シナリオセンターで勉強していた時の20枚シナリオ(200字原稿用紙20枚)の課題のなかの一品です。
テーマは『古痕』。平成8年3月ごろの作品。
《人物》
望月 謙司(45) 会社員
望月 謙司(5) その幼少時代(回想)
望月 晴美(38)その妻
望月 舞(14)その娘
岡崎 博(25)会社員
工藤 秀雄(48)会社員
望月 文雄(45)望月謙司の父(回想)
望月 幸代(43)望月謙司の母(回想)
○葬祭場
雪の中、出棺する遺族たち。遺影の顔はまじめそうな四十代の男。
位牌を持つ女が泣きくずれる。
その女の傍らには五歳くらいの男の子。ロボットのおもちゃを離さない。
出棺を見送る人々の中に、望月謙司(45)と岡崎博(25)がいる。
岡崎「悲惨ですよねえ。田辺さん、結婚遅かったから」
望月「あの子、田辺が癌で死んだこと、分かっているのかな」
岡崎「そりゃあ、無理でしょう」
望月「そうだよな。子どもに罪はないよな・・・」
望月しみじみと男の子を見つめる。
○道
雪でぬかるんだ道を危なっかしく歩く望月と岡崎。
岡崎「こうなる前兆はありましたよね。急に頭が薄くなったりしたじゃないですか」
望月「そりゃあ、四十過ぎれば誰だってなるもんだろ」
岡崎「胃が痛いってさすっていたこともあったし」
望月「ストレスだろう。長年会社勤めしているんだ。疲れることもある」
岡崎「実はみんなで心配していたんですよ。何だか悲壮感ただよってましたもん。やっぱり、もうどっか悪かったんですよ」
望月「まだ四十五だぞ」
岡崎「ねえ」
望月「俺と、同期だったんだぞ。田辺は」
岡崎「えー!そういうのって望月さんも焦っちゃいませんか」
望月「もうすぐ、俺にも迎えがくるか・・・」
望月、苦々しい顔で歩きつづける。
○望月家・DK
望月舞(14)が、テレビの歌番組に釘付けになっている。
キッチンでは、望月晴美(38)が、夕飯を作っている。
舞「やっぱ吾郎ちゃんって最高!」
晴美「舞って変な趣味。お母さんはやっぱり正統派のキムタクよ」
ドアのチャイムが鳴る。
晴美「あ、お父さん帰ってきた!」
晴美、慌ててテーブルに料理を並べだす。
望月入ってくる。
望月「おい、まずいよ。塩、塩!」
晴美「え、塩?」
晴美、テーブルの食塩のビンを望月に渡す。
望月、塩を自分に振りかける。
舞「何やってるの、お父さん!」
晴美「ゆでたまごじゃないんだから」
望月「今日は、田辺の葬式だ」
晴美「あ、そうだった。まだ若いのにね」
望月「俺と同い歳だぞ」
晴美「癌って怖いわね」
舞「頼むから、お父さんは早死にしないでよね」
望月「そんなこと、分かるもんじゃない」
晴美「お父さんを大事にしなきゃ」
舞「はいはい」
晴美「でも、本当よ。お父さんのほうは早死に家系なんだから。お父さんのお父さんだって、亡くなったの四十代だったんだから。ね、お父
さん」
望月「会社の健康診断の結果、まだ送ってこないのか」
晴美「そういえば、まだね」
晴美、夕飯の準備に忙しい。
望月「俺に万一のことがあったら・・・」
晴美「お父さん、先、ビール? それとも」
望月「今日はいい。しばらく飲まない」
舞「へえ、めずらしいの」
晴美、舞「ねー!」
テレビでは若者が華やかな照明の中で歌っている。
○××株式会社全景
○同・コンピュータルーム
五,六人の社員が、パソコンを操っている。見る見る変わるパソコンの画面。
○同・喫煙室
望月と工藤秀雄(48)が休憩している。
工藤「昨日ひとり、ビルから飛び降りたらしいですよ。会社は秘密にしているけれど、本部の青木さんらしいんですよ」
望月「青木さんが・・・」
工藤「いい人でしたよねえ。あの人」
