あいつがいたから

涙が出てきたとき。
拭えなかった。

悲しすぎた。

悲しくて。今俺はどうしてここにいるのか、
それすらもわからなくて。
何も、できなかった。
何も、したくなかった。

迷って迷って、ここまでようやくやってきた。
そのとき、あいつの手を引いてやってきた。
いや、あいつが僕の手を引いてやってきたんだ。
あいつがいなけりゃ、……今ここにいない。
あいつは、……今ここにいない。

誰も教えてくれない。
ただ、ここに立ち尽くすことしかできない。

足場もなければ希望もない。
前もなければ光もない。
何もできることはない。

ここにいてもどうにもならない。
ここにいたら、ただあいつを忘れてゆくだけ。
あいつを忘れても、もう前には進めない。
あいつを忘れても、もう後には戻れない。

あいつが握っていた左手のぬくもりは、今のところはまだ残っている。
優しい、あったかい感触も、この手の中に。
やわらかいあいつの心の中まで、感じられたあの瞬間。
今は、ただの過去。
いつかは、果てない過去。

忘れる日まで、待ち続けるのか。
忘れた後に、僕の心に何が残るのか。
忘れたら、あいつは寂しがらないのだろうか。
あいつは、忘れて欲しくはないはず。

せめて、あのときのあいつが幸せだったことを祈るしかない。
今できることなんて、このくらいなんだ。

死の淵からあいつを取り戻せるのであれば、僕がそうしたい。
できるのであれば、あいつの心に報いたい。
あいつを、愛している。

……まだ、言っていなかったから。

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聞こえているのかい?

ごめんな。

まだ、前は向けない。

まだ、悲しみは続く。

……わかってるよ。
そんなに簡単には、あきらめない。

君も……そう思っていてくれたんだね。

いつか……いつか、叶えてみせる。
俺たちが持っていた、この想いを。
 


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