思いを表現する方法には、いろいろなものがあります。
声だったり、メールだったり、手紙だったり。
でも、心を伝える方法はそうありません。
彼は、ギターで心を伝えました。
レスポールというギターがありました。
繊細な心の奥底を、純粋な音として映し出す力です。
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訳もなく、寂しくなった。
そばには十分すぎるくらい友達がいるのに、何か足りないような気がしていた。
心にぽっかりと穴が開いていた。
「どうしたんだろう……俺」
自分でもわからない。だけど、どこか寂しい。
冷たい街の風にさらされて、心が冷え切ってしまったのだろうか。
理由なんて、本当はないのかもしれない。
でも、なぜか寂しくなる一瞬ならある。
彼は……考えて、考え続けた。
上手く生きていたはずだった。そこそこの付き合いの友人がいて、
親友もいた。たまに電話で話す女友達もいた。
お金だってあった。欲しいものは手に入れられるほどの力もあり、
落ち着いて日々を過ごすための地位、家、健康も。
端から見て足りないものなど、ないような気がした。
それは違った。形のないものなのだけれど、あえて挙げるとするのならば、
溜め込んでいた悲しい感情。
誰にも伝えられず、独り言にも出せず。
たった一人で悩み苦しんでいた、たくさんの涙。
泣きたい。
……でも、泣きたくない。
そうしてまた悲しみを溜め込んでいた。
あの人の胸で思いっきり流した涙は、もう遠い日の出来事。
そんなことは、もう今できやしない。
感情を押し込めて、誰の前でも仮面をはずしたくなかった。
中にある、今にも泣き出しそうな目を見られたくなかった。
乾いた表情を、もう日光にさらしたくなかった。
「いくら悩んでも、……いくら悲しんでも、何も手に入らないじゃないか。
ずっと、ずっと、こんなに苦しんできたのに」
目をつぶれば思い出す、希望を膨らませたあの日。
あの風船は、もうしぼんでいる。
「残ったものなんて、結局……」
ギターしかなかった。
あの人が俺にくれた、ギターしか。
カッコつけてみたくなって、初めてギターのネックを握ったあの日。
安物でも、ヘタでも、少しだけ自分が、そしてそのギターが好きになったあの日。
一人暮らしをするとき、ギターを置いていった。
そんな話をあの人にしていたら。
誕生日に、俺はギターをもらった。
レスポール。
鈍い金色の輝きを放つ、ゴールドトップ。
置いてきたギターとはやっぱり違ったけれど、
あの日の俺には、似合っていた。
肩にかかる重さが、今までの人生の重みを表しているような気がして。
上手い下手は関係なく、この瞬間を大切にしていた。
「……それだけで、十分なのかもな。
ギターだけで、十分すぎるのかもな」
部屋の片隅に置いていたギターを、再び手に取る。
時を隔てても、いまだ輝きは色あせない。
……重さにも、もう慣れていた。今まで、自分の人生をレスポールの形で背負ってきた。
これからの人生の重みは、まだ加わっていない。
弦を押さえて、ピックで弾く。
音が、響く。
何も考えなくても、ピュアな音が聞こえてくる。
迷いのない響き。
悲しみを、浄化するように、心の中に響き渡る。
ギターは、また道を指し示す。
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