『君を想えば』

『生きるか、死ぬか』と同じく、シナリオセンターで勉強していた時の課題の一品。やはり200字詰め原稿用紙で20枚の習作です。
こちらは1996年の年末ごろの作品。テーマは『葬式』


《人物》

船田源治(47)会社員
船田恭平(22)フリーター
本田孝志(50)公務員
木下和作(72)駄菓子屋
宮部春代(45)パート
船田歌子(45)故人


○船田家・前(夜)

周囲には花輪が並んでいる。
玄関先には、小さな庭飾りと「船田家」の名入りの提灯が灯っている。

○同・居間(夜)

祭壇には船田歌子(45)の遺影。
数人の弔問客に応対する親族達。
それらを無視して祭壇の前でうつむいたままの、茶髪の船田恭平(22)。

○同・客間(夜)

座卓が並べられ、通夜ぶるまいがされている。
船田源治(47)が、本田孝志(50)、木下和作(72)、宮部春代に酒を勧めている。
源治、かなり酔っている。

源治「まあまあ飲んでくれよ。な、遠慮しないで」
本田「いやいや、俺達はもう・・・」
春代「それより源ちゃんいいの? 歌ちゃん一人にして」
源治「歌子? ああ、あいつには兄弟姉妹に親父にお袋、みんなが付いてんだよ。俺だけ仲間外れでさ、だから付き合ってくれよ」
木下「うんうん、分かるよ。源ちゃん・・・」
本田「葬儀屋と打ち合わせはいいのか?」
源治「え? そんなもの知らないよ。ま、飲もうや。な。平山カラオケ愛好会の一員として楽しく飲もうじゃないの」

源治、酒をあおる。
困った表情で顔を見合わせる、本田、木下、春代。

木下「源ちゃん、その辺でやめとこう。歌ちゃん、ゆっくり寝られないだろう、な」

源治、じろりと木下を見、立ち上がる。とっさに身をひく本田、木下、春代。
源治、テレビをつけ、その隣の通信カラオケをいじりだす。

春代「源ちゃん、何やってんの。もう、酔っ払っちゃったの?」

源治、無視して選曲している。
ひそひそ話しする本田、木下、春代。

本田「まずいよ、源ちゃん、いっちゃってるよ。源ちゃんは、酒の次はカラオケだ」
春代「どうする。家の人呼んでこようか」
木下「いや、こんな時ことを荒立てちゃ悪いだろう。俺達だけで、なぐさめてやろう。それが、友情ってもんだ」
本田「やっぱり、さっさと帰るべきだったんだよ。たいした仲でもないんだからさ」
春代「本田さん、そんな言い方ないでしょ」

突然『銀座の恋の物語』が流れ、源治歌い出す。

本田「音、大きいよ。音!」

源治、男性パート部のみ歌い、歌に空白ができる。

源治「ほら、歌子の番だぞ・・・」
春代「あ、やだ。思い出しちゃうじゃない。歌ちゃん、先週この歌歌ってたのよ」

春代、泣き出す。

本田「何で彼女亡くなったの」
春代「知らないの? クモ膜下出血よ」
本田「クモ膜下?」
春代「頭の血管切れて、ぽっくりいっちゃったのよ」
本田「痛いのかな・・・」
春代「知らないわよ。気持ち悪いからって言って、それきりだったらしいわ」
木下「まだ若いのに・・・。急に逝かれたら、誰でもおかしくなるよ。かわいそうに」
源治「歌子、歌子。ほら、歌え、歌ってくれ」

