時よどこまでも戻れ

分かってしまったんだ。進めば進むほどに、悲しみは増えてしまうことを。
知識を知るごとに、表よりも裏のほうが濃く見えてしまうことを。
うわべだけの付き合いであれば何も傷つきはしなかった。
内面まで知ろうとするちょっとした出来心だけで、世界は歪んでゆく。

ウソツキの嘘にだまされていれば、結局ヘラヘラして過ごせた。
何もかもに疑いの眼差しを向けてしまったあまりにまっすぐには生きられなくなってきた。
身体は大きくなって、庇護される身から社会の眼差しを一点に受ける身になって。
最後の最後には、ただいたずらに老体をフラフラさせるだけの人間に。

老いるごとになくしていく、希望と力。
老いるごとについてくる、知識と経験。
その知識と経験の中には、数多くの絶望とひとかけらの快楽。
そんなものは墓まで持っていけやしない。

無理をしてでも叶えたいものがあったはずなのに、いつのまにか
そんなことへの興味を失っていっていた。
明日できる、また明日。何度も繰り返して。
その明日なんていつまでもこなかったんだ。

時よ、どこまでも戻っていけ。
何も知らなかった自分自身に戻ってしまえ。
子供だましに騙されて、無邪気な笑顔のままで。

知らないほうが楽なんだ。
 


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