1996年4月伝説の17番劇場「モノクロ・モノローグ」/1996年8月closstalkイズミワクプロジェクト/1996年12月closstalkにて自演
初めての独り芝居の体験をさせてくれた記念の作品。本物のキャベツを包丁で切り、包丁を振り回していた。今は恐ろしくてやれません。
台所。
洗い物をしている女の姿が陽気にゆれている。
調理台のまな板にはキャベツがのっている。
ねえ、材料足りないから冷蔵庫見といてよ。
足りないものあればまた買いにいくから!
・・・テレビは逃げないんだからいいじゃない。ちょっとくらい見てくれたって。もう時間ないでしょう!
・・・1時間?
駄目駄目!
ほら、誰だっけ、サトウさんだっけ。あの人やたら早く来るじゃない。それで、来るなり「お茶下さい」って催促するじゃない。「お茶下さい」って言ったとたんに「すきっぱらにお茶はしみますね」ってイヤミ言うじゃない。だから、早くしなくちゃ!
女、洗い仕事を中断して、さっさと冷蔵庫に向かう。
冷蔵庫から、適当な材料を探し出しながら、
F1なんてどこがおもしろいの?あんなのブンブンうるさいばっかじゃない。ああいうの、私の田舎では、ミツバチとかなんとか言うのよ
女、手に材料を抱えているため、お尻で冷蔵庫のドアを閉め、調理台に材料を投げ出して確認を始める。
×××のお好み焼き粉! 3袋もあれば、5人で足りるわよね。5人分のお好み焼きなんて作った事ないから、よくわかんないけど。
お好み焼き粉は××のじゃないと駄目ね。山芋30パーセント増量。ここがポイントよ。カツオだしの味もなかなか効いてるしね。
・・・・・ねえ、聞いてる?
そりゃあ、お好み焼の命はキャベツよ。
肉だのイカだの、タコだのも大事だけど、お好み焼きにはキャベツがなくっちゃあね。
分かってるわよ。そんなこと。
キャベツね・・・。
ただ、私はお肉とか足りるのかなーって思って。
そりゃあ、心配性よ。
でも、いざお好み焼きパーティー始めたとたんに、肉がない、イカがない、ホタテなんてあるわけないってなって、できたのはキャベツ焼でした、とかなったら恥ずかしいと思って。
次の日会社に言ったら、家は貧乏でけちだから、お好み焼きさえロクに食わしてもらえなかったとか言われたら、しゃくでしょう。パートのおばさんにまで知れ渡ってたりして、惨めでしょう。それを思って、あなたのことを思ってやっているのが分からないのかなあ。
・・・え、手が動いていない・・・?
はいはいどうせ私は口ばっかりの女ですよ。
愛は行動で示さなくちゃ、ね。
女、勢いよくキャベツを半分に切り、千切りを始める。
ええ?これじゃ、千切りじゃなくて五百人切り?
うるさいなあ、いいのよ、これで。
お好み焼きのキャベツはいったん鉄板で焼くでしょう。だから、サラダみたいな超千切りだと、しなーっとして、べちゃーっとしておいしくないのよ。
食べてみて適度にパリパリっていう?それが大事なのよ。
だからお好み焼きのキャベツは、せいぜいハッピャクニン切りくらいよね。
女、突然に
あー!私、お化粧してない。大変!!
女、鏡に突進し、必死の表情で化粧を始める。
あああ!!髪もぼさぼさじゃない。
・・・・何だか私、生活に疲れてる感じ、しない?
気をつけなくっちゃ・・・。
歳?!
そりゃあ、毎日のスピードは速いけど、そういうんじゃなくって、なんていうの、一日の密度っていうの?
やりがいあって、夢があってっていう人はシワだって美しいんだって。
私みたいに毎日退屈に過ごしていて、何の芸もない女なんて、スッピンで人に会うなんて許されないのよ!
いちどさ、サトウさんが釣りでいっぱい取れたとかなんとかいって、ブリだかハマチだか持ってきたじゃない。
あ、サバだっけ。
あの時私、うかつにもスッピンの顔、佐藤さんに見せちゃったのよねえ。
その時サトウさん、なんていったと思う?
「奥さんいますか?」
って言ったのよ。ひどいと思わない?
私、そんなにお化粧で化けたりしていないよねえ。
・・・え、佐藤さん、私のこときれいだって言ってくれたの?
へええ・・・。
私みたいのが好みなんて人も、この世の中にはいるんだ・・・。
おニューのマニキュアも塗っちゃおうかな!
が、
え、キャベツ・・・?