源治から目をそらす木下、本田に酒をつぎ、

木下「とことん、飲みましょうか。今日は」

本田、猪口の酒と徳利の酒をコップに入れかえ、コップ酒を一気飲みする。

春代「私、歌ってくる」
本田「何、言ってんだよ」
春代「もう、見てらんないもの。私が今晩、歌ちゃんになってあげる」

春代、源治に抱きつき、

源治・春代「銀座の恋のもーのがああたりいー♪」

源治、春代、二人で決めポーズをする。

本田「いいのか、こんな展開になって!」

本田、コップ酒を一気飲みする。

木下「ほ、本田さん・・・、ちょっと、飲みすぎじゃ・・・」

源治と春代、抱き合いキスをしている。

源治「歌子ー!!」
春代「源治さん、愛してるわー!」
木下「春ちゃん・・・、あまり源ちゃんを刺激しないほうが・・・」

本田、またコップ酒をあおり、もはや泥酔者。目がすわっている。

本田「だから、女はイヤなんだよ!」

本田、座卓をひっくり返す。
源治、春代、木下、ぎょっとして静止。

本田「マイ・ウェイ」
源治・春代・木下「は?」
本田「マイ・ウェイ入れろー!」

× × ×
『マイ・ウェイ』を熱唱している本田。
ひっくり返っていない座卓で酒を飲み、料理をつまんでいる源治・木下・春代。

春代「歌ったら、お腹すいちゃった」
木下「源ちゃん、すまないね。こんなになっちゃって・・・」
春代「本田さん、『マイ・ウェイ』歌ったら、次、『ダイアナ』よね。入れとこうか? うるさいから」
木下「春ちゃん」
春代「あの人、きっとストレス溜まってんのよね。酒癖悪いし、マイク離さないし。そっとしておいてあげましょうよ」
源治「和作やんも、歌わなきゃ」
木下「源ちゃん、そんなわけには・・・」
春代「そうよ、和作やん、いつも歌わないんだもん。つまんないわよ」
源治「通夜の席で歌えないっていうのは、和作やん、冷たすぎるってもんだぜ」
春代「そうよ。歌ちゃんに恨まれちゃうわよ」

額から流れる汗を拭う木下。
× × ×
『ドンパン節』を歌う木下。
手拍子、大合唱の源治・本田・春代。

一同「ドンドンパンパン、ドンパンパーン!」

突然、ふすまを開けて恭平が入ってくる。

恭平「うるせー!!」

恭平、木下に殴りかかる。
止に入る源治、本田、春代。

源治「恭平、お客様にむかって何てことするんだ!」
恭平「客だと? ふざけんじゃねーよ!」
木下「すまない、すまない。私が悪かったんだ。『ドンパン節』なんて歌って悪かった」
本田「若者が老人を殴るなんて、最低だぞ!」
春代「『ドンパン節』のどこが悪いの。いい歌じゃない」
源治「そうだ、恭平。ちゃんと謝れ!」
恭平「何だと!」

恭平、源治に殴りかかる。
取っ組み合いの喧嘩となる源治と恭平。
座卓の酒や料理が、めちゃめちゃになっていく。
部屋の隅で木下をかばいながら、源治たちの喧嘩をみている本田と春代。

春代「止めなくていいの?」
本田「親父と息子には、勝負しなくちゃならない時があるんだ」
春代「そうね。源ちゃん、頑張れ!」

必死に戦っている源治と恭平。

源治「お前なんかに、まだまだ負けるか!」
恭平「くっそー!」

開け放たれたふすまから、喪服の親族達が大勢集まって、喧嘩の様子を見ている。やがて源治と恭平の一挙一動に歓声があがる。
「源治頑張れ!」「恭平負けるな!」などの応援コール。
源治と恭平、ふらふらになりながも戦いをやめない。
恭平が源治の腹にパンチを入れる。
倒れる源治。
本田、源治に駆け寄り、カウントをする。

一同「ワン・ツー・スリー」
本田「カンカンカーン!船田恭平の勝ち!」

本田、恭平の腕を取り、上げる。
歓声と拍手の一同。

恭平「どういうことなんだよ・・・」

しんとなる一同。

恭平「お袋が死んで、そんなに楽しいのかよ」

恭平、涙、鼻水をボロボロこぼす。

恭平「これじゃ、お袋がかわいそうじゃないかよ・・・」

源治、ゆっくりと半身を起こし、

源治「お前も、歌えや。通夜の時くらい、親とカラオケしたっていいだろ・・・」
恭平「何、ふざけたこと言ってんだよ!」
源治「しらふで歌えないなら、一杯飲めや」
恭平「飲んで、騒いで、暴れて、歌って、いつもお袋困らせて、それでも足んねえのかよ。死んでも困らせんのかよ!」
源治「明日になったら、母さん骨になっちゃうんだぞ。骨になったら、もう、生き返らないぞ。おしまいなんだぞ、恭平」
恭平「親父・・・」
源治「今なら、間に合うだろ・・・」
恭平「親父、母さんは死んだんだよ」
源治「母さん、母さん! 歌子。歌子!起きろ!!カラオケだぞ!酒買ってきてくれ!ほら、お前の自慢の糠漬けでいいから、早く何か出してくれよ!歌子! 歌子! 歌子!」

号泣する源治。
立ちすくむ恭平。
源治を見つめ、もらい泣きする、本田、木下、春代、ふすまの向こうの親族たち。
恭平、周囲を見回し、ため息をつき、

恭平「わかったよ・・・。歌えばいいんだろ、歌えば。皆も、協力してくださいよ。でも、俺、演歌はやだかんね」

恭平、ニヒルに笑う。
一同、ほっと微笑みがこぼれる。

読んでくださってありがとうございます。おぎゅうのつくるものにもどりましょか

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