春の暖かさが少し覗き始めた3月初め、地元市民会館では、北摂地区を地盤にした日本民謡 同好会の年次発表大会が盛大に午前九時から延々数時間掛けて開催されていました。 この大会は、財団法人日本民謡協会の下部組織である日本民謡連合会が後援団体になっていま す。民謡の愛好家は一般にまず同好の団体に参加し、支部に登録して、連合会の傘下に入り、日 本全体の合同組織である財団法人に属するという形態をとっているようです。 (詳細は、前述の財団法人ホームページをご覧下さい。) 一体現在日本に民謡の愛好家、同好会、さらには、親睦団体はどの程度組織されているのでし ょうか。日本民謡協会の活動状況を閲覧しただけでも、かなりの会員を抱えていることが分かります。 一例、今回発表大会を催した同好会の例を見ますと、北摂地区だけの活動範囲ですが、教室が 30あります。それぞれで、先生と生徒さんが、あわせて、30名ぐらいとしてますと、この同 好会でも千人の会員組織と云うことになります。一府県で10団体あったとして支部で1万人で すから、全国で約50万人は組織活動をしていると言うことになります。 会場を覗いてみますと、1500席ほどの会場が賑やかな宴となっていて、張りのある歌声に 歓声が溢れていました。 ちょっとその雰囲気を嗅いだだけで所謂一般的な器楽の「コンサート」会場との違いを感じま す。それは次のような諸点になろうかと思います。 (その1)演奏中、人の出入りは自由。 (その2)演奏中でも、席での雑談は、お構いなし。 (その3)飲み食いしながら、演奏に聴き入ることも問題なし。 (その4)演奏者の舞台写真や録音も制限無し。 (その5)そのかわり、演奏者一人の持ち時間に制限あり。 (出演者が多いため、機会均等の公平を期するため) このように何でもOKとなりますと、演奏者も聴衆も共に気を使って緊張する必要がありませ んから、お互い気楽にやれ、ついつい口の方も神経がゆるみ、何か食べたり飲んだりしたくなる ものです。 さすがに観劇や大相撲のように酒を酌み交わしながらの鑑賞というわけには行きませんが。 この種の演奏会は音楽そのもの或いは歌唱そのものを絶対視するのでなく、みんなが一つの場 所に会合して、普段趣味を一にする仲間意識を再確認することの方が重要なのでしょう。 発表される歌や伴奏の音楽を潤滑剤にして、人と人のふれあいや語り合いの雰囲気を最も大切 に考えているのかも知れません。 民謡そのものが正にその目的のために存在してきた過去の歴史があります。それをみんなが 理解し納得しています。三味線の一つも入れば座が和み、歌の一つも詠いたくなると云った習慣 があります。 洋楽のコンサートも音楽なら、この種の民謡の世界も和やかなしかしざわざわした環境でも 音楽提供の世界であることに間違いありません。 いずれの場合も、参加している人々が「音」を中心にして「楽」しい時と場所が得られたら、 全て目的に叶っているわけで、何人も一方的に良し悪しを批判できません。 当該民謡発表大会の進行内容を見ますと、次のようになっていました。 前半の発表 先生方の芸披露 :名取り、師範、準師範、昇伝者 後半の発表 生徒方の成果披露:新人の部、寿年の部、高年の部、青壮年の部 プログラムの内容から、歌われている民謡を題目別に分類しますと、次のような広範囲な詠い 込みになります。
| 歌の種目 | 内容 | 発表本数 | 発表例 |
|---|---|---|---|
| 音頭 | 主要部分は、演唱者が、全体をリードし、 複数の囃子手が囃子詞を唱和する。 | 8(7%) | 大網、いやさか、呉、白浜、伊勢 出船、隠岐祝い、相川 |
| 唄 | 最も一般的な概念の広い 民謡の一種目 | 25(21%) | 酒造り、祖谷粉挽き、刈干切り、播磨塩踏み 徳島麦打ち、銭吹き、網のし、広島木遣り 北海金堀、摂津水替え、吉野筏流し、山形籾摺り |
| 舟唄 | 漁労に関する労働歌 | 4(3%) | 淀川三十石舟、高瀬、越名、能代 |
| 節 | 民謡の曲に対する旋律名 | 43(38%) | 稗搗き、黒田、山陽、秋田、山中、隠岐おじゃれ 七之助、淡海、武田、新涯、三階、ホッチョセ ダンチョネ、木曽、しげさ、久保田 外山、しげさ、ちゃっきり、ドドサイ、日向木挽き |
