生まれてすぐ、たった一人でこの世界に放り出されたなら、僕は生きていくことができなかったはず。
今なら違うと思っていた。でも、そんなわけはなかった。
狭い土地にたくさんの人がいる。綺麗な人がいれば、汚らしい人もいる。
黄色人の中に白人と黒人が混ざっている。
死が迫っている老人がいて、その隣の家には生まれようとしている命もある。
テレビをつければそこには喋っている奴がいる。
深夜のノイズの時間だって、誰かがブラウン管の向こうにいるんだ。
一人暮らしなんて、本当はできない。この文明に寄生して生きていく限り。
ここに存在している限り。
買い物に出かけたとき、見覚えのある人と出会う。
そいつは、厄介なことに僕の顔に気がついた。
馴れ馴れしく話し掛けてくる。
お前の話など聞きたくないと拒否したいのだけれど、
それをすればそれはそれで僕に損害が返ってくる。
仕方なしに聞いてやる。
そいつは、僕のその態度など少しも気にせずにペラペラと余計なことを喋る。
そのでかいだけの口の中に木を突っ込んでやりたいくらいだ。
五月蝿い、そういってやれば一時的に収まる。だけど、今度は
余計なところまで気を回してくる。
お前に心配される筋合いはない、むしろ社会に対するお前の害を心配しろ。
畑から野菜を盗んだって、自動販売機でジュースを買ったって、
店でカップラーメンを買ったって、
人はその向こうにいる。そうある以上、人を批判すると逆のことをされる恐れがある。
村八分だって、非人だって、目の前に迫ってくる。
幸せになれると言われて育ってきたのに、結局放り出されたのは
人だけがゴチャゴチャと集まる荒野じゃないか。
それも、畑すら作れないような腐りきった大地と、渇ききった喉を癒すほどの力もない水だけが、
無駄にはびこっている。
こんな世の中に、「この世は間違っている」と聖人ぶって出てきたところで、
誰が信じるだろうか。
この世の毒素に染まっている奴らに、考えることなんてできないんだ。
僕だって、いずれは磔にされるんだろう?
本当のことを言う奴が一人いたって、無駄に太くて短い指を持つ神様とやらには
そいつを見つけ出すことができないんだろうな。
黒の中にたった一人白があったって、縮小していけばそんなドットは
黒に染まっていくんだろうな。
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