やりたいのかやりたくないのかわからないような仕事をしていた事なのか?
スポーツは俺にとってやりたかった事だったので後悔は無いだろう。
将来やりたい事を見つける事が出来なかった事が一番の後悔かもしれない。
なら、残された時間でこれを見つけないとならないだろう・・・。
また、それをしないといけないだろう。
そのような考えも浮かんだが、自分でも想像出来ない事を言ってしまった。
「俺にとって、今迄全部が全て後悔かもしれない・・・。」
そしたら、あいつは、
「なら、その後悔するところを一つでも改善するようにして行こうよ!」
と言った。
それは今俺も考えていた事なので抵抗は無かった。
その日は、馬鹿話も少しして、終わった。
その後、あいつは、俺の家に来る事が出来にくくなった。
それは、あいつの仕事が急にハードになり、毎日が残業となった為である。
俺も、仕方が無いかとか全然問題ない!とまで言い聞かせていました。
しかし、気が付かない間に、俺はあいつが家に来るのを非常に心待ちにしていた。
最初の2週間ぐらいは、あいつからの電話やメールが有ったのでかなり救われた。
しかし、3週間以降からあいつが忙しくなったのか電話やメールが来なくなった。
俺は、「忙しいから仕方が無い」と言い聞かせていましたが、その時の心の中の戦いが凄まじいものであった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あいつが忙しくなり、家に来る事が出来なくなって約3週間が経とうとしていた。
3週間は、あいつからメールや電話が有ったが、3週間以後、電話やメールが来なくなった。
あいつも忙しいのだろうと思い仕方が無いと思っていた。
そしたら、奴が俺の前に現れた。
奴とは、俺の悪い考え方だ。
『あいつは、おまえの事なんか何も考えてはいない!ただ、自分の暇な時におまえの死に行く姿を見て楽しがっているのだ。』
「そんな事は無い!俺の死があいつにとって楽しみなわけが無い!」
『おまえは本当にそう良い切れるのか?現に今、あいつからの電話やメールは来なくなったぞ。あいつがおまえの事を考えているなら、どんなに忙しくても電話やメールはよこすだろ?』
「そ、それは・・・」
『だからあいつは、おまえの事などこれっぽっちも考えていないのさ!』
「・・・・・・」
『それにおまえですらもう、あいつを信じられなくなっているではないか?』
「そ、それは無い!それに、さっきの件、電話やメールをよこす事の出来ないぐらい忙しいのだからだ!」
『お!動揺してきたな!徐々におれの考えがおまえにもわかるようになって来たのだろ?!』
「それは、貴様の思い過ごしだ!俺は動揺なんかしてない!」
『そうかい。ちょっと質問を変えてみようおまえは何故こんな未来も無く生きている?否、もう死んでいるのでは無いか?』
「何?お、俺が死んでいる?俺は生きているぞ!」
『未来も無くか?なら聞くが、おまえに未来、将来の希望はあるのか?』
「ある!俺とあいつで考えた物がある。それは、今までの後悔してきたことをやってみようと思う!」
『もう一度聞く、おまえの今一番したい事は何だ?』
「くどいぞ!俺のしたい事は・・・?」
『おまえは大まかな目標は立てただろうが肝心なその中身はまだ何も無いわけだ。』
「その中身は考えながら行く!」
『何?一人でか?大まかな目標ですらおまえは一人で考えられなかったのだぞ!まして、細かい目標は考えられるわけが無い!』
「あ・・・・」
俺は、奴に向かってあいつと一緒に考えると言おうとして黙ってしまった。
今現にあいつは俺の前にはいない・・・。
これから先俺の前に出てくるかもわからない。
俺は、このまま一人で目標も無く、死んで逝くのか・・・。
『やっとわかったな。もう、おまえは生きると言う選択肢は無いわけだ。それに、もう生きられないわけだから今死んでも何も変わらないだろ?』
「しかし・・・」
もう、俺には奴に対抗するだけの力も気力も無かった。
ここまで来ると「本当にどうでも良い」という考えに取り付かれてしまう。
『ん?「しかし」なんだ?もう否定するだけの力も無いか・・・』
俺は、奴の声を聞いているしかないわけだ・・・。
もう、俺は駄目だ〜と言う気にさせてしまう。
『もうおまえは何も言えない様だな?納得したか?』
それでも俺は何も言えなかった。
そして、あいつのいつも最後に言う言葉を言ってきた。
『もう、おまえは死んだ方が良い!』