ああ、キャベツね・・・。
キャベツ切るんだったら、マニキュアはまずいわよね・・・。
サトウさんに何か言われるのも、しゃくだもんね・・・。
女、再びキャベツを切る。が、
ねえ、今日のわたしのメイクと服とお好み焼きって、何かちぐはぐじゃない?変じゃない?
・・・見てないか、私なんて。
でも、見ていないと思っている人に限って、厳しくチェックしている人がいるんだって。サトウさんとか!
そ、サトウさんって、35になっても結婚できないところあるわよねえ。
うるさいもん!
人の女房にまで、「ミッキーマウスのトレーナーはやめたほうがいいんじゃないんですか」とか、余計な口出しするんだもん。
これだったら、文句あるのかってかんじよ。
・・・え、出来てるわけないじゃない。
誰とよ。
よしてよ。
私、本当はサトウさんのこと苦手なんだから。
まず、人のうちずかずか上がり込んでくるじゃない。
新婚家庭によあなた。まだ私達、新婚家庭なのに、サトウさんもうちの家族みたいじゃない。
せっかく二人きりになれたと思ったのになんなのあの人。
・・・・そりゃあ、人のもの取らないと気が済まないって人もいるけど・・・。
どうかなあ。
私取っていいことある?
売れ残りよ。ブスでデブで気も利かないって三拍子そろった女よ。こんな女、もらった奴の気が知れないって女よ!
・・・サトウさんなんて、仕事もできるし、外ヅラもいい人みたいだから、私なんかよりもっといい人と一緒になるべきよ。女の服装にまで厳しくチェック入れるような人だから、あの人のお眼鏡にかなう人ってよっぽどよね。ま、そういう細かい人だから、うちみたいな気もつかわなくていい家に居座るんだろうけど・・・、今後の事考えたら、もっと将来性のある人に会うとか、勉強するとかのほうが彼のためよね、そう思わない?
・・・・何、どしたの?
ああ!
また小松左京リタイアしたんでしょう。
右京?
ああ、もう、左京だか右京だかわかんないけど、あの人たち親戚かなんかなんでしょう?
何よ、違うからって怒鳴らなくたっていいじゃないのよ。
・・・・キャベツ?
分かっているわよ。そんなこと。八つ当たりしなくたって、いいじゃないのよ。
女、再び調理台に向かうが、
私、本当は、キャベツって大嫌いなの。
食べて復習してやってるだけよ。
何で私がキャベツを憎んでるか、あなた知ってる?
あなたのお母さんがね、「あなたの顔、キャベツに似てるわねえ」っていったのよ私に。
結婚式終わってはじめて挨拶した時、台所で。
私にだけこっそり。
これか!
って思ったわよ。これが、嫁姑戦争の始まりか!って
私の顔、キャベツに似てる?
あなたが女だったら、あの時の私のショックを味合わせてあげたい。
ガラガラガラ・・・・
何かが崩れちゃったもんね、その時。
私、聞こえちゃったもん。
ガラガラガラ・・・・
って音・・・・
女、キャベツを切るのを止める
・・・何も言ってくれないのね。
私が今、こんなに悲しい気持ちでいるっていうのに・・・。
それともあなたも、私の顔がキャベツに似ているんだと思って、お義母さんと一緒に笑っていたんでしょう。
私、知ってるんだから。
あなたは、まずお義母さんの話が絶対なんだって。
披露宴の時、お色直しのドレス、私はピンクがいいって言ったのに、二人でグリーンがいいって強硬におしたとき、ああ、あんた達はぐるなんだなあって思ったわよ。披露宴っていったら、私が主役なのよ。私のために披露宴があるっていってもいいのに・・・。
よりにもよって、ミドリよ、ミドリ!
あなた、ゴレンジャーのミドレンジャーがどんな奴だったか覚えてる?
私は一生に一度だけモモレンジャーになりたかっただけなのよ。
絶対にかわいい女の子にモモレンジャー奪われつづけてきた女の気持ちなんて、あなたちっとも分かってないのよ!
・・・あなた、本当は、私のこと、愛してなんかいないんでしょう。
私のこと、ブスでデブで、気も利かない女だって思っているんでしょう。
私の顔、キャベツに似てるんだって思っているんでしょう。
女、包丁を持ったまま、男の元へ近づく
ねえ、聞いてる?
テレビから目を離して。わたしがいいことしてあげる。
が、女、
キャベツに包丁を突き刺す
来客を知らせるチャイムが鳴る。
あ、サトウさんだ。
もう、やっぱり約束の時間より早く来たじゃない。
はーい!
今出まーす!
いらっしゃーい!!
女の笑顔。
調理台には、包丁のつきささったキャベツが残る。
よんでくださって、ありがとうございました