卒業論文結果発表レジュメ(日本語)

 ここでは卒論中間報告発表会(96年11月)や、ICET(第16回大学生英語教育論文合同発表会; 97年2月)において配布したレジュメをまとめ、さらに修正も加えたものを掲載しています。なお、JALT97 in Hamamatsu(第23回全国語学教育学会年次国際大会;97年10月)において卒論をベースにした発表を行ないましたが、その時に配布したレジュメについては掲載していませんので、もし興味がある方がいらっしゃいましたら、メールを送ってくださればコピーをお送りします。また読み終わったら、是非感想をフォーム(こちらへ)記入するか、メールで著者(Nick)まで送っていただけると、非常に嬉しいです。


<注>:著者(Nick) の許可なしに、以下のレジュメ本文全てあるいは一部をそのまま他へ部分掲載・転載等することを禁止します。 不明な点等は、作者まで気軽に問い合わせてください。


    卒業論文目次

  1. 序論
  2. 文化について
    1. 文化とは?
    2. 文化の構成要素
    3. 文化教授の目的
    4. 文化的題材
  3. 研究題目
  4. 調査方法
    1. パイロット調査による現状把握
    2. 本調査の実施
    3. 教科書分析
  5. 調査結果
  6. 比較分析
    1. 生徒と先生との興味の相違点
    2. 生徒の興味と教科書との相違点
    3. この調査の問題点・今後の研究への示唆
  7. 結論
  8. 参考文献


日本の高校における生徒・先生の興味、及び教科書内容についての
比較分析研究 −文化的要素の観点から−

東京外国語大学 4年  桐生 直幸
(http://www.freepage.total.co.jp/nick/index.html)

  「国際理解を深める」(Monbusho, 1989)と明記した新指導要領の施行から既に3年が経ち、ますます異文化理解教育に対する関心が高まってきているように思える。同時に、生徒の興味に即した教材を作成する必要性も高まってきているようである。本研究では高校の生徒・先生の興味、及び教科書内容について調査し、比較分析することを目的とする。

  1 文化について
  1.文化とは?
 ・定義の多義性・あいまいさ

ex. "the total set of beliefs, attitudes, customs, behaviour, social habits, etc. of the members of a particular society."
(Longman Dictionary of Language Teaching and Applied Linguistics: 1992)

 ・Kluckhohn(1944:29-30)Damen(1987)によれば、「文化」は地図のような ものであり、個人がそのすべてを詳細に知ることは不可能である、としている。


  2.文化の構成要素
 ・Allen and Valette (1972) の分類
1.Culture with a large C (教養文化)
2.culture with a small c (行動様式・日常生活文化)

 ・Valette(1986)の分類
1.「文明化の歴史としての文化」 (Ex. the customs and daily activities of a people, their ways of thinking, their values, etc.)
2.「人類学的・社会学的に見た文化」 (Ex. geography, history, and achievements in the sciences, the arts, etc.)

   →これらのうち、どれを扱うかは教授目的によるのでは?


  3.文化教授の目的
 ・異文化間理解を促進し、偏見やステレオタイプを防ぐ。(Seelye, 1974)
 ・学習者が異文化との相違点を受容するだけでなく、自文化を理解し評価できるようにする。(Byram, 1986)
 ・学習者に学習の動機づけを与え、興味を持たせる。(Brooks, 1968)


  4.文化的題材
 ・Stern (1992) は、文化教授において扱うべき文化情報を分類。
1.Places(地理的情報:都市や国の位置など)
2.Individual persons and way of life (人々の生活様式:生活の裏に潜む価値観を含む)
3.People and society in general (社会構成:経済・人口など)
4.History (歴史:歴史的大事件・先住民族・年中行事など)
5.Institutions (行政組織:政府・教育制度・福祉・マスコミなど)
6.Art, music, literature, and other major achievements (芸術・文学作品など:芸術作品の鑑賞)

   →研究者が主観的に決めたものではなく、生徒の興味にあったものが必要では?

