浅葱の空 〜吹奏楽による憧憬的音詩〜
ここでは、こちらで書いた解説とは異なり、アナリーゼ的なものを載せてみたいと思います。
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〜原理主題と動機群〜
この曲は、楽曲解説にあるように「海へと歩き続ける少年の姿」を描いたもの、となっている。そこで、まず「海」という単語から、この曲の核となる動機および音程を取り出してみる。
海は英語で「sea」と綴るので、この綴りから「E♭(Es = S)、E、A」という音高を導く。便宜上、E♭の音はD#と読み替える。

「E→A」の進行には上行と下行の2つの可能性がある。「Es→E」の増1度は転回すると減8度だが、非常に耳につく(わざとらしい)音程なので用いないことにする。
ここで出てきた「3つの音から成り」、「その音程関係は短2度+完全4度、もしくは短2度+完全5度」という規則に従った上で「上行/下行」の可能性を全て洗い出すと、8つのヴァリアントが出来る。例えば「G」の音を開始音とした場合は下記のようになる。

さらに、これら一つ一つのヴァリアントにおいて、構成する3音の順番を入れ替えてみる。すると、1つのヴァリアントにつき3!=6通りの結果が出来る。ヴァリアントは8つあるので、合計で48通りの結果が得られる。

曲は先の8つのヴァリアントを中心に、この48の動機群を用いて(時として更に変容して)作られている。もちろん、ここにおいて重要なのはあくまでも相対的な音程であるので、上記動機群は全て移高されて用いられることが多い。なお、「S-E-A」という「海」そのものは、曲の結尾以外で現れることはない。
また、「半音進行+大きな跳躍」という特徴から感覚的に近いと感じられる「音階的に2度(順次進行)+3度(跳躍進行)」という音形も副次的に(特に曲が進むに従って多く)使われている。
〜2つのパッサカリア主題〜
この曲は解説にあるように、パッサカリアの形式を採っている。
主要主題とも言うべき旋律主題は4 x 6の24小節から成っている。

譜例中、括弧で括られた部分は前述の48の動機が当てられている部分、点線の括弧で括られた部分は動機を変容させた(あるいは副次的な)部分である。主題は後半になるに従って副次的な要素中心へと推移しているが、この理由については後述する。
また、この旋律主題とは別に、もう一つ別の音響主題とも言うべき主題が存在する。やはり4 x 6の24小節から成っている(ただし最初の4小節はない)ことから分かるように、旋律主題と音響的に融合するようになっている。

こちらの主題もやはり「S-E-A」から導きだされた音程で始まり、(途中で音階的な部分を経過したのち)副次的な要素へと推移していく。
さて、どちらの主題も「段々と副次的な要素へと推移する」と書いた。この「副次的な要素」は先述の通り「S-E-A」の音程関係を変容させたものだが、その変容は「結果として調性的音響(具体的にはd-mollの旋律的長音階上行形)に至る」ことを目標としている。このため、どちらの主題も「無調の響き→調性の響き」へと段々変化していくことになる。また、曲はこの2つの主題だけではなく、その周辺にも多くの「各変奏毎のその場限りの(回帰しない)断片」(これらも「48の同期群」とその変容を用いて創られている)がばらまかれているのだが、それらもこの2つの主要主題と同期して「48の同期群」から「調性的変容体」へと姿を変えて行く。
しかし、「旋律主題」の最後の方が必ずしも調性的な響きがするか、と言うと、そうではない。なぜならば、旋律主題と音響主題が完全に同時に現れるのは、パッサカリア全体の最終変奏のときだけだからだ。
旋律主題は全ての変奏において、24小節全体が必ず奏される。それに対し、音響主題は変奏の回を進めるに従って、(4小節単位で)次第に長くなる、という形態を採る。その関係を図で示すと、下記のようになる(数字やアルファベットは上記譜例中の4小節毎のブロックを示す)。
<第一変奏(提示)>
| 音響主題 |
|
|
|
|
1
|
2
|
| 旋律主題 |
A
|
B
|
C
|
D
|
E
|
F
|
<第二変奏(確保)>
| 音響主題 |
|
|
|
1
|
2
|
3
|
| 旋律主題 |
A
|
B
|
C
|
D
|
E
|
F
|
<第三変奏>
| 音響主題 |
|
|
1
|
2
|
3
|
4
|
| 旋律主題 |
A
|
B
|
C
|
D
|
E
|
F
|
<第四変奏>
| 音響主題 |
|
1
|
2
|
3
|
4
|
5
|
| 旋律主題 |
A
|
B
|
C
|
D
|
E
|
F
|
<第五(最終)変奏>
| 音響主題 |
1
|
2
|
3
|
4
|
5
|
6
|
| 旋律主題 |
A
|
B
|
C
|
D
|
E
|
F
|
このようにしてみると、「2つのグラデーションのズレ」が次第に狭まっていくことで、曲全体が「明るい響きへと拓かれていく」過程がよく分かる。
こうしたことから、実際の演奏に際しては、単に楽譜に書かれた音を出すだけではなく、音響の変化に即して「音色を変化させる」という意識が非常に重要であることが分かるだろう。
〜空〜
タイトルに含まれる「空」という単語。その重要性は本作の発想の基となった杉の小説を読めば明かである。越えるべき「坂」の上にどこまでも続く空。本作では、その「空」は各変奏の前後に顕われる。
「海」と同じく、「空」も音名に置換されて象徴される。

調性的な音階において「Sol、La」は「Si」へと続く。間違いなく、「空は海へと続いて」いるのである。