| 甚句 | 新潟県から、東北地方主体の 民謡の一種目 | 6(5%) | 沢内、米山、酒田、三崎、塩釜 人形、鯵ヶ沢 |
| 追分 | 中仙道と北国街道の 追分に発する民謡 | 3(3%) | 馬見原、隠岐、江差 |
| さのさ | 九州西海岸側の民謡の一種目 | 3(3%) | 五島、串木野、宇和島 |
| おけさ | 新潟県の代表的民謡の一種目 | 2(2%) | 坂元、佐渡 |
| おばこ | 山形県庄内及び秋田の 民謡の一種目 | 1(1%) | 秋田 |
| はやし | 囃子詞、合いの手の掛け声から 派生した民謡の一種目 | 1(1%) | 播州祇園 |
| その他 | 近世、現代の創作民謡を含む | 18(16%) | おてもやん、博多どんたく、安里屋ユンタ 一合まいた、鹿島めでた、新さんさ時雨 いもがらぼくと、あがらしゃれ、岡崎五万石 市川文殊、長者の山、姉こもさ、忠義桜 お座敷小唄、明日があるさ、祝い酒 祝いめでた、撥揃前奏曲 |
なおこれらの歌をより学問的に専門家或いは学者の目から整理された場合、次のようになりま す。 民謡研究家として名高い町田佳聲(嘉章)氏はその歌の発生起源から見て、 郷土民謡 わらべ歌 流行歌 別に自然発生的なものと、創作ものに分類されました。 一方、民俗学者の柳田国男氏はその歌の場所と目的に応じて、 田歌(田植え歌など) 庭歌(麦打ち歌など) 山歌(草刈り歌など) 海歌(舟唄など) 業歌(酒屋歌など) 道歌(馬子歌など) 祝歌(酒盛り歌など) 祭歌(宮入歌など) 遊歌(田遊歌) 童歌(子守歌など) 等の分類をされています。(民謡の分類例は、下注参照方) 歌の分類はともかく、日本人はやはりこの日本列島で伝承されれいる日本民謡にはどこで、 いつ聞いても何となく落ち着いた気持ちになり、すんなり合うところが民謡の良いところでしょ うか。 西洋音楽を聴けば聞くほどまた日本民謡の良さを感じることができそうに思えます。 民謡は俗っぽく云いますと、「老人向きで、ださい」と言う表現をする向きもありますが、 あくまでも民謡の一面を偏見しているように思えてなりません。 民族の血の中に民謡を求める心なきにしもあらずと思った「日本民謡発表大会」への覗き込み 一所感でした。<民謡の種類と分類法>
「民謡」とは、一般に子供の童歌に対する大人が生活の中で歌い継いできた歌謡を云うわけで すが、民衆の生活の中に息づいている民話伝説の語り物或いは民俗芸能の音楽とともに、古来民 衆に密接して共存してきた音曲です。 その種目の分類について、参考資料では次のような例を示しています。 (出典:平野健次・上参郷祐康・蒲生郷昭「日本音楽大事典」平凡社(1989/3))
| 種目分類 | 分野 | 代表例 |
|---|---|---|
| 労作歌 | 農耕関係 | 草刈り歌、田植え歌、麦打ち歌 |
| 山樵関連 | そま歌、木おろし歌、木挽き歌 | |
| 漁労関連 | 舟唄、網引き歌、塩焚き歌 | |
| 諸職関連 | 大工歌、菜摘歌、酒屋歌 | |
| 交通運搬 | 木流し歌、馬子歌、道中歌 | |
| 祭歌・祝歌 | 祭り関係 | 神迎え歌、神送り歌、宮入歌 |
| 祝儀関係 | 嫁入り歌、酒盛り歌、年祝い歌 | |
| 行事関係 | 正月歌、鳥追い歌、亥の子歌 | |
| 踊り・舞い | 踊歌・舞謡 | 神楽歌、盆踊り歌、風流歌 |
| 座興歌 | 酒宴での興じ歌 | 磯節、博多節 |
<日本民謡の地方分布>
(出典:野バラ社「日本民謡集」(1987年9月)改訂2刷) 日本民謡集として、一般的な歌集の中に取られている民謡の地方色を分析してみますと、 下表のように明らかに新潟福島から北の地方が民謡の宝庫と言うことができましょう。
| 地方 | 都道府県数 | 採録歌数(%) | 例歌 |
|---|---|---|---|
| 北海道 | 1 | 7(4%) | 松前追分節 |
| 東北 | 6 | 61(36%) | 津軽よされ節 |
| 関東 | 7 | 20(12%) | 磯節 |
| 中部 | 9 | 36(20%) | 佐渡おけさ |
| 近畿 | 5 | 10(6%) | 串本節 |
| 中国 | 5 | 7(5%) | 安来節 |
| 四国 | 4 | 6(4%) | よさこい節 |
| 九州 | 8 | 21(13%) | 黒田節 |