  <これまでの教材分析(生徒の興味の調査)について>
 ・Alvarez et al. (1993) は、生徒の興味・必要性と、それに対する先生の認識度を調査。 被験者はスペインの生徒150人(8校)と各校の先生8人。
*生徒の興味(wants)…「歌・詩」が一番高く、次いで「漫画」が高い。 ただし性差は大きく、女子は「小説」「劇」をより好み、男子は「専門誌」をより好む。
*生徒の必要性(needs)…実用的で役立つもの(新聞・雑誌、専門誌、公的文書・手紙、パンフ・レシピ)が比較的高い。
*生徒の興味・必要性に対する先生の認識…興味では「歌・詩」が高く、必要性では「小説」が高い。その他のものはすべて低く、生徒の認識と一致しているのは「歌・詩」のみである。

 ・Dechert & Kastner (1989) は、アメリカで使われているドイツ語の教科書に関する 文化的項目と、学習者の興味の関係を調査。
 被験者はドイツ語を学習する大学生286人で、1985年春に実施。
 結果は、日常生活に関係した項目に対する興味が一番高かった。

「高いもの」…エチケット(行儀・作法)、価値体系(モラルなど)、 日常生活における習慣、言語的社会習慣(あいさつ、祝辞等)、ナチス政権など
「低いもの」…スイスの産業・農業生産、スイスの発音練習、ドイツの発音練習、 オーストリアの産業・農業生産、オーストリアの発音練習など

 ・上智大学英語教員研究会研究部(1987)による高校教科書 (英語1・2・2B)の分析
「つまらないという評価がなかった課」…(イソップの)寓話
「面白い課」…歴史上の人物の伝記・エピソード、ジョーク・ユーモア、小説・物語
「つまらない課」…外国の有名な場所の紹介、社会科学的な評論
「生徒が一致してつまらないと答えた課」…地理

 ・桂(1993)は、高校2年生が「取りあげて欲しい教材」をアンケート調査。
「取りあげて欲しい教材」
 a)内容にのめりこむような題材 −65%
  (物語(小説・伝記等)−20%、スポーツ・映画−20%、評論・時事問題−13%、 文化論−12%)
 b)英語の歴史的背景や語源を扱った題材 −15%
 c)思想、宗教を扱った題材 −12%


  2 研究題目(Research Questions)
1.高校の生徒・先生は文化について興味を持っているか?
2.もしそうである場合、それぞれどのような文化的要素に興味を持っているか?
3.生徒の興味の方向性と、教科書内容との間にはどのような相違点があるか?


  3 調査方法
  1.パイロット調査による現状把握

 ・高校生に対する意識調査(5〜7月に実施:公立高校1〜3年244人)
1.英語学習の目的…大学入試のため、将来のため、英語が話せるようになるため、 学校の授業にあるから、目的などない、良い意思疎通のため、など
2.授業でやりたいこと…英会話、洋画を鑑賞する、洋楽を聴く、 小説などの外国の本を読む、他言語(英語以外)を学ぶ、外国の習慣、文化を学ぶ、 外国の日常生活、学校生活を学ぶ、外国人との会話、など

 ・高校の先生に対する意識調査(7月に実施:公立高校6人、私立高校5人)
1.授業で教えてみたいこと…劇、小説、時事英語、 読解力養成講座、英詩など
2.ふだん教えるべきこと、教えたいこと…発音、新聞記事、英文読解法など

 ・大学生に対するアンケート調査(5月に実施:東京外国語大学1〜2年269人)
「中学生・高校生の時、授業で外国やその文化・習慣について学んでみたかったこと」
  …英会話、日常生活全般、実際的な英会話表現、同年代の人の生活・思想・興味、 外国文化・習慣全般、食習慣・食生活・マナー、外国人の考え方・思想・価値観、 音楽、映画、外国人と日本人との考え方の違い、実用的な英語運用能力、 外国文化・習慣と日本のものとの違い、外国での一般的な常識・非常識など
    →日常生活文化、映画・音楽、言語、英会話に対する興味があるのでは?


  2.本調査の実施
 ・パイロット調査の結果や教科書・論文等を参照し、本調査を作成した。次の5点について質問をし、2〜4については列挙した教材・題材について5段階で評価をしてもらった。

1.英語学習/教授の目的は?
2.英語の授業でどのような教材を使いたいか?(ideal preferences)
3.現実的に、英語授業で使うべき教材は?(realistic preferences)
4.英語の授業でどのような題材について学んでみたいか?(ideal preferences)
5.現実的に、英語授業で扱うべき題材は?(realistic preferences)

  ・生徒用と先生用の、ほぼ同じ2種類のアンケートを作成し、9月〜11月に高校で実施。


  3.教科書分析
   実際にアンケート調査を行った学校で使用している教科書のうち、英語(1)・英語(2)・リーディングの教科書について、本調査アンケートと同様の選択肢を使用し、どのような教材・題材が含まれているかについて分析。主観的な分析を避けるため、和田朋子さん(東京外国語大学)の協力を得て、それぞれが分析したものを比較検討した。議論の結果、適当なカテゴリーがないと判断した時のみ、既にあるカテゴリーと類似しないような項目を追加した(計8つ)。