望月「ええ・・・」
工藤「会社は冷たいですよ。まったく」
岡崎が入ってくる。
岡崎「工藤さん、来週の送別会のことなんですけど」
工藤「送別会?」
望月「岡崎君、それは・・・」
岡崎「ほら、工藤さん、来週転勤するじゃないですか。俺、有休取ってるんで、送別会行けないんですよ。だから、これ気持ちなんで取っておいてください」
岡崎、祝儀袋を工藤に渡す。
工藤「冗談だろう。やだなあ」
望月「岡崎君、何、言ってるんだ」
岡崎「あれ、望月さんは出席するって書いてありましたよね」
望月、言葉に詰まり、気まずい間。
望月、慌てて工藤に向き直るが、工藤茫然の表情。
工藤「何だ・・・。そうなら、そうと・・・、言ってくれたっていいじゃないの・・・」
工藤、力なく去ってゆく。
岡崎「何かあったんですか?」
望月「馬鹿!」
岡崎「えー? もしかして、まだ工藤さん知らなかったんですか?」
望月、工藤の背中を見つめる。
岡崎「会社もずるいんですね。それじゃ、工藤さんかわいそうじゃないですか」
望月、疲れきった工藤の後ろ姿が消えて行くのを見ている。
○コンピュータ
画面に読み切れないほどのデータ。音を立ててプリントアウトされてゆく。
○スポーツクラブ・トレーニングルーム(夜)
望月、ランニングマシンで必死に走っている。
マシンの音と、心拍数の音。
望月は汗だくである。
○同・男子トイレ(夜)
洗面所の鏡を見つめる望月。
望月、自分の髪の毛の量を確認する。胃を押さえる。
望月、鏡の中の自分の姿に声をかけようとするが、言葉が見つからずため息をつく。
○望月家・DK(夜)
晴美が待っている。テーブルには「健康診断結果報告在中」の封筒。
望月、帰ってくる。
晴美「遅いのね」
望月「今日も、走ってきた」
晴美「来てたわよ。健康診断」
望月「うむ・・・」
望月、テーブルにつき、晴美と向かい合う。
望月「それ、見てくれ」
晴美「私が?」
望月「結果は、言わないで欲しい。もしこれから癌なんかになっても告知はしないでくれ。延命措置はいいから、気楽に死なせてくれ」
晴美「あら、随分深刻なのね」
望月「重大な問題だろう」
晴美「何か思い当たる節でもあるの?」
望月「いや・・・」
晴美「もう、お父さんったら、大事な話になると無口になるんだから」
望月「言葉が怖い。それだけだ」
仕方なく晴美、封筒の封を切る。
望月の声、次のシーンに重なって・・・。
○(回想)病室
小さな個室のベッドに、望月文雄(45)が横たわっている。
その傍らで、紙飛行機で遊んでいる望月謙司(5)。
謙司「お父さん、癌って何?」
文雄「謙司・・・?」
謙司「お父さんは、癌なんでしょう。癌って何?」
文雄の表情が硬直する。
無邪気に笑っている謙司。
文雄の目から涙がぼろぼろ流れる。
謙司「お父さん、どうしたの?泣いているよ」
望月幸代(43)が花瓶に花を生けて持ってくる。
幸代「お父さん、きれいなお花・・・」
文雄、力なく涙のまま幸代を見る。
文雄「おい、俺は、癌なのか・・・」
謙司「そうだよね、お母さん。お父さん、癌なんだよね」
幸代「謙司・・・」
文雄と見つめあう幸代の手から、花瓶が落ちる。
音をたてて割れる花瓶。
訳の分からない謙司。
泣き崩れる、幸代。
○望月家・DK(夜)
晴美、封筒から報告書を出す。
晴美「それって、ただ気が弱いっていうんじゃないの」
望月「そうかもな」
晴美「しょうがない人」
望月「もともとだ」
晴美、報告書を開き、読み始める。
望月、真剣にそれを見つめている。
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