  4 調査結果
   全部で8校から生徒768人、先生30人分の回答を集め、そのうち分析可能なもの(生徒750人、先生29人分)について分析を行った。

  <英語学習/教授目的>
/生徒に人気が高い英語学習の主要目的先生に人気が高い英語教授の主要目的









学校の授業にあるから

大学へ行くため(大学入試のため)

外国人と英語で話せるようになるため

一般教養として必要だから 
英語という外国語を学ぶことによって、
  自分の視野を広げるため
英語という外国語を学ぶことによって、
  生徒の視野を広げてもらうため
外国人の考え方や、日本人の考え方との
  違いを知ってもらうため
国際社会で活躍できる人間になって
  もらうため
外国の文化・習慣について理解させるため
大学へ行かせるため(大学入試のため)



  <教材>
  ・Ideal Preferences(理想的興味)
/生徒に人気が高い教材先生に人気が高い教材





洋画(外国の映画)
洋楽(外国の歌)
インターネット(パソコン)
外国のテレビ番組
英語の本・文章(小説・物語)
英語の本・文章(小説・物語)
英語の本・文章(エッセイ・随筆)
外国のテレビ番組
英字新聞
洋楽(外国の歌)


  ・Realistic Preferences(現実的興味)
/生徒に人気が高い教材先生に人気が高い教材





英語の本・文章(会話文・対話文)
英語の本・文章(小説・物語)
洋画(外国の映画)
英語の本・文章(文学作品)
洋楽(外国の歌)
英字新聞
英語の本・文章(エッセイ・随筆)
英語の本・文章(文学作品)
英語の本・文章(小説・物語)
英語の本・文章(評論・論説文)


  <題材>
  ・Ideal Preferences(理想的興味)
/生徒に人気が高い題材先生に人気が高い題材







外国での一般的な常識・非常識
外国の中学生・高校生・大学生の
  考え方・興味
外国の若者の遊び・ゲーム
外国の流行・はやり・ファッション
外国の中学・高校・大学生の
  学校生活の様子
日本語と英語との語感(意識)の違い
外国人と日本人との考え方・行動様式の違い

外国の中学生・高校生・大学生の考え方・興味
外国での一般的な常識・非常識
外国の中学・高校・大学生の学校生活の様子



  ・Realistic Preferences(現実的興味)
/生徒に人気が高い題材先生に人気が高い題材







外国での一般的な常識・非常識
外国人と日本人との考え方・
  行動様式の違い
外国人の日本に対する考え方や思想
日本語と英語との語感(意識)の違い
外国の中学生・高校生・大学生の
  考え方・興味
外国での一般的な常識・非常識
外国人と日本人との考え方・行動様式の違い

ボディ・ランゲージ(ジェスチャーなど)
日本語と英語との語感(意識)の違い
外国の中学・高校・大学生の学校生活の様子



  <教科書分析>
  ・教材
/レッスン内で扱われやすい教材教科書全体として扱われやすい教材







日本語で書かれた文法参考書
  (文法の説明文)
英語の本・文章(評論・論説文)
英語の本・文章(小説・物語)
英語の本・文章(伝記・有名人物の
  エピソード)
英語の本・文章(エッセイ・随筆)
日本語で書かれた文法参考書(文法の説明文)

英語の本・文章(評論・論説文)
英語の本・文章(小説・物語)
英語の本・文章(伝記・有名人物のエピソード)

英語の本・文章(詩)


  ・題材
/レッスン内で扱われやすい教材教科書全体として扱われやすい教材





外国の歴史・歴史上有名な人物
外国の家庭生活の様子・家族関係
科学・宇宙
芸術(映画・音楽・演劇など)
外国の経済・政治・社会問題
外国の歴史・歴史上有名な人物
外国の地理・気候
科学・宇宙
外国の家庭生活の様子・家族関係




  5 比較分析
  <生徒と先生との興味の相違点>
 ・生徒・先生ともに文化に興味があるものの、生徒は英語学習の主目的とは見なしていない。
 ・先生の方がより抽象的で理想的な目的を主目的とする傾向があるのに対し、生徒は英語学習に対して受け身的な姿勢が見られる。 cf.約1/3の生徒の英会話志向
 ・「生徒・先生共に好む教材」…小説・物語、会話文、視聴覚的教材(映画・音楽など)
 ・「生徒・先生共に好む題材」…外国の中学生・高校生・大学生の考え方・興味、外国の中学・高校・大学生の学校生活の様子、外国人と日本人との考え方・行動様式の違い、日本語と英語との語感(意識)の違い、外国人の日本に対する考え方や思想、外国での一般的な常識・非常識
 ・「先生のみ好み、生徒は嫌う教材」…評論・論説文
 ・生徒・先生共、全般的に、日本ではなく、外国について学びたいし、学ぶべきだと考えている。

  <生徒の興味と教科書との相違点>
 ・「生徒の興味と一致して多い主教材」…小説・物語、伝記・有名人物のエピソード
 ・「生徒の興味と一致して多い主題材」…外国の歴史・歴史上有名な人物、外国の家庭生活の様子・家族関係、科学・宇宙、外国人と日本人との考え方・行動様式の違い
 ・「生徒の興味と比較して多すぎる主教材」…エッセイ・随筆、評論・論説文、詩
 ・「生徒の興味と比較して多すぎる主題材」…外国の地理・気候
 ・「生徒の興味と比較して少なすぎる主題材」…外国の風習・年中行事、外国の中学・高校・大学生の学校生活の様子、外国の若者の遊び・ゲーム、外国の観光名所・有名な場所、日本語と英語との語感の違い、ジョーク・ユーモア、外国人の日本に対する考え方や思想、外国での一般的な常識・非常識

  <この調査の問題点・今後の研究への示唆>
 ・アンケートの質問項目が多すぎ、回答者の負担が大きかった。
 ・結果的に全体として男子生徒の回答数が多くなってしまった。
 ・「理想的興味」と「現実的興味」の違いを踏まえた調査も行われるべきであろう。
 ・教科書の各レッスンなどに対する生徒の評価を調べ、この調査結果と比較することも必要であろう。


  6 結論
   生徒は文化、特に日常生活文化に興味があり、また、英会話の学習意欲も高いようである。教材の有効性は教師の取扱い方と教え方による部分が大きいとはいうものの、教科書は生徒の興味に即した教材・題材を提供するべきであり、教科書編集者はそのための努力を怠ってはならないであろう。


References

  <英語文献>
Allen, E. D. & Valette, R. M. (1972). Modern Language Techniques: A handbook. Harcourt
  Brace Jovanovich, Inc.

Alvarez, G., Broca, A. & Bruton, A. (1993). Reading Wants and Needs. Reading in a Foreign
  Language, 9-2, pp.859-865.

Brooks, N. (1968). Teaching Culture in the Foreign Language Classroom. FLA, 1-3,
  pp.204-217.

Byram, M. (1986). Cultural Studies in Foreign-Language Teaching. Language Teaching, 19-4,
  pp.322-336.

Damen, Louise. 1987. Culture Learnig: The Fifth Dimension in the Language
  Classroom. Massachusetts: Addison-Wesley.

Dechert, Christiane, & Peter Kastner. 1989. Undergraduae Student Interests and
  the Cultural Content of Textbooks for German. Modern Language Journal, 73-2,
pp.178-191.

Kluckhohn, C. 1944. Mirror for man. New York: McGraw-Hill.
Richards, J. C., Platt, J. & Platt, H. (1992). Longman Dictionary of Language Teaching and
  Applied Linguistics (2nd ed.). London: Longman.

Seelye, H. N. (1974). Teaching Culture: Srategies for Foreign Language Educators. Stokie,
  Illinois: National Textbook Co.

Stern, H. H. (1992). Issues and Options in Language Teaching. Oxford: Oxford University
  Press.

Valdes, Joyce Merrill (ed.) 1986. Culture Bound: Bridging the cultural gap in
  language teaching. New York: Cambridge University Press.
Valette, Rebecca M. 1986. The Culture Test. In Valdes, J.M., pp.179-197.

 <日本語文献>
桂邦彦. (1993). 「リーディングの教科書に望む」 『英語教育』 2月増刊号. 大修館書店.
  pp.42-43.

上智大学英語教員研究会(ASTE)研究部. (1987). 「生徒はどのような内容のテクストを好むか:
  英語T・英語U・英語UBの教科書を分析して」 『英語教育』 9月号. 大修館書店. pp.30-32.

文部省. (1989). 『高等学校学習指導要領解説 外国語編 英語編』 教育出